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結婚式 Ⅶ

 


「それでは、お二人の愛の象徴となりますリングを、生徒を代表して古庄先生のクラスの森園佳音さんに、お渡しいただきます」



 再び放送部の子の端正な声が響き渡ると、佳音がレッドカーペッドの上を慎重に歩き、二人の前に歩み寄る。



「こちらのリングは、桜野丘高校の職員一同様から、お二人の結婚を祝しての贈り物となります。また、リングピローは、森園さんがウェディングドレスと同じ生地で手作りしてくれたものです」



 司会の女の子が言った通り、佳音の掲げられた両手のひらの上には、リングピローが載せられている。


 目の前に立った佳音のその緊張した面持ちを、古庄と真琴はじっと見つめた。



 古庄に恋焦がれて、散々自分たちを悩ませた佳音が、こうやって祝福してくれている……。

 それは二人にとって信じられない光景でもあり、とても嬉しいことでもあった。



 佳音は自分を見つめる古庄が涙目になっているのを見て、少し恥ずかしそうに笑いをもらした。

 そして、リングピローを古庄へと差し出す。



「まずは、古庄先生から賀川先生へとお渡しいただきます」



 真琴がゆっくりとグローブを抜き取り、古庄はリングピローのサテンのリボンを解いてキラリと光るリングを手にする。それは以前、女子会の時に真琴が指し示した写真のリングだった。



 古庄は一歩真琴へと歩み寄ると、その左手を取り、さっきまで婚約指輪があった薬指へとリングを嵌める。


 その一連の古庄の動きに、一同はため息をもらした。こうやって晴れの舞台に立つ古庄は、相変わらず完璧な容姿と立ち居振る舞いで、何をしても皆の目をうっとりとさせる。



「続いて、賀川先生から古庄先生へとお渡しいただきます」



 そう指示をされた真琴は、古庄と同じように佳音から同じ形のリングを受け取り、古庄の指に嵌めた。


 これで、古庄は正真正銘の〝既婚者〟となり、これから出会う女性たちは、この結婚指輪を見てガッカリすることになる…。



「リングガールをお務め下さった森園佳音さん、ありがとうございました。……さて……」



 と、それまで軽快に司会を続けていた女の子が、少し含みを持たせるように間を置いた。



 次は何があるのかと、古庄と真琴もその放送部員の方へと目をやる。観衆たちも「何?何?」と、ざわめき始めたところで、先が続けられた。



「それではここで、賀川先生のヴェールをお上げいただき、 永久の愛を込めて、誓いのキスを交わしていただきましょう!」



 おおおお―――――――っっ!!



 観衆から思わず声が上がる。

 好奇な視線が皆から注がれ、古庄と真琴は赤くなって固まってしまった。



「……生徒の前で、そんなこと……」



 特に真面目で奥手な真琴は、皆の目の前でキスすることを思い描いただけで、赤くなった顔を青くさせ、縮み上がって首を横に振った。


 けれども観衆の目は、もう既にキスへの期待に輝いている。特に悪ノリしがちな男子生徒は、異様なほどの盛り上がりだ。



「神聖な儀式だから、そんな風に意識することはない」



 近くにいた校長が、そう言ってなだめてくれる。



「そうよ。ちょっと唇がくっつけばいいんだから」



 石井からもそう声をかけられて、真琴は古庄と視線を交わした。

 何よりも頑強にそれを固辞してしまうと、生徒のみんなが作り上げてくれたこの場をシラケさせてしまうだろう…。


 意を決するように、古庄は真琴に向き直って優しく笑いかけると、ヴェールに手をかけた。真琴も古庄にリードされて、お辞儀をするように腰をかがめてそれに応える。


 心臓がドキドキして口から飛び出してきそうなのに加え、皆からの視線に耐えかねて、真琴は棒立ちになって目を閉じた。

 水を打ったような静寂の中、古庄が近づいてくる気配を感じ、両腕に手が添えられる。


 …そして、唇に温かく柔らかいものが触れた。


 その瞬間、真琴の激しい動悸の中に、トクン…と別の感覚が脈打つ。


 同時に、その光景を見つめていた佳音の理子の平沢の……その他古庄に憧れ密かに恋していた多くの女子たちの、心が一斉に切なくキュッと絞られた。



 この「儀式」は一瞬で終わるはずだったのに、古庄はなかなかそれから動こうとしない。



「…………!?」



 真琴は唇を重ねられたまま、パチッと目を開いた。体を硬くして身をよじらせても、古庄は真琴を拘束してキスをやめてくれない。



「………ふ、古庄ちゃん……」


「……な、長ぇよ……」



 そんなふうに、男子生徒たちがざわめき始めても、古庄は先ほど聞いた真琴の告白がまだ心に響いていて、キスすることに熱中し我を忘れている。


 見るに耐えかねた校長が、顔を赤らめて口に握った手を当てた。



「……ウォッホン!!」



 校長の咳払いが聞こえた途端、ハブロフの犬の古庄は我に返り、弾かれるように唇を離した。





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