調達と防衛
「いいか美乃梨、ちゃんと俺たちの指示に従うんだぞ、じゃないとゾンビの仲間入りだからな」
「もうお兄ちゃんしつこい! まるで姑みたいだね」
「槙野よぉ、妹が心配なのは分かるが今は運転に集中しとけや」
俺と中山と美乃梨はバンで中山家の近所のアパレルショップへ向かっているところである。
俺が運転、中山がナビゲーターで美乃梨には一応周囲の警戒を頼んでいる。
「昨日は伊織ちゃん部屋に連れ込んで何やってたの?」
「ぶっ! 人聞き悪いこと言うなよ! 気づいたら伊織が寝ていた俺の身にもなってくれ⋯⋯」
伊織には後でしっかりと言い聞かせなければならないだろうな。
現在の時刻は午前七時、今日の予定としては午後二時までに中山家に帰宅することになっている。
午後二時までに俺たちが帰らない場合には明日の午後二時、明後日の午後二時、一週間経てば帰ってくる可能性は低くなっていくと居残り組に伝えてある。
調達では何が起きるか分からないため俺たちが帰ってこない場合は、小野寺や美遊先輩、伊織に俺たちを探し来ないでくれとも伝えてある。
俺たちが帰ってこなかった時点でその方向は危険であり、近づくべきでは無いのだ。
「中山、アパレルショップまでのルートはどうなってる?」
中山はマークをつけてある地図帳のようなものを開く。
「このまま真っ直ぐ行って県道に出りゃ一番近えんだが、当てにしない方がいいわな。 迂回して交通量が少ねぇところを探そうぜ」
俺たちはアパレルショップへ向かう途中で、ガードレールに衝突している車で道が塞がっていたり、ゾンビの数が多い小道を何度も迂回しながら目的地に到着した。
俺はアパレルショップの入り口の目の前にバンを止めて、二人へ今回の作戦を話す。
「ショップの中に入ったらまずは見える位置のゾンビの確認、 数が多い場合はそこには立ち入らない、数が少ないかついない場合にはこちらから行くか戻るかの指示を出すから。 美乃梨は二人の服のサイズとか聞いてるよな?」
「当たり前じゃん、二人の胸のサイズとか知りたい?」
俺は美乃梨へ軽くげんこつをしてやる。
「今はふざけてる場合じゃないだろ、気を引き締めていかないと対応出来ないぞ」
「はーい」
美乃梨は頭を撫でながら軽い返事をする。
「店の中では三人で固まって動くこと。 俺と中山が前衛で美乃梨が後衛ってとこかな、安全が確保できたらすぐに物資を運び出そう」
俺たちはバンからすぐに降りると、倒れているゾンビが自動ドアを邪魔していた。
「起き上がってきたら面倒だしやっちゃっていいよね」
美乃梨はそう言うとすぐに包丁をゾンビの頚椎へ突き刺す。ごりっとした音が聞こえて来ると同時に、一瞬だけゾンビの体が痙攣した。
どうやら美乃梨の行動は正しかったらしい。
店の中を確認するとゾンビの姿は確認出来なかったため、二人へGOのサインを出して突入する。
まず俺たちは婦人服売り場へ向かって移動を始める。店内はまだ電気が通っているので明るい。つまりある程度店の中を見渡すことが出来るため、ゾンビの有無を確認することが出来るのだ。
しかしこの方法は電気が通っている時のみ通用するため、物資の確保は最優先事項だと言える。
「どうやらゾンビはいないみてぇだな、こりゃツイてるぜ」
婦人服売り場で美乃梨が買い物カゴに服を詰め込んでいる間、俺たちは周囲の警戒をしていた。
「こっちは粗方完了したよ、次は下着売り場ね」
下着売り場へ移動すると、近くで服と服が重なる音が聞こえたため、二人へ俺が行くと目で合図を送る。
すぐに動けるように腰を屈めながら警戒を怠らない。
音のした方の服を一気にめくると、猫がこちらに向けて威嚇をしていた。
おそらく人の気配が少なくなったために、迷い込んでしまったのだろう。二人の元へ戻ろうとしたその時だった。
「うわっ!」
服が並んでいる横の陰からゾンビが飛び出してきたため、すぐにゾンビの口にバールを横にしてガードする。
真っ赤に充血したゾンビの目が俺に喰らいつこうとギョロギョロと動いていた。ここで声を上げてしまった場合、周りにいるゾンビも呼び寄せてしまう可能性があるため、一人でこの状況をなんとかするしかない!
