第4話「光の女神」
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魔王は死んだ。
それと共に上空を覆っていた黒雲が晴れたのだろう、窓から日の光が差し込んできた。
魔王の亡骸は日の光に当たるとサラサラと崩れ、塵のようになり、消えた。
俺に後を継げと言い残して。
どうするか。
間もなく将軍たちがやって来るだろう。
俺はどういう態度を取ればいいのか。
国に戻り、国王や姫になんと言えばいいというのか。
決められない、決められる訳がない。
俺はあの人たちが嫌いじゃない、だけど利用されるのはごめんだ。
人を相手に戦うのも、殺すのももっと嫌だ。
でも魔王が言った事はきっと事実になるだろう。
思い悩んでいると、割れた光の宝珠の破片がキラキラと光り出した。
その光が一か所に集まる。
驚きながら見ていると、そこに一人の女性の姿が現れた。
黄色い光のかたまりが長い髪の女性の形をして宙に浮いている。
現実のような、幻のような、そうまるでホログラムの様な感じで。
そしてまた、頭の中に声が響いた。
今度は女性の声だ。
『勇者よ。よくぞ珠を壊し、私を開放してくれました――』
「あなたは?」
『私は光の女神、アウラ。遥か昔に邪神によってこの珠に捕らわれたのです』
魔王じゃなくて邪神に捕らわれていたのか?
良く分からないな。
『そうです。魔王とは邪神がこの珠を維持し、この世界に混乱をもたらす為に作った駒に過ぎません』
考えを読まれた?
『あなたの考えてることは分かります。私を解放してくれた礼として、願いを一つかなえましょう。さあ勇者よ、あなたの願いを言いなさい』
おおおお!キター!!
そうか、こういう展開かよっ!
せっかく魔王を倒したのに、なんかおかしいと思ってたんだよ!
俺の願いは「元の世界に帰って元の生活をする」これしかない。
今の力がなくなるのはちょっと残念だが、まあそれは仕方ない。
女神さん、よろしくたのむぜ!
『――残念ですが、それは私にはできません』
女神は悲しげに首を左右に振った。
なんでだよ、なんで出来ないんだよ、あんた女神だろうが!
呼び出す事は出来てなんで帰すことが出来ないんだ?
おかしいだろうが!
『あなたを呼び出したのは我が妹である時の女神、ルセルです。あなたがどこから来たのか、どうやって帰せばいいのかはルセルしか知りません』
じゃあ、じゃあ俺をそのルセルさんのところに連れてってくれよ。
妹さんに俺を帰すように頼んでくれよ!
すると女神はまた首を左右に振った。
『それも出来ないのです。何故なら妹は「時間の宝珠」の中に閉じ込められているのですから』
よ、よし、オッケーだ。
だったらその「時間の宝珠」も俺がぶっ壊してやるよ。
それで時の女神を救い出して、俺を元の世界に帰してもらう。
それで万事うまく行く、ハッピーエンドだ。
そうたいした手間じゃない。
『――それは出来ません。「時間の宝珠」を壊せば、あなたは死んでしまいます』
どういうこと?
なんでそんなことで俺が死ぬんだよ!
俺はチートで無敵で不死身の勇者なんだぞ!
『魔王が「光の宝珠」によって生かされていたように、勇者であるあなたも「時間の宝珠」によって生かされているのです。ですから「光の宝珠」を壊して魔王が死んだように「時間の宝珠」を壊せばあなたも――』
おいおいおいおい!
そんなの理不尽だろうがっ!
時の女神しか俺を元の世界に帰せない。
時の女神は時間の宝珠の中に捕らわれてる。
時の女神を開放するには時間の宝珠を壊すしかない。
時間の宝珠を壊すと俺が死んでしまう。
これって解けないパズルじゃねえの?
馬鹿なの?
『残念ですがその通りです。ですから他の望みを言いなさい。さらなる力であるとか、富であるとか――』
さらなる力や富?
そんなんいらねえって!
元の世界に帰してくれよ、頼むよぉ!
