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第10章:禁断の魔牢 その4

 指の欠けた手を淡く光る水晶玉にかざすと娘の虚像はかき消され、光でできた枝を寝かせて複雑に組み合わせたようなものが玉の真上に展開した。それは洞窟の通路の全容を表すものだった。通路の壁に埋め込まれた水晶玉がこの玉に感応することで、彼は闇を駆ける娘の動きを追っているのだ。


 分かれ道にたどり着いた娘は左の上り坂への道を選んだ。だが通路の途中にある部屋に入ってほどなく出てくるとなぜかそこから引き返し、真ん中の分かれ道を進んだ先にある分かれ道を左に進み、いくつも待ち受けるさらなる分かれ道にもほとんど迷う様子も見せず、やがて一つの部屋にたどりついた。そこは最初の部屋の真下にある、魔法陣で結ばれた部屋だった。そして再び部屋を出ると最初の分かれ道まで戻り、今度は真ん中の道を選び進み始めた。

 そこからの彼女が見せた行動は驚くべきものだった。いかなる力によるものか娘は通路の上下にある魔法陣の位置がわかるらしく、魔力の通り道に差し掛かると必ずその位置を確かめるように天井と床に視線を向けた。そしてほとんどの部屋を無視して通り過ぎる一方で、薬置き場の真下に位置する部屋に来ると必ず中を確かめた。それを繰り返しながら娘は複雑な分かれ道にも迷わず地下牢のある最下層めざし洞窟を駆け下りつつあるのだ。


 薬置き場の魔法陣を調べていた様子から見て、娘はその用途を察したらしかったが、文字は読めるようなのに転移の呪文を探り当てられずにいる様子なのが不思議だった。村で見た炎の壁の術からさぞ強力な術者だと思ったは己が見込み違いであったのか、他に仲間でもいるのやもしれぬと男は訝った。この地獄のごとき洞窟で魔道の術に苛まれつつ、苦悶を手がかりに術式を読み解き黒き邪法師に堕ちるしか生きるすべがなかった男。外界から隔離された陰惨なる人生には体系的な知識を得る機会のあろうはずもなく、系統の異なる魔法の存在など知るすべもないことだったから。

 とまれ娘が自分の求める秘密に明らかに関わる者である一方、手練れの魔術師の素性は全く不明。となれば娘の捕獲と魔術師の排除こそがなすべきことなのは明らかだった。予想外の侵入者を最初に知らせたゴーレムと感応する水晶玉を取り出し、呪うべきイルジーがかつて自分を追わせたときのように黒の導師は呪文を組み合わせて指示を出す。それに応じ、一体が相棒をそこに残したまま、地下牢に直結する魔法陣めざし薬置き場への通路を登り始める。石の巨人が魔法陣に足を踏み入れた瞬間さらなる呪文を唱えるや、顔面の水晶玉が放つ光に魔法陣が呼応し、伸び上がる赤き光の渦に呑まれた巨体が一気に薄れてゆく!



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 床から迸る巨大な赤い光に照らし出され、エルゼは意識を取り戻した。しかしその黒い瞳が最初に捉えたのは、天井にさえ頭が支えんばかりの怪物が鉄格子の向こうから迫りくる姿だった。恐怖のあまり尻餅をつき後退りする黒髪の少女の手首を、そのとき背後からむんずと掴む鋭い爪!


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