プロローグ
どうしても書いてみたかったんですよね、龍神が出てくるお話。
設定とかに色々穴がありますが、そんなところも注意を頂ければ幸いでゴンす。
3月30日にステータスの表示について変更しました。
ぴちょんぴちょんと、どこからか、雫の垂れるような音が聞こえてくる。
あたりは異様なまでの静寂に包まれ、その場を暗闇が支配する。
誰もいない洞窟の中で、一人の少年が誰に言うでもなく仰向けの姿勢で地に付したまま、どこかさびしげにつぶやく。「もちょっと、青春とか、そんな感じの学生らしい、人生を謳歌してみたかったもんだねぇ。」
そういって、自分の今までを思い返しても、青春の『せ』の字もない事に、多少悲しくなる。
「・・・自分から進んでやったつっても、痛ぇもんは痛ぇよなあ。」
一つため息をついたかと思うと、少年は目を閉じ、何かを懐かしむような表情を浮かべる。
「ははっ、よくよく考えてみりゃ、イマイチ面白味のねぇ人生だったなぁ。」
そういいつつも、その顔はどこか楽しげだった。
それはきっと、これから自分がどうなるか理解しているからだろう。
彼の体には、肩から腰元にかけて、何かで抉られたような傷があり、彼の服は血で汚れ、口元も吐血で同様に血塗られていた。
それは生きていることの方が不思議に思えるほど深く、大きな傷だった。
「ま、死ぬにしても、好きな女の子の為だったら、男冥利に尽きるって、奴かね。」
彼の口調は次第に苦しげなものへと変わってゆく。
「ゴフッ、カハッ、ハアハア、案外、死ぬのって、怖くないもんだな。」
それは強がりからくるものではなく、彼の本心だった。
やがて、彼の体内の鼓動が、小さく、小さくなっていく。
死ぬことに後悔はない。未練はない。とは口が裂けても言えない。
徐々に失われていく感覚に、重たくなっていく瞼に、自分の最後を悟る。
(・・・お前は幸せになってくれよ、唯子。)
彼の脳裏に浮かんだのは、大切な人の笑顔だった。
この物語は、ごく普通の青年、とはいえないとある一人の学生の『英雄譚』である。
そして時は少し遡る。
場所は約三か月前の日本、何の変哲もない高校、そこからすべては始まった。
「いやぁ~、今日もいい天気だねえ。」
そういって教室の中に入ってきた一人の少年。
至って普通の黒髪に、黒瞳。痩せても太ってもいない、どちらかといえば引き締まった体系をしたその少年は、日本中のどこにでもいるであろう容姿の少年。と言うのが彼の言い分だが、実際は結構整った顔立ちで、成績優秀、運動神経抜群の文武両道、才色兼備な少年だ。
彼はここ、『四葉森高校』に通う生徒、゛如月龍斗゛である。
彼の特徴を上げるならば、それは彼の性格についてだろう。
単刀直入に言うと、所謂お人好し。
将来の夢は人の訳に立つこと、というぐらいのレベルのだ。
「んっんん~。」
鼻歌を歌いながら黒板を消す龍人。
「おっはよう~!」
元気いっぱいのあいさつと共に教室に入ってきた少女に、龍人は声をかける。
「おお、唯ちゃん、おは~。」
「りゅーちゃん、オハー。」
気の抜けるような声の応酬が繰り広げられる。
少女の名は゛水無月唯子゛。
龍人とどういう関係かと言われれば、恋人ではなく、幼馴染である。
腰あたりまで伸びた黒髪に、驚くほど白い肌が眩しい、街中を歩けば十人中十三人が振り向くぐらいぐらいの美少女だ。
「今日も教室キレ~だねぇ~。」
唯子が教室を見回してそう言った。
「ホント龍斗は掃除好きだよな。」
