第2話「魔王の息子」
本日2話目の投稿です。
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「将軍、そろそろ行きますのでこの場はお任せします。魔王を倒せばあの黒雲が晴れるでしょう。それを合図に城に突入してください」
「おお、勇者殿、ご武運を」
俺は馬上でザイル将軍とガッチリ握手した。
将軍の手は厚く、いかにも歴戦の勇者の手だな。
それに対して俺の手はまだまだ軟だ。
前の世界での手に比べればガッチリしてるけど。
「勇者殿が突入なさる! 門へ続く道を開けよっ!」
将軍の声とともにラッパが鳴り、軍が左右に分かれて一筋の道が出来た。
俺は剣を抜き、馬を駆ってその道を突き進む。
「勇者様、ご武運を!」
「この国をお救い下さいっ!」
「勇者様と共に戦えて光栄です!」
「父の、父の敵を!」
左右から兵士たちの声と熱気が降り注ぐ。
誰も俺の勝利を疑ってはいない。
そりゃあそうだ、俺は伝説の勇者なんだから。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺が剣を握る右手を上げると大歓声が上がった。
そのまま愛馬で一気に軍の先頭まで駆け抜けた。
敵は門の前に展開してなおも城を守っている。
「ライトニング・ボルトォ!!」
敵に向かって掛け声とともに手にした剣を振う。
すると剣筋に沿って轟音と共に幾本もの雷が落ちた。
龍を倒して手に入れたこの「雷神の剣」が持つ力だ。
落雷と共に空気が膨張して震えるのが分かる。
その威力で目の前の魔王の軍勢と共に門までが丸焦げになって吹き飛ぶ。
あまりの威力に敵も味方も息を飲んだ。
俺は目の前に残る敵を蹴散らし、門の残骸を乗り越え城に入った。
中庭を駆け抜け、いよいよ魔王がいるであろう本丸に乗り込む。
途中もちろん多少の抵抗はあったが、どうということはない。
全て一撃で排除した。
「いいかロック、ここで待っていてくれよ」
愛馬である白馬、ロックから降りる。
軽く首筋を撫でてやると、分かったというように首を上下に振っていななく。
こいつは本当に賢い馬だ。
ギイイイイ
重く大きな扉を開ける。
そこは天井が高く薄暗いホールだった。
奥に二階への大きな階段が見える。
部屋の中は城の外の喧騒が嘘のように静かだ。
コツ、コツ、コツ
石の床に俺の足音だけが響く。
剣を手に真っ直ぐ奥の階段へ向かって歩く。
「君が噂の勇者かい?」
階段の方から声がした。
そちらへ目を向けると、踊り場に男が立っている。
背は高くスマートでちょっとありえないほどのイケメン。
黒の正装にマント、手には細身の剣を持っている。
見た目は人と変わらないが、その気配は明らかに魔物のそれだった。
それもとてつもなく強力な。
「俺は勇者グランツだ。お前が魔王か?」
「そうか、なるほどね、あの軍を突破してくるとは大したものだ。僕はルーサー、魔王の息子だよ。君を父のもとに行かせる訳にはいかないな」
そう言いながら剣を抜き、ゆっくりと階段を降りてくる。
「なるほど。お前を倒せば後は魔王がいるだけ、ということか」
「そういうことだね。でもここは通さない!」
魔王の息子までの距離は約10メートル。
突然巨大な火球が現れ、俺に向かって飛んできた。
凄いエネルギーで顔に熱気が当ってヒリヒリする。
無詠唱でこの呪文を使うとはやるじゃないか、だが。
ドーーン!
火球は俺の前で突然はじけ飛んで消失した。
爆風が巻き起こるが、それも俺には届かない。
抗魔術障壁。
これも勇者の使える魔法のひとつだ。
掛ければ全身を覆い、3日は持つという便利な呪文。
一回魔法を防ぐと消えてしまうのが難点だが。
いつも念のために掛けてあるから、俺に不意打ちの魔法は効かない。
「この呪文を防ぐとは、なんという力だ……」
さすがに驚いたらしい。
「だがっ!」
剣を振りかざし、ダッシュしてきた。
次は剣で挑もうというのか、いいだろう。
魔王の息子、ルーサーが剣を片手に突っ込んできた。
鋭い突きを体をひねって躱す。
そのまま連続技で攻撃してきた。
残像を残して襲ってくる剣を全て払い、弾き、受け流す。
なるほど、これは相当な腕前だ。
普通は反応することさえ不可能な速さ、強さ。
その一撃は大木を切り倒し、岩をも砕くだろう。
だけど残念ながら俺は普通の人間じゃない、勇者だ。
それも最強にチートな。
「お前は一体何者だ? なぜそんなに平然と僕の攻撃を受けることが出来る? そして、なぜ攻撃してこない!?」
自分の攻撃が全く通じないことを理解したのだろう。
ルーサーは攻撃をやめて、困惑した表情で尋ねてきた。
「言ったろ、俺は勇者だ。目的は魔王を倒して世界を救うことだ」
俺はそう言って剣を下げた。
「なあ、ここを通してくれよ。そうすればお前を倒す理由がない。俺の目的は魔王だ」
「何を言っている! お前は父を殺そうとしている。それをそうですかと通せるわけがないだろう!」
ルーサーは苛立ち、叫んだ。
「なぜ僕を殺さない? 見た目が人に似ているからか? なら怪物の姿になってやろうか? 勇者なら無慈悲に魔物を殺すのが当前だろう!」
「俺は別に殺戮者じゃないんでな。魔王を倒し世界を救うために呼び出された。だから魔王を倒す。それだけだ。お前が人に害をなさないのであれば、殺す必要などない」
「お前は一体何を言ってるんだ……」
ルーサーは呆然と俺の顔を見て立ち尽くす。
そうさ、俺は別に魔物を殺したいわけじゃない。
本能で人を襲う魔物は危険だから退治する。
人に悪意を持って害を与える魔物も当然だ。
だけど話し合って分かるなら、それに越したことはない。
その時、頭のなかで声が響いた。
『ルーサー、良い。その勇者を我の元へ通せ』
「し、しかし、父上!」
『良いのだ。そしてお前はこの城を離れよ。我の事は忘れ、平穏に暮らせ』
「そんなこと、そのような事が出来るわけがありません!」
『ルーサー、最後の命を聞け。勇者よ、我は魔王だ。我の元へ来るが良い』
「いいだろう」
俺はルーサーの横を通って階段へ向かった。
ルーサーは無言のまま凄い目で睨んでいた。
顔が整っている分だけ迫力がある。
後ろから斬りかかってくるかな、と思ったがそれもなかった。
いかがでしたか?
明日も投稿する予定です。