第11章:暴かれし荒野 その1
岩山の麓に口を開けた洞穴の両脇で、二頭の魔物がその場所を守る彫像のように向き合っていた。大きく傾いた午後の日差しが魔物たちをまともに照らし出していたが、その姿は守護の彫像によく見られるような対をなすものではなく、むしろあらゆる点で正反対といえるものだった。
洞穴の左横に座るのは黒一色の獣だった。獅子に似た巨体を覆う体毛は毛足が短く、分厚い筋肉の起伏を容易に見て取れた。背に折り畳まれた皮の翼や先端に鉤のように曲がった太い刺を持つ尾、そして老いた男にも似た顔面には毛がなかったが、黒い体色はその異形に統一をもたらしていた。
右横で黒き獣に対面するのは極彩色の鳥だった。若い女のような白い顔には髪の代わりに虹色の長い羽毛が滝のように流れ、光沢を帯びた群青の翼や孔雀のような文様をちりばめた金色の尾羽ともども光り輝いていた。黒き魔獣の目の前で鮮麗な妖鳥は目を閉じていたが、その瞳が紫の宝玉のようであることを影のごとき魔獣は知っていた。
陽光を浴びた岩壁を背景にする黒い影や極彩色のきらめきは、遠目にも目立つはずだった。だが通りかかる者がいたとしても、彼らの姿ばかりか洞窟すらその目に映ることはないのだ。妖鳥の持つ幻惑の魔力はこの場をいくらか起伏があるだけの岩壁に見せかけていた。魔物たちの姿さえそんな岩の出っ張りとしか見えぬはずだった。この地へ飛来する途上、群雲にその身をやつしていたように。
だが輝く妖鳥が目を閉じているのは幻惑の術をかけるためではない。セイレーンにとってそれは自然に備わった能力にすぎず、なんら負担になるようなものではなかったから。感応力に秀でたこの妖鳥は洞窟の最奥にいる少女の姿の吸血鬼の、魔性に堕ちてなお失うことのなかった心に触れているのだ。ただでさえ色白のその細面は蝋のように色を失い、苦痛と悲嘆、そして決意めいた表情がないまぜになったような状態で、もう長い間硬直したままになっていた。
それはある程度まで、黒い魔獣も感じているものだった。本来マンティコアにはセイレーンのような感応力はなかったが、あの少女が持っていた生来の感応力はその身が人外のものとなったことで、人間ならざるものの心にも様々なものを伝えうるまでに強化されていたのだから。そして人間に似た頭部ゆえ脳や発声器官もまた人間に近かったこの二体の魔物は、それを感受する素質がそれだけ高くもあったのだ。
だが、彼らが異種族である人間や他の魔物と心を交わすことができる理由はそれだけではなかった。ガルムと名付けられた黒き魔獣は、かつて人間により追い込まれ封じられていた洞窟の中で全ての魔物を守護していた、炎を糧とする金色の翼の魔物を思い返していた。




