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第17話 厨房改革

セファイティン家はぐれ魔獣の戦いから数日たった。


原因は、魔の森の一部に火事があり、魔獣が逃げてきたらしい。今回のことを教訓に、セファイティン家の家族の中で、魔獣と万が一の遭遇しても対処できるように、身体を鍛えることが決まった。

長男アークすぐに王都に行くため、そちらで更なる高みを目指すとのことだった。


「お前たち!王都で待っているからな。しっかり鍛えろよ!」


次男キースは、剣と魔法を 三男カーズは体力作りを 四男リースは厨房にこもった。


「リース。他の兄弟みたいに剣と魔法を鍛えないのか?」

フィーヴァは、庭で鍛錬する兄弟を見ながらリースに聞いた。


「まだ僕は、5歳だからね。あわてない。あわてない」


「魔法は、気になるのだろう?」


「それはねっ!

…でも今は、フィーヴァに言われた通り、魔力を増やすことに重点を 置いているんだ。体力作りも、朝の日課で済ましているし、勉強が本格的になる前に、この領と家族の食べるご飯を美味しくすることが大事なんだよ?

そうだと思ったから、厨房を借りてちょっと食べたいものを作れるか思案中なんだ。」


リースの悩みの種。

…それは、リースの姉妹は、リースを女装させてママゴトで、遊んでかまってくれているのだが、姉妹も同様に剣と魔法、勉強と行儀作法に花嫁修行と忙しい。いや、女装趣味は一種のストレス発散なのかもしれない。

先日の魔獣事件で、何も出来なかったのが悔しいと、皆んなそれぞれのペースで頑張っているらしい…リースは、しめしめとほくそ笑んだ。


厨房では、調理師がリースに気を遣いながらもテキパキとお昼の料理を作っていく。

リースは日頃から食する内容から推察していたが、実際調理現場を観察して、調理法や、厨房設備に何が前世と違うのか?問題点をあげていく。

この世界の料理は、調味料の種類が少ない。塩も輸入に頼るから、基本薄味となり、味に深みが無い。そして魔石コンロで作るけど、火力調整ができる人が少ないから、作るのに時間がかかる。一般庶民は薪で作っているらしい。その結果、煮物にはあく取り、焼き物には、火加減無しで、ただ焼いた肉って感じになる。火力が原因で料理の創造の妨げになっているのかな?とリースは思考する。


現代地球の調理方法は大きく7つに分類される。


①焼く②茹でる③炒める④揚げる⑤煮る⑥和える⑦蒸す


どうやら、この家(世界?)の料理は、焼く、炒める、煮る、、和える、カットして、生で出すのみのようだ。油で炒める、揚げる、お湯で茹でる、蒸すがないらしい

まあ、これに◦漬ける◦燻製◦干す(焙煎) ◦(切る・叩く・揉む)◦熟成◦発酵?があると思っているのだが、それは調理方法ではないか?食品加工のカテゴリーかな?と考える。


「余裕が出てきてからだなぁ?そもそも基本黒パンだし。」

と愚痴をこぼしつつ、パンも硬いし、あとはスープや、芋料理で食べることになる


「短期的には、調理法の改善と、調味料・食材の確保だな。」

と厨房の片隅で1人ごちる。


「長期的には、薪から炭の作成、農地改善。魔獣の肉は確保しやすいが、卵や、小麦、塩などの他、不足がちな調味料の安定的な確保を目指すことにしよう!」

と、リースの目の中に炎が見えたと、近くにいた調理師の言である。


ふとリースは、厨房の片隅の炊事係の女性が、鍋を前にしてタダならぬ(殺気のこもった)雰囲気を持っていると気づく。

その女性の名は、ファティマといった。過去に王都で、近衛騎士団の副団長をしていた経歴があるが、つてを頼って、辺境伯の調理師として雇われる。

元々は料理好きだったが、家の方針で剣の道を極めることとなり、剣術学校へ通うため王都に住み始める。元来血筋からの才能と卓越した集中力により、メキメキと頭角を表し、首席で卒業、そのまま騎士団に所属する。

新人の女性騎士だが、既に実力は上位にあり、そこから経験によって、9つある王都騎士団の一つの副団長に登り詰めた。

総長からも目をかけられ、活躍していたが、団員からの妬みの対象となり、ある事件をきっかけに野に下り、冒険者になった。

地方のギルドに所属し、日々の稼ぎをしていたが、あるギルドの強制依頼の集中討伐で、炊事係をきっかけに小さなころの料理の情熱を思い出し、街の食堂から、ギルドに募集があった、辺境の貴族の厨房係に応募していた。

辺境伯の領主邸厨房係に採用されて、下積みから頑張って、煮物係を任せられることになった。

こちらの職場は、妬む様な職員など存在せず、ただ辺境伯ご家族に喜んでいただけたらと言う、忠誠心からの情熱の塊り達だった。なので、より一層頑張って仕事をしていた。


「我ながら、今日も美味しい煮物が出来た」


といつもの様に思っていた。


◇◇◇


厨房にリースがやってきた。

数日、同じ様に通って、端っこで見学している姿は可愛く、何にでも興味がある年頃なのかな?とファティマは思っていた。

しばらく厨房で見かけなくなったと思っていたら、厨房の増設工事をするらしい。

実験的な構造らしいので、同じくらいの広さはあるが、厨房設備は3分の1くらいだ

リース様が、領主様に5歳の誕生日のお祝いに作ってもらったらしい。

辺境伯様はまったく「「「「親バカである!」」」」と調理職員は皆思っていた。


「姉妹のママゴトが、大事になった。」


と厨房の料理長が愚痴っていた。


◇◇◇


ひと月後、仕事の合間に、新しい厨房をこっそり見学していると、

「ファティマさん、ちょっと良いですか?」

…どうやらリース様に目をつけられたらしい。


「新しい調理法を開発するために、作ってもらった厨房です」


と言われた。やれやれ、お子様の遊び場か?と思っていた。

「ファティマさんには、僕のお目付け役となりましたので、よろしくお願い致します」


「えっ、いつ決まったんですか?」


「今です」


「えっ?そんな、困ります!」


ちょこんとお辞儀をする姿は可愛いく、領主様の親バカな気持ちも分からなくは無いが、こちらはこれから焼き物の担当を務めたいという大事な時期に、お子様のお守りなんて迷惑この上ない‼


