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第11章:暴かれし荒野 その6

「大陸全土の魔物がアルデガンに封じられて二百年もの間、他の地と同様この東の地も魔物どもの脅威に表だって晒されることはなかった。尊師アールダが洞窟の吸血鬼の存在を示唆されたにもかかわらず、ユーラの村の滅亡にも吸血鬼の介在の痕跡はなく、隠然たる不安を拭い得ぬままそれでも他の地と同様、安寧にまどろんでおったのだ」

 岩を背に座した老修道士は意識のない院長の上体を自らの体にもたせかけつつ口火を切った。おのずと囲む形になった三人も、めいめい腰を下ろして次の言葉を待った。けれどアルバはすぐに言葉を続けることなく、目を閉じたままのオルトの顔を見つめていた。そのまなざしにこもる思いは、アラードにとって判じ難いものだった。


「それはわがアーレスとて例外ではなかった。当初はアルデガンとこの地を繋ぐ役割を担いし東の櫓も、人や物の行き来が細るに従いただの僧院に姿を変えていった。そなたらが身を張って怪物どもと対峙してくれる背後で、同じ教義を奉じる侍祭どもの脳裏からさえ、魔物どもの実感は薄れていったのだ。そして非力なるわしは、それを押しとどめることができなんだ」

「老師よ気に病まれるな。アールダ師はこの世の災いを一つ処に集め、それをもって諸国の民の安寧を願われた。かの地で戦った同胞に覚悟なき者はなかったと、俺は信じている……」

 そのボルドフの言葉の語尾に僅かに絡む苦い響きに老アルバが気づけたかどうか、アラードには判じられなかった。師の言葉の苦みはアルデガンの崩壊に立ち会った者ならではのものであることを、赤毛の若者もその場に居合わせたからこそ察しえたのだったから。


 老アルバが語った外界の変化は、アルデガンにおいては支援の低下という形で露わになっていた。そして封魔の城塞が破られる事態を直接招いたのは、正面の魔物ではなく背後の人間だった。アルデガンのある北国ノールドに攻め込んだ中原の大国レドラスが、攪乱の一環としてアルデガンに巨大な火の玉を放ったのだ。その炎を防ぐため、大司教ゴルツは洞窟を封じていた宝玉の力を解放せざるをえず、ために結界は破られた。それはアルデガンの守り手たちにとって、守ってきた者たちに裏切られたとの思いを多少なりとも感じさせずにいないことだったのだ。そんな感慨に陥りかけた若き剣士を、話を戻した老修道士の言葉が現実に引き戻した。


「一応はラーダの教えを奉じる侍祭どもでさえ、目にすることもなくなった魔物を念頭に厳しい修行を修めることはできなんだ。自らが享受する平和が血で購われたものであると実感することもできぬまま、ただ清貧に甘んじて平安が続くことを願っておったのが実状だ。二百年にもおよぶ安寧はそれが得難くもかけがえのないものであることを忘れさせ、この東の櫓においてさえ、高き志はおろか野心めいたものすら抱くことなく日々の勤めに埋もれゆく者ばかりだったのだ。だが、この者だけは違った……」

 昏睡から醒めぬオルトに再び向けられたアルバのまなざしに、アラードは深い情を認めた。続く話がどのようなものか、なぜか窺い知れるような心地がした。


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