幼妻と浮気したい俺 終幕
エピローグ:異次元ホテルへようこそ
【幼妻と浮気したい俺 終幕】
「当ホテルにご滞在いただき、誠にありがとうございました。いってらっしゃいませ。お客様」
この世界の時計で午前十時。チェックアウトの手続きを終えると俺たちにとても親切にしてくれた男のホテルマンとアンドロイドのホテルマンが一礼をくれる。
「本当にお世話になりました。時間が取れたらまた二人で…いや、まぁボディーガードが沢山来ると思いますが。よろしくお願いします」
広々としたフロント。噴水のせせらぎが心地よいけれど、実のところ過剰な武装を積んだ護衛が十数人といる。…はずだ。気配すら感じとれないが。
「ぜひいつでもお越しください。当ホテルはいつでも歓迎しております」
アンドロイドが丁寧な物腰で俺たちを見据える。男のほうはわずかにだが苦笑いを浮かべていた。複雑な事情があるのかもしれない。あまり言及するべきじゃあないだろう。
「今度行くとしたら五連休のときかしら? 絶対休み作ってよね。わたしのハルト……」
エルフィは不意に背伸びすると、その幼い顔に似つかわしくない蠱惑的な声で囁いてきて、フッと耳に息を吹きかけてくる。心臓を鷲掴みにされた気分だ。思わず肩が跳ねてとっさに距離を取ると、妖艶にクスクスと笑ってくれる。
「うわ、うわぁ……!」
「バロン、お客様の前で照れるのはやめなさい。失礼でしょう」
ホテルマン二人が顔を真っ赤にして目を背けてしまった。その様子を見てエルフィがさらに笑う。艶のある頬が赤らんだ。
「エルフィ、行こうか」
「ええ。ここは本当にいい世界ね。法律がホテルの規則だけだもの」
ヒスイの瞳が色に濡れる。直視できなくて出口に顔を向けた。次元ゲートがすでに開いていて、白く蛍光する半透明のヴェールが形成されていた。指の一本でも触れたら俺たちは元の世界に帰還するだろう。
「次の連休までお預けね……」
夜のことがあってから彼女は演技をやめた。子供っぽさは皆無で、肩が跳ねて心臓が止まりそうなことを何度もしてくる。それでもいつも笑顔を見せてくれることだけは変わりなくて、来たときよりも誇らしかった。
ロリコンだのなんだのと部下に言われた気がしたが、俺はもう死んでも別れるつもりはない。年齢云々はともかくエルフィは文字通り世界一の女性だ。断言する。
「本当に昨日はありがとうございます。ドタバタして……あまり二人で過ごせなかったのは残念ですけど、おかげでエルフィのことを理解できた気がします」
……これは惚気か。でもまぁいい。俺は礼を返すと、彼らはすぐに表情を取り戻してホテルマンの顔になった。ジッと見届けられる。どうしてか、祈られている気分になる。
「では、また」
「わたしからもありがとうね。壁、撃っちゃってごめんなさい」
フロントから一歩外に出た。熱帯気候の空気が肌に触れる。異界から漏れる太陽の光が、エルフィの首元を赤く煌めかせた。視線に気づくと、彼女は大切そうにそれをぎゅっと握り締めて――――。
俺たちはヴェールの向こう側に足を踏み入れた。




