機械仕掛けと世紀末潜入捜査員その一 1 世紀末世界から
一章:全ての役者が揃うまで
【機械仕掛けと世紀末潜入捜査員 その一】
世界は砂漠と成り果てた。狂った人工知能が核兵器を乱射したから。人類は世界大戦の果てにポンコツ機械を叩き壊す事に成功したが、終末は手遅れの段階だった。異常気象が引き起こされ、世界はサボテンすら枯れる不毛の地と化してしまった。僅かに生き残った人類は水や食料を奪い合い放射線に怯え、明日をも知れぬ身であった。
そんな世界を統治したのがビッグファーザーだった。俺は今日、偉大なる彼に指示されて砂漠のど真ん中にある核シェルターへと向かっていた。
『やぁ、よく来てくれたね。君の働きぶりにはとても感謝しているよ。治安維持隊総隊長のバロン・フォールズ君』
シェルターに入るや否や目の前のパソコンから中性的な合成声が響いた。薄暗い部屋。あるのは大量の水、食料、そのパソコンとキテレツで巨大な機械が一台。
俺はすぐさまパソコンのカメラに映るように跪いた。彼は無法地帯に法を生み出した王だ。俺は彼以外に頭を下げるつもりはない。
『ごめんね。君を信じてないわけじゃないけど僕の居場所を探る人が多いから会えないんだ』
「ビッグファーザー、あなたはこの世界を統治し、人が人として暮らせる環境を作り上げました。悪から狙われるのは致し方ないこと。こうして声を聞けるだけでも俺は幸福の極みです」
本当にそう思っている。俺はビッグファーザーを愛してるし、崇拝しているとも言っていい。肉声や、ましてその姿を見たらショック死するかもしれないほどに。
『そう言ってくれると嬉しいよ。そんな恍惚とされると恥ずかしいけどさ。本題に戻るよ。犯罪者や反逆者を見つけ出して処理する才能を買ってね。やってやってほしいことがあるんだ』
「ビッグファーザー、俺はあなたからの命令であれば命を捨てることもできるし、いますぐお尻の穴でも捧げる覚悟です。なんなりとご命令を」
『僕にそんな趣味はないよ!? ……そうだね。じゃあお願いしようかな。あ、お尻の穴じゃないよ?』
その言葉の直後、巨大な機械がバチバチと蒼雷を迸らせた。照明が明滅し、やがて壁に白いヴェールが掛かった。いままで見たこともないような幻想的な光景だった。
『それは扉さ。隣接する世界へのね。世界っていうのはいくつもあって、それらを繋ぎ合わせるための小さな世界もある。そこの世界に水や食料を定期的に支援してもらってるんだ』
「凄まじい話ですね」
信じられないがビッグファーザーの言葉は絶対真実で正しいものだ。俺は俺が思っていたよりも重要な任務を課せられるようだ。プレッシャーが圧し掛かるがそれ以上に、狂喜が胸に満ち溢れる。ここまで重要な任務を貰えるなんて……ハハハ、ハハハハハ!
『つい最近、その小さな世界を爆破するって予告があってね。これが普通の場所なら悪戯の可能性も大いにあるけど規模が規模だ。何かが起こったら大変なことになるから君を派遣したい』
「お任せください! 今すぐですか? ビッグファーザー、偉大なる父よ! 俺はいつでも準備は出来ています!」
こんなときのために持っていた装備を俺は見せた。ペン型麻酔拳銃。グレネード。ナイフが九本に拳銃四丁。手錠に自白剤。麻薬。
『流石だバロン・フォールズ。僕は君を指名して良かったと思う。一週間ほど様子を見てきてくれ。向こうとは既に話もつけているから可能な限り従うように。もし何事もなく無事に終わればしばらく休暇を取ったっていい。その場所が気に入ってくれたならだけどね』
「いいえ。俺はすぐに戻ります。ビッグファーザー、あなたの負担を少しでも減らしたいんです。そのためにもこの任務、必ず成功させましょう」
向こうはどんな世界だろうか。水と食料をくれるということは生活環境がいいのだろう。しかしそういう平和な場所ほど起こる事件というのは陰惨極めるものだ。覚悟すべきだろう……。未知の場所に行くというのは正直な話少し怖い。
それでも俺はヴェールの向こう側に足を踏み入れた。