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異次元ホテルへようこそ!  作者: 終乃スェーシャ(N号)
一章:全ての役者が揃うまで
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創立パーティは豪華絢爛ディナーと共に その一 囚われし動物共と丸焼きにしたい奴ら達

【創立パーティは豪華絢爛ディナーと共に その一】




 次元ゲートが開いた。とは言っても客ではない。ホテルの支配人はそのことを理解していたから、すぐに無線で気にしないように命じた。了解と返事が来る。ビッグファーザーから派遣されたバロンもまた、同様の返事を返した。その声を聞いてから、支配人は四つの腕をわきわきと動かしつつホテルの裏口へと向かう。裏口は基本的に客は立ち入り禁止だが破る者が多いため外観もきちんと飾られている。椰子と草花の柵にレンガの造りの広場。車が止まっていた。


「どうもー! 異世界轢殺トラック便でーす! お届け物に参りましたー! 印鑑かサインをお願いします」


 今日も誰かを異世界送りにしたのだ。トラックの車体は血肉でへこんでいた。いつものことなので支配人は気にしない。スチャっと身に着けている仮面を美少女の笑顔のものに変えて、ドライバーに対応して荷物を受け取る。


「今年も創立記念パーティですか? いいなぁ、俺も一度はこの南国異界ホテルでキャッキャウフフしてみたいですよ」


「ははは、いつも世話になってますから、来てくださればいつでもおもてなししますよ」


「いや、俺は行くときは結婚相手と行くと決めてるんすよ。轢き殺した人のなかには結構美少女も多いんですよ? って、支配人さんに言っても分からないですよね」


「ははは、確かに人間だとか魔族だとかとは格が違うからね。神性ってのはそんなものさ」


 支配人は自虐しながら荷物を受け取る。それは巨大な檻だった。中には支配人が今日のパーティのために注文した二匹の動物。ぶひぶひー。Ahrrrr……Ohrrrrr……。と彼らは鳴き声を上げていた。第十一世界と第一世界から連れてきたダイオウサイコキスマダラブタと今朝がた夢の世界の東部ムホールにて捕獲された暗黒宝石の守護者ジウルーン。


 名前の長いほうは言ってしまえば豚だが、他の世界の豚とは比較にならない珍味かつ驚異的な個体だった。恐るべき知能とPSI(超能力)を持ち、成体になると歩行戦車すら破壊する。怒ると身体から電撃を放ち、模様が赤と白のマーブルカラーになる。


 もう一匹のほうは全身を覆う一対の黒翼を生やした邪悪なる神のしもべだった。ヒキガエルのような体からいくつかのイカに似た触手を生やし、肉質で不吉な頭部を陰険に隠している。その姿は見慣れない者からすれば狂気的ですらあった。


「それじゃ! またのご注文お待ちしております!」


 トラックはエンジンをかけると時空を切り裂いて萎むようにその場から消える。


「去年はクラーケンのゲソ焼きとバハムートのフィレステーキだったから、さすがに切り身で郵送になったけど、これなら問題ないね。ディナーの時間が楽しみだ。丸焼きがいいかなぁ。調理したら複製の魔法で……」


 支配人は瞳を獰猛に輝かせた。仮面の奥。折り重なった多数のアギトから涎を零し、おっといけないと絹のハンカチで拭った。


「プギプギー!」


 肉食動物的な様子を見せつけられた豚は本能からか助けを求めるように叫んだ。ガチャガチャと檻を揺らす。しかし檻は微動だにもしない。


「豚君、悪いけどこの檻は複数の世界を跨いで作った最高傑作。壊すのは不可能だよ」


 支配人は鼻歌を歌いながら片手で檻を持ち上げて、厨房裏へと回った。シェフの一人、いや、一匹である宙を浮かぶ虹色のクラゲは檻のなかの哀れな動物達を見ると、歓喜に身を震わせピカピカと発光し始める。


(おほー! それが今日のメインディッシュ予定?)


 念話の魔術。支配人は頭に直接響いた言葉に、そうだよと頷いた。


「調理は豚のほうは丸焼きがいいかな。ジウルーンは……うーん、まぁカエルみたいな胴体で、イカの脚と蝙蝠の翼だろう? どれも食べてる世界はある。いけるはずだ。それと3051に泊ってるお客様が顎が弱いけどステーキが食べたいって要望を出してるから対策を考えて欲しい。ああ、あとアレルギー、宗教上食べられないものがあるお客様のリスト、あとで情報共有の魔法をしとくからお願いね」


(あいあいさー!)


