第10話「契約」
この10話で第1章が終わります。
また続きも書きたいと思ってますが、あまりニーズが無さそうですね〜涙
「僕と取引しないか?」
ルーサーは俺に向かって笑いかけた。
「僕はこれからも君の観察を続けたい。君ほど見ていて面白そうな人間もいないからね」
「おい、やめろ。迷惑だ」
「楽しませてもらう代わりに、これは僕がやったことにしてあげるよ。君は何の取り柄もない普通の人間として生きて行きたいんだろ?」
こいつ、何を言い出すんだ?
「いい考えだと思わないかい? 僕は君を眺めて楽しめるし、君も勇者だとばれずに済む」
「ふざけるな、お前の言葉なんか信じられるか」
「心外だなあ。僕は誇り高き魔王の息子だよ? 信用してほしいな」
魔物の言葉なんて信じられるか。
でも確かに言い訳には困るし、うーん。
どうしよう。
「そうこうしているうちにその子が目を覚ますよ。さあどうするんだい、早く決めてよ勇者くん」
ミオンを見るともぞもぞと体が動いている。
やばい、もう気が付きそうだ!
「くそ……どうすりゃいいんだ……」
「悩んでいる暇はないよ。別にいいじゃないか、困ることはないだろ?」
ミオンが「うーん」と声を上げて寝返りを打った。
ああ、もう時間がない。
「くそっ! 絶対に俺の事は言うなよ!」
「オッケー、契約成立だ。大丈夫、僕は口が堅いからね、あはは」
うーん、信用ならねえ。
ふと気が付けば俺もミオンも大猿の血で汚れたままだ。
これじゃあきっとミオンが怯えるだろう。
ミオンが目覚める前に急いで呪文を唱えて綺麗にした。
念のためにミオンに回復呪文もかけておく。
「あの、ここは? あっ、サトルさん!」
ミオンは気が付くと俺を見て嬉しそうな顔をした。
だがすぐに巨大な猿の死体を見て「ヒッ」という悲鳴を上げる。
襲われた時の恐怖を思い出したのだろう。
「……サトルさんが助けてくれたんですか?」
「あ、いや、えっと、こいつ、いやこの人が」
俺は後ろのルーサーの方を振り向いた。
「お嬢さん、お怪我はありませんか?」
ルーサーが笑顔でミオンに近づいてひざまずいた。
イケメンオーラ全開にしてやがる。
「あ、は、はい」
「危ないところでしたね、僕はルーサー、旅の剣士をしています。サトルとは古い知り合いでしてね」
「あ、ありがとうございます。わたしはミオンです」
誰が古い知り合いだ、つい昨日初めて会ったところだろうが。
しかも呼び捨てにしやがってふざけるな!
「とにかく帰ろう、トーリが心配している」
「ああっ、トーリ、トーリは大丈夫なんですか?!」
「ああ、それもこいつ――ルーサーが助けてくれたから大丈夫だ」
「そうなんですね、本当にありがとうございます!」
ミオンは涙を浮かべてルーサーに頭を下げた。
チクショウ、ムカつくが仕方ない。
「困っている人を助けるのは当たり前ですよ。当然のことをしただけです。それより立てますか?」
ルーサーはにこやかにほほ笑むと、ミオンの手を取って立たせた。
ドヤ顔でこっちを見るのはやめろ。
お前、魔物の分際でよくそんなことが言えるよな。
おい、ミオンに触るな!
