第11章:暴かれし荒野 その5
「そいつを見るな。惑わされるぞ。撃つなら目を閉じて気配を狙え!」
「そんな無茶な!」
ボルドフに怒鳴り返しつつセイレーンめがけて炎を放ち続けるオルトだったが、踊るように身を翻す妖鳥に躱されているうちに放つ火線が乱れ始め、ついに悲鳴にも似た叫びをあげる!
「ぶ、分身するとは小癪な。ならば残らず焼き払ってやる!」
「いかん! みんな身を隠せ!」
ボルドフが叫んだとたん、オルトの炎が所かまわず乱れ撃ちを始め、一行はあわてて身近な岩陰にバラバラに身を隠す。すると岩棚の上の魔獣が身を起こし飛び立つや、手近のアラードめがけ飛びかかる。迎撃すべく振り抜かれた剣が前足の爪と噛み合ったが、巨獣の勢いに剣筋が逸れ体勢を崩されたとたんわき腹を襲う毒刺の一撃! 地に転がって躱す赤毛の若者に迫る爪と牙!
「アラードっ」
グロスが叫んだとたん魔獣が突然身を翻し、苦し紛れに振るう剣の切っ先を飛び越えざまに再び空へと舞い上がる。跳び起きたアラードを旋回しつつ見おろす人面の獣の牙持つ口が、唸り声で紡ぐその言葉!
「デハ貴様カ。赤毛ノ者ヨ」
「なにっ?」
耳を疑い棒立ちになる若者すれすれに着弾する炎! あわてて岩陰に屈むその耳にグロスの唱える呪文が届く。何度かそれが繰り返された後ついに術を放つオルトの踊るような動きが止まり、糸の切れた人形のごとく倒れ伏す。呪文の乱発に消耗した精神がようやく眠りの呪文に屈したのだ。岩陰から転げ出るようにしてオルトのもとへ駆け寄るや上空を警戒する一行。だが宵闇深まる空には、もはや魔物たちの影さえなかった。
「逃げられたか……」
「いや、助かったというべきだろう。一つ間違えば死者が出てもおかしくない状況だった」
グロスとボルドフの言葉を言葉を耳にするや、自分をかすめた炎の凄まじい熱がアラードの脳裏に甦った。もし直撃していたらと思ったとたん、赤毛の若者は声に怒気がこもるのを抑えられなくなった。
「軽率な! 正体も知れぬ相手をむやみに攻撃するなんて!」
「我らの未熟ゆえの事態。すまぬ。詫びる言葉も見つからぬ」
「い、いえ。老師に申し上げたのでは……」
跪かんばかりのアルバにアラードがどぎまぎしているところへ二人の師もやってきた。そしてボルドフが問いかけた。
「院長どのはなにをこれほど焦っておるのだ? 訳を教えてもらえるだろうな」
「……お恥ずかしい限りじゃ」
アルバの声は、苦渋に満ちたものだった。




