第21話 狩猟
セファイティン家、料理密談から数日、ファティマは今日も朝早くに厨房に立っていた。
この厨房は、リース専用の厨房で、元々の厨房隣に設置されているが、それより使い勝手が数段良い。最近はほとんどここに入り浸っている。近々元の厨房も、臨時収入があって、改装されるらしい。
料理長が、『リース様と同じ調理場が欲しい‼』と子供のようにごねたので…。
「おはようございます!ファティマさん!」
「おはようございます!リース様、今日もいらしたのですか?」
「うん、新作のパンで朝食を作ろうと思ってね!」
「パンで新作ですか?気になります‼」
「気になるでしょ~‼ 今回は、固い黒パンじゃなくて、白パンを作ってみたんだ‼」
「 …。 はあ?」
この世界のパンはライ麦の黒パンで硬い。小麦で作った白パンはこの地方では見たことがなく、一般的ではなかった。見たことのないパンに、フリーズするファティマだった。
「フフフン♪これに、ゆでた卵や、野菜、ハムはないからベーコンを挟んで~と、出来上がり~‼」
「…。」
「ね、簡単でしょ? 前のピクニックの時は、長時間の携帯を重視したから、硬いし分厚かったからね。今度は薄いし柔らかいから食べやすいよ! さっ、いっぱい作るよ‼手伝って!」
「 … ハイ …。」
…壁の向こうから、悲痛なうなり声が聞こえた。
「ぐぬぬぅ…⁈」
◇◇◇
「よし!じゃ、これを持って行こう!美味しい美味しい朝食タイム♪」
「 ハイ。 …はっ⁈‼ 気付いたら終わっていた!」
領主邸の食堂には、すでに家族の者は席についていた。先ほど作ったサンドイッチなどを持って行く。朝から食欲をそそる、いい匂いのするスープに、彩の良いサンドイッチ、手作りベーコン、絞った果物のジュースに、牛乳を混ぜて、ミックスジュース風にしたりもした。これが今日の朝食メニューだ。
「なにこれ、おいし~い!」「リースちゃん、なにこれ?綺麗ね~!」「わっ!すっご~い⁈」
「リースくん、おいしーよ!」「リース美味いぞ!」
「「「おいしぃ~‼」」」
セファイティン家の父母と兄弟姉妹が絶賛する。
「でしょでしょ?ど~ぞ、後で職員のみんなも食べてね‼ポタージュスープとサンドイッチていうんだ。秘密の調味料マヨネーズを入れているから美味しいはずさ?スープは、時間を掛けて出汁取って芋をすりつぶしてポタージュにして、肉はベーコンて言って、加工食品だから今度作り方教えるね?今回試作で作ったから、量が少ないんだ?飲み物は色々な果物を混ぜて、酸味が強くなるからミルクを混ぜてまろやかにしてるんだ!名付けてフルーツミックスオーレ‼」ドヤッ‼
◇◇◇
職員食堂にて…。
「おいしい…。」
(私は涙した。こんなに柔らかいパンがあったなんて。こんなに美味しいスープがあって、干し肉以外にこんな薄い肉があって、飲み物があったなんて…。
そして、こんな食べ方があったなんて…。
思えば初めて従軍した時、野営地で固い黒パンをわずかな塩スープに浸し、食べていたものだ。ああ、あの時…、このスープがあったら、このサンドイッチがあったなら、士気もだいぶ違ったんじゃないかな…。グスン…。)
リースが上機嫌に職員食堂に来た…。
「ああ、ファティマさん!ここにいた!今度パンに具を挟むだけでなく、パンの中に具を入れて焼く食べ方もあるから、一緒に研究しましょうね?」
「 …。 はい? 」
ファティマは、しばらく固まっていた。現在、パンの中に入れて焼くという調理法はなく、せいぜい混ぜて焼くという調理法だった。リースの言った意味が理解できなかったからだ。
リースが厨房でスープとサンドイッチを作っていた時、そして、職員食堂でメニューの説明をする時、陰からのぞき込む殺気ににも似た視線があった!
「ぐぬぬ~⁈」
遅番で出勤してきたバルカン料理長は、柱の陰でうなっていた!
