「クリスマスに好きな子を誘うために口実を作るも、友達と楽しんでいるのを見て、彼女だけ誘えばよかったと思う女の子と、私だけ誘ってくれなかったから拗ねて楽しんでるフリをする女の子が、二人で抜け出す話」
「今日はクリスマスパーティーに来てくれてありがとう‼楽しんでいってね」
パーティーの最初の挨拶を終え、辺りを見渡す。色とりどりの料理と飾り付け。そして、それに負けないくらいオシャレをした色とりどりの服を着た女の子たち。キラキラな雰囲気が部屋を更にクリスマスらしくする。
「あはは、なにそれー」
その中でも、ケーキを頬張り、口いっぱいにクリームをつけて笑う子に目が行く。
「……楽しんでくれてるし、いいよね」
彼女は、そんな視線に気づく訳もなく、周りの子と楽しそうに話している。
「ねぇ、聞いてる?」
そんな声に我に戻ると、多くの子が挨拶に来ていた。
「あはは、ごめんね。楽しんでる?」
私は私で楽しもう。そう言い聞かせて、友達の輪の中に入っていく。
「……いくじなし」
友達の輪の中に入っていく彼女を視界の片隅で追いかけながら、ケーキをまた頬張る。
「またクリームついてるよ」
「にひひ、だっておいしいんだもん」
違う。ホントは半分八つ当たりだ。甘い物を食べれば、この気持ちも落ち着くと思ったけど、そんな程度では収まらないくらいためてしまった。
「白いヒゲで、サンタさんみたいだね」
「フォフォフォー」
愛想笑いを浮かべながら、いつもの調子でふざける。そう、これは八つ当たりだ。誘うなら私から誘えばいいだけだったのに。私もまた、友達の輪の中に入っていく。
「ねぇ、飲み物なくなったよー」
「あ、買いに行ってくるよ」
私は、主催者としてその声に反応して答える。あと、外の空気を吸えばこのモヤモヤも少しは晴れるかなとも考えてしまった。とりあえず、買いに行くために部屋から出ようとする。
「フォフォフォ‼サンタもプレゼントを届けるぞよ」
そう言って、口にクリームをたくさんつけたサンタが後を追ってくる。その姿に一瞬ドキッとしてしまう。なんでとか考えている間に、そのサンタは距離を詰めてくる。
「よろしくねー、サンタさんとトナカイさん」
「サンタはともかく私はトナカイじゃ……」
「フォフォフォ‼固いこと言わずに行くぞよ、トナカイさん」
そう言いながら、背中を押されて廊下に出ていく。頭が追いつかないままだけど、とりあえずあの顔で外に出るのはどうかと思うので、拭いてから外に出ようとか、そんな事をその時は考えていた。
「……パーティーは楽しい?」
「楽しいぞよ、フォフォフォ」
愛想笑い。また八つ当たりしてしまう。そのまま顔を合わせずに玄関の方に歩いていく。最悪だ、私。急ぐ私の前に、彼女はなにか慌てて回り込む。
「ねぇ、ちょっと待ってよ、そんな顔で外出るの?」
「……なら、拭いて?」
そう尋ねられて、つい素が出てそっけなく答えてしまう。それに釣られて、彼女はまた慌てながらポケットからハンカチを取り出し、私の口にその手を近づける。彼女のパーティー会場にいた時とは違う余裕のなさそうな顔に、私はついとっさにその手を引き、彼女を抱き寄せ、唇を奪う。
まるで、その瞬間だけ時が止まったように、感じる。
甘いキス。
その中でも、自分の口についたクリームの味を、感じる。
そう、甘い、甘い、キス。
彼女は、ふと我に戻ったのか、ゆっくりと私から離れる。その顔を覗き込むと、さっきまでとは違い、トナカイの鼻のように真っ赤で、口周りには私についていたクリームがついてしまっていた。私は、つい癖で冗談を言う。
「……顔が赤いぞよ、トナカイさん?」
「ばか、私にもクリームがついてサンタになったわよ」
そんな返しに、二人とも楽しそうに笑う。なんで二人きりじゃなかったのかとか、なんで自分から誘わなかったのか。そんなの全てどうでもいいくらい、最高のプレゼントになった。
「行こうぞよ、サンタさん」
「そうだね、サンタさん」
私たちは、そのまま外に出て、道中でクリームが顔についたままなのを思い出して、また笑うのでした。