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第7話「騒動」

急ぎ投稿します

「兄ちゃんがにせ金なんか使うわけないだろっ!」


「ああ、どうしましょう……」


 トーリが叫び、ミオンはうろたえ、俺は逃げるかどうか悩んでいた時。


「おい親父、どうかしたか?」


 馬に乗った冒険者らしい3人の兄ちゃん達が声を掛けてきた。

 それを見た露天商のオヤジが頭を下げる。


「ああ『銀の牙シルバーファング』のみなさん。実はこの男が贋金を使おうとしまして」


 田舎者の癖に「シルバーファング」なんてしゃれた名前付けるじゃないか。

 オヤジがペコペコするってことはそれなりに名の通ったパーティーなのか?




「ちょっと見せてみろ」


 一番図体のデカい、ツルピカ頭の男が金貨を手に取った。

 おまえ見た目も厳ついし、プロレスラーになれるんじゃねえ?

 

「こりゃ贋金だな。こんな金貨見たことねえ」


「やっぱり! どうしましょう。お役人に引き渡しますか?」


 コラそこのハゲ馬鹿レスラー、適当なこと言うんじゃねえ。

 贋金作るのに、わざわざ誰も見たことない柄で作る馬鹿がいるか、バカ。


「へえ、ちょっと見せてみろよ」


 横から別の男が金貨を受け取った。

 こいつは見るからに怪しげで、きっと職業クラス盗賊シーフに違いない。


「偽物には見えねえけどなあ」


 さすがはシーフ、見る目があるじゃないか。


「アニキ、これどう思う?」


 シーフがもう一人の男に金貨を投げて渡した。

 アニキと呼ばれた男は片目に眼帯をしているが、なかなかいい男だ。

 勇者だった頃の俺には全然かなわないけどな。

 まあ今はともかく。




「こいつは……」


 眼帯のアニキは金貨を眺めると、目を細くして見つめた。


「おいお前、これをどこで手に入れた?」


「あの、かなり遠くの西方を旅している時に」


「そうか。やっぱりな」


 そう言うと眼帯のアニキは露天商のおやじに金貨を返した。


「これは本物だ」


「え? でもこんな金貨は」


「遥か西の方で使われている金貨だ。質も高い。安心して売ってやれ。俺が保証する」


「そ、それでしたらもちろん。兄ちゃん、疑って悪かったな。これはお詫びだ」


 露天商のオヤジは俺に謝り、オマケにもう一袋くれた。

 釣り銭もちゃんとくれたから、しばらくはこれで大丈夫。


「やったー! 良かったね、兄ちゃん!」


「疑いが晴れて本当に良かったです。ビックリしました」


 トーリは大きい袋を2個も抱えて大満足だ。

 喜んでくれてよかった。

 ミオンはちょっと涙目になってる。

 ふう、しかし危ないところだった。





「おいお前、さっきは疑って悪かったな!」


 ハゲのレスラーが背中をデカい手で叩いてくる。

 お前、力の加減知らんのか。


「あ、いいえ、大丈夫です」


「見た感じ金持ちそうには見えないのに、金貨とは豪勢だな」


 シーフが感心した様子で言ってくる。

 まあ体に合わない大きさの服着てると、金持ちには見えないわな。

 素材はいいもの使ってるんだけどね。


「お前、サトルって言うのか? よし、今晩は俺達が飯をおごってやる。来い!」


 おいハゲ、いいからほっとけ。

 俺は今晩もミオンの美味しい手造りシチューをだなあ――。





「わはは、どうだサトル、美味いだろう! ここはこの町で一番の酒場だぞ!」


 隣の酔っぱらったハゲがバンバン俺の背中を叩いてくる。

 俺の前にはシーフと独眼竜。

 はあ、どうしてこうなった。


「世界を旅してるとはスゲエなあ。それほど腕が立つようには見えねえが」


 結局誘いを断り切れず、こいつらと飯を食べている。

 町で一番の店というだけあって人気らしく、店の中はかなり混んでいる。

 トーリとミオンとはあの場でさようなら。

 ああミオンのシチュー、もう一回食べたかったなあ。


「まあそれなりになんとかやってます」


 本当は勇者でめちゃめちゃ強いけどな。

 でもそれをばらすわけにはいかない所が辛い。



 アニキと呼ばれている独眼竜は、トモキアという剣士だ。

 銀の牙のリーダーで、かなりの使い手だという。


 ハゲでデカい筋肉男はカーン。

 こう見えて魔法使いなんだと。

 どう見てもレスラーだぞ、キャラに似合わなすぎる。


 怪しげなのはラック、こっちは見た目通りのシーフだ。


 この銀の牙というパーティーはムリオの町で一番腕が立つらしい。

 田舎だからたかが知れてるだろうけどな。

 