「拒否権は無いです。ごめんなさい!」

即決で否定された。。。満面の笑みで・・・。


「はあ。。」


ライバルから、一歩も二歩も出遅れたと思った。

(領主様の命令には逆らえない…。しばらく付き合えば、お子様だから飽きるだろう。)とこの時はささくれた気持ちでいっぱいになった。


「まずは、火力の調整方法を検証しましょう!」

(…何を言っているの?と思った。まだ5歳よね?調整方法など難しい言葉は、経験を伴って紡ぐ言葉であり、意味がわかってないなら、もっと優しい言葉から学んで、言葉の使い方を理解する…はず。なのに、大人の会話に5歳児が普通に話している。)


「燃料ですが、これからは、こちらの炭を使います。この炭は、一定の温度を維持します。弱めるときは、この絞りを絞るか、炭を減らしてください。火力が必要な時は、常時なら、炭の追加して、短時間なら、こちらのふいこを踏んで空気を送ってください。」


「      …。  わかりました。」

(ちょっと待って、その黒いのは何?炭?薪が燃えた時の黒い焦げた塊りじゃないの?そのふいこって何?鍛治屋で使う道具じゃないの?それを調理で使うなんて…?)


「ファティマさんは理解が早いですねー!さすがです!」パチパチ

(いやいや、幼いって事実をなに投げ出してんのよっ!)


「あと、こちらの隣は、茹でると、揚げるの2種類の釜になります。」


「…?」


「あっ、気付いちゃいました?さすがです!  そうです!  この二つは余り近いと、場合によっては火事になっちゃいます!ですので、ちょっとあいだを開けています!」


「そうですか…。」

(なによ?火事になるって?その鍋とその鍋が近いと何が起こるのよ?)

熱した油に水が入ると、水蒸気爆発を引き起こすので、水気のあるものを離しているとのちに理解するのだった…。


(それより、こんなに大量のお湯と油でどう料理をするって言うの?)

「あの〜。リース様ちょっとよろしいですか?」


「ハイ、ファティマ君‼なんでしょうか?」

リース様は後ろに手お回し胸を張り、片手で私に指を刺した。学園の教授を思い出す。


「このお湯と油を使った料理って、・・・出来ないと思うのですが…。なみなみと量が多すぎますし…」


「そうですねー。いままでの発想のままだと、想像がつかないかもしれません。ですが、思い出してください?初めて見る料理の作り方って、すぐに想像出来ましたか?料理は想像力。食は人を幸せに高めます!新たな製法、新たな器具、新たな食材に想像力というレシピを加えて、僕達を幸せにしてください!」

(手をワキワキさせ、満面の笑みで、言う姿は可愛い!でもね、さっぱりわかんないの⁉)

と思っていた。


「とは言え、すぐには難しいので、僕の言う通りに作ってみてもらえますか?なに分5歳なので?一緒に調理してから、試食してみましょう!」

リース様が可愛く言った。しばらく固まっていた私は、リース様の指示通り、今までした事のない工程で、調理を始めることにした。


「それ、ひっくり返して、そうです!それくらいの色になって、この砂時計が落ちたら、こちらの網ですくってください!そちらのお皿には、油を切る網を敷いているので、その上に置いてください。油が切れたら、さぁ!試食です⁉」

酒に付け込んで、粉をまぶした肉を油に入れて…。


「旨っ!なにこれっ!」


「料理名は鳥肉の唐揚げです。料理の技法は、「油で揚げる」ですねー!

…本来は醤油に付け込むと、もっと美味しいのですが…」


「ん?後半聞き取れなかったけど…、こんな美味しい鳥肉の食べ方があったなんて…」


「王都では有るかどうかわかりませんが、この地方でこの料理法いえ、調理法がまだ知られてないなら、ファティマさん。揚げる料理を作って皆んなの笑顔を料理で一緒に創りませんか?」


「ハイ!ぜひお願いします‼」


(私は・・・気付くと泣いていた。感動していたのだ。

リース様ごめんなさい‼

リース様がお遊びで料理のまねごとをしているだけだ、お目付け役なんてとんだとばっちりだ。こんな時間に得るものなんて何もない!そして、なかば毎日同じ料理を作る事が習慣とかしていた事が…。こんな創意工夫で新しい発見があるなんて⁉ 今まで、何も考えず、同じ料理を作っていた自分が恥ずかしい。そう思っていた自分を殴りたい‼


これからは、リース様の為、領主邸の皆様の為、この揚げるという新しい料理法を極め一生を尽くすんだ‼)

と、気合いを入れたところで、鈴のなるような声でリース様が言った。


「あぁ、あと、蒸す、茹でる、和える、燻すの料理法等があるので、忙しくなりますよ?」


「…?、 はい?」


「他にも焼き方も色々ありますからね~。例えば、ステーキの焼き方として『レア』、

『ミディアム』、『ウェルダン』…」


(私は、しばらくリース様のおっしゃった言葉の意味が分からず、なにも耳に入らなかった…。)


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