第1話「最後の戦い」
*カクヨムにて投稿した短編の改訂版です。第1部は10話程度で完結予定。
「作者が転生?!~りっぱな悪役になってやる!」の続きをお待ち頂いている読者の方、すいません。
近々あっちの続きも書きますので、しばらくお待ちくださいませ(土下座)
「人類の興亡はこの一戦に掛かっておる! 魔王軍を殲滅せよ!」
「うおおおおお!」
1万を超えるディール王国の軍勢が雄叫びを上げた。
同時に目の前にいる魔物たちに猛攻を掛ける。
目標は魔王の最後の城、暗黒城。
しかし城の前は多くの魔物が守っている。
地上だけではない、上空にも無数の魔物。
そりゃあやつらも必死だ。
この城を落とされたら終わりなのだから。
「うわあ!」
「ひるむな! 勇者の為に道を作るのだ!」
王国軍の戦意は高いが、相手は魔物だ。
数では勝っていても普通の人間ではなかなか勝てない。
奮闘しているが、相当な犠牲者が出るだろう。
そろそろ動いた方がいいな。
何より目の前で人が死んでいくのを見るのは辛い。
「左翼に広域魔法を打ちますので軍を後退させてください」
俺の言葉に隣にいる白髭の老人がうなずいた。
「勇者殿が魔法を使う! 左翼は後退、巻き込まれるな!」
この老人はザイル将軍、王国軍の最高司令官だ。
将軍が叫ぶと、指示のラッパが吹き鳴らされる。
やがて味方が徐々に後退を始めた。
魔王軍は攻め時とばかりに攻撃を集中させてくる。
「うむ、そろそろよかろう」
将軍の言葉で、俺は魔王軍目掛けて呪文を唱える。
――烈風大竜巻!
たちまち魔王軍の上空に巨大な渦が出現し、下に向かって伸びて行く。
それが地面にタッチダウンした瞬間、巨大な竜巻が魔王軍を蹂躙しはじめた。
ゴオオオオオオオ
突風が地上だけでなく上空の魔物たちをも巻き込み、巻き上げて行く。
それが自然の竜巻でない証拠に、魔物たちの中心から動かない。
竜巻が細くなって数十秒後に消えると、そこには戦力の空白が生まれていた。
「今だ、全軍突っ込め!」
パラッパッパパー!
進軍ラッパと共に、後退していた王国軍が突進する。
竜巻でダメージを受けた魔王軍を明らかに押している。
さあ、そろそろ最後の決戦に行って来るかな。
――思い返せばここまでの道のりは長かった。
俺は真壁悟、19歳のゲームが好きで引き籠もりの大学生だった。
それなのにある日突然、勇者としてこの世界に召喚されたんだ。
勇者としてはグランツと呼ばれている。
最初はこの国の人たちにも受け入れられず、右も左もわからない。
勝手に呼び出しておいて本物の勇者かどうか疑うとか何なんだ、と腹も立った。
はまっていたゲームとなにかと被るこの世界、お陰で慣れるのは早かったけど。
もちろん前の世界では武術の心得も戦闘経験も全くなし。
でもTS物のお約束でかなり強力なスキルもあって、なんとかやってこれた。
魔物たちとの戦いを繰り返すうちに、気付いたことがある。
それは何か。
このグランツの体、転生前とは見た目から違うんだけど成長力が半端ない。
とにかく、ぐんぐんぐんぐん成長する。
そもそも転生した時から能力は高かった。
筋力は強いし、スキルも豊富、おまけに見た目もかなりのイケメン。
なるほどこれがいわゆるチートって奴か、と調子に乗ってたんだ。
ところがだよ。
ちょっと鍛えるだけで驚くほど成長する。
全く経験がなかった剣術も、鍛えればすぐに達人クラス。
魔法だって見よう見まねであっという間にものにした。
「伝説の大魔法」なんて呪文まで使えるようになる始末。
もちろんアレだ。
初めて聞いた言語もすぐに習得。
お約束の収納魔法も、もちろん使えるようになった。
ちなみに他にそんな魔法が使える人はいないそうだ。
怪我しても治癒魔法は使えるし、使わなくてもすぐに治っちゃう。
病気もしないしとにかく丈夫なんだよ、この体。
元の世界での身体とは大違いで見た目もガッチリしてるしね。
あ、当然筋力もアップして百人力だから、俺。
最初は苦労してたモンスターも、しばらくぶりに戦ってみれば瞬殺。
