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結婚式 Ⅴ

 



 一方の真琴は、転ばないように有紀たちに手を引かれながら、正面玄関までやって来た。


 そこで待っていた父親は、娘の可憐で晴れやかな姿を一目見て、目を丸くし息を呑んだ。

 父親と花嫁、お互い照れたように視線を交わすと、腕を組み居ずまいを整える。



「それでは、いよいよ新婦の入場です」



 司会の女の子の声が響き渡り、皆の視線は正面玄関へと向く。



 正面玄関のドアが開かれ、一身に視線を集める真琴の瞳が捉えたもの――。



 それは、自分を見つめてくれている群衆ではなく、絢爛に咲き誇るしだれ桜だった。

 そして、その花の下から自分に優しい眼差しを注いでくれている古庄の姿…。


 その、双方が織りなすあまりの美しさに、真琴の息が止まった。



 それはまるで、古庄に出逢ったあの日、ラグビージャージを着てこの桜の下に佇んでいた古庄が、そのままそこで待ってくれているようだった。


 古庄が振り向こうとしていたあの時は、まさに今この瞬間に繋がっていたのだと、思わずにはいられなかった。 (※)


 真琴は父親と共に、雨のように枝を落とすしだれ桜の花の下へ足を踏み出した。

 皆が目にしたのは、純白のウェディングドレスを身にまとい、ヴェールを被った真琴の姿。


 真琴の父親にエスコートされ、春の暖かくまぶしい陽射しの下に出てきた真琴の美しさに、言葉にならない感嘆の声が上がった。


 吹奏楽部による厳かな演奏の中、一歩一歩レッドカーペットを踏みしめて、古庄のもとへと歩いて行く。

 淡いピンクのしだれ桜の花々とその香りに包まれて、一歩一歩自分に近づいてくる真琴を、古庄は食い入るようにじっと見つめ続けた。



 その光景に心が震え、古庄が我を忘れ、まるで吸い寄せられるように立っていたステージを降りた時、真琴はレッドカーペットの中ほどで立ち止まった。



 祝福の眼差しと拍手。

 優しい同僚と生徒たちの心に、真琴の胸は詰まって、涙が我慢しきれず溢れて来る。

 体が震えて視界も利かなくなり、ブーケに埋めた顔を上げられなくなってしまった。


 真琴の心情が、響きあうように古庄の胸にも伝わってきて、古庄が思わず真琴に駆け寄ろうとした時、列席する皆の中から一人の男の子が飛び出してきた。



「お姉ちゃん…!!お姉ちゃん!!」



 そう言うや否や、胸元にブーケがあることなんてお構いなしに、正志は真琴に抱きついた。

 突然のことに驚いたのは、真琴だけでなく観衆も同じで、吹奏楽部も思わず演奏を潰えさせてしまった。



「わっ!あの子、賀川先生の弟?」


「カワイイ~~!」



 一瞬の静寂の中、事の成り行きを見守っている生徒たちの中から、声が上がる。

 突然の正志の登場に、真琴は我に返り涙を拭った。



「…お姉ちゃん!…僕、…僕。今までお祝いを言ってなかったけど、今日は本当におめでとう!」


「…た、正志ちゃん…」



 間近にある正志の顔を見つめ返すと、その頬はもう既に真琴と同じように涙で濡れていた。



「さあ、正志。もう元の場所に戻りなさい」



 観衆から注目されながら、横にいた父親からもそう諭されて、正志はしゅんとしてうつむいた。

 そんな正志を可哀想に感じた真琴は、ブーケを持った方の腕を正志の腕に絡ませた。



「じゃ、残りは、正志ちゃんも一緒に…」



 真琴がそう言って微笑むと、正志もニッコリと満面の笑みで応える。


 それから、異例の3人でヴァージンロードを歩き始め、吹奏楽部も再び演奏を始めた。3人はいっそうの拍手に包まれながら、古庄のいる場所まで辿り着いた。


 近くで改めて見る真琴の花嫁姿に、古庄からその言葉が口を衝いて出てくる。



「…真琴。ああ、…すごく綺麗だ…!」



 こんな風にお化粧をして着飾った自分を見せるのは初めてなので、真琴は少し恥ずかしそうに、ヴェールの中から涙の残る目で古庄を見つめ返した。


 父親と正志が真琴の手を離れると、真琴は古庄に手を取られてステージの上に上がり、皆の方へ向き直る。真正面から皆の視線を受けて、新郎新婦はいささか緊張した面持ちで居ずまいを正した。



「それでは、これからお二人に、結婚の誓いを立てて頂きたいと思います。立会人代表の校長先生、よろしくお願いいたします」



 司会の女の子のアナウンスがあり、そこに礼服に身を包んだ校長が現れると、古庄はギョッとして息を呑んだ。さしずめ校長は、教会式の神父の役らしい。


 この校長がどんな言動に出てくるのか、ちょっと心配になってくる。

 そんな神妙な表情の古庄と素直な視線をくれている真琴に向き直って、校長はニッコリと二人へ笑いかけた。



「古庄くん!」


「…は、はいっ!!」



 校長から大声で名前を呼ばれると、高校時代からの癖で、古庄はパブロフの犬みたいについつい大声で返事をしてしまう。そんな反応に、クスクスと同僚たちから笑いが起こった。








(※) 電子書籍「恋はしょうがない。~職員室であなたと~」または、他サイト掲載の「恋はしょうがない。」に、この場面があります。

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