「「うわっ!」」
突然後ろから聞こえてきた声に二人して飛び上がる。
「お前ら相変わらず仲良いよな。」
「おはよう。そういうお前は相変わらず生きてんの?って、聞きたくなるほど存在感薄いな。」
「あはは~、足はきちんとついてるのにねえ~。」
龍人と唯子の総攻撃を受けて地面に突っ伏しているのは゛北島晴翔゛二人と同じく幼馴染である。
「おおう、精神が、ガッツリ削って行かれたよ。」
「じゃあ、俺寝るわ。」
「おやすみ~。」
「あれ?俺、ガッツリ無視?」
「え~Xの二乗は、Yの三乗に等しいので~。」
教室にチョークの音が響く。
「なあなあ、龍斗、やっぱりキョーコちゃん可愛いよな。」
ニタニタといやらしい笑いを顔に貼り付け、同意を求めてくる晴翔。
「お前、そんなこと言ってたら美奈ちゃんのスープレックス喰らうぞ。」
龍斗の言う美奈ちゃんとは゛宵奈賀美奈子゛、晴翔の彼女である。
席の配置が龍斗の右隣りに晴翔、左に唯子、唯子の二つ隣に美奈子がいる。なので聞こえはしない・・・が。
「ねえねえ、美奈ちゃん。きっちゃんがこんなこと言ってたよ。」
晴翔には味方が少ない。
その光景を目にした晴翔の顔は、みるみるうちに青ざめていく。
龍斗がふと興味本位に美奈子の方に目をやると、そこには・・・
「ハ~ル君♪」
背後に阿修羅を控えた、笑顔の美奈子がいた。
龍人が、晴翔の肩に手を置き、心の底から呟く。
「晴翔、元気でな。」
「短い、人生だった。」
この後の休み時間、体育館の裏に、謎のクレーターができたことは龍斗達4人の秘密だ。
「あれはどう考えても、お前が悪い。」
帰りのホームルームが終わり、みんなが帰りの用意をしていた時だった。
「だよねえ。あれは浮気発言だよぉ。」
今、晴翔は美奈子から受けた傷も癒えぬまま、本日二度目の精神攻撃を受けていた。
「シクシク・・・」
美奈子は泣いている。
「あ~あ、美奈ちゃん泣いちゃった。」
「きっちゃん泣~かした。」
龍斗と唯子の追撃は止まらない。
「ほんっとうに、申し訳ありませんっしたぁ~!」
晴翔はというと、数学の後からというもの、暇さえあれば、ずっと土下座している。
「おいおい、どしたんだお前ら。」
「あれあれ、我がクラスの誇る二大おしどり夫婦がやばいことになってるな。」
クラスの生徒は一人も帰らず、コントじみた二人のやり取りを見ている。
このときのことを、ここにいる全員が、一生忘れることは無いだろう。
突然、足元に浮かび上がるいく筋もの曲線。
それらが繋がり、規則的な模様が描かれる。
「な、なんだよ、これ・・・」
「おいおい、これなんかやばいんじゃ・・・」
何人かの生徒が、戸惑いを隠せずにいる。
「皆っ、急いで教室の外に出てっ!」
担任の杏子先生が声を張り上げ、避難を促すも、だれも動かない、いや、動けない。
やがて、すべての曲線が繋がり、強烈な光と共に、《四葉森高校》の一クラス分の生徒が、地球から姿を消した。
遠くから俺を呼んでいる声がする、誰かが、俺を呼んでいる。
(誰だ、俺を呼んでいるのは。)
゛くすくす、貴方は、弱いわね。゛
その声は、俺の中に流れ込むようにして伝わってくる。
(俺が、弱い?誰かは知らないけど、突然何言ってんだ。)
゛まあ、今はわからなくてもいいわ。でも、貴方はいずれ、必ず力を欲するはずよ。゛
(はあ?ホントになんなんだ。)
゛ふふ、私が何を言っているかは、いつか必ずわかるわ。゛
(お、おい!)