 クラゲが触手をびしっと正して敬礼するなか、支配人はその場を後にした。残された動物二匹はただただ恐怖に震えるのみだった。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 畜生! 毎日旨いもん食えるし温度もちょうどいいしで極楽にいたってのになんなんだこの仕打ちは! あの爺いきなりオレっちを檻に入れたと思ったら、このままだと丸焼き!? 丸焼きだと!? 知ってるぞオレっちはよぉ――あれって内臓に香草とかぶち込まれたりするんだろ? いや、そもそも死ぬね! こいつは酷ぇや。


 思わず怒りに体を震わせた。断じてこれは恐怖じゃあない。あの四本腕の怪物を見てチビりそうになったのは秘密だ。なにせオレっちはいつだって勇猛果敢な奴だからな。


「……GIhooooaaaaaaaaaaaaa!!(いい加減檻揺らすのやめなさい。豚野郎)」


 でけえ蝙蝠の翼とイカの触手生やしたヒキガエルみたいな化け物が姦しい声を張り上げる。なんで言葉が伝わるかは分からねえが伝わるっていう事実が重要なんだ。オレらの世界じゃ細かいことは気にしねえ。


「ブヒブヒ(やい怪物。今は協力してこの場をなんとか脱出するのが先だぜ)」


 とは言えどうやって逃げたもんか。あの仮面野郎の言ってた通り、檻はビクともしやしねえ。そんなことを考えてるうちに時間は刻一刻と迫る。光るクラゲがぬたぬたと煌めく触手で檻を持ち上げて移動し始めたのだ。


 建物を出て、鮮やかな花々が咲き乱れる庭園の奥、太陽が照り付けて心地よい風が吹きつける崖にまでたどり着いた。海が広がっているのに、途中で水平線が途切れてる。ああ、オレっちはとんだ異世界冒険をしてるぜ全く。


 現実逃避したくて遠くを眺めてたけど、嗅覚が告げてやがる。おびただしい血肉の臭いだ。水で流したって消えやしねえ。この場所はきっと――。


「Yhraaaaaaaaaaaaa!!(何景色に見惚れてるのよ豚! ここ解体場よ! 私たちはこのままだと頭スパンってされてのたうち回って丸焼きにされるの! ……ああかの夢見るままに魔王アザトースよ。どうか加護を……)」


 怪物が地獄の底から這い出るようなおぞましい鳴き声に反して、妙に女っぽい口調でオレっちに危険を訴えると慌てて翼を羽ばたかせる。だが無意味だ。いかにも万事休す。とうとうクラゲのやつが魔力を帯びた日本刀をどこからともなく取り出す。きらりと刃が煌めく。こいつはマジでやべえ。このままだとオレらは本気で……!


「おーい、クラーゲンよ! すまぬが厨房を頼むぞ。竜種は食う量が多くてわらわだけでは対処できぬ!」


 ……絶対絶命のそのとき、厨房から救いの女神が現れる。ふわふわと空を浮かび、長い黒髪と羽衣を靡かせる童女がクラーゲンと名を呼ぶと、クラゲはぴくりと動きを止めた。彼女? はピカピカと数度発光して、日本刀を異次元に収納すると厨房へと消えていく。


 一人と一匹が去るまで、オレ達は必死に気配を押し殺した。やがて解体場は誰の気配もなくなる。ざざぁんと波音がするだけの心地よい崖へと変わった。ひとまず安全になったのだ。そしたらずっと茂みで気配を押し殺していたオレのダチ公、紫色の毛むくじゃらのタランチュラが檻まで駆けつけた。


「大丈夫か豚野郎! 待ってろ。オレがこの檻の鍵を見つけ出して必ず助けてやらぁ!」


 彼は威嚇するように前肢をあげてオレらにそう告げる。怪物のやつは驚いて言葉が詰まっていた。正直な話、蜘蛛一匹に何が出来るんだって言ってやりたいが、今は藁にも縋りたい……いや、蜘蛛の糸に掴まりたい気分だしな。


「頼んだぜ。モジャモジャ。お前の頑張り次第で異世界で豪華ディナーに話が恰好いいモテモテ武勇伝だ」


「任せろよ相棒。けどオレのことはモジャモジャじゃなくてモンブラン卿と呼べ! 前の飼い主がつけてくれた大切な名前だからなッ!」


 タランチュラは、モンブラン卿は走り出した。蜘蛛だから脚こそ速いものの小さな歩みだ。だが、命を賭けるしかねえ。


「ね、ねぇ? あの蜘蛛は一体……」


 怪物のやつが不思議そうに首を傾げる。オレはあいつのことを誇らしく思いながら説明してやった。


「あいつはオレの親友さ。オレを助けるために次元ゲートに紛れてきたヒーローだぜ」

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