小屋に戻るとトーリはまだ寝ていた。
怪我はすっかり治ったようだ。
ミオンはそれを見て喜んで泣いていた。
俺はその間に散らかった小屋の中を片づける。
おいこらそこの魔物、ミオンと話してないで手伝え。
何とか小屋の中を片づけて、寝ることにした。
面倒くさいから外の片付けは明日にしよう。
それにしても、なんで魔物と一緒に寝なきゃいかんのだ。
翌朝。
寝坊したが、なんだか表が騒がしいので目が覚めた。
この世界の早起きにはいつまでたっても慣れない。
昼まで寝てるのが普通だったからなあ。
小屋の外に出て見ると、大勢の人が集まっていた。
その輪の真ん中にはミオンとトーリ、それにルーサーが。
あ、銀の牙の奴らも来てるじゃないか。
「おいこら、てめえ一人で巨大類人猿を退治したとか、フカしてんじゃねえぞ!」
ハゲが騒いでいる。
灰色狼の死体を見た人が慌ててシルバーファングの連中を呼んで来たらしい。
はあ、ますます面倒くさいことに。
どうしてこうなった。
「僕は事実を言っただけです。疑うなら森の中の洞窟を見てくるんですね」
「本当なんです、この方がわたしを魔物から助けて下さったんです」
「あ、サトル兄ちゃん!」
トーリが俺を見つけて手を振った。
みんなの視線が俺に集まる。
「ルーサーさんが魔物を退治して下さったことを信じてくれないんです。本当ですよね、サトルさん?」
「サトル兄ちゃん、言ってやってくれよ!」
「なんでサトルがこんな所にいる? お前、こいつと知り合いだなんて言ってなかっただろうが!」
ハゲが怒って詰め寄ってくる。
ああもう邪魔くさいな。
「カーン、そんなことはいい。それよりサトル、こいつらが言ってるのはマジか?」
盗賊のラックが聞いてきた。
こいつは冷静で助かる。
「……ええ、本当です。俺がこの目で見ました」
「B級魔物のジャイアントエイプを3匹、それも一人でか。それが事実なら凄い腕だな」
独眼竜のトモキアがルーサーを見た。
やったのは俺なんだけどなあ。
でも言えない、悲しい。
「あれぐらい僕にとっては大した相手じゃありませんよ」
ルーサーが両手を広げて肩をすくめて見せた。
お前何にもしてないくせに。
「とにかく俺たちはその洞窟を見てくる。ルーサーと言ったな、戻って来たら話しをしよう。んじゃな、サトル」
銀の牙の連中は洞窟へ行き、他の奴らも帰った。
きっと確認したらルーサーをスカウトするつもりだろう。
「ルーサーさん、剣士なんだね! カッコいいなあ。おいら魔物を倒すところを見てみたかったな」
「トーリ、あんたもうちょっとで死ぬところだったのよ! ああ、本当になんてお礼を言っていいか」
ルーサーを見るトーリの目が憧れでキラキラ輝いてる。
ミオンに至ってはもう完全にハートマークだ。
ルーサーに夢中になっているのが分かる。
あいつイケメンだもんな、人間じゃないけど。
本当なら俺が……いや、もうやめよう。
もう見ていられない。
俺はこっそり小屋の裏に回ってロックを繋いだ縄をほどいた。
ここを出て行こう。
俺のことを誰も知らない別の場所を見つけてひっそり暮らそう。
誰にも何も言わずに、こっそり出て行くことにした。
扉の所にポケットの中の金を置き、そのままロックに乗って走り出す。
大猿を退治したし灰色狼たちも死んだから、森もかなり安全になっただろう。
金は新しい羊を買うのに使ってくれたらいい。
ひょっとしたら父親を殺したのも大猿だったのかもしれないな。
トーリ、ミオン、元気で暮らせよ。
「はあ、そろそろ昼か。朝から何も食べてないもんな。ロック、飯にするか?」
しばらく走って、腹が減ったのでロックから降りて木陰に腰を下ろす。
――開けゴマ
収納魔法を開けてパンとハムを取り出した。
ああそうだ、忘れずにまた金貨一枚と、今度はキャンプ用品も出しておかないと。
「美味しそうだね、僕にも分けてくれないか?」
パンに噛り付いていると、後ろから声がした。
ルーサー、気配殺して近づくなよ。
「ていうか、なんでお前がここにいるんだよ?」
「追いかけてきたのさ。僕を置いて行くなんてひどいなあ」
「ついてくんなよ! もう契約は終わりだ!」
「そうはいかないよ。時間はいくらでもある。簡単には離れないよ」
「うっとうしいんだよ、この魔物が。退治するぞ」
「あ、そういうこと言っていいの? みなさーん、勇者がこんな所にいますよー!」
「おいこら、言わないって約束したろうが!」
「だって契約は終わりなんだろ? じゃあいいじゃないか」
「そういう所がやっぱり信用ならないんだよっ!」
どうやらこいつとは当分離れられないようだ。
……どうしてこうなった?
――第1部「魔王の息子編」完
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
この後の話は今後の反響を見て考えます。
他の話もよろしくお願いします☆