なにかを言おうとして、そこで俺の意識はブラックアウトした。
「ねえ、龍斗、龍斗ってば!」
また、誰かが俺を呼んでいる。
でも、この声は知っている。唯子の声だ。
「ん~?どこだここ。」
目を開けて、あたりを見回すと、教室にあるべき机や椅子はなく、中世ヨーロッパの城の内部を思わせる造りの部屋だった。
「わかんないけど、学校じゃないことは確かだね。」
「そうだね。」
「そうだよね。」
唯子の考えに、晴翔と美奈子が頷く。
「なんだってんだよぉ~。」
「どこだよここ!。」
「これは!・・・ぎゅふふ、来た来た、ついに、俺の時代が来た。チーレム王に、俺はなる!」
約一名を除いて、みんな戸惑っている。
(おいおい、これってもしかして・・・。)
俺自身も、冷静を装ってはいるものの、内心かなり精神状態がヤヴァイことになっている。
そんな俺たちにかけられる声。
「勇者様方、突然呼びして申し訳ありません、どうか、この世界を救ってくださいッ!」
声のした方を見ると、きれいなドレスに身を包んだ女性が、土下座をしていた。
この時、龍人の頭の中には一つの可能性が浮かんでいた。
≪異世界転移≫
ラノベとか、ゲームとかでよくあるあれだ。
異世界のお姫様が、人類を救うために勇者を呼んで、魔王を倒したりするあれだ。
龍斗自身、その類の小説をよく読んだりしていた。
もしも、本当にそういったことに巻き込まれたとすれば、お決まりのアレがある。
所謂、≪能無し≫の存在だ。
こういった話は基本、呼び出された人間には、何かしらの特別な力がある。
しかし、その中に一人だけ、なんの力も持たなかったり、大した力じゃ無かったりする奴がいる。
まあ龍斗の心配する可能性というのは、゛自分がその≪能無し≫なのではないか゛ということだ。
それはあくまで、話を盛り上げるための設定であり、可能性でしかないのだが・・・
この世界には、゛フラグ゛というものがある。
はたして龍斗の心配は杞憂に終わるか、的中するのか・・・
「―ねえ、龍斗ってば。」
「ああ、ごめん、考え事してた。何?」
「それがさあ、みんななんか興奮しちゃって、だからどうしよっかて話してたとこ。」
「ええ?めんどくさいなあ。」
別に自分がそれを収めるわけでもないのになぜかめんどくさがる龍斗。
「で?どうすんだよ。」
と、晴翔。
「私はハル君についてくもん♡」
と、美奈子。
「じゃあ俺は面白そうだから参加に一票。」
と、龍斗。
「それさんせー。」
と、唯子。
「「「「てことは・・・」」」」
「満場一致?で参加決定だよな」
龍斗が締める。
「あれ?俺の意見取り入れて泣くね?」
とことん可哀想なリア充、晴翔であった。
俺たちが召喚された後、何とかみんなが落ち着き、俺らは説明があるといわれ、王室に案内されていた。
「なあ、如月。」
そういって俺に声をかけてきたのはクラスの代表的存在の゛梶山光輝だった。
「どしたの、光輝。」
「・・・お前の口調には突っ込まないけど、これどう思う?」
「これって、あの姫さんの言ってたことか?」
「そうだ。」
光輝の言っていることはわかる。
確かにこんな突拍子もないことを言われてハイそうですか、と頷けるほど甘くはない。
「まあねえ、光輝の言ってることももっともなんだけど、ここは言うことに従うしか無くない?」
「確かにそうなんだが、もしものときってのがあるだろ?」
「いわれてみればそうだな、さすが天才。」
「・・・お前に言われても皮肉にしか聞こえないんだが。」
龍斗は本心から天才といったのだが、全国模試で、10位内に入る奴に言われても皮肉にしか聞こえないのは当たり前である。
「ま、ともかくだ、今はなるようにしかならないってことだよ。」
「そうだな。」
「して、メリアよ、この方たちが勇者様なのか?」
「はい、そうですお父様。」
今おれたちは王室にいる。
そこで王様からの説明を受けるらしいんだが・・・なに、この人?
俺たちの目の前には王座っぽいのに座ったガチムチのナイスガイがいた。
姫さん(メリアというらしい)を見るには、真っ白な肌が眩しい、これぞ異世界人!って感じの金髪碧眼の華奢な可愛らしい女の子なのに、なのにだ。
今目の前にいるのは姫さんとの血の繋がりどころか、人なのかどうかすら怪しい生き物がいる。
「・・・・・・」
あの光輝ですら唖然としている。
(遺伝子ってなんだっけ。)
そんなことを考えていた時だった。
「おほん、まずは勇者様方には、謝罪せねばなりますまい。」
と、国王?が急に土下座しだした。
・・・なんだろう、この世界って土下座があいさつ代わりなのかな?
