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ダストシュート  作者: 恋魂
アダウッチ
3/3

③ スキルパネル

 

「お前、右利きか、左利きか、どっちだ?」


「右利きだけど」


 右利きか、左利きの方が良かったが仕方ない。


「じゃあ今から箸は左で持て、両利きになってもらう」


「はぁ? なんで?」


 少女は少女らしからぬ顔で睨んでいる。


「なんででもだ。それが出来るまで次は教えない」


「ふんっ」


 少女はすぐに左で箸を持ち始めた。

 別にご飯を食べる訳ではなかったがちょうど腹が減ってきたのでパスタを茹でることにした。


「ねえ、食事って、パスタしかないの? 全部ミートソースだし」


 ダンボールの中を覗いて言う。


「健康に悪くない? 野菜とか食べないの?」


「トマトソースは嫌いだ」


 少女ははぁ、とため息をついた。


「そんなんじゃ早死にするわよ」


「長生き出来る仕事をしていない」


 そのまま二人とも沈黙した。

 茹で上がったパスタを皿によそってミートソースをかける。

 机に二つ並べると、二人で食べ始めた。


「う、うまっ。なにこれ、めっちゃ美味しいじゃない」


 左で箸を握り、少女がパスタをすする。

 始めてにしては、なかなか器用だ。


「アルデンテ? 塩かげん? なんなの、この絶妙な旨さはっ」


「ずっとこれしか作ってないからな」


 部屋の室温から茹で時間を推測し、その時の体調で塩加減を決める。今日はサービスで少女の体調に合わせ、塩分を多めにしておいた。


「そういう極め方もあるのね、勉強になるわ」


 少女は左で、たまにパスタをこぼしながら完食した。



「ねえ、早く左利きマスターして次に行きたいわ。コツとかないの?」


 銃の手入れをしていると、少女が話しかけてきた。邪魔くさい。


「ない。ただ慣れろ」


 沈黙。少女はじっと睨んでいる。


「ねえ、おじさん。教えるの下手だよね」


「人に何かを教えたことなどないからな」


 出来れば今も何も教えたくない。


「ねえ、提案があるんだけど」


 少女がまた指を一本立てる。

 嫌な予感しかしない。


「選択その1 このままちゃんと教えないで何十年も私と一緒に暮らす」


 そして、ピースサインを作る。


「選択その2 新しい訓練方法で、私を早く一人前にして解放される」


「なんだ、どうしていちいち二択なんだ?」


 少女がピースサインをしたままニッコリ笑う。


「おじさん、ゲームしたことないでしょ。ロールプレイングゲームとか。ほとんどの選択肢は二択なんだよ」


 何を言ってるかわからない。


「言っておくが新しい訓練方法などない。だから選択しようがない」


「大丈夫、私が教えてあげる」


 ますます何を言っているかわからない。


「俺が教える訓練の方法を、お前が教える? 頭大丈夫か?」


「失礼ね、私、頭いいのよ」


 少女がランドセルからノートを取り出した。

 何も書かれていない新しいノートだ。

 その表紙にマジックで「特訓ノート」と書き込む。

 汚い字だが、ちゃんと左手で書いている。


 ノートを開いて、最初のページの真ん中に「左利きをを覚えて両利きになる」と書き込む。


「ねえ、おじさん。どうして最初に両利きにしようとしたの? メリットは何?」


「......状況により、右左同時に銃を打てた方が生き残る確率が上がる。俺は常に二丁拳銃を装備している」


「二丁拳銃っ! かっこいいじゃない。先にそれ言いなさいよ」


 少女が嬉しそうにノートに書き込む。


「左利きを覚えて両利きになる」の横に「二丁拳銃のスキルをマスターする」と書いている。


「なんだ? スキル?」


「そうよ、今スキルパネル作ってるの。最終的にどんな技術を学べるか、書き込んでいくのよ」


 スキルパネルというのはなんだろか。ゲームだろうか。


「何の為に? 意味があるのか?」


「あるよ、先に何かあるとわかるとモチベーションが違うのよ」


 少女はそう言ってノートを書いていく。

 六角形のパズルを組み合わせたような図が出来上がる。

 その六角形の中で二つだけ「左利きを覚えて両利きになる」と「二丁拳銃のスキルをマスター」が書き込まれており、残り十個以上の六角形は空欄だ。


「はい、後はおじさんが書き込んでいって」


「な、なんだと」


 とんでもないことを言ってきた。


「ちょっと待て、なぜ俺がこんなことを?」


「私が早く一人前になるためだよ」


 ドヤ顔をされた。訳がわからない。


「こんなことで本当に早く習得できるのか?」


「私の経験からすると五倍くらい早く習得できるわ」


 本当だろうか。本当ならやってみる価値はあるのだが......


「俺はほとんど文字を書いたことがない」


「え? 本当に? おじさん、どうやって生きてきたの?」


「俺の仕事には必要なかった。最低限、読むことが出来たらそれで良かった」


 少女がぽかんと口を開けてマヌケな顔になった。

 俺も最初、こんな顔をしていたのだろう。


「仕方ないわね、私がおじさんに勉強を教えるわ。ギブアンドテイクね」


「いや、俺は別に......」


「ダメよっ」


 少女が俺を指差す。


「おじさん、絶対いままで報酬とかちょろまかされてるよ。ちゃんと勉強しなきゃダメだよ」


 そう言うと少女はまたランドセルから新しいノートを出す。一体何冊ノートが入っているのか。


「はい、まずは日記を書くことから始めましょう」


 少女にノートを渡される。


「良かったね。私が一人前になる頃には、おじさんはインテリ殺し屋になってるわ」


 無邪気に笑う少女。

 生まれて初めて、人に教わり、人に教える。

 何故か悪い気はしなかった。



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