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金髪ヤンキーのお家

 「あー、もう暗くなってきましたねー」


 「そのうち電気が消えたら暗闇からゾンビが出てくるかも、こうやって伊織の後ろから⋯⋯」


 「ひっ! 美遊先輩脅かさないでください!」


 バンの後部座席には俺と美乃梨が座っており、美乃梨は外の景色を見ながらそんなことを呟いている。運転席と助手席には中山が小野寺に道案内をしていて、伊織と美遊先輩は手に入れた物資の整理をしてもらっている。


 「食料はどれくらい持ちそうなんですか?」


 俺は後部座席から美遊先輩へ質問する。


 「ん、コンビニで保存のきくものを選んで持ってきたけど、この人数だと一週間持つかどうかだと思う」


 「パンとか賞味期限の短いものは優先して食べた方が良いと思うよ」


 食料や衣類、生活必需品の類はコンビニから拝借してきたダンボールごとにきちんと整理されていた。


 「でも整理できるのもここまで、車の明かりを点けたら奴らが集まってくるかもしれない」


 「確かにそうですね⋯⋯、 おい中山、あとどれくらいで着くんだ?」


 散弾銃で肩を叩いていた中山が後ろを振り返る。


 「あ? もうすぐだっての、せっかちな野郎だぜ」


 「いやいや、暗くなって奴らの動きが把握出来ないってなったらせっかちにもなるわ」


 「現に時々物陰から奴らが飛び出してくることもあるからね、なるべく避けるようにはしているんだけど」


 小野寺の言うとおり、ゾンビと何体か鉢合わせになっているのも事実だ。それに夜に車のエンジンの音はとても響く、いくらゾンビの大部分が移動してしまったとは言え、周辺のゾンビか集まってきたら死の危険が高まってしまう。


 すると隣に座っている美乃梨が体を前に乗り出す。


 「私汗かいちゃったんでお風呂入りたいんですけど、お風呂って大丈夫なんですかー?」


 「うちはオール電化だから電気さえありゃ動くぜ、屋根にソーラーパネルも付けてっから大丈夫だろ」


 それは朗報だ、オール電化でもソーラーパネルがあれば電気が止まっても節約すれば大丈夫かもしれないし。


 「中山くんのお家ってオール電化なんだ! 私もオール電化で暮らしてみたいな〜」


 「まあ便利っちゃあ便利かもなぁ、灯油とかも買う必要ねぇし、お、そこを曲がったらもう家だぜ」


 小野寺は一回り大きな家の門の前に車を止める。


 「車庫に駐車した方がいいかな? それともここに停めるかい?」


 「うちの車庫はシャッターが付いてるし、車庫で良いんじゃねぇか?」


 家の前に車を停めるということは、家の中で誰かが暮らしていると宣言しているようなものだ。誰かが生活していると分かれば近隣の住民が接触してくるかもしれないし、侵入されるかもしれない。


 そのようなリスクを回避するためには、家の中にいるということをなるべく外へ知らせないようにするのが一番だ、もちろんゾンビにとっても。


 中山と俺は車から一度降りてから、車庫のシャッターを開けるが、車庫の中に車は入ってはいなかった。

 

 「おいお前これ⋯⋯」


 「んなこたぁ分かってんだよ、こんなゾンビだらけな世界で生き残る方が難しいってことはよ」

 