「勇者様方の都合も考えずに、この世界に呼び出してしまったこと、心より謝罪しまする。」
「!お、王よ!何もそこまでせずとも・・・」
「そうですぞ、この者たちには世界を救うという大役を与えてやったことに感謝してもらわなくてはいけないほどで―」
何やらおかしなことを言いだす奴に、王が喝を入れる。
「ええいやかましい!貴様らにはいっとらんっ、目障りだからでていけっ!」
王に言われては従うしかないのか、すごすごと退室していく大臣っぽい人たち。
「あ、あの―。」
光輝が勇気を振り絞ってクラスを代表して国王に話しかける。が、しかし。
「本当に、本当に申し訳ありません。」
「申し訳ありません。」
と、姫さんを追加して、土下座し続けている。
「あの、すいません。」
さらに光輝がコンタクトを試みるも―
「申し訳ありません、申し訳―」
国王が二回目の謝罪を口にしかけたとき。
「うるっせーんだよ!謝ってばっかいねーでとっとと説明しろよ!」
とうとう光輝がキレた。
光輝の顔を見ると頭が痛そうにしている。
「ああっ、申し訳ありません。」
光輝の怒りもむなしく、この後同じようなやり取りが数回繰り返されましたとさ。
「で、どういうことか、早く説明してください。」
ムスッとした顔で光輝が話題をきりだす。
あの後、王室にまともそうな騎士の人が入ってきてくれて、何とか国王の暴走を止められた。
何でも国王はついこの間まで王位継承権がないに等しい立場の王子だったらしく、いきなり冒険者から国王になったものだから、仁義を通さないと気が済まないらしい。
「ああ、それでだな―。」
こうしてようやく、威厳を取り戻いた国王による説明が始まった。
「あなた方勇者様には、この世界を脅かす、邪神をたおしてほしいのだ。」
その言葉に、クラスの大半の生徒がやっぱりか、というような顔をした。
「邪神、ですか?それはいったいどういった者なんでしょうか。」
と、今度は杏子先生が問う。
「邪神とはこの世界の神代の時代から存在する悪しき神。その力は強大で、その力の十分の一で、一つの国を滅ぼすことができるのです。」
「はあ、十分の一・・・」
正直に言って、そんな例えをされても全く理解し辛い。
「それをあなた方に討伐、もしくは封印していただきたいのです。」
その言葉に、俺はついさっき抱いた疑問をぶつける。
「ちょっと待ってください、そんな強大な力を持った存在を俺らに倒すことなんてできるんですか?」
一部を除いて、俺たちは何の変哲もないただの一高校生だ、それにそんな大それたことができるとは到底思えない。
「そのことなんですが、貴方たちには特別な力が授けられている筈です。それに加え、一般人の基本ステータスは5なのでそれよりも多い方が大半の筈です。」
と、姫さんが少し落ち込んだテンションで言ってきた。
「力・・・ですか?」
「はい。」
杏子先生の問いに、短く答える姫さん。
「そのことについては私が答えましょう。」
そういって、一歩前に出てきた騎士の人。
「申し遅れました。私はアルカナ王国の騎士団長を務めております、゛シルバニア・カーディス゛と申します。気軽にカーデと呼んでください」
ワオ、まさかの騎士団長かよ。しかもシルバニアって、どこのファミリーだよ!
「それで力のことなんですが、みなさん、心の中で≪ステータス≫と、唱えてみてください。」
べただな、おい。
なんて内心毒を吐きつつも、言われた通りに心の中で唱える。
すると。
《如月龍斗:16》
称号:異世界人、高校生
Lv:1
HP:F
MPF
筋:F
知:F
運:F
天職:無し(仮)
スキル:如月流、位置交換
これ、絶対に、外れだよな。
ほかのみんながどんな感じなのかは全然わからんが、絶対に、自身を持って、外れと言えるよ。
予感が見事に的中じゃねえか。
・・・一応、スキルが確認出来るみたいだからやっとこ。
スキル『位置交換』
レア度:R
説明
位置を交換する。
・・・・・・ゑ?
もう一回見て見るか。
説明
位置を交換する。
・・・え、ナニコレ雑。スキル名のまんまじゃねぇかよ。
え、マジでこれだけ?!
いや、いってることは正しいんだろうけどこれは・・・解せぬ。
い、いや。諦めたらそこで試合終了だと、安○先生も言ってたじゃないか!
諦めるんじゃァ無い。
もっと熱くなれよぉ!
あ!来た!なんか浮かんできたよ、これ!
よしこい!こい!
そして遂にその時はやって来た。
説明
位置を交換する。
これ以上は特にないかな。
「・・・・・・・」
もう、終わりだね。
君が、たこ焼きに見えるぅ。
っは!今一瞬意識が飛んで訳の分からないことを口ずさんでいた気がする。
チックショォー‼
俺の努力返してぇ~‼??