「サトル、金貨を持ってたってことは西から来たんだろ? だったら魔王と勇者のこと知ってるよな?」


 シーフのラックが聞いてきた。

 げげっ。

 ここでも勇者オレのことは知られてるのか。



「――ええ、ちょっとは聞いたことがあります。うわさ程度ですが」


「俺が聞いた話じゃあ、勇者がかなり魔王軍を押してるということなんだが」


 トモキアが言う。


「えーっと、そう……なのかもしれないですね」


 やっぱり情報にタイムラグがあるな。

 実際にはもう魔王は居なくなってるんだけど。

 ついでに勇者も。


「なんだよ、詳しい話が聞けると思ったのによぉ」


 ハゲレスラー、そんなガッカリした顔すんな。

 知ってるけど言えるわけないだろうが。


「でもなんでそんな話に興味が?」


「そりゃ俺たちも出来れば勇者の軍に入って活躍したかった、ってことよ!」


 だから、そんな力入れて俺をバンバン叩くな。

 それと、もうちょっと静かに話してくれると嬉しいんだけど。

 誰が聞いてるか分からないから。




「ああそうだな、俺達ならすぐ出世できるだろうぜ」


「それどころかアニキなら勇者の代わりに魔王をやっちまっても不思議はねえ!」


「おいおいカーン、それは言い過ぎだ。だが実際俺もどこまでやれるか、興味はあるな」


 えーっと君たち、現実はそんなに甘くはないと思うよ。

 勇者である俺はともかく、生身の人間がかなう相手じゃない。


「東京なんて俺たちが一発でシメてやるぜ」みたいな田舎のヤンキーと全く一緒だわ。

 でも頼むからもうちょっと小さい声で話そう。

 ほんと誰が聞いてるか分からないから、ね。





「あはは、勇者の代わりに魔王を? なんと愚かな」


 左手から声が聞こえた。

 ハゲ越しにそちらに目を向けると、どうやらカウンターに座っている男のようだ。


「愚かだぁ? 今笑ったのはテメエかっ!」


 ハゲレスラーが席を蹴って立ち上がり、男の肩を掴んだ。

 こらこら、沸点低すぎるぞ。

 他人さまに迷惑かけちゃダメでしょ!

 

「愚かな者に愚かだと言って何が悪い」


 男はさらに言い放つ。

 背中向けているから顔は分からないが、華奢で背の高そうな男だ。

 あんたも挑発するようなこと言わないで。




「何が気に入らねえのか知らねえが、口のきき方は気を付けた方がいいぜえ」


 盗賊のラックが立ち上がり、目を細めて言う。

 やばい、こりゃひと騒動あるぞ。

 俺は目立ちたくないんだって。


「おいこら、立てよ! この若造が!」


 ハゲのカーンが男の胸ぐらをつかんで立たせた。

 男の顔がこちらを向いたその瞬間、俺は思わず顔をそむけた。





 ――ルーサーじゃねええかあああああ!!

 

 やばいやばいやばいやばい。 

 あの顔、あの声、あの話し方、間違いない。

 あいつは「魔王の息子ルーサー」だ。

 でも魔王の息子がなんでこんなところにいるんだよっ?!


 姿かたちを変えて逃げてきた、って言うか飛ばされてきたのに。

 その逃亡先で魔王の息子に会うなんて、どんな偶然だ?

 俺が勇者だとコイツにバレたら大変なことになる。


「お前、この『銀の牙』に喧嘩を売ろうというのか?いい度胸だ」


 こらこらこら。

 独眼竜、やめておきなさい。

 その人はね、いや「人」じゃないか、君たちが敵うような相手じゃないんだから。

 

「君は面白いことを言うね。僕はただ君たちが愚かなことを話していたからそう言ったまでだよ」


「だから、何が愚かだ、って言ってるんだ」


「決まっている。君たち如きが魔王に立ち向かえるなど、愚かな妄想以外のなにものでもない」


 うんうん、それには俺も完全に同意するよ。

 で、俺は今のうちにこっそり逃げていいかな?

明日も投稿出来る予定ですが、総選挙の影響で無理かもしれません

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