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第3話「魔王の最後」

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 廊下の突き当りに他とは作りの違う豪華な扉がある。

 あれに違いない。


 扉を開け放つと奥に玉座があった。

 そこに一人の男が座っている。


『よく来たな、勇者よ』


 再び頭のなかで声が響く。

 口に出さず直接頭の中に話しかけてくる。

 玉座に座った男はことさら醜悪でもなく、角が生えているわけでもない。

 威厳はあるが一見普通の老人だった。

 ただその発するとてつもない「気」から只者ではないことが分かる。

 そうか、こいつが魔王か。




『そなたが来るのは分かっておった。こちらへ来い』


 俺は警戒を緩めず魔王に近寄った。


『我は長い間そなたを待っておった』


「何故だ?」


『お主はこれと同じようなものを見たことがあるであろう』


 魔王は立ち上がり、傍らにおいてある机の上を指した。

 そこには飾り台の上に珠が一つ置いてある。

 丸く透明な珠の中心に光が見える。

 俺はそれを見て、思わず息を呑んだ。


「なぜお前がこれを持っている?!」


 俺がこの世界に召喚されて最初に見たのがこの珠だった。


『よく見よ。珠の中に輝く光の色が異なるであろう』


 そう言われれば、あの時に見た光は青かったがこの珠の中の光は黄色だ。

 だがそれ以外は形も、大きさも、置いてある台の飾りも全く同じ。

 これが単なる偶然の一致であるわけがない。


「これは……一体何だ?」


『これは「光の宝珠」だ。これこそが我の力の源であり、我を縛る鎖でもあるのだ。我は多くの人共の命を奪ってきた。それは全てこの珠にその生命の輝きを貯めるため。それによってこの珠の輝きは保たれ、それが我に不死の身体と魔力を与えてきたのだ』


「力の源だっていうのはいい。だが縛る鎖とはどういう意味だ? そして、俺が見たあの珠は何なんだ?」


『我はこの珠があるかぎり死ぬことも出来ず、ただこの珠に仕えるしかない。生け贄として人共の命を捧げ続けなければならんのだ。そしてお前が見た珠は「時間ときの宝珠」だ。あれがお前をこの世界に呼び出した』


「時間の宝珠、あれが俺を呼んだだと?」


「時間の宝珠が呼び出す勇者が光の宝珠を持つ魔王を倒す、これが古の予言だ。それで我は開放される。さあ……勇者よ、この光の宝珠を……壊せ。我を……倒し、人共を……救え……急がねば……我が意志が宝珠に支配され……勇者を倒しこの世を滅ぼさんと……力が……暴走する……』


 話していた魔王が、次第に苦しそうになる。

 体の中の何かを必死で抑えているようだ。





「ちょっと待て、魔王、まだ色々聞きたいことがある!」


『すまんが……勇者よ、もう時間が……ない……。魔王たる……我と……勇者……たる……そなたが……出会いし刻……終末……への……秒読み……始まった……こ……の……宝珠を……たの……む……』


 急に光の宝珠が放つ輝きが強くなった。

 どんどん強くなり、その輝きが部屋を満たす。

 それとともに魔王の身体が巨大化して行く。

 次第に醜悪な化け物へと変化していく。


『急げ……勇……者……時間……が……』


 


 苦しむ魔王の背中から、巨大なコウモリの羽が生えた。

 額からは長くよじれたヤギの角が生える。

 巨大化した全身を濃い灰色の毛が覆う。

 口は裂け大きな牙が覗き、目は赤く濁ってつりあがる。

 まさに伝説の悪魔の姿がそこにあった。


『はや……く……珠……を……』


 異形の姿に変化しても、魔王は驚くべき意志の力でそれを伝えてきた。

 俺はそれが何故なのか、どうなるのかも分からないまま雷神の剣を掲げた。


必殺電撃雷光剣ライトニングサンダー・アタック!!」


 ただ本能に従い全身全霊の力を込めて光の宝珠に斬りつけた。

 触れた瞬間に目を開けていられないほどの光が一瞬溢れ、宝珠が砕ける。

 同時に魔王の身体は元に戻り、崩れ落ちた。





「宝珠は壊したぞ。これで終わったのか?」


 俺は倒れている魔王のそばへ歩み寄った。


『ああ……これで、これでいい。やっとこれで我は死ぬ事ができる……古の言い伝えの通りにな。だが心せよ、勇者よ……お前の悲劇はこれより始まるのだ』


 魔王は苦しそうで、でも何処か満足そうだった。

 だが俺は聞かずにいられなかった。


「俺の悲劇とはなんのことだ?」


『……愚かな。そんなことも分からぬのか?』


「答えろ。俺がどうなるというんだ!」


『グフッ……良かろう、教えてやろう。勇者よ、お前は強すぎる。この魔王の軍勢をただ一人で撃ち破ろうという力……それを誰が手放そう』


「どういう意味だ」


『……わからぬか。お前を手に入れた者は、この世を統べる事も容易い。そのような力を持つお前を巡り、愚かな人共は相争うことになる』


 俺はいわば人間核兵器みたいなものだってことか。

 勇者を自由に使える国は世界征服も可能だ。

 それは逆に勇者がいない国から見れば脅威でしかない。

 俺を巡って国々が争う事になるだろう。

 俺の力を悪用しようとする悪党も出てくるかもしれない。

 俺は呼び出されて世界を守っただけなのに。

 なんでこうなった?




「だが俺はそんな物に興味はない! 王座も権力も、世界征服もどうでもいい。そんな争いに関わらなければいいじゃないか!」


『本気で言っておるのか? もしお前が誰にも与せぬとなれば、お前は人共にとって唯の脅威だ。我と同じよ。いつか誰かに力を貸すかもしれぬ。いつか気が変わり世界を支配するかも、いや滅ぼそうとするやもしれぬ……そんな存在を人共は放って置くとおもうか? お前は……お前が守った人共から狙われ……戦わねばならなくなる」


そうだ、そうだよ。

そんな恐ろしい奴、放って置く訳がない。

今はチヤホヤされてるけど、誰の為にも戦わないなんて言ったらいつかきっと捕まえに、それが無理ならいっそ殺そうとするに違いない。

そうなったら、俺は身を守る為に人と戦わなければならなくなる!?


「魔王、頼むから教えてくれ! 俺はどうすればいい? どうすればその悲劇から逃れられる?」


「そろそろ我の命数も……尽きようとしているようだ……。我もまた……そなたと同様……この世界に呼び出されたのだ……勇者よ……我の後を継げ……この暗黒城を……そなたの物とし……人共を……恐怖で統べよ……さすれば……悲劇は避け……」


「おい、待てよ! 死ぬなよ! 俺は嫌だよ! お前の後なんか継がないって!」


俺は普通に暮らしたいんだよ!

好きな女の子と手を繋いだり、必死の思いで告白したり、ファーストキスだってまだやってないし!

普通に就職して、適当に働いて、休みの日は引き込もって趣味に没頭して、そんな生き方がしたいんだよ!

人間核兵器にも魔王の後釜にもなりたくないよ!

なんでこうなったんだよ。


……俺のそんな思いもむなしく、魔王は死んだ。

明日も投稿する予定です。

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