第8話「再会」
ギリギリ投稿!
彩が4位に呆然自失(泣
「どこの田舎から出てきたか知らねえが、この『銀の牙』を知らねえのか?」
おいこらハゲ、田舎はここだ、ここ。
「残念ながら聞いたことはないね。聞いたところで覚える気もないけど」
「なんだとコラァ?!」
ルーサー、バカを挑発するな。
強いしイケメンなんだから、こんな小物ほっとけよ。
「よほど自信があるみたいだな。俺は銀の牙のリーダーだ。『魔眼のトモキア』と言えばこのあたりで知らねえ奴はいない」
「魔眼のトモキア」……ちゅ、中二だ。
自分で知らない奴はいないとか、むしろカッコ悪いぞ。
「愚かで非力な人間に興味はないな」
「口のきき方を教えてやる必要があるな。俺と勝負しろ、若造」
「そうだトモキア、痛い目見せてやれ!」
「若造? 僕は君たちよりはよほど長く生きていると思うんだが」
まあそりゃそうだろうね。
なんせ魔王の息子だ。
何歳なのか怖くて聞く気にもならない。
「いいだろう。僕の名はルーサー、望みとあらばお相手しようか」
「いい度胸だ。観客がいなきゃつまらねえ。明日の昼の鐘が鳴る時刻、この町の剣闘場で勝負だ」
やめとけって!
勝負なんてやる前から見えすぎて困る。
「いいさ、受けて立とう。それまで残りわずかな人生を堪能するがいい」
ルーサーはニヒルに微笑むと、酒場を出て行った。
しかし相変らずのイケメンぶりだな。
店の女の子たちがみんな仕事もせずボーっとしてる。
やめとけ、ありゃ魔王の息子、正真正銘の魔物だぞ。
「なんだったんだあの若造、ムカつくよな!」
「いい度胸じゃねえか。可愛がってやりゃあ考えも変わるさ。腕が立つなら仲間に入れてやってもいい」
「俺もああいう鼻っ柱の強い奴は俺も嫌いじゃねえ」
「俺は反対だぞ! あんな憎ったらしい顔をした奴は好かん! 仲間にするならサトルみたいな可愛げのある奴の方がいい。なあ、サトル?」
うんハゲ君、それは完全にもてない男の嫉妬だね。
それにしても……どうしよう。
勝負すればこいつらが瞬殺されるのは確実だ。
俺が代われば勝てるけど確実にバレるし。
うーん……。
「ご馳走になりました。ちょっと先に帰ります。明日の勝負楽しみにしてます」
「おうそうか、じゃあまた明日な。遅れるなよ!」
とりあえず俺は店を出た。
深く息を吸いこみ、静かに気配を探る。
……微かに魔物の気配を感じた。
うまく隠してはいるが、間違いない。
ロックを連れて後を追いかける。
いたぞ、ルーサーに追いついた。
町はずれの暗闇の中を歩いている。
真っ暗だから見にくいが、俺には見える。
なんせ勇者は視力も強化されているからな。
でも一体どうすりゃいいんだろう。
えーい、とりあえず行き当たりばったり作戦!
「あのぉ」
「君は確かさっきの……」
ルーサーは後ろを振り向いて俺を見て怪訝そうな顔をした。
「ええ、あの席にいました」
「そうだったね。で、何か用かな?」
「明日の決闘の事なんですが――棄権して頂けないでしょうか」
「どういうことかな?」
「いやー、戦わなくても勝負は見えているかな、と思って」
「それは僕が負けるということかい?」
ルーサーはちょっとムッとした。
「いえ、逆です。彼らではあなたの相手にはならないでしょう」
「ほう、なぜそう思ったんだい?」
「いや、勘というかなんというか」
「……君はどこか妙だな」
ルーサーが改めて俺の顔をジロジロ見てくる。
だ、大丈夫、バレないはずだ。
まさかこの顔でバレる訳がない。
「な、ナニガですか?」
やべえ、声が裏返った。
「さっきの男たちといい、人間は気を発しているものだ。大抵は悲しいほど弱々しいものだがね。だが君は――」
ルーサーは顔をぐっと近づけてきた。
思わずのけ反る。
やめろ、キスされるかと思ったじゃないか。
「――全くなんの気も感じなかった。近づいた今でさえ感じない。最初は弱すぎて感じないのかと思ったが、そうでもないのか」
ルーサーは俺を頭の先からつま先まで見回す。
「しかも君はあの男たちが僕に敵わないだろうと思った。それも勘で?」
「いや、まあ、あはは」
「……ひょっとして、君は僕が誰なのか知っているのかい?」
やべえええええ。
こいつ、顔だけじゃなくて頭もいい。
こりゃあ当然モテる……とかじゃなくて、マズ過ぎる。
何とか誤魔化さないと!