「ベーコンとスープの作り方と、白パンの製法を伝授してもらわねば…。グスン。」
◇◇◇
「くくく、これでこの村は、おしまいだ‼アヴァルート王国アドルシーク辺境伯よ、我らの組織の贄となれ‼」
スープとサンドイッチの朝食が出たその日、アドルシーク辺境伯セファイティン家領主邸の街の隣の村で、ある事件が起こった。近くには魔の森を有するその村は、村民より冒険者が多くいたが、王宮からの依頼で、全国の実地調査をしていた(不審な樽や桶類が設置されていないかの調査)為、この時はほとんどの冒険者が不在だった。
魔獣の大量発生だ。
「うわ!なんだこりゃ‼」
「大変だ!魔獣が出たぞ‼」
「騎士団を呼べ!魔獣の大量発生だ‼急げ!」
「女子供は、長の家や、大きな家の部屋に籠れ‼‼」
「男どもは、武器を持って集まれ‼これくらいの魔獣!騎士団が来るまで抑え込むんだ‼‼」
「いやまて‼どんどん来るぞ‼騎士団に早く知らせるんだ!狼煙も上げろ‼」
黒衣に包まれた男は、高らかな笑いを浮かべ、森の奥へ消えていった。
◇◇◇
時は、朝食後に遡る。
「ファティマさん。朝の鍛錬ありがとうございます‼」
リースは、ファティマが恩返しをしたいと嘆願するので、ボルデリアの指導が終わったとのことで、リースの剣術の相手をしてもらう事が日課となった。
「いえいえ、リース様のお役に立てるのならこれくらいなんでもないです。
むしろ料理を教えてもらっている身分ですから… 」
後半の方は、消え入りそうな声でつぶやく…。
「ん?なんか言いました?」
「いいえ!なんでも。」
(でも、5歳にしては、体幹がしっかりしていて剣もぶれない。武術指導をしているボルデリア先輩のおかげかな?私の剣も振りやすいし、闘いやすい…?剣戟は力強く、大人と変わらないような…?)
「じゃあ、午後は、隣村の森に魔獣を狩りに行きましょう!」
「 …は?」
考え事をしていたファテマは、間が抜けた返事を返す。
「だから、魔獣を狩りに行きましょう!ファティマさんが同行するなら大丈夫ですよ‼」
「あの、魔獣はまだ危ないですよ‼身体が出来てからで良いんじゃないでしょうか?」
「いえ、今日の晩御飯の新作のおかずに必要な魔獣を狩ろうかと…。」
「行きましょう!すぐ行きましょう‼(わ~い‼新作の、お・か・ず♡)」
ファティマは、馬車の手配をし、料理人をふたり連れて隣村の森に向かった。多少時間が掛かり昼は過ぎていた。料理人は、アオサとノンカである。
「リース様、楽しみですね~!今日のおかずになる魔獣は何ですか?」
「バラットです!5匹も狩れば十分じゃないでしょうか?」
「バラットですか?庶民のお肉ですよ?」
「ええ、本当はパラパラ鳥が良いのですが、このあたりは生息地から離れているのと、季節的に狩れる時期ではないですからね。普段捕れるバラットで補い、庶民も食べられるようにすると。飢えや食費を抑えられますからね?」
パラパラ鳥(足は速く、飛ぶときにパラパラ音がする。遅く飛ぶので、基本的に走って逃げる。)
肉は上品にして、柔らかく、焼くととってもジューシー、皮はカリっとした歯ごたえがあり高級食材(血に飢えたセファイティン女子に大人気♡)
「なるほど、そういう事ですか…。あ、もうすぐ隣の村につきますよ。」
「なんかいっぱい人が走ってますね?」御者がぽつりとつぶやく。
「なんだか騒がしいですね…。どうしたのでしょう?」「く~。すぴぴ。」
馬車を動かす御者の方と、料理人のアオサがつぶやき、もう一人は寝ていた。
「魔獣の大量発生だ‼」「逃げろ!危ないぞ!」
バラット約20匹、ゴブリン約70匹、オーク約10匹
◇◇◇
バラットとは、ロールテール*バラットとも言い、弱いほど幼く、集団で行動する。
ロールテール:尻尾を回し蹴りの様に武器として使う、兵隊ロールテールは、右周り、隊長ロールテールは左回り、団長ロールテールは左右両まわり、将軍ロールテールは、左右両まわりと前後ろ回り:カンガルーに似た耳の大きい魔獣
小刻みにジャンプしてタイミングをとる
肉は鶏肉に似て美味い、庶民の味方、弱いほど肉が柔らかく、強いほどうまみが強くなる。
繁殖力が強く、ゴブリンの天敵。
ゴブリン、(人型のモンスター、5歳くらいの体格、知能と力を持つ、動きは5歳児くらいの速さ、残忍、肉は食えない)