あちこちでモンスターを倒すうちに、向こうも当然僕の存在に気付いた。
魔王軍の攻撃が俺に集中するようになり、敵もどんどん強くなった。
でもその強い敵を倒せば、その苦労した分だけまた成長する。
それを繰り返すうちに、ほとんどのモンスターは俺の敵ではなくなった。
だから最近はもう敵の雑魚キャラなんてまとめてぶっ倒してる。
強力なスキルや魔法を使えば、敵がドカンと吹っ飛んでいく。
言ってみればリアルで無双やってる感じかな。
そのうち空まで飛べるようになるんじゃないか、って心配になる。
そうなりゃもう勇者というよりスー〇ーマンだよ。
いつか目からビームとか出るようになるかも知れない。
途中まではパーティーも組んでたけど、実力差が大きくなりすぎて解散した。
仲間をかばうのに不必要な気を使わなきゃいけないし。
かなり実力のあるメンバーたちだったけど、俺との差は開く一方で。
美少女キャラとかも居たから残念ではあったけど。
もともとぼっちだから一人の方が性格に合ってる。
今回だって、正直俺一人でなんとかなると思う。
でもこういうのは形も大事なんだそうだ。
魔王を倒す最後の戦いだからね。
俺一人に手柄を独占させる訳にもいかないんだろう。
これも大人の事情、政治って奴だな。
俺にはどうでもいい事なんだけどねえ。
この戦いに出かける時は、盛大な式典で送り出された。
「グランツよ、これで我が国は救われる。その暁には姫と共にこの国を――いや、それはまだ言うまい。ワシはただ、そなたが古の言い伝えの通り魔王を倒し帰ってくることを信じて、姫と共にここで待っておるからの」
ディール王国のラーセル国王は俺の肩を抱いてそんなことを言ってた。
「まだ言うまい」って、もうほとんど言ってるようなものだな。
「ああ勇者様、いよいよなのですね。ご武運をお祈りしています」
王女であるセリア姫は両手を胸の前で組み、俺を見て涙ぐんでた。
金髪に青い瞳、性格は控えめで顔もかなりの美形といっていい。
ただちょっと、なんていうか、いまいち僕の好みからは外れてるんだな。
俺はどっちかって言うと黒髪の元気系なキャラの方が好みだったり。
まあもともとモテない引き籠もりだった俺には贅沢な話だけど。
でもこの戦いが終わったらどうなるんだろう。
元の世界には帰れないのかな。
俺を召喚した司祭たちに聞いても、戻す方法は知らないらしい。
なんか流れとしてはセリア姫と結婚→国王の後を継ぐ、みたいな空気になってる。
セリア姫の視線もなんか熱っぽいし、国王もさっきみたいな感じだし。
でもなあ。
俺はぜんぜん国王になんてなりたいと思わない。
堅苦しいのは嫌いだし、権力欲なんて全くない。
だいたい政治なんてやる柄じゃないよ、元は引き籠もりの学生なんだから。
国民全体の人生に責任持つなんて出来ないよ、重すぎ。
セリア姫ともなんていうか、あんまり腹を割って話せる感じじゃないし。
彼女いつもどこか遠慮してる感じなんだよ。
そんな子と結婚して夫婦生活……あんまり楽しそうじゃない。
でもあの空気で断るなんて、出来ないよなあ。
はあ、どうしてこうなった?
それだけじゃない。
戦うこと自体にも最近は――飽きてきた。
最初は楽しかったよ。
自分が強くなるのも楽しかったし、誰かを助けて感謝されるのも嬉しかった。
前の世界のダラダラした生活と全く違う。
仲間と連携して出した技が決まった時の充実感。
死に物狂いで戦った相手をギリギリで倒した達成感。
でも自分があまりに強くなって。
基本一人で戦うようになって。
だんだん惰性で戦うようになってきた。
この間「魔王の右腕」と呼ばれたモンスターと戦った時も。
戦いながら、なんかイジメてるみたいな気分になって。
「オノレ、コノママデハ オワラヌゾオオ!」
そう言いながら相手が立ち上がってきた時には
「もういいじゃん、もう十分やったんだから降参しろよ」
なんて考えてた。
降参しなかったから退治はしたんだけど。
いかがでしょうか?
今日はもう1話投稿する予定です。