ってん?
これは・・・
説明
位置を交換する。
これ以上は特にないかな。
P.S.因みに、範囲は5メートル以内。
対象に出来るのは人種のみ。
ははは、俺のスキルが外れなのを確信させてくれてありがとよ。
「みなさん、確認できましたか?」
カーデの声に、みんなが反応する。
「ステータスの見方としましては、アルファベットのFが最低となり、E,D,C,B,AそこからはS,SS,SSS,EXまでのランクに分けられています。」
ゑ?ステータスが全部最低ってそれなんてムリゲー?
唯や、晴翔に聞こうと顔を見るが、首をかしげて、聞ける雰囲気ではない。
「では、天職の欄に、勇者とあった方。」
カーデがそう聞くと、四人の手が上がった。
光輝、晴翔、唯子、美奈子の四人だ。
その四人を見て、カーデが不思議そうに、小首をかしげる。
「おかしいですね、勇者は五人いる筈なんですが・・・」
その言葉に、なぜか全員の視線が俺に集まる。
「な、なんだよ、俺じゃねえよ。」
と、素直に言うと何人かは信じられないというような目で俺を見てくる。
そんな不思議な沈黙を一人の男が破る。
「くひっ、クヒヒ。俺だよ、五人目の勇者は。」
そういいながら、手を上げたのは、この世界に来たとき、訳の分からない世迷いごとをのたうちまわっていたあいつだった。
クラス全員が、そいつのことを、汚物でも見るような目で見る。
そいつの名前は゛八茎藻蕊、とある事件以来、クラスの厄介者になっている奴だ。
「そ、そうですか、ではこちらに来てください。」
カーデが引きつる顔を必死に抑え、手招きする。
「ちょっと失礼。」
そういって、光輝の肩に手を置くと、その直後、壁に大きな画像が映し出された。
《梶山光輝:16》
称号:異世界人、高校生、選ばれしもの
HP:B
MP:A
筋:E
知:S
運:C
天職:智の勇者
スキル:全属性魔法、派生魔法
固有スキル:広範囲爆裂魔法≪エクスプロージョン・マキシマム≫
なんかスゲエ、さすが勇者というべきか、全然強いな。
周りからも「おお~」て言う感心の声が聞こえる。
「では次。」
というと晴翔の肩に触れる。
《北島晴翔:16》
称号:異世界人、高校生、可哀想な人、選ばれしもの
HP:S
MP:D
筋:S
知:E
運:C
天職:破壊の勇者
スキル:ブースト、アクセル
固有スキル:クラッシュソード
なんかちょっとカッケエ、え、何うらやましい。
でもなんか称号に変なのがあったような?
晴翔もなんかわめいてるし・・・まあいっか。
「じゃあ次はお嬢さん。」
そういって唯子の肩にカーデが手を触れようと、手を伸ばした時だった。
「ちょっと待ってください!」
(なんだ?唯子にしちゃえらく焦った口調だな・・・)
カーデの手を払い、唯子が叫んだ。
「なんで私たちに勇者の資格があってりゅーちゃんにはないんですか!?」
おいおい、唯さんや急に何言ってんですか。
「いや、それは私には・・・」
ほら、カーデさん困ったような顔してるじゃん。
「それはそいつが無能だからだよ、唯子。」
と馴れ馴れしく、唯子を呼び捨てにする藻蕊。
「ほら、カーディス、あいつのステータスを映し出してやれ。」
今度はカーデに命令口調で話す。
こいつ、調子に乗ってんな。と、多少冷静な頭で考える龍人に、カーデが申し訳なさそうにする。
「すまない、こちらの都合で呼び出しておいて、こんなことをするのは間違っているのは理解しているが・・・許してくれ。」
この人には何の罪もないのにな。
「全然かまいませんよ。」
「本当に、すまない。」
謝罪の一言と共に、俺の肩に、手が置かれる。
すると、先ほどと同じように、壁に俺のステータスが表示される。
それを見た藻蕊は。
「きひひひひっ、やっぱりカスじゃねえか、特にこれと言ってチートもねえ、無能だな。」
下卑た笑みを浮かべ、こちらに向かってくる。
「きひっ、これはとりあえず、あんときのお返しだ。」
そういってけりを入れようと、藻蕊が力んだ瞬間。
「げぶっ!」
脚を滑らせ、藻蕊は盛大にこけた。
それを見ていた全員が一斉に噴き出す。
「って、テメエら覚えていやがれ。」
そういって、藻蕊はどこかへ走り去っていった。
それを引き留めようと、カーデが後を追おうとするが、龍人がそれを許さない。
「あいつのことはほっておいてはもらえないですか、カーデさん。」
