【八百万】モップとブラシ
「もんももー!
もっもんももーも!」
「ざしゅっ!
ざっしゅざしゅしゅしゅー!」
言葉を喋れ。三回目ともなれば慣れてくる。
どうせこいつらも心を読んでくるに決まってんだから分かるよね?
「もお!? もももっもんもん、ももっもんもん!」
いやいや、分かんないから。もお!? とかいわれてもね、はあ!? って感じ。
「ざしゅしゅっざーしゅ? さしゅっしゅしゅしゅ。」
いい加減言葉を話せー!
床綺麗にすんぞ。おまら使ってね。
「ざしゅしゅざーしゅん。」
んじゃ、抜く。一本ずつ。
「ぎゃーっ!! やめてー!
抜かないでー、あと掃除しないでー!」
さっき別にいーもん、って言ってたじゃん。ブラシがだけど。
「やっぱりちゃんとわかってんじゃん!
はあ!? って言ったのも分かってて態とああしたんでしょ!?」
何を仰る。もんもんざしゅざしゅが分かるわけないじゃないか。
はあ!? なにいってるの、わかってるじゃん! みたいな雰囲気がしたんだよ。
多分空気読むのが上手かったんだね。ちょっと凄くない?
「ほんとなら凄いかもしんないけど、分かってたよね?」
だから、もんざしゅが分かるわけないでしょー。
分かってるじゃん! みたいなこと何回も言われてもね、雰囲気は雰囲気だし。
「そうかなあ?
とりあえず、ようこそー。ゆっくりしてってー。」
「うんっ! だって楽しそー。」
ふむふむ。オッケー。
ゆっくりしてこーじゃない、たぶん、気が変わんなければ。
「実はー、ももももーもももんもー。」
ふむふむ、一杯生えてるなー。並べたら何本あるか分かるかなー?
「実は、愚痴を聞いてほしくてー!」
なるほどなるほど、いいでしょう。聞いてあげるよ。話しなさいな。
「僕ら見ての通り、ブラシとモップなんだけど、地面に擦り付けられてばっかりで。」
「でも毎回痛いのも、汚れるのも我慢して頑張ってるんだよ。」
なるほど、確かにねー。
痛覚とかあるのねー、そりゃ痛いはずだよ。
「頑張るけど、それでも誰もそれを分かってくれないし、ストライキもできないし、古くなったら付け替えてポイっ、だし。」
「もっと僕らのこと思いやって貰ってもいーとざしゅしゅんざ、えーといーと思うんだ。」
へえー、ストライキとか知ってるんだー。確かにもんもんは付け替えタイプのモップだね。
思いやる、ねえ。
「そう! 道具は道具でも、無機質じゃないんだも! 心とか、努力とか、ももっもー!」
そんな叫ばなくても、わかってるわかってる。
「びしょびしょになれば寒いし、ゴシゴシされればざしゅしゅいかちょっと心配なんざしゅざー!」
あー、確かにモップって使ってると擦りきれて禿げてくるよね。
それが進むと...。苦労してるねえ。
「同時に汚れがもっもんつくしー、洗ってももんけどその水ももももんしー。」
うん、あの水ってまっ茶色になって汚いよね。でもその汚れビッシリな水で洗っちゃう。
「も疲れさも、とかももあも。とかだけでももももーんもも!」
だよねー、お礼言ってもらえると嬉しいよね。
「でも、僕らのさしゅざいはざしゅゅざざしゅ。だからざんざしゅ!」
そうだよね、ブラシの生き甲斐は掃除しかないよね。頑張れ。
「もん、もーももんも、ももあも!」
いやいや、ほんとに聞いてただけだし。面白い話聞けてこっちこそありがとう、だよ。
「ざしゅ、ざしゅざしゅ!」
だからほんと聞いただけだし。こっちがだし。
さてさて、もうそろそろ帰りますかね。
「も! もん、ももっもーも?」
うん、もうそろそろお母さんが帰ってきちゃうからねー。帰るよ。
「ざしゅざざしゅー。」
たぶんねー、気が向いたらまた来るかもねー。方法知らないけど。
「もんもーん!」
ばいばーい。きゃあー。
◇◆◇◆◇◆◇◆
君がねー、頑張ってるらしいからね。
「今日もお疲れ様、ありがとね。」
洗う水を一回一回綺麗にするのは流石にめんどくさいからさ、これで頑張っておくれ。
果たして本当に雰囲気で言ってることを当てていただけなのか? 実はしっかり分かってたのか?
気になるところですよね?
もんもんとざしゅざしゅがすべて読めたあなた、どこで役に立つかは検討もつきませんが、才能あると思います。
※お母さんはたまたま出てきただけです。深い意味はありません。
※掃除用具に感謝をー。