治安維持隊と少女 その1
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目が眩むような閃光が失せたとき、耳に入ったのは吹き荒む風だった。廃墟になった部屋に転送したみたいで、砂埃を被った瓦礫を踏みしめて外に出る。
私はみっともないくらい目を見開いた。――――砂漠。何もない。視界補助の魔法を使っても地平線の先は砂漠か廃墟しかない。
『あーあー。聞こえる?』
背後から機械越しに声が響いた。振り返ると機械の目が確かに私を覗く。言語は魔法で補助したけれど、この世界に滞在するなら覚えなきゃいけないかもしれない。
『やぁ、よく来てくれたね。支配人から話は聞いたよ。バロン・フォールズにスカウトされたんだって?』
あのホテルマンはそんな名前だったのね。……ふふ、名前。私の大切な……っていけない。浮かれ過ぎた。尻尾が揺れてないといいけど。
「治安維持隊……だったかしら。彼に入れって言われたわ。お前の力を一番よく使える場所だって」
『本当にいいのかい? 働かないと生きてはいけないけれど、別に入隊義務はないんだよ? それに僕達はすべきことのために人だって殺す。そこに正義はない。逆に殺されてしまうかもしれない』
私はつい昨日の自分を思い出して笑ってしまった。機械越しの声が驚いたように黙り込む。
「いいわ。大歓迎。私は勇者だったころの時間を無駄にしたくないの。だから戦う。仲間が殺されちゃうような環境なら改善する。正義なんていらない。だって私は――――」
毅然とした態度を整えて、一拍おいてから言った。
「もう勇者じゃないもの。私はレーヴェ・アルトゥール。盗み見してる人達? 仲良くしましょう?」
惜しみなく竜翼を広げると、廃墟の天井、砂中、瓦礫のなか。金属棚の中……とにかくいろんな場所に隠れていた人たちが驚いた様子で姿を見せた。
バロン・フォールズと同じような武装をしている。大型のナイフにボウガンより高性能な遠距離武器。予想はできていたけれど、彼らが治安維持隊らしい。
「あんたがリーダーに推薦された女か!? その翼は本物? ナコト生物遺伝子研究所から逃げ出したミュータントって聞いたぜ! 飛べるなら金属探知されずに野営地を索敵できるな!」
髭面の大男が怖がる様子もなく手を差し伸ばす。……確か、握手だったかしら。私は舐められないように毅然としたまま手を交えた。彼らの誰一人として私を勇者として見ない。畏怖されないのは新鮮な気分だ。
「リーダーは大の女嫌いなのによく入隊させてもらえたっすね! しかもめっちゃ美人!」
顔の半分が火傷で爛れたボーイッシュな少女が私を見上げる。まだ十四歳程度の女の子が、私と同じように武器を取って、傷だらけになっている。
「この世界は――――誰も助けてくれなかったから武器を取ったのね」
私はその頬に触れた。治癒の低級魔法の行使。この世界には魔法がないらしいから驚かれてしまうかしら。怖がられてしまうかしら。正直な話をすると少し怖かったけれど。
やってやる……! やってやるんだ。あのホテルで助けられた。今度は私が助ける。勇者じゃなくて。レーヴェ・アルトゥールが。
そう思って、力強く笑った。呆然とする少女は、何度も何度も自分の肌を撫でて、それで、琥珀の瞳が潤んでいって、それで――。