「・・・わかりました。」
俺の表情から何かを読み取ったのか、頷くカーデ。
「では、次の方。」
その後は特にこれと言ってアクシデントもなく、説明は終わった。
「それでは勇者様方、ささやかではありますが、宴の席を設けさせていただきます。それまでは部屋でおくつろぎください。」
国王が話し終わるや否や、どこからともなくメイドさんが出てきて、部屋へと案内された。
「うお、結構広いんだな。」
「それでは、私はこれで。」
と言って立ち去ろうとするメイドさんを、俺は慌てて呼び止めた。
「あの、すいません、暇なのでお城の中とか散策してもいいですか?」
「ええ、構いませんが、何かを壊したり、持っていったりするのはやめてください。」
そういうと、今度こそメイドさんはどこかへ去って行った。
「さ~てさて、お決まりの場内散策にレッツ・ゴー!」
とは言ったものの、どこへ行こうか。
なんか庭みたいなのもあったし、武器庫みたいなのもあったし。
悩んだ末に、とりあえず、屋上へ向かうことにした。
もうすでに夜中になっていたので、満天の星空が広がるのを見て、思わずつぶやく。
「ホントに、異世界なんだな。」
これと言って、星座に詳しかったという訳ではなかったが、夜空に瞬く見慣れた星々がないのは少しさびしさがあるがそこには、代わりとでもいうかのように、月ほどの大きさの真紅の星と、それよりも一回り大きな蒼の星が浮かんでいた。
ここは異世界なので、星々の瞬きを邪魔するものは少ない。
見事な星空に見惚れていると、ふと、人の気配を感じた。
「誰かいるのかな。」
さすがは王宮というべきか、屋上の広さは半端じゃない。
端の方まで歩いていくと、屋上の端に立ち、今にも飛び降りてしまいそうな姫さんがいた。
「クソッ!」
飛び出して引き戻そうとするが、到底間に合いそうにない。
その時、自分のステータスにあったスキルの存在を思い出した。
≪位置交換≫
このスキルなら助けられるはず。その思いから大声で叫ぶ。
「≪位置交換≫発動!」
その瞬間、龍人の体が、淡い光に包まれる。
姫さんの方も同じく。
「うおおおっ!」
気が付くと、いつの間にか、龍人は屋上のふちに立ち、姫さんの方はさっきまで自分がいたであろう場所にいた。
「あ、あっぶねえー。」
下手をすれば、自分が飛び降りることになりかねなかったことに、いまさらながら気が付く。
ふと姫さんの方を見ると、姫さんは肩を震わせて泣いていた。
「どうしたのさ。」
気まずさからついふざけてしまう。
「なんでもっ、ないです。」
見るからに何でもなくない様子で強がる姫さん。
「・・・俺で良かったら、話くらい聞くし、もしかしたら相談に乗れるけど。」
その声を聴いて、姫さんは涙でグシャグシャになった顔でこちらを向いた。
改めてよく見ると、とてもかわいいことに、いまさらながらに気付く。
涙で赤くなった頬が、少し、色っぽく感じる。
はっとして、たわけたことを考え始める自分に喝を入れる。
(はあ、いつから煩悩全開の猿になったんだ俺。)
男としてのダメさに、悲しくなる。
「恨んで、ないんですか?」
それは、悲しみに暮れる一人の少女がようやく振り絞ったか細い声だった。
「何がだよ。」
「それはッ!その・・・」
思いが爆発しかけ、それを抑え込むかのように黙ってしまう姫さん。
「姫さんが何を悩んでるのかはわからないけど、大丈夫だよ。」
自分で言っておいてなんだが、何が大丈夫なんだろうかと思う。
「ですが・・・」
また何かをため込もうとしている姫さんを、そっと抱きしめる。
「ほら、落ち着きなよ。」
俺の言葉に、まるでダムが決壊したかのように、姫さんは泣きじゃくった。
ひたすら泣いて、ようやく一息着いた頃、自分の失態に気が付く。
(ってううおオオオオォォイイ!何やってんの俺!何さりげなーく今日初対面の女の子に抱き着いてんの俺!あああアア死にてぇ!恥ずかし過ぎるぅぅ。)
こころの中で悶絶をする。
ヤバイ、俺が泣きたくなってきた。
「ごめん、勝手なことした。」
そういって姫さんを離そうとするも、姫さんは俺に抱き着いて、離れようとしない。
「あれ?姫さん?」
「・・・すいません、もうちょっとこのままがいいです。」
恥ずかしさからか、はたまた涙のせいか、姫さんは頬を赤く染め、俺の耳元でそっとつぶやく。
(ナニこの生き物、かわいすぎる!)
