第1話 プロローグ
ギンッ!ガキンッ‼ キィーン!
対人剣術鍛錬用ゴーレム181号が突き出した剣に打ち込みをする。
バキン‼
「良し、朝の鍛錬はここまでだな。」
「ワウ」「ピョー」「キキッ」「…」
対人用ゴーレムは破壊され、その短い生涯を閉じた。明日には182号として生まれ変わってくるだろう。
右手に持った剣先は、剣気に満たされていた。
少年は、日課の鍛錬場所を毎日変えて行っている。それは、どんな時でもどんな場所でも戦えるようにと、剣の師匠の指導によるものだ。そこで今朝の剣の鍛錬は街の中の高塔にした。背後にはそれを見守る数頭の動物がいる。
「ふぅ~、だいぶ体がついて行けるようになったかな?」
「ガウ」「ピュ」「キュッ」「…」
この少年が住む世界は、法の支配がままならず、チカラが正義を凌駕する。
来る将来、旅に出ようと思っている少年は、未来のために強くなっておこうと今鍛錬する。
朝日が射し、さわやかな風が吹いて気持ちがいい。ふーっと、ひと息をついていると、
「た、大変だ―‼捕獲した一角岩竜が逃げ出したぞ‼」
高塔から見下ろす街の風景から、大きな破壊音とともに男の叫び声が聞こえてきた。
「だ、だれか! 誰かたすけて‼」
「…助けを求める声がする。
やれやれ、今日はこのあとまったりしたかったんだけどな。」
「グルルル…?」
剣を鞘に納め声のする方を見た。
一角岩竜が、興奮状態で暴れている。形でいうならサイ、動きでいうなら猪だ。ただし大きさがダンプカー並みだが…。
一角岩竜は、テイムできれば、それこそ大きな荷運びや、戦力になる。ただし、普段はおとなしいが、一度暴れると手に負えない。巨大な体を支える4本の太い脚、頑丈な鋼皮が岩の様に厚く固く、物理的攻撃を受け付けない。
建物を破壊し、まっすぐ進む様は、新たな街道の設置にも見えるが、これ以上の破壊進行は領民の命を危険にさらす事になる。
「どうするんだ?」
少年の背後にたたずむ、異形の生態が、少年に問いかける。
「決まってるさ。民を助ける!」
少年は、50メートルはあろうかとする高塔を飛び降り、尖塔にいた鳥は空を舞い、少年を追う動物達、異形の生態はその場に残るようだ。
「ふふふ、さすがは我が主殿よ。」
少年は、向かってくる建物まで屋根伝いに移動し、正面に待ち構える。動物たちは静観するようだ。
「なんかのアニメで見た構図だな?何だっけ?」
ひとり呟きながら目の前の建物が次々と破壊され、自身が立っている建物にぶつかった瞬間、スローモーションの様に見える風景を 少年は、がれきをよけながら飛翔し、背面飛びで背中越しに一角岩竜を一瞥する。くるっと一回転すると一角岩竜の背中に飛び乗った。そのまま気付かずに走る一角岩竜の上で、少年は人知れず魔力を高め、
「ちょっと、眠りなっ!」
バチバチバチ…
電撃を両手にまとい掌底をぶち込む。
バチンッ‼
高らかになった音は雷のそれである。
一角岩竜が後ろにそり、前足を突っ伏して数十メートルは滑りながらやがて止まる。どうやら気絶したようだ。
目立つことを嫌う彼は辺りを見回し、後はさっさと、この場から逃げれば、一角岩竜のスタミナが切れたという事で落着する。
「良し、みんな、(遊びに)行くかっ‼」
「どこへですか?リース様?」
ギギギギ
さび付いたブリキのような音が聞こえる風に首を回す。
「あ、あれ?プリーツ?何でここに?」
ニコニコと笑みを浮かべ手を振る少女が、少年の真横のお店にいた…。
どうやらお使いに出ていたところにこの騒動を聞きつけたらしい。
少女は満面の笑みで上気する。
「いやっ!ちょっと一角岩竜が止まったから、上に乗りたかっただけだから...。」
あせって、ごまかそうと試行している間に、
「すごいね~、良くおとなしくさせたねえ、あの坊ちゃんはどちらさん?」
わらわらと領民が集まる。
「あちらの方はですね‼ これから世界に名を轟かす!アヴァルート王国アドルシーク領セファイティン家のご四男!リーもがもが・・・」
メイドのプリーツが集まりだした大衆に向かって高らかに名前を言おうとしたところ、口を押えて拉致をする。
メガダッシュをかまし、大衆の前から消える。
「もがもがもーがもが?・・・ふぃー、ふっふー!」
(なにするんですか?リース様!)
プリーツを横抱きに大衆人ごみをよけていく
「プリーツ、勘弁してよ‼ 目立つの苦手なんだからさ。」
少年が自分の功績を隠匿するのには訳がある。
東のアドルシーク辺境伯の四男で生まれたリーフィス・セファイティン。
彼の前世は脳腫瘍で若くして亡くなった。特殊な病だったため、寝ることができず、知能・知覚・身体能力が常人の数倍あった。
その知識を生かし、救命や、商品・素材開発に尽力した。
研究に追われ、人並みの生活を送れなかった反省から、今の生活を楽しみたいと思っている。
「行き急いだ前世を 今前世は、のんびり過ごしたい。
面倒ごとは他人任せ、まったり生活を楽しく送る。」
という崇高なる目標の為、今は自己鍛錬だけに集中している。
この地は、セファイティン辺境伯が治めるアドルシークという領地で、善政を布く領主に領民は心から尊敬し、その兄弟姉妹は他の貴族と比べると抜きんでて優秀であることも、誇りに思っていた。中でも、
「あーあれが、領主さまのとこの神童奇才の四男坊様…。ありがたい。」
集まった大衆は、セファイティン家の4男が、自分の功績として決して語らない事を 領民は知っている。また、『リース様のため、内緒にしなければならない』という使命感を持っている。
だがしかし、それでも人々は口々に語り合う。
「「「「さすがは、リーフィス様だ。」」」」
「内緒だけどよ?誰にも言うなよ?先日のあばれ一角岩竜の爆走を一撃で止めたのは、リーフィス様だ!」
と、ほとんど秘密になっていない話で今日も領民は盛り上がる。
「我が領にリーフィス様がいて、本当に良かった‼」
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