事件其の一
あのすみません、この辺にあるはずなんですが、ご存知ないですか?
東京都中野区という、都心のド真ん中なのにどこか野暮ったく、田舎よりも田舎みたいな街の片隅でとある店を訪ねる女が一人。
あの、星屑屋という店なんですが、知りませんか?
いや、知らんね。
すみません、急いでるもので
そんな店あったかなあ
え?星屑屋?知ってるよ。あの胡散臭い店でしょ。
若い男が二人で経営してるんだけどあれは薬局て言うのかね。本人たちはまじない屋だとかワケわからん事言っとるがね。そこの道を曲がった雑木林のふもとだよ。
東京都中野区の雑木林はそれこそ売るほどある。
それほど田舎ということだが。
その、沢山ある雑木林のなかの1つで二人の青年が星屑屋なる店を経営している。一応薬局だ。
しかし、薬を売るというより、本人たち曰く自分たちの能力を売ってるらしい。
この二人なかなかのイケメンなのだが性格に問題ありなのか、恋人が出来ても長続きしない。
そして金もない。双方の気持ちが一致し、二人で薬局を経営することにした。
一人が調剤、一人が会計と言ったところか。なかなかうまくやっているようで、今のところ繁盛はしてるらしい。
二人とも、女の子といるよりお互い気が休まるらしく、回りからはホモなんじゃ?と噂されている。
長くなったがこれが星屑屋のざっとした紹介だ。
名前?
ああ、
調剤の方が空野真
会計の方が星谷信
いこうお見知りおきをということで。
雑木林のふもとに建つ星屑屋
一人の女性が暖簾をくぐった。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
誰もいない店内を見回す。
広くはないが狭くもない。
こざっぱりした店。
なるほど、置いてある商品は薬なのかまじないなのか怪しい物が多い。
もう一度声をかける。
奥の方から眼鏡をかけた長身の男が出てきた。
「はいはい、なんです?何かお探しで?」
薄い茶髪にシャツとジーパンという無難な格好。
彼女の事をじろじろと眺める。
「で、何か?」
「いや、あの、バイトの応募をさせていただいた石井由香と申します。で、本日面接だってお電話頂いたんですが。」
履歴書を差し出しながら言う。
男の目が点になる。
「ごめん、聞いてなかった。なに?面接?マジで?」
驚いたように聞き返す。由香がこくりとうなずくと奥の方に走り込む。
「おい、真!お前勝手にバイト募集載せたな!事務は俺に相談しろっていつもあれだけ言ってんじゃん!」
怒鳴り声がここまで聞こえてくる。
すると、うるせえな、朝から怒鳴るなよ。という声とそのあとにどたんという大きな音
「ってえな!くそ。ほら、だから言ったじゃん。朝からデカイ声出すなし!」
「朝って、何時だと思ってんの?もう昼に近いから!こんな時間まで寝てるお前が悪い。」
冷静な突っ込みは眼鏡の男だろう。
「で、もう一度聞く。バイト募集勝手にやったな」
「んー、やったかもしれないし、やらなかったかもしれない」
イマイチ的を得ない答え。
「どっちだよ」
数秒の間、
「あーそうだった。酔った勢いでヤったかもしんない」
「お前さ、なに、女に対する言い訳みたいなこと言ってんの?てか何でやが片仮名になってんの!?」
「今って便利な物があるじゃん?ネットっていうやつ?それでさ酔っ払った時に可愛い子でもバイトでいたら毎日楽しいなとか思って乗せたんだとおもう。で、可愛い?」
悪びれもなく聞いている。
「知るか。自分で見てみな。だいたい、二人の食費でも手一杯なのにこの上どうやって雇うんだよ」
会計担当は頭を抱えた。
「え、嫌なら落としなよ」
不穏な言葉が聞こえてきた。
聞かなかったことにする。
「こら、失礼なこと言うんじゃない。とにかく早く着替えて。そんなんで出たら殺すぞ」
数秒の間
あんだよ!おら、早くしろ、あんぎゃー!ぶべら!
訳の分からない単語が飛んで来ておよそ5分後
水も滴るいい男が水を滴らせて出てきた。
白衣を着てるからこのひとが店主か。
「いやあ、待たせてごめんね。石井さんだっけ?遠いところわざわざすみません」
爽やか過ぎる顔で言われ、一瞬キュンとなった。
しかしその、爽やかの後ろで、目をターミネーターのように光らせるもう一人のイケメンを見て色々縮んだ。
店主が後ろを向き何か囁く。
とたんにべしっとはたかれた。
いっつうと言いながらしゃがみこむ。
眼鏡の人が言う。
「ごめんね、馬鹿は放っておいて面接始めようか。奥の方に座って。」
通されたところは主が出てきたのとは別の小部屋で応接間のようになっていた。
面接をするのになぜ二人ではなく、三人なのか、バイト面接なのに。
「どうも、俺は星谷信と言います。こっちの馬鹿は空野真」
馬鹿と言われた方が眼鏡を睨む。
「あの、もしあれなら私帰りますけど」
「え、なんで?」
二人にキョトンとした顔をされる。
「いや、なんか、雇う余裕ないって、さっき」
ハッとした顔をして二人で顔を見合わせる。
「いや、余裕っていうか、ちょっと予定外だったもので、な?」
と、隣に崩れ落ちてる白衣に言った。
「んあ?んん、石井さん処方出来る?」
唐突に聞かれた。
「はい、薬剤師の免許は持ってます。」
「へえ、なんで免許あんのにうちなんかに来たの?」
なんだ、面接始まってる。
「いや、色々あって前いた薬局クビになっちゃって。都会の田舎みたいなところでバイトからやりなおそうと思ったもので。」
「ふうん」
聞いた割には興味なさげな答えが返ってきた。
「じゃあ採用で!」
「おいこら、勝手に決めんな!」
合いの手のような突っ込み
「いやこれは採用っしょ。」
「いやだから、余裕が」
「そんなの今から作るんじゃん」
とてもステキな笑顔で言われたが大丈夫だろうかと心配になった。
「よ、よろ しくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げた
「うん、よろしくね由香ちゃん」
優しく言った雨野さんの膝を雨宮さんがつねりながらよろしくと無愛想に言った。