幼妻と浮気したい俺その一 盲愛の狂気
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わたしは寝たふりをやめてゆっくりと体を起こした。シーリングファンが風を作る音だけがする。せっかくの新婚旅行で、スイートルームなのにこの白くて柔らかなベッドは一つじゃなかった。
窓から見える世界の果てとエメラルドグリーンの海。彼は窓からその景色を眺めた後、部屋を後にしてしまった。きっとまだ睡眠薬が効いていると思ってるに違いない。
「あはぁ……。あなたの背中、思い出すだけで体が燃えちゃいそうだよぉ」
思い出すだけでもゾクゾクする。おんぶされたのは初めてではないけれど、彼の背中は逞しくて、暖かくて、匂いと鼓動の音に包まれる感覚は言葉にもできない。
「なんでこんなに大好きなのに愛してるのに、あなたはわたしに睡眠薬なんて飲ませようとしたの……」
この世界に行く前に彼がいれてくれた紅茶。キッチンにある隠しカメラにも気付かないで、申し訳なさそうに薬を仕込んだことをわたしは知っている。
何を企んでるんだろう。なんでわたしを置いて部屋を留守にしたのかな。なんでこんなにも大好きなのに大好きなのに大好きなのに! 愛してるのに愛してるのに愛してるのに愛してるのに愛してるのに! あなたはわたしをあしらって、どこに消えた?
「ふふふふ……探さなきゃ。あなたはわたしと一緒にいるだけでいいの。あは、あははは……!」
ああ、愛しいあなた。私が褒められると一緒に嬉しがってくれるあなたが好き。いつも気遣ってくれるところが好き。父親が嫌いなのに父親の偉大さを誇らしく思っている矛盾性が好き。顔が好き。真っ赤な瞳が好き。飴色の硬い髪が好き。声が好き。匂いが好き。ああああああ、わたしがもっと、せめてあと五歳は歳を取ってれば、部屋に来たところで押し倒したかった。
あなたはまるで麻薬のよう。わたしは考えるだけで本当にクラクラして、それでもなんとか立ち上がる。睡眠薬、電気銃。全部あなたの会社のものを揃えたの。とても嫌な予感がしたから。新婚旅行なのに彼はどこに行っちゃったのかしら。
わたしは一人部屋を出た。大好きで、愛おしい夫を探しに行くために。