その上、姫さんは豊かな胸を、密着させてくる。
姫さんが故意にやっているわけではないとわかっているが、それでも、良いものは良い。
「聞いていただけますか?私の話。」
抱き着いたままの姫さんが、意を決したように問うてくる。
「もちろん。」
その言葉を聞き、姫さんは安心したように、言葉を紡ぎ始める。
「私は、後悔しているんです、たとえ世界が滅びようとも、異世界の住人である貴方方をこの世界に呼び出してしまったことを。」
「なんで?」
「何故って、それは、私はあなた方の人生を狂わせたんです、そんなにも大きな罪を気にせずにいられるほど私は無責任ではありません!」
きっと、俺たちを呼び出す準備をしていた時から、ずっとため込んでいたんだろう。
姫さんは怒っている。
自分の罪深さを。
自分の弱さを。
自分の、情けなさを。
そんなものすべてを吐き出すかのように、姫さんは続ける。
「私は、みなさんの人生を狂わせたのに、だれも私を責めようとしなかった。それどころか、あんな無茶苦茶なことを、引き受けるとまで言われて、心底自分の汚さがいやになりました。」
「汚さねえ。」
その言葉に、思うところがあり、俺が姫さんに問いかける。
「なあ、姫さん、さっきからずっと俺たちが姫さんのこと恨んでるみたいなこと言ってたけど、誰かにそう言われたのか?」
「それはっ、言われてませんが、でもっ!」
また暴走しかける姫さんを宥め、自分の考えを告げる。
「姫さん、たぶんだけどさ、あいつらは姫さんのこと恨んでないし、そもそもこの世界に呼び出されたことも気にしてないよ。」
「へ?」
何を言われたか理解が追い付いていないからか、呆けた顔になる姫さんに思わず笑ってしまう。
「俺もどっちかて言うと、感謝してるしな。」
「な、なんでですか、そんな急にこんな世界に呼び出されて、嬉しいわけ・・・」
言いよどむ姫さんに、笑いかける。
「まあそうだよな、普通は。でも俺たちは普通じゃないからな、その例として、少し、俺の身の上話をしようか。」
「・・・ハイ。」
突然始まった話に、小首をかしげる姫さん。
「俺にはさ、親がいないんだよ。父さんも母さんも。俺が8歳の時に殺されたんだ。」
「えっ!」
口元に手を添え、信じられない、というような顔をする姫さん。
「父さんと母さんは俺をかばって死んだんだ、空き巣に入ってきた強盗にね。」
あの時のことは、今でも思い出せる。
「だから俺には、あっちの世界には特に未練はない。こっちの世界には、俺の唯一の家族ともいえる奴らがいる。残してきたものは、何もないからな。」
「そ、それは・・・」
何を言えばいいのかわからずに戸惑う姫さんに、もう一度笑いかける。
「別にそんな境遇に立たされてるのは何も俺だけじゃない、ほかのみんなも大して変わらないからさ。」
何らかの理由で親を失った学生の通う学校、それが『四葉森学園』だ。
「それどころか中には向うの世界をうらんでる奴だっているよ。だからこの世界に呼ばれたことは、驚きこそすれ、君を恨む奴なんてそういない。」
「でもっ、でもッ―」
「わかってる、それでもそうと割り切れないのは。でもさ、それをため込んじゃいけない、誰かに話して、楽にならないと、心が死ぬ。君は一人じゃないんだろ?だったら誰かを頼るんだ。なんだったら俺がいつでも話を聞くからさ。」
「・・・・・・」
俺の話を聞き終わる頃には、強張っていた姫さんの顔はほぐれ、憑き物が落ちたように、笑っていた。
「いいんでしょうか。私なんかが、救われても。」
「もちろんだ。」
俺はできる限りの笑みを込めて、そう答えた。
「じ、じゃあ、さっそくお願い、してもいいですか?」
「オウ!」
「その、ぎゅ、ギューってしてください。」
・・・・・・ゑ?
