ゾンビの習性
こんにちは、薬師実です。 今回は主人公たちが講義室から逃げ出したところから物語は始まります。 果たしてどうなってしまうのでしょうか! どうぞお楽しみください。
講義室から出て、一瞬静止してしまった俺たちを待ち受けるのは未だかつて見たことのない惨状であり、絶望。
目の前に広がるどこまでも容赦のない死の臭い。自らに迫る危険の色を感じ取り、瞳孔は開き、全身の毛は逆立ち、臨戦態勢に入る。それが動物の生存本能であり、極自然的な事象でもあるのだ。
俺たちの周りにはゾンビと見られる奴らが、学生であったであろうものの死体を貪っている。内臓はぐちゃぐちゃに引っ張られ、ゾンビどもによる晩餐会が開かれている様にも見えた。
ぐちゃりと音を立てたのは一体のゾンビ、そいつの足元には腸のようなものが転がっている。膝立ちのゾンビが俺たちの方へ振り向く。その双眸は真っ赤に充血しており、血液が瞳から垂れ流しになっている。それを見た誰かが叫ぶ。
「に、逃げろぉぉ!!」
その声に連られて俺たちは散り散りに走り出す。振り返るとゾンビどもが食事をやめて、俺たちを捕食するべく追跡してくる。
誰だよ、ゾンビの動きが鈍いとか言ったのは!
奴らは競歩の選手並のスピードで俺たちに迫ってきていた。そして前方の上の階段からもゾンビが降りて来ているのが見える。ちなみに俺たちのいる位置は建物内の二階廊下であり、階段を目掛がけて足を走らせる。
「誰か助けて!! 誰かぁ!!」
ゾンビに捕まってしまった女子学生の声が俺たちに突き刺さる。女子は運動能力的にも低いから、こんな状況では不利であることは言うまでも無い。
「槙野くん! 私たちどこへ行けば⋯⋯!」
「サークル棟に行こう! この時間は授業中だったし、きっとゾンビの数も少ないはずだ!」
「その話は本当か!?」
俺と上迫さんの後に着いてきていたイケメンが俺たちの話に食いついてくる。
「ああ、おそらくサークル棟にいるのは生き残っている奴らか、それを追っていったゾンビだろうさ!」
「それなら部室に行って武器を手に入れないとな! 俺もそこへ向かうとする!」
すると、俺たちの目の前に躍り出たゾンビを一緒に着いてきた金髪のヤンキーが掴みかかっていく。
「テメェ! 投げ飛ばしてやる!」
しかし、金髪のヤンキーがゾンビの肩を掴むも、ゾンビに手を掴まれてしまう。
「この野郎なんて力だ! こちとら鍛えてるってのによぉ!」
「ふっ!」
俺はゾンビの足をバールで引っ掛けて転ばしてやる。咄嗟の行動だったが何とか成功したようだ。
「おいそこの仏頂面! 助かったぜ」
「仏頂面はやめろ! それよりゾンビ相手に力勝負なんて不利なんだからな!」
奴らの力が強いのは、教授を取り押さえた男子学生の件ですでに把握している。わざわざ相手の土俵で戦ってやる必要は無い。
サークル棟には俺たちの建物のすぐ隣に位置しているため、裏口を使えば最短距離で向かうことが出来る。これがメインストリートを挟んだ向こう側だったら行くのを断念していたかもしれない。
俺たちは階段を一段飛ばしで駆け下り、階段の踊り場にいるゾンビを転ばせる。今はこんなところで時間を食っている場合では無いため、動きは必要最低減に、かつ迅速に行う。
俺たちは裏口に到着すると、扉を開けてサークル棟への正面玄関へと向かう。
「槙野の言う通りだったな! どうやら本当にゾンビは少ないらしい!」
上迫さんはいち早く正面玄関の扉を施錠する、この判断力は特筆するべき事柄であると思う。俺は彼女に礼を述べる。
「上迫さんありがとう、おかげで奴らの侵入を防ぐことが出来たよ」
「ううん、私だけだったら今ごろ食べられちゃってただろうし! 槙野くんのおかげだよ!」
「いやそんなことは⋯⋯ 」
すると俺たちの間に金髪のヤンキーが割り込んでくる。
「話し込んでる場合かよ、今にもゾンビがこの扉をぶち破ってくるかもしれねぇってのによぉ」
「おー怖、ヤンキーは怖いなあ」
「 ばっか、俺はヤンキーじゃねえよ! ちょっと髪染めて、ちょっと授業サボって、ちょっと言葉が荒いだけだ!」
それをヤンキーというのでは無いだろうか。
「二人とも落ち着いてくれ、今は協力するべきだろう、非常事態なんだからさ」
「そうだよ! それにこの中にもゾンビがいないってわけじゃないし!」
