さっそくの依頼
次の日から私は働き始めた。
お客さんはそれなりにあった。
二人のイケメンはいつもコントのような事をしていた。
「ああ!信、俺のゼリー食べたでしょ!」
「え、あれお前の?」
「他に誰がいるんだよ!」
「んー俺?」
「ふざけんな!いますぐ返せよ!朝はゼリーて決まってんのに」
ぷくーと頬を膨らませた顔は少年の様に可愛いが多分この人20代半ばだ。
「わあったわあった。今吐き出すから」
と言うと雨宮さんがうえぇとやりだす、
「やめて、そういうのいいからマジで!」
と言いながら雨野さんが逃げ出す。
こんなことの繰り返しだ。
そんなある日処方箋でも、市販の薬でもない物を求めに来たお客さまがいた。
応接室に通されたのは恰幅が良く、いかにも社長の雰囲気を醸し出しているような狸おやじだった。
真と信が前に並んで座る。
「星屑屋、というのは君たちのことだね」
挨拶も無しにいきなり切り出す。真が少しむっとしたように言った。
「そうですけど。そういうあんたは誰だい?」
口のききかたがなっていない。
「おや、ご存知ないかな?」
そう言うと、大洋不動産総取締役と書かれた名刺を出してきた。
日本で知らぬ人間はいない大手ゼネコンの名。
しかし二人にはピンと来ない。何でそんな大物がうちに来たという顔をする。
狸おやじは咳払いをして言った。
「あんた方の噂は良く聞きますぞ、薬局と称して店を開いているが、蓋を開ければ探偵ごっこのようなことをしているそうじゃないか。」
「ごっこていうか、探偵なんですけどね。でも普通のはやらない主義ですけどね。」
信の方が落ち着いて言う。
「普通のとは?」
「殺人とか泥棒とか、ストーカーとか身辺調査はやりません。」
真がどや顔で言う。
「じゃあ何をしてるんかね」
「主に心のケアとかですね。恨みとか、悲しみとか、そう言う気持ちから起きる事件の解決に協力してる感じですね」
信が説明する。
あまりにぼんやりとしていてどう言うことか良く分からない。
「ならば私の抱えてる問題は君たちの範囲外かね?」
挑戦的に聞いてきた。
「まず、話して下さいよ。聞いてみなけりゃ分からない。」
真が憮然として言う。
その狸おやじが語った話しはなかなか面白いものだった。
大洋不動の狸おやじが語ったのはまるで物語だった。
見ての通り私は業界内で一位二位を争うゼネコンの取締役だ。
特にうちの会社はリゾート開発に力を入れていて、新しい土地の開発に強い。
この前も山の奥の方にある吉田村といったかな?そんな名前の村に開発のプロジェクトをプレゼンしにいったところだ。
事件はその村で起きたのだ。
それは確かに自分たちの先祖の土地を買い取られるのはいい気分はしないと思う。だがな、一生遊んで暮らしていけるような金で買い取るんだ。本人たちも何だかんだで満足しているはずだ。
なのに、村滞在一日目に私の金が無くなった。財布ごとすっぽりだ。
一日目はまだ気にしなかった。別にたいしたことじゃない。貧乏な村人がかっぱらったのだろう。
ところが二日めだ。私は滞在先から市民ホールに移動するために車に向かった。
ホテルの入口に車を着けさせたのは私が来る5分前だった。
その五分の間に異変が起きた。
車全体に苔が生え、中にいた運転手が木の根の様なもので縛り殺されていたのだ。
しかも首と言わず、腕と言わず、体中だ。
一応現地の警察に捜査はしてもらったがなにぶん田舎のせいでろくなことをしない。
その場は気味の悪さと腹立たしさで帰ったが、東京の自宅に戻って来ても怪異は続いていたのだよ。
私が別宅の方に行ってみると、その、今囲っている女の様子がおかしい。話しかけても私を見つめるだけだ。これは子供でもできたのかと思って問い詰めた。
すると言葉を話さないんだ。
ずっと黙りを決め込んだあと、一言鳴いたんだ!
ケーン
と、
まるで狐のような声でな。
あまりの薄気味悪さに私は部屋を飛び出した。
それが昨日までに起きた全てだ。
そこまで一気に話すと、首を縮めるような素振りをし、出された粗茶をずずっと飲んだ。
「まず、お聴きしますけど囲っている女とは要するに愛人のことですか?」
重苦しい空気のなか信が口を開いた。
「まあ、ありていに言えばそうだ。」
ばつの悪そうな顔で言う。
「それにしてもおかしいな、社長さんが一介の村の開発に携わるかよ。そんなの部下に委せるだろ?」
真が怪訝な顔で言う。
「いや、普段はそうだが、今回は特別なんだ。その村を取り潰し一大タウンを造るんだ。遊園地、繁華街、住宅街全てを揃えたリゾート地を。我社の全勢力を注いだプロジェクトなんだ。」
勢いこんでおやじが力説する。
ふーんと興味なさげに真が頷いた。
「しかし、そんな不気味なことが2度も起こるなんて異常だと思わんか?この謎を君たちに解いて欲しいのだよ。そういうのが専門だろ。」
すがるように言ってきた。
「分かりました。依頼の返事は明日お伝えします。明日までお時間を頂けますか?」
信が事務的に聞いた。
「明日か、明日、分かった明日まで待とう。」
社長が了承し面会は終了した。
運転手付きの黒塗りの車が店に横付けにされ、狸おやじは偉そうな素振りで 帰っていった。