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結婚式 Ⅷ

 


 普通ならば自然に祝福の拍手が起こるところだが、気恥ずかしいような気まずい雰囲気立ち込めて、あたりはシン…として沈黙が漂う。


 真琴もキスをする前以上に恥ずかしくなって、目を伏せて小さくなった。けれども、古庄はそんな周りの反応などお構いなく、真琴にニッコリと幸せに満ちた笑顔を向けてくれる。



「…そ、それでは」



 気を取りなおすように、司会の女の子の声が響いて、その場が仕切り直される。



「古庄先生と賀川先生には、皆様の前で固く結婚の約束を交わしていただきました」



 その女の子の高校生とは思えない落ち着いた声を聞いて、真琴も幾分冷静さを取り戻した。



「お二人のご結婚、確かにご承認いただけましたら、皆様方の祝福の拍手をお願い致したいと思います」



 朗らかなアナウンスに誘われるように、校長をはじめ石井や谷口、真琴に想いを寄せていた高原、戸部や2年部の学年主任、教師の仲間たちが意思を表明して大きくて明るい拍手を始める。

 それから男子と女子の生徒たち。古庄と真琴の家族たち。


 正門脇のしだれ桜を取り巻いて、前庭に集まっていた大勢の列席者たちが、その感動を表すように一心に絶え間ない拍手を贈った。


 大きな拍手に包まれながら、古庄と真琴とそれぞれに、その拍手を贈ってくれている人々の顔を一つ一つ確かめる。

 拍手から伝わってくる祝福を心に留めてから、お互いの気持ちを確認するかのように見つめ合って、安堵と喜びを分かち合った。



「…ずっと秘密にしなきゃ…って思ってたから、こんな……夢みたいです」


「うん…」



 真琴のつぶやきに、古庄も相づちを打った。そして真琴の耳元に口を寄せる。



「君も、夢の中のお姫様みたいに、綺麗だよ…!」



 その言葉に、真琴が顔を赤らめて肩をすくめる間も、



「お二人の末永いお幸せを祈りまして、これで古庄先生、賀川先生の人前結婚式は、閉式とさせていただきます」



 と、司会の女の子の声が式場に響き渡っている。



「こんなに幸せな結婚式…、目が覚めたら本当に夢だった…ってなるかもしれません」



 そう言って真琴が少し笑うと、古庄は満面の笑みでそれに応えた。



「たとえ夢でも、俺は構わないよ。毎日目が覚めた時に君が横にいれば、それだけで俺は、今日と同じくらい幸せだから…」



 相変わらずの古庄の言い方に、真琴もいつものようにはにかんで、同意の笑みを返す。


 その時、真琴のお腹の中で二人の間の小さな命が、グルンと大きな〝寝返り〟を打った。この命が産まれ出る時には、もっと大きな喜びに包まれるだろう。



 …そして、その後も…!


 二人で一緒に生きていけるだけで、未来はただ明るく輝いている。



「どうぞ皆様方そのまま、大きな祝福の拍手にて、 お二人をお送りいただきたいと思います。新郎新婦のご退場です!」



 朗らかで力強い気持ちのこもったアナウンスに促されて、いっそう大きな拍手が辺りを包み込んだ。



 真琴はこの拍手を耳に留め、光に満ちて澄んだ春の空気を胸いっぱいに吸い込んで空を仰ぐ。



「桜が……すごく綺麗……」



「うん…、俺らが出逢った、あの日と同じだな……」



 真琴のつぶやきに古庄も、自分たちを取り囲むように、しだれて咲き誇っている無数の花々を見渡した。



「おめでとうー!」



「先生たち、おめでとう!!」



 レッドカーペットの両脇では、お祝いの言葉を口々に言いながら、フラワーシャワーの準備をしている生徒たちが待ち構えている。



 古庄は真琴にしか向けない優しい微笑みを湛えて、手を差し出した。




「さあ、行こうか…!」




 物怖じせずまっすぐな瞳で、真琴も古庄に微笑み返す。



 そして、桜の花びらと明るい光が降り注ぐ中へと、二人は手を携えて歩き始めた。














        ―― 完 ――


   「恋はしょうがない。~幸せな結婚式~」






 ※ この後の古庄と真琴の〝新生活〟のお話「恋はしょうがない。~After Story~」を、他サイトにて更新中です。(ただし、そのサイトのファン限定にての公開となっております。どうぞご了承くださいませ。)



 ※ この作品に登場する佳音を主人公としたスピンオフ作品が「恋は死なない。」になります。9年後の古庄夫妻が登場し、重要な役目を果たしてくれています!この二人がどんな家庭を築いているのか……どうぞ併せて、読んでみてください!


 ※ 古庄や真琴の同僚石井先生を主人公にした「毎日、休日。」も、ぜひあわせてお楽しみください。こちらでは古庄が登場しています!



 ※ この後の「あとがき」も、是非お読みください!!



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