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異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
一章:全ての役者が揃うまで
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勇者と魔王の最終決戦その一 2 異界

 やがて五感が肉体に戻り、時間の感覚も回帰していく。形容しがたい色彩に呑まれていた視覚が周囲の光景を映し出す。燦々と照りつける太陽。生い茂る植物。どこかから絶えず水の音もする。魔力も薄いが存在している。ここが我々のいた魔界ではないと一瞬で判断がついた。


 クロノディアスもこの世界にたどり着いていた。彼もまた呆然として豊穣の地を見つめていた。魔力を固定できなくなったのか、肩や額に突き出した蒼黒の魔障甲殻が霧散していく。髪も蒼に戻っていた。


「クロノディアス、よくぞあの破滅の渦から生き延びた。必ず褒美を授けよう」


 我が声をかけると、彼は慌てて跪こうとして――――我が頭部を見るやその顔を蒼白とさせて絶句した。


「魔王様! つ、角が……!」


 言われて手を当てた。側頭部の双角のうち一本が、勇者の一撃で両断されていた。光に斬られ焼けた断面。手に触れて初めて、激しい苦痛が頭に響く。


「っ……! 我が命拾いしたということか。次元に大穴が開かなければ、この世界に漂流しなければ勇者の刃は我の命にまで届きうるものだったか」


 一撃決着で敗北していたということだ。その上、屈辱的なことに我が命はここにある。けれどそれは最上の幸運に他ならない。


「頭を上げよ。クロノディアス。この傷の果てに我々は理想郷とも言える地にたどり着いたではないか」


 両腕を振り仰いだ。圧倒的な自然と生命に満ちた環境。魔力もある。我々が命を賭してでも欲しかった人間界そのもの。いやそれ以上の世界がここに広がっている。


 クロノディアスもまた、そのことを理解したからか銀の瞳を輝かせた。氷魔の一族としては南国気候は堪えるかもしれないが、それでも十分過ぎる環境だ。


「しかし先住民? がいるようですね。道が整っていますし、進んだ先に建物が見えます。それにいくつかの生命反応も。ですがそこの茂みの向こう、水辺で呑気にしている者は魔力反応は皆無ですし、ひとまずその者の肉を喰らってやりましょう。我が王の捧げ者になれることは幸運だと喜ぶに違いない」


 クロノディアスはしたり顔を浮かべてその手に氷刃を取る。冷気を帯びたその剣は透き通った刃を煌かせていた。


「魔王様はそこでお待ちを。すぐに終わらせて参ります」


 気配を殺して茂みの奥へと入っていくと、まもなくして金属同士がぶつかり合うような甲高い音が一撃、周囲一帯に鳴り渡った。ガサガサと茂みをから戻ってきたクロノディアスはへし折れた氷刃を持って、悔し涙を必死に堪えていた。あまりにも情けない姿だ。ついさっきまで時間を止める究極魔法を唱えた者とは思えないし、思いたくない。


「……ま、魔王様。違うのです! 私はこの世界が恐ろしい……。水辺は人工の川でした……。そのうえ魔力が一切篭っていないにも関わらず、ゴールドゴーレムとは比較にならない力を持ったゴーレムがいました。私の剣もそれに……」


 金は錬金術、魔術において完璧、完全の属性を持った金属だ。それを使って造られたゴーレムに勝るものはないはず。しかし、金で出来ていようとも我が忠実なる配下にして右腕であるクロノディアスが劣るとは思えない。


「この世界において最も強い存在が茂みの向こうにいるということか。しかし追撃の気配はない。今はこの場所について知るべきだ。危険はあるが道を進んで見ようぞ。さきほど誰かが言っていた異次元ホテルとやらはあれであろう?」


 我は正面を見据える。木々の向こう、三階建て程度ではあるが、そこそこ広く、外観も悪くは無い建物があった。建物のなかには多数の生命反応。魔力反応もある。あそこがこの地域の者共の拠点と見て違いないだろう。


 ここで立ち往生しても仕方がない。思い立ったが吉日。我々はすぐにその場所へと向かい、己が井の中の蛙に過ぎなかったことを思い知らされた。


「……神格がいるではないか」


 理解不能な理屈で透き通った扉が勝手に開いた先、魑魅魍魎の世界が広がっていた。我々の世界では考えられないような種族が多数。それは翼の生えた菌類であったり、巨大なトランプに手足が生えたような奴だったり、挙句の果てに我々の世界で人間共に崇拝されている猫の女神までいた。天と地の差を見せ付けんばかりに垂れ流される膨大な魔力。長く黒い髪を揺らし、ごろごろと喉を鳴らしてソファで爆睡している。


「それにこの建物もおかしな力が働いております。ああ……! さきほどの魔力のないゴーレムと同じだ……! どうやってこんなにも高度な術式を……!」


 クロノディアスは建物の天井を見上げ、戦慄していた。あれは……魔力を感じさせない機能を取り入れた涼しい風を生成するためのゴーレムだろうか。それとも箱のなかに奴隷がいて、人力で風を送らせている?


 我々二人でジッとその風を生み出す箱を眺めていると、とてとてと一機の魔力のない人型ゴーレムが歩み寄ってくる。


 彼女の造形美は完璧で、宝石のような瞳と絹のように柔らかな髪が目に付いた。これではゴーレムに惚れてしまうものが現れてしまうのではなかろうか。


「第一世界からようこそお越しくださいました。魔族の方ですね。あちらの世界では亜人種、人間種との争いでお疲れでしょう。当ホテル……宿屋ではいかなる種族、性別でも問題なくご宿泊できます。チェックインなさらない者でも無料で泊まれる部屋もございます。詳しくはあちらのカウンターで説明を受けてくださると幸いです」


 ゴーレムは跪き両手を重ねてこちらを見上げる。……我々の世界の、それも魔族式の一礼、最も敬いの意を込めた動きだ。もしや彼女はこちらの世界から来たのか? ならば世界情勢に詳しいのも、この一礼も理解できる。だが、だとすれば一体誰がこの傑作を作り上げたのか。


「つかぬことを聞くが。貴様はいかにして稼動している? 製作者は誰だ?」


「科学の力で次元ゲートに穴を開けて、四次元からエネルギーを補給しております。製作元は第九世界のトウキョーにあるアイ&ロイド社です」


「はぁ……左様か」


 思わず気の抜けた返事を返してしまった。クロノディアスに至っては完全にフリーズしている。……カガク。第九世界。分からないことはあまり多い。だが、いや、だからこそ、この地を侵略して第二の魔王城にするにしても、しばし客として様子を見るべきだろう。


「よし、ではチェックインとやらをしに行こうか」


 ずっとこちらを窺っていたカウンターの男は、我々が近付くと最大限に善処したであろう下手糞な笑顔を浮かべる。

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