会議の後日談
そう。俺はmodで未来を編集した。
いくつかのパターンでそれぞれの未来を確認して、最良の選択をしたつもりだ。
『メモリ編集モードです。テキストを編集し登録ボタンを押してください。
会議が始まる前に加藤さんへ相談し、ピンハネ率を計算した資料も発表する。 【登録】』
ピンハネ率を計算した資料だけではだめだった。
そこから派生する会議の結末は『何それ?』っていう反応で、最初に見た動画よりも怒られた。
派遣社員さんの給料を語り合うなんて、主人の稼ぎを聞き出そうとする下品なおばさんと変わらないもんね。
最初の資料と、ピンハネの資料の両方を説明するだけでも、反応はあまり良くなかった。『それならばどうする』という、会議の結論が出なければ意味がないと、やんわりと叱られた。
そこで、会議の前に加藤さんに相談するという一文を挿入した。14時5分から始まる会議の前の出来事を付け加えて、modが正しく機能するかが心配だったけど、加藤さんへのご相談はちゃんとできた。
恐らくだけど、14時5分という時間は『資料を発表する』に掛かっているので、大丈夫なんじゃないかと推測している。
まあ、modについてあれこれと理屈を言ったってしょうがないんだけどね。論理的に説明しようとすれば、俺の頭がおかしくなっちゃったっていうのが、一番理に適っている。
結局、黄村スタッフスとわが社の契約は打ち切られた。
阿漕な黄村は従業員への給与を減らさず、皆勤手当てなどの制度を作りもしなかった。
俺と加藤さんは、そんな黄村の従業員の中でも少ない給料でモチベーションを下げなかった人を選び、個別に声をかけた。
元黄村スタッフスの派遣社員さん達は、現在は赤井サービスと青田テクノロジーに所属を変え、引き続き頑張ってくれている。
真面目に働いてた人達はハッピー。
わが社も大量の教育費を支払わず、能力のある派遣社員を継続雇用できてハッピー。
従業員を大切にしてた赤井と青田も、売り上げが上がってハッピー。
唯一、ブラックな黄村が割を食った形になるが、これは因果応報というべきだろう。部長が憎まれ役を買ってくれたという噂だが、各派遣会社とどういう交渉をしたのかはブラックボックスの中だ。
叱りもするし、責任も持つ。
部長ったら理想の上司オブザイヤーだぜ!
あ~、割を食ったのは唯一じゃないな。元黄村の派遣社員の中でも、モチベーションを落としていた人にはご退場いただいた。
厳しい話だけど、給料が低くてモチベーションを下げる人は、給料が上がってもいずれ腐っていくというのが部長の持論だったからだ。
全ての決定に納得できる訳ではなかったけど、尊敬する部長の経験を信じて反対意見は飲み込んだ。
◇◇◇◇◇
と、いうのがここ一週間で俺の身に起こった不思議な出来事だ。
俺としては、血の色をしたノートPCに警戒心が無くなったわけじゃない。
それでも、modというプログラムでできるメリットや、この先俺の身に起こる事への好奇心が、警戒心に勝ってしまっている。
っていうか、俺が生れる前に上映された映画で見たエピソードが思い出される。
アメリカ人の青年が、タイムマシンで過去や未来を駆け巡る三部作。
1.21ジゴワットのアレですよ。
とても面白い映画だったんだけど、未来を知った事で大金を手にするキャラがいた。
この方法を使えば、俺も大金持ちになれるんじゃないだろうか?
しかも、タイムマシーンすら使わず、部屋の中でニコニコした動画風の画面を見れば分かるんだから、手間もリスクもほとんど無い。
これはやるしかない。
『宝くじ当たったら何が欲しい?』
歴史上、何度繰り返された夢のフレーズであろうか。
変なおじさんが『ダッフンダ』と言ったよりも多いに違いない。
億万長者?
modがあれば夢じゃない。
明日は二日酔いでくたばっているかもしれませんので、今日は二話投稿いたしました。
これにて一章完結です。
二章からはmodがいよいよ本領発揮です!