イケメンと上迫さんの静止により俺たちの言い争いは終わる。その声を聞きつけた一体のゾンビが俺たちに近づいてくる。
「邪魔するんじゃねぇよコラァ!!」
ヤンキーはヤクザ蹴りを繰り出し、倒れたゾンビの頭を何度も踏みつけると、ゾンビは動かなくなってしまう。武道をやっていた俺から見ても、あいつはどうやら喧嘩慣れしている様子であった。完全にヤンキーのそれである。
「武器さえ手に入りゃ、こんな奴らなんかに食われるかっての」
ヤンキーは動かなくなったゾンビを死体蹴りする。
「そろそろ移動しよう、俺は剣道部の部室に行こうと思うが、みんなは?」
イケメンの言葉にヤンキーが反応する。
「俺は野球部に行くかなぁ、元々野球やってたし、バットは握り慣れてっし」
「私は槙野くんに着いていくよ、一緒に行くって約束したし」
「おーおー、お熱いことで」
ヤンキーが茶化す中、俺はどこに行くべきか思考を巡らしていた。そしてある案が思い浮かぶ。
「オーケー上迫さん、それじゃあ行こうか」
「おいおい! どこに行くか言わねぇのかよ」
「別に俺がどこへ行こうと勝手だろ、そっちはそっちで好きにやればいいよ」
「んだとテメェ!」
ヤンキーに胸ぐらを掴まれそうになるが、体捌きでそれを躱す。仮にも武道を三年続けていた俺にとって素人の動きを読むぐらい大した事では無い。
「とにかくここからは別行動だ、俺たちは二階に行くから」
上迫さんを連れて二階への階段を登る。振り返るとヤンキーは舌打ちをし、イケメンは下を向いたまま動かなかった。
ーーーーーー
俺たちは階段を登ったまま無言になる。特に話す言葉が見つからないので黙っていると上迫さんが話を切り出す。
「本当に別れてよかったの? みんなでいた方が安心しない? それにちょっと言い方悪かったよ」
「言い方については謝る、だけど別れたのには理由があるんだ」
上迫さんはちょこんと首を傾げる。
「どういうことなの?」
「効率の問題だよ、みんなでいたら手に入る物資も限られてくるし、何より他の生存者と遭遇しやすくなるでしょ?」
こんな状況だからこそコミュニティを作らないといけないし、どこかに別の生き残りの集団がいると思うからそれに合流できるのが一番良いんだけど。
「でもサークル棟にはゾンビがいるのに単独行動は危険だと思うんだけど⋯⋯ 」
「あのイケメンは運動神経も良さそうだし大丈夫だよ、ヤンキーについては言うまでも無いけど」
「イケメンって小野寺くんのこと? ヤンキーは中山くん?」
「名前が分からなかったから便宜上そう呼んでただけなんだけどね」
二階の渡り廊下に差し掛かった時に、上迫さんに待ての合図し、廊下に一匹のゾンビがうろついているのを確認する。
「今からゾンビにどんな特性があるか実験してみようと思う。 ちょっと筆記用具を貸してくれない?」
俺は小声で上迫さんへ話しかけ、ゾンビに聞こえないよう細心の注意を払う。上迫さんに渡された筆記用具の中から消しゴムを取り出し、ゾンビが背を向けた瞬間に消しゴムを投げつけた。
俺たちはしばらくゾンビの様子を見ていたが、特に変わった様子は見られない。
「頭に当たったのに気づかないのかな?」
「どうだろう⋯⋯、 もしかして痛覚が無いのかもしれない」
今度は金属製の定規をゾンビの奥の壁へ投げつけると、壁に向かって歩き始めた。
「壁に向かって行ったよ、あそこには何も無いのに⋯⋯ 」
「おそらく音に反応してるんだろうね、次は目が見えるのかを試してみたいと思う。」
バールを片手に持ち、忍び足でゾンビに近づいていく。4m程の距離まで近づいていくと、ゾンビがこちらに気がついたようだ。
俺はゾンビの近くまで走り、足へ思いっきりバールを叩きつける。ボキッという不協和音を出して倒れた後、頭部へ二発ほど叩き込む。
「どうやら4m付近までは目が見えるみたいだ、それにしても頭を割るなんて簡単じゃ無いぞ⋯⋯ 」
前に一度だけ見た映画などでよく一発でゾンビを倒していたが、それはありえないだろう。肉体が腐っているのならともかく、新品ゾンビの頭蓋骨を割るのには相当力が要る。どうやら現実は映画のようにはいかないらしい。
俺はため息をつきながら、目的の場所へと向かうことにした。
はい、今回も読んでくださりありがとうございます。次回もお楽しみに〜