「な、何の事だか全然わからないんですが?」
「とぼける気かい? ここで正体を暴いてやってもいいんだが――」
ルーサーの身体から殺気と魔力が滲み出る。
ダメだ、反応するな、俺。
別に襲われても殺されるわけじゃない。
「しょ、正体とか言われても訳わかんないですよ」
「ふん、この殺気に反応しないか。まあいいだろう、僕も派手なことはしたくない」
スッと殺気と魔力が引っ込んだ。
「君の提案は検討することにしよう。正直、彼らの事はどうでもいい」
助かったか、そう思ったのもつかの間。
「それよりも君だ。君はとても興味深い。君のような人間は初めて見た」
そう言うとルーサーはニヤリと笑った。
「とりあえず君を観察することにしよう。その間に検討して答えを出す」
「ひょっ?」
変な声が出た。
観察する、ってどういうこと?
「さあ、どこへでも行きたまえ。僕は君に付いて行くから」
俺が歩く後ろをルーサーがついてくる。
後ろが気になって仕方ない。
こいつ、本気で俺について回る気らしい。
「今晩はどこで寝る気だい? 僕の事なら心配無用、どこでも平気だからね」
お坊ちゃんの癖に寝るところにこだわりはないようだ。
まあこれでも魔物だからな、イケメンだけど。
ひょっとして教会とか嫌がらないかな、と思ってちょっと寄ってみた。
でも平気な顔で後について入ってきたから諦めた。
ドラキュラじゃないもんな。
こんなのを連れて町中にいるのはまずい。
万が一、銀の牙の連中に見られるとうるさそうだし。
特にあのハゲレスラーなんてどれだけ騒ぐか。
そうなりゃあいつらの命を救うのは難しいだろう。
となると町の中で宿屋に泊るわけにもいかず。
でも収納魔法の中のキャンプ用品を取り出すわけにもいかない。
そんなの使ってるところ見られたら一発でアウトだ。
とりあえずルーサーを連れて町を出る。
野宿も考えたが、ルーサーは良くても俺が嫌だ。
元が都会っ子だからね、虫がいる外で野宿とか無理。
テントが無きゃ絶対お断りだ。
ということは選択肢は一つしかない。
トーリと姉のミオンの家。
あの子たちならきっと断らないだろう。
こんな奴(魔王の息子)を連れて行くのは気が引けるけど。
「どこへ行く気だい?」
ルーサーの言葉は無視してトーリたちの家を目指した。
ロックに乗って走ってしまえば速いんだけど。
そうすればルーサーは追いついてくるだろう。
超高速で走るのか、空を飛んでくるのか。
どっちにしろ目立って仕方がない。
目立ちたくないから俺もロックの手綱を曳いて歩く。
町を出てしばらく歩いた。
だんだんトーリたちの家が近づいてくる。
どうせ泊まるんなら今晩もミオンのシチューが食べたかったな。
あのハゲが無理やり誘うからこんなことに。
でもまあそうじゃなきゃあいつらは死んでたな。
そんなことを考えながら歩いていた。
後ろからル―サーもついてくる。
そんな時、ふと妙な臭いに気が付いた。
血の臭い、それにこれは……魔物か?
風に乗ってトーリたちの小屋の方から流れてくる。
「ちょっと急ぐぞ!」
「何かありましたか? ……ん、これは?」
ルーサーも気が付いたようだ。
俺はロックにまたがり拍車をかける。
ルーサーは全速力のロックに並んで走ってついてきた。
明日はちょっと微妙です、