 俺は中山の気持ちを察してこれ以上追求しないことにする。するとシャッターを開ける音に引き寄せられたのか、ゾンビが数体こちらへ近づいてくる。


 俺は仲間へ近づかせないように、ゾンビの元へ駆けながらバールを振り下ろす。何回か頭部を打撃したところでゾンビは動かなくなっていた。


 「大丈夫か!?」


 「てめえら車ん中に入ってろ!」


 小野寺が車庫の中から声をかけるが、中山がそれを制止する。


 すると今まで動きが緩慢だった二体のゾンビが中山の方へ迫っていく。さすがに中山と言えども同時に二体を相手にするにはリスクが高すぎる。


 俺は急いで中山の方へ走る。


 「この腐肉どもが!」


 中山は最初に迫ってきたゾンビの膝へ前蹴りを繰り出し、膝を破壊した後に散弾銃をゾンビの顔面へ叩きつけた。


 俺は中山をフォローするために、もう一体の迫るゾンビの着ている服の後ろの首元を掴み、肘の関節技を極めて地面へと押し倒す。


 その隙に中山が、散弾銃で地面にひれ伏しているゾンビの頭部へ二発ほど叩き込んだ。俺はゾンビが周りにいないことを確認して、中山へ声をかける。


 「おい中山、今のは流石のお前でも危なかったんじゃね?」


 「馬鹿言ってんじゃねえよ、俺を殺すならゾンビ百体は連れてこねえとな」


 「お前それ人間やめてんだろ」


 俺は車庫の方へ向かって仲間たちの安全を確認する。


 「槙野大丈夫だったか!?」


 小野寺は車庫の中で木刀を携えていた、ただ車の中にいたのではゾンビに囲まれた時に身動きが取れないと判断したのだろう。


 「ああ、家の前にはゾンビはいないよ、他のみんなも無事か?」


 「中山と槙野のおかげで車庫の中にゾンビは入ってこなかったさ、それより早く家の中の安全を確認しないといけないな」


 「この車庫は家の庭に繋がってっから、ひとまずシャッターを降ろそうぜ」


 車庫の中へ入ってきた中山と一緒に車庫のシャッターを降ろす。このシャッターは中々頑丈そうに見えるのでゾンビに破られることは無いだろう。


 「光くんに中山くん! 怪我とかしてないよね?」


 「大丈夫そう」


 女子三人が車から降りてくる。


 「こんな立派な車庫は私の家には無いですねー、やっぱり中山さんってお金持ちなんですか?」


 「んなこたぁねぇよ、普通だ普通」


 俺はそんな仲間のやり取りを聴きながら、車庫の扉を開けて庭に誰かいないか確認する。


 「誰もいないみたいだねお兄ちゃん」


 俺が外を覗き込んでいると、いつの間にか横にいた美乃梨に話しかけられる。


 「ああ、でも家の中にゾンビか先客がいるかもしれない」


 俺はそっと扉を開けて、庭をぐるっと周ることにする。


 「庭の安全を確認してくるからお前ら待っとけよ」


 「光くん全員で行った方が良いんじゃない?」


 「ダメだよ伊織、全員だと身動きが取れにくいし」


 やはり探索は少人数の方がやりやすいし、なにより安全だ。

 

 「じゃあ私がお兄ちゃんに付いていこっかなー、ゾンビを倒す練習もしたいし」


 「探索が終わったら声をかけてくれや、一応鍵は渡しとくぜ」


 俺は中山から鍵を受け取る。


 「行ってくる」


 「ん、気をつけて」


 俺は美乃梨を連れて車庫の扉を開ける。


 「なあ美乃梨、わざわざ俺に付いてこなくても良かったんじゃないか? もしもの事があったらどうするだよ」


 「だってこのままお兄ちゃんたちに任せてたら私一人になった時困っちゃうじゃん」


 美乃梨は包丁を手首でくるくると回しながらこちらを見る。それに武器が刃物ではゾンビに対して有効性が低いのでは無いだろうか。


 「それに刃物で良かったのか? 人間の骨って硬いからすぐに刃こぼれするぞ」


 「別に脳に直接刺しこまなくても動きを止める方法なんていくらでもあるよ、首の神経とか腱を切るとか」


 確かに女子がゾンビの頭部を砕く事が出来るかと言われれば難しいのかもしれない。まあ美乃梨の言う事が出来るやつがどれだけいるかって話なんだけど⋯⋯


 中山の家の玄関の前には一体のゾンビが徘徊していた、中山家の庭はテニスが出来そうなほど広いので、奴らはこちらの動きが見えていないだろう。


 「行ってくるねお兄ちゃん、邪魔しちゃだめだよ?」


 「本当に危なくなったらすぐ助けるからな」


 「心配性だなー」


 俺は美乃梨の数メートル後ろに付いていく。


 ゾンビと美乃梨の距離が二メートルほどになった時、ゾンビが美乃梨の存在を確認したようだ。


 美乃梨は屈みながら手を伸ばしてくるゾンビの足を払い、倒れたところに馬乗りになりながら首の骨へ包丁を突き刺す。


 美乃梨が手首に力を込めて捻ると、ゾンビは動かなくなっていた。


 「まあ初陣はこんなものかなー」


 初めて包丁を刺したのが人相手っていうのもお兄ちゃんは複雑なんだが⋯⋯


 「戦う時は馬乗りにならない方が良いぞ、周囲への注意が疎かになるからな」


 「あ、確かに! やっぱりお兄ちゃんは戦い慣れてるって感じだねー」


 俺は倒れているゾンビを見て、あることに気がつく。


 「なあ、なんで庭にゾンビが一体しかいないんだろうな」


 「そんなのどっかから入ってきたに決まってんじゃん」


 入ってきたのは分かるのだが、ゾンビが誰もいない場所へ入るものなのだろうか、いや、それは無い。


 おそらくこいつは噛まれてからこの庭に侵入したが、家が開かなくて変異してしまったのだろう。


 つまり、生きている人間にとってこの家は魅力的なのだ。


 「じゃあみんなを呼びに行こうぜ、今日一日でいろいろな事があったし、疲れたよ」


 「うん、汗でベトベトだしお風呂に入りたい」


 俺はゾンビの持ち物を確認するためにポケットなどを探してみたが、財布と携帯くらいしか見つからなかった。やることの無くなった俺と美乃梨は仲間たちの待つ車庫へ戻る。


 「庭にはゾンビが一体いただけだった、家の窓を破られたりとかは無かったよ」


 「なら家ん中には誰もいねぇってこったな」


 扉を開けると仲間たちの安心した顔を見て、思わず気が緩んでしまう。


 「ん、なら早く移動した方がいい、もう空も暗くなってる」


 俺たちは車庫から出て空を見上げると、いつもと変わらない月が夜空に輝いていた。ゾンビが出ても、人が死んでもこの空は変わらないのだ。

 

 「なあみんな、家の中に入ったら明かりが漏れないようにした方が良いんじゃないか?」


 「ああ、中に入ったら窓の周りを布かなんかで覆って明かりが漏れないようにしよう」


 小野寺の言葉に全員が同意する。もし電気が通らなくなった時、この家だけ明かりが点いていたらゾンビなどにバレてしまうかもしれない。


 俺たちは玄関の前に倒れているゾンビを横目に作業を始めるのだった。

今回も読んでいただきありがとうございます!


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