「ごめん、聞こえなかった、なんて?」
「ギューって、抱きしめてください!」
二度目にはもう迷いなく、どこか吹っ切れたように、確実にそういった。
「・・・わかったよ、ほら。」
話を聞くといった手前、断ることもできずに、姫さんの要望に応える。
できるだけ優しく、でも、力強く。そんな矛盾した力加減で、姫さんを前から抱きしめる。
「あ、ふわあぁー。」
気の抜けるような間延びした声で、姫さんが声を出す。
もうそろそろか、と思い姫さんから離れようとしたとき。
『バンッ』
という音と共に、屋上のドアが勢いよく開かれる。
「姫様~どこですかぁ・・・あ。」
俺と目があった瞬間から、尻すぼみに小さくなっていくメイドさんの声。
「し、失礼しました~。」
ゆっくりとしまっていく扉と、顔を真っ赤にして「キュウ~」とうなる姫さん。
ちょっと待て、メイドさん。アンタは重大な勘違いをしてるぞ。
俺と姫さんの初会話は、とてつもない勘違いを代償に、無事終わりましたとさ。
あの後、急いでメイドさんを見つけ、俺と姫さんで説得し、何とか黙らせることに成功。
その後の宴もつつがなく終わり、今後の予定が話され、俺は今、与えられた部屋で一人、物思いにふけっていた。
「明日から、訓練始まるのか。」
カーデの話では明日から三か月間、この世界の魔物に対する知識や、常識など、戦闘の仕方について訓練があるらしい。
俺は別に参加しなくてもいいといわれたが、いつまでも無能のレッテルを張られたままでは気に食わないので、参加することにした。
「まあ、今から考えててもしょうがないしねえ。今日はもう寝るか。」
そういって俺は、微睡の中、意識を手放した。
それからの三か月は飛ぶように過ぎた。
その間、何度か姫さんと話し合ったりして結構仲良くなったりもした。
そして今日、俺たちは初めて城の外に出て、とある場所に向かっている。
『ダンジョン』、そう呼ばれる魔物のたまり場だ。
「お前ら。もうここからは魔物が湧き出す、気をつけろ。」
先導する冒険者が声を張り上げる。
ダンジョンの中は洞窟の様で、時折蝙蝠なんかがいたりした。
この時、みんなは注意力が欠けていたに違いない。
こころ強い味方がいる上に、ここはまだダンジョンの低層、何の脅威もある筈はなかったのだ。
「わー見てみて、これ、きれいな花だねー。」
そういって、唯子が列から一歩、外れた瞬間だった。
『ガラガラっ』
唯子の足もとは崩れ去り、大きな口を開けて唯子を飲み込もうとしているように見えた気がした。
「唯ちゃん!」
この時は何も考えていなかった、ただ、彼女を助けたい、その一心で。
「≪位置交換≫、発動!」
叫んだ、次の瞬間には、俺は重力に誘われるまま、その穴に落ちて行った。
だが、このままでは確実に誰かが俺を追うだろう。その可能性を考え。
「≪土魔法≫発動!」
練習の末、ようやく習得に至った土魔法を持ってして、完全に穴をふさぐ。
唯子は守れた、この後は光輝か晴翔に任せよう、そんな思いを胸に、俺はそこすら見えぬ穴に吸い込まれるようにして、落ちて行った。
そうして、冒頭に至る。
おかしい、なんで俺は意識があるんだ?
それにきちんと自分の足で立っている感覚も。
「誰かいませんか~?」
ためしに声を出してみたがきちんと声が出た。
「どうなってんだ、俺確かに死んだよね?」
誰ともなくつぶやいただけの問いに、答が返ってくる。
「そうだねえ、死んじゃったよ。」
「うえっ!誰?」
後ろを振り向くと、立派なひげを生やした爺さんが経っていた。
「ああ、わし?わしは君たちに言うところの神様じゃ。」
この時、俺の運命は、大きく変わった。