第2話 誕生
時は数年さかのぼる
新しく母となる女は、夢を見ていた…。
暗くくすんだ世界を一瞬で浄め、光り輝く天空から、光の柱が降りてきて、女の身体に生命が…、力が漲る感じがした。
目が覚めると、
お腹の子に、とても優しく、とても強く、そして愛おしく呟いた。
「もうすぐ逢えますね。」
すると、
『待っててください。』
と、ポコポコと動いてるお腹の子から、そんな風に言われた気がして微笑んだ…。
◇◇◇
その日は、前日からの雨が続き、肌寒い春の日だった。
ドタドタと、三名のメイドが廊下を走り、執務室に駆け込む。
「旦那様」 「イズン様、いらっしゃいますか⁉」
「コラッ‼ノックもせずにドアを開けるな⁉」
執事のカーセリックが、書類を持ったまま軽く叱責する。メイドが慌てる理由に心当たりがあるため強くは言えない。
執事の叱責を受け流し、
「おめでとうございます」「ついてますよ、男の子です!」
「レフィーナ奥様も、健康です!」
三人のメイドは矢継ぎ早に領主のイズンに報告する。
「っ…。そうかっ!よくやった!無事生まれたか‼」
東の辺境伯のイズンは、今朝から公務に身が入らず、遅々として進まない書類整理に辟易していたところだった。
すぐに小走りで産婆室に向かうと、廊下の丸椅子に、産婆のメルボーナが真っ白に燃え尽きて座っていた。
「メルボーナ‼でかした!さすが我が領最高の産婆だ!ありがとう」
感激のあまり、ゆさゆさ揺らす!
「だわわっ…!旦那様‼ いっ、いえいえ、どうぞ中にお入り、ご子息を抱いて差し上げてください。」
目を回しながらメルボーナは答えた。
「ああっ‼もちろんだとも‼」
「おっ、おおお~、かわいいなぁ!レフィーナ、お前似だな?」
「フフフ…、あなた、名前は決まっていますか?」
「ああ、リースだ、リーフィス・セファイティン」
「私のリーフィス、いい名前ね…。」
「そうだろう、ずっと前から考えていたからな!」
「あら、あなた。この子?私達をじっと見つめて、何か言いたそう?」
「俺の子だし、賢いからかな? それより、ちょっと休め、疲れだろう。
明日には、アールティナ(第一婦人)と、 フィンリール(第二婦人)が王都から戻って来る。」
産後にすぐの面会は気を使うだろうと、2人の夫人が配慮した。窓を開けると、いつの間にか、雨がやみ、暖かな日が差していた。
「まあ、わざわざ?ありがとう。
それと、リースが賢いのは、私の子だからですよー。」
いたずらっぽく笑う母のレフィーナに抱かれ、赤ん坊のリースは頷いている。
…様に見える。
東の辺境伯セファイティン家は、長兄が領地の後継者として申し分なく、家督争いも問題が無いため仲が良い。
外敵に対する抑止力として存在する辺境伯としては、近年は、他国の干渉も少なく、王都の政争にも巻き込まれず、比較的平穏に過ごしていた。また、この平穏時でも軍の練兵には余念がなく、最近は物流と、交易によって領内も潤って来ていた。
それは今代の領主がいかに優秀であるかの証左でもある。
太陽の光がリースを照らし、窓の外は虹が掛かっていた。
「きっとこの子は、何かの使命がある…。
いえ、幸せになってくれればそれでいい。」
後にこの波乱に満ちた世界を 安寧を導く、子供が生まれたのであった。