俺はゾンビの体を蹴りで押し出しながら、ゾンビの横へ抜ける。そこでバランスを崩したゾンビの肘を極めて床へ押し倒す。
膝でゾンビの手首を固定しながら、バールを二、三発叩き込んでやった。
「いきなり出て来るのは卑怯だろ⋯⋯」
俺は冷や汗を拭い、二人の元へ戻っていった。
二人はすでに男性用の服も調達していたため、すぐにショップ内から脱出し、バンへ衣類を詰め込んでいった。
「聞いてくれよ、さっき猫がいたんだけど猫に気がとられてるうちにゾンビに横から襲われたんだ」
「そりゃお前が悪いわ、猫なんざ無視しときゃいいだろうに」
「えー! 私猫飼いたい! ちゃんとお世話するから!」
「うちにそんな余裕はありません」
俺たちはすぐにバンへ乗り込み、次の目的地のスーパーへ向かう。ふと周りのを見ればゾンビがいるのが嘘のように、静けさが街を包んでいた。
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美優視点
光たちが早朝に物資を集めに出かけている間、私たちはこれからやるべき事をリビングで話し合っていた。
「光くんたち行っちゃったね、ちゃんと戻ってくるかな⋯⋯」
「大丈夫、光たちはそんなに柔じゃない、それよりこれから何が出来るかを考えるべき」
「俺も先輩の言う通りだと思う、光たちが頑張っているのに俺たちが遊んでいるのはおかしいからね」
私と伊織と小野寺くんは朝食を頂いたテーブルで紙の上にメモを取りながら、やるべき事を整理している。
「わかった! 私に出来る事があったら何でも言ってね!」
「ん、まずは情報の確認から、テレビは今朝付けてみたけど繋がらなかった」
たぶんテレビ局はゾンビの手によって壊滅させられたのだと思う、テレビ局には人がたくさんいるから⋯⋯。
小野寺くんはテーブルの上にラジオを持ってきて、スイッチを入れる。
「ラジオを確認してみたけど、昨日の放送が固定されて流されているみたいだな⋯⋯」
「本当だね⋯⋯、 他のところは放送してないのかな?」
伊織がラジオをいろいろな周波数へ変えていくと、FMの周波数で何かの音声がラジオから聞こえてくる。
『ハロハロ干葉県民のみんな、今日も良い終末ライフを送っていこう! こんな天気が良い日には外でキャンプでもしてゆっくり過ごしたいよね! 何々、外はゾンビだらけで家から出られないだって? そんな時は二階のベランダにでも行って、道路を彷徨いているゾンビでも観察してみたらいい! 彼らが人を食べる事しか能の無い死に損ないだって事が理解できるはずさ!』
ラジオから聞こえてきたのは、明るい男性の声だった。
「美優ちゃん、この放送って⋯⋯」
「ん、恐らく個人が放送してるもの」
「放送してる場所はそこまで離れていないんじゃないか? 放送だと干葉県って言ってたし県内である事は間違いなさそうだ」
「電車とかを使えた今までの感覚なら近いと思う、でもゾンビが増えたこの干葉県でそれだけの距離を移動するのは簡単じゃない」
『今日の放送はこれくらいにしておこうかな! 僕はこの時間に鳴田空港の近くから放送してるから暇な人は是非遊びにきてくれよ! こっちも一人で放送してるのは寂しいからラジオに興味がある人は僕と一緒にトライしてみよう! それじゃあまた明日、ハローサバイバーズ!』
私はこれ以上ラジオ放送が無いことを確認して、ラジオのスイッチを切る。
「ラジオの人鳴田空港の近くにいるって言ってたよね⋯⋯」
「しかし空港方面には危険因子が多すぎて、近づくことは難しそうだな⋯⋯」
「とりあえずは気にしなくていいはず、それにこれは思わぬ僥倖だった」
「美優ちゃんどういうこと?」
「ラジオ局の情報が旧情報だとしたら、さっきの人のラジオは新情報、つまりラジオ局よりも生きた情報を伝えてくれる可能性が高い」
「俺たちがわざわざ空港へ向かわなくても、その地域の情報が手に入るってことか!」
「危険を侵さなくても情報が手に入る、つまり私たちの行動の判断材料が増えると言うことは、リスク要因が減ることに等しい」
「やったー! 私たちラッキーだね!」
「ん、伊織のお手柄」
「えへへー」
私は伊織の頭を撫でる。メモに周波数を書き込むと、二人にこれからすべき事を告げる。
「伊織は食品と飲料を消費する順番と期限、それらのリストを作っておいて欲しい。 なんだかんだ昨日は途中までしか出来てなかったから」
「わかった! あと時間があったら家の中のもので使えるものが無いか探してみる!」
伊織はとても意気込んで台所の方へ向かっていった。
「小野寺くんは私の手伝いをお願いする、着いてきて」
「ああ」
私は小野寺くんを連れて庭にある物置へと向う。
「私たちがするのはこの家の防御を固めること。 この家の塀は1.8メートルほどあって、ゾンビが外から中の様子を見ることは難しい」
「そうだな、ゾンビに侵入される可能性がある場所と言えば、道路側に面している門と住宅街側の裏門ぐらいだろう」
「ん、ゾンビに限ってはそうだと思う、でも人間にとってはそうじゃない。 外敵から身を守るのに門と裏門、堀の上の防御を固めないといけない」
そのためにこの物置にあるものを使って、今出来る限りの防御をする。 例えこの場所に永久に留まらないとしても。
「ならこれから物置漁りをしないといけないな、埃を被る準備は出来てるさ」
「ん、早速始める」
私たちは物置の中で工具一式に、ある程度の角材、釘、針金などを見つけた。
「まず道路側の門と裏門に取り掛かる、門に針金を巻いて固定、角材を使って地面との間につっかえを作る、とりあえずはこれで簡単に補強出来る」
まず二人掛かりで裏門を一時間ほどかけて補強する、私は針金を裏門へ巻きつけて固定し、その間に小野寺くんが角材を必要な形に加工していった。
裏門での作業が終わり、道路側の門の作業に取り掛かろうとした時だった。
「あなた達はこの家の方ですか?」
門の目の前に立っていた人物はスーツ姿に眼鏡をかけていた三十歳ほどの男性だった。
今回も読んでいただきありがとうございます!(^O^☆♪
次回、光たちの調達は無事終了出来るのか⋯⋯!?