オーク、(豚の頭を持つ人型モンスター、雑食、5歳くらいの知能、力は大人、動きは遅く、臭いため、場所がわかる:肉はまずい)
◇◇◇
「おっ、丁度よかったですね!」バシュッ
ボン
「いや、丁度よかったって‼大量発生ですよ‼なんでそんなに笑顔なんですか?」
バシュッ
ボン
「ん?それだけいっぱいいるってことでしょう?」
バシュッ バシュッ バシュッ
ボン ボン ボン
「バラットだけじゃありません。他の魔獣もいるみたいです」
「では、オークをファティマさんにお願いしても良いですか?他の方は、村の人たちの誘導と、避難場所の守りを固めてください!」バシュッ バシュッ
ボン ボン
「「はい!わかりました‼」」「ぐうっ~!」
バシュッ バシュッ
「あの、それでリース様は?」 ボン ボン
「僕はバラットを狩ってきます。ゴブリンは僕と体格が変わりません、ですので任せてください。」
ふふんと、笑顔で鼻を鳴らす。バシュッ
「えっと、ゴブリンですよ?いっぱいいますよ?」ボン
ファティマさんが、リースに否定の意味を込めて問いただす。
「大丈夫です。ゴブリンは、体術の練習相手程度ですよ!オークは、ちょっとでかくて面倒だから、ファティマさんにお任せしますね‼」
バシュッ
「えっと、はい?」
ボガン‼
「あっ!オークが人を襲っています‼‼では、皆さんはじめましょ~!」
ファティマは後ろ髪を引かれながら、今襲われている人たちを助けに行った
「ところで今日は、馬車御者ジュエリさん。」
「…っ! なんですか?リース様。つか、なんで俺の名前を・・・」
「馬車とノンカさんはお願いしますね。あと、父上に僕のことは報告しないでください。もし報告したら、娼館で女の人に踏まれて喜んでいたことを報告しますよ?」
「なっ⁈ なぜそれを‼」
ジュエルは、目を剥いて驚く。
「では、行って来ます‼」
…「なぜそれを~~~… ‼‼」
遠くでジュエルの叫び声が聞こえたが、それを無視してリースは、魔獣の群れに突っ込む。
近くにいたバラット2匹を瞬殺で切り殺し、剣をしまい、ゴブリンの群れに立ち向かう。素手で戦うのは、生まれ変わってからは、剣の武術指導をしてくれるボルデリアと一緒に狩りに出た、先日のゴブリン村から八度目である。前世では、親類の古武術道場で、対人戦闘技術を無手・刀剣術・棒術・錠術等、異常な脳の病気のおかげか極めていた。この世界では、鍛錬もなかなかできないのが悩みだったが、同じ体格の魔獣がいることに(ゴブリン村の時、)気づいたリースは、それ以降積極的に魔の森に通うのだった。
リースは、ゴブリンを流れるように通り抜けると、すれ違いざまにゴブリンの急所を突く、首を折り、身体に触れ力を入れずにぶん投げる。投げ飛ばされたゴブリンは、仲間のゴブリンと道連れに吹っ飛びいずれも絶命する。あるゴブリンは、無傷で絶命する。発勁に似た気圧という古武術の技である。
やがて、ゴブリンの集団の真ん中にたどり着くと、ゴブリンは吸い寄せられるようにリースへと突貫する。
そして、ジュエルは見た。
美しい闘神の舞を
まるで舞を舞っているかの如く技を繰り出していた。
ゴブリンは、その舞に吸い寄せられるようにリースに近づくと気づかぬうちに倒され絶命していく。
2分もしない間にゴブリンは全滅した。剣も魔法も使わずに…。
魔獣の集団に追われていた場が突如静かになった。村人はしばらくして、魔獣の様子を見に来ると、ゴブリンの小山が出来ていた。
「ふう~。古武術奥義:流水 忘れてなかったな。」
リースは、ゴブリンをせん滅した後、反対側にいたバラットに襲い掛かった。
「おっしゃー!待てぇ~‼今日の晩飯ィ~‼‼」
もはやどちらが魔獣かわからなかった。
「おっと、いかん。漫画のキャラになりすぎた‼」
バラットを瞬殺退治したリースは、反省の言を述べる。
「しかし、ちょっと量が多いね~。村の人におすそ分けしますか?おっと、ファティマさんをフォローに行かないと!フィーヴァに任せっきりだった!」
バラットを自分のイベントリ内に保存して、ファティマの元へと掛けていった。
もう一人の料理人は、結局、馬車で寝ていた。
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