『ですからそれは無理なのです。ああ、誰かやって来ます。他の人間にわたしの存在を知られる訳にはいきません。さあ、早く――』
言われてみるとなんだか扉の外が騒がしい。
やばい、将軍たちに違いない。
連れ帰られたら俺の人生、お先真っ暗だ。
でも俺、いったいどうすればいいんだ?
『他に望みはないのですか? では残念ですが私はここで――』
「待て、待ってくれ! ある。願いならある。俺を、俺を遠いところへ、誰にも俺が勇者だと分からないように!!」
『分かりました。その願い、聞き入れましょう――』
女神の形をしていた光が俺の体を包み、そして――俺は気を失った。
「勇者殿、ここにおいでか!」
ザイル将軍が兵士たちを伴い、扉を開けて部屋に飛び込んできた。
「な――?!」
将軍たちが見たのは、光に包まれた勇者だった。
そして勇者は次の瞬間忽然と消えてしまう。
「しょ、将軍、今のは一体?」
「勇者が……探せ! 勇者殿をお探しせよ!」
「ははっ!」
「――して、勇者はそのまま消えてしまったと申すのか?」
「御意にございます。城内くまなく探したのですが、どこにもおりませんでした」
玉座に座るラーセル国王の前にザイル将軍が跪いていた。
王は顔に苦悩の色を浮かべており、将軍の顔には疲労の色が濃い。
玉座のかたわらに立つ髪の毛の薄い厳格そうな老人が口を開いた。
「将軍、その瞬間勇者殿は気を失っていたように見えた、間違いありませぬな?」
「大臣、間違いありません。一緒にいた兵たちもそう申しておりますし、私にもそう見えました」
すると大臣と呼ばれた人物は顔を国王に向けた。
「陛下。やはり勇者殿は魔王を討ち倒した後、何者かに連れ去られたと考えるのが自然かと」
「勇者が元の世界に戻った、という可能性はないのだな?」
「その可能性はございません。我が国の持つ宝珠の輝きがそれを示しております。あの宝珠が輝いておるということは、勇者殿がこの世界のどこかで生きておることは間違いございません」
国王の言葉に大臣はきっぱりとうなずいた。
「ならば探し出せ! あれからセリアはずっと嘆き悲しんでおる。なんとしても勇者を見つけよ!」
すると横から大臣が囁いた。
「陛下、あの力が他国のものになれば危険です。まずは勇者の行方が知れぬことを隠さねばなりません」
「そ、そう言えばそうじゃな」
国王は慌てて同意した。
大臣がザイル将軍に目を向ける。
「将軍、勇者殿が消えたところを目撃した兵士と捜索に参加した兵士は集めてありますな?」
「誰にも話さぬよう厳重に言い渡したうえで一か所に集めております」
将軍の言葉に大臣は頷いた。
「いいでしょう、ではその兵たちを全員獄に入れて下さい」
「な、何を言われる。何の罪もない兵たちですぞ!」
将軍が語気を荒げて抗議するのを大臣は冷たい目で見返した。
「将軍。これがどれほど重大な事態かお分かりの筈です。勇者が行方不明であることが他国に知れれば、全ての国々が血眼になって探すでしょう。勇者が他国の手に渡る前に何としても見つけねばならない」
「それは分かっておりますが、兵たちを牢に入れるのはあまりに……」
「あくまで一時的なことです。して陛下、民に対しては勇者殿が魔王との戦いで大きな傷を負った。現在療養中であるが快方に向かっている、とふれを出されるのがよろしいかと」
「そ、そうだな。姫にもそのように言えばよかろう。面会も出来ぬほどの怪我だが良くはなってきているので安心せよ、とな。大臣よ、そのようにふれを出せ」
「御意にございまする」
大臣と将軍は深々と礼をして玉座の間を出た。
「勇者が他の者に利用される事態だけは何としても避けなければならぬ。そうなるぐらいならいっそ……」
大臣が呟いた内容を聞いていた者はいなかった。
明日も投稿予定ですが、事情により遅い時間になるかもしれません。