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異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
一章:全ての役者が揃うまで
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勇者と魔王の最終決戦その一 時空衝突

【勇者と魔王の最終決戦その一】



 強者と強者の対峙。互いに睥睨を交えると空は悲鳴を上げて暗雲の渦を形成し、大地が揺れる。そこに生きてる者は三人のみ。


 山を形成するように何千もの我らが同胞、魔族たちの亡骸が倒れ伏す。その血と魔力がまた空気を歪ませて、雷雨を走らせ、大地の亀裂から煮え滾るマグマが吹き出ていく。


 白い噴煙。水蒸気。全うな生物なら死に絶えるだろう毒ガスが漂う。黒褐色のこの地、人間共が魔王城などと呼んで恐れ慄いた我が城の瓦礫が散らばる。


「魔王! あんたをここで仕留めるてやるわ!」


 瓦礫の中心、天災のごとき魔力の渦を作り出した勇者がそこにいる。背は高くなかった。中性的な体格、顔つきではあるがまだ若い少女。燃え盛るような赤く長い髪が嵐に靡いていた。運命の女神に愛されし金眼が我らを改めて睨んだ。


 竜人種の特徴である猛々しい二本角。竜鱗を纏う赤の翼、尾。オリハルコンの鎧に身を包み、敵の技、武器を盗む【天蓋の複製玉】を埋め込みし聖剣を手に持っている。少女だとしても、我が城を一撃で破壊し、この首筋にまで刃を向けうる圧倒的な脅威だ。


「魔王殿、お下がりを。私が囮になります。ここは一度引くべきです」


 我が配下にして四天王最後の生き残り。凍刻のクロノディアスが限界を超えた魔力放出を行い、周囲一帯を極寒凍土へと変えた。マグマは一瞬にして凍りつき、嵐は吹雪へと変わる。勇者とは相反する蒼髪が雪色に染まっていき、銀眼が宙に光を残す。隆々とした肉体からは、魔族としての誇りであるべき魔瘴甲殻が刃のように突き出ていく。


「控えよクロノ。もはや貴様が囮になれるほど勇者は弱くない。魔王としての流儀には反するが、今は手段にも構えぬ。我ら二人で叩き潰すぞ」


 我は刃なき剣を抜いた。――【魔剣ラクトアジェーロ】。あらゆる因果を無視して敵の心臓を貫き穿つ脅威の刃。


「魔王様……! 了解です。必ずや憎き勇者を殺して見せましょう! 生け捕りにできたら死よりも苦しい絶望を味合わせてゴブリンとオークの孕み袋にしてくれる」


「試してみなさい! 今日ここで魔族は滅ぶ! その運命から逃れることは決してできない!」


 クロノが魔族らしい悪逆極まりない台詞を吐いて邪眼を輝かせると、勇者もまた、光属性の魔力を放出した。天に重なる数千もの魔方陣。彼女も我々も考えることは同じらしい。


 ――一撃決着。互いに敵とは言え誇りがある。強者のみに許された堂々たる戦い方の流儀がある。星を揺るがす一撃が、今このとき交えようとしていた。金、銀、そして我が魔力である黒の波動が空気を染める。


「全にして一なるものよ。一にして全なるものよ。悠久の虹の泡。今こそ力を顕現せよ。我が名はクロノディアス。契約せよ。――――【針刻凍結(ヨグソトロート)】!」


「光を超えろ。運命の螺旋。金輪の月。禁忌の誓いの力を示せ。――――【天啓光輝(アランフロッド)】!」


「ヴェールを剥ぐものよ。歪みを刻む可塑よ。多次元からの来訪者。暗黒に委ねよ。我が名はディスト。招来せよ。契約せよ。――――【次元実在(ヴェルダオロス)】!」


 神界の次元門をこじ開けて、我々は究極魔法を宿敵に向けて放つ。魔力の奔流。目を開くことはおろか、意識を保つことさえ困難なほどの力の衝突。世界の存在そのものに穴を開けるほどの三撃がぶつかり合う。時が凍る。質量を持ちながら光の速さを越える。多数次元の存在が狂気を伝染まいと膨張し、空間が軋む。


 神魔の力の果て、ついに我ですら今その瞬間を理解出来なくなった。臭いと音の遮断。上下左右の感覚が消えて、時が動いてるのか否かも判断できずに、次元の渦へと呑まれる。


 そして、長い時空移動の果てに、


『異次元ホテルへようこそ! この場所は、いえ、この世界は初めてでしょうか? 当ホテルは様々な世界の接続部分であり、全部で十五の世界から様々なお客様が訪れます。見たことがないような世界の芸や美食。快適で別世界的休息をぜひお楽しみください』


 そんな音が耳に入ったのだ。

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