機械仕掛けと世紀末潜入捜査員その―― 混沌のなかで
ホテルの創立記念パーティは次の刹那、絢爛たる輝きと賑やかな流れをぶった切るように暗闇のなかに落ちた。周囲がざわつく。一部の種族の瞳と発光器官の残光が宙に漂う。急な視界変化。夜目だろうがその暗闇に一瞬で対応するのは不可能だった。
『連絡。電源装置に過剰な発熱を確認。ブレーカーの遮断。連絡。魔晄炉に異常あり。緊急的に活動を停止します。再開する際はマニュアル操作によるマスター権限を必要とします』
業務用ピンマイクが緊急事態を告げる。何が起きている? 疑問が脳裏を過り、すぐに最悪な想定が浮かぶ。状況は急速に悪化していた。
ガシャン!!
続けざまガラスが爆ぜた。暗闇と夜空が溶け合い、二人の人影が温暖な空気と共に会場に入り込む。日頃の仕事のおかげか、この頃にはだいぶ目が慣れていたから二人が誰かがすぐに理解できた。
紳士服で着飾った白髪の男と、長い白髪を自由落下に靡かせる褐色肌の少女。忘れようがない踊り子のような肌の露出が多い破廉恥な服装もそのまま。
琥珀の双眸が俺の唖然とする顔を見て確かに嘲っていた。そして彼女は快活な声をあげた。同時、自動翻訳機が訳していく。まるで魔法の詠唱か何かだった。
「甘美なる対価を払え。赤い血肉の疼きを放つ。身を歪めし呪縛。――――模泉戸契」
きっとそれは俺達が仕事とトラブルに翻弄されているなかで着実と準備されていたのだろう。少女の目の光が妖しく輝くと困惑していた客たちに非科学的な力が作用していく。
ボフンとやけにコミカルなくぐもった音とともに多種多様だったはずの客達の多くがあっという間もなく目の前の少女と紳士服の男のと瓜二つになったのだ。身長、肌の色はむろん、変身前は尻尾やら翼があったはずの種族まで彼らに似せられていた。
(このままでは逃げられます! 至急あの二人の確保を!)
頭のなかに響く仲間のテレパシー。けど俺は二人を捕まえに走れなかった。混沌極まる会場内。客の渦に紛れて、姿を隠していた剣が歩き始めていた。
――――勇者が来た。このままだと魔王が殺される。
血の気が引いて青ざめていく表情筋。反して、脚に血が巡る。筋肉はばねのように縮み、そして爆ぜるように絨毯を蹴りあげる。思考は解決策を探そうと脳をかき回し、走馬灯のように今日のことを振り返ろうとしていた。
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