YOUR MY GUITAR
YOUR MY GUITAR
《登場人物》
奥田春奈(21)
PTSDで昔あった出来事の影響で顔に感情がまったくでない。怒鳴られたり殴りかかられると話せなくなるほど。日頃はギターを弾いてばかり。歌には抜群の才能を持っている。
天野彰人(22)
一言で言えば変わり者。春奈にずっと付いて彼女を支える存在。第2の主人公。謎の男でありながら実際は自由奔放な性格らしい
増田祐二(21)
ある出来事をきっかけに彰人に出会い彰人の下で働く。司法試験に合格するというかなり頭のいい人物。
相川馨(19)
祐二の恋人 音楽好きでバンドを組んで歌を楽しんでいる。見た目はかなり派手だが、実はしっかり者。
福田真一【会長】(60)
彰人の師匠
最近知り合いの芸能人を雇いプロダクション会社を始めた。
立川千尋(20)
美人で優等生。学生時代からかなりモテるが、一度も付き合ったことがない。ある事件に巻き込まれ彰人に命を助けられたことがある。彰人のことを一番よく知ってるらしい。
会社SCS
真一が造った会社。清掃とプロダクション会社で年商は150億円
第一章「二人の過去」
春奈は毎日家でギターを片手に歌う。何の夢も希望もない。命の続く限り生きていくしかないのか?そう思いながら毎日をまるでコンピューターで操られてるように生活していた。
住むところはあるが、親はいないらしく親族にも見捨てられ一人暮らしだそうだそこの隣の家にいる一人の男性がいる。 それが彰人。この2人の出会いは知られていない。2人はなぜか一緒にいるのだ。
物語はここから始まる。
春奈の家
彰人「春奈」
春奈はいつも歌を歌ってる。
春奈「早いな」
彰人「ああ仕事早かったから」
春奈「今日ってあたしの番?」
彰人「俺の番だよ。」
春奈「…」うなずく
彰人「最近曲書いてる?」
春奈「…まあ…適当に…」
彰人「そっか…」
話が止まりシーンとなる。まあいつものことみたい。実はこんな日々が1年続いてるんです。
そしてある日
彰人「今日は顔色わるいな」
春奈「なんか怖いの」
彰人「まさか昔の…」
春奈「そう…よく分かったな…」
彰人「春奈みたいに感情がないのは心に傷を負ってるからだと思ったから」
春奈「すごいな…」
彰人「昔何があったのかはなせる?」
春奈「知らない」
彰人「まあ俺も知らないけどね」
春奈の過去は詳しく知られていないが、両親は、春奈の家に強盗に入った男に殺されたそうだ。ある時に火事に遭い死にそうになったそうで、それ以上は知らない。
春奈「…今は知らないままでもいい。」
彰人「しかし、春奈の病気は治らんな」
春奈「治ればいいけど。まあ歌ってれば忘れれるから」
彰人「でもつらいだろ?」
春奈「自分でもよくわからない」
彰人「そうか」
春奈「ねぇ、あたしたちって何で出会ったの?」
彰人「さあ、たしか病院であったような気がする」
春奈「不思議」
彰人「火事に遭ったのは覚えてるんだけど…」
春奈「うん」
彰人「千尋でも呼んで聞いてみるか」
携帯で千尋を呼んだ。
千尋「お邪魔します。んで、何か用?」
彰人「火事の時の話覚えてないか?」
千尋「あたしは出掛けてたから知らないよ。」
彰人「そっかぁ…俺たちって小さい頃から知り合いなの?」
千尋「えっ、まあでも詳しいことは春奈さんが回復してからじゃないと話しちゃだめなの」
彰人「そっかぁ」
春奈「あんまりよくないみたいだね」
千尋「うん。そんなとこ」
春奈「彰人だけでも聞いとけば」
彰人「俺も春奈が回復してからでいいや。俺もまともじゃなさそうだら」
この2人は一度火事で家を失っていた。 2人は記憶を失っているので知らないのだ。しかも、他の人も知らない。
ちなみに今の2人の家は、プレハブみたいな家で、SCSの中にある。
彰人「誰もしらないんだよ」
春奈「あたしも覚えてない」
彰人「だから、俺たちの出逢いはだれも知らないんだな」
春奈「へぇ」
彰人「俺たちが仲良くなったのは病院だった?」
春奈「さあ」
彰人「春奈は火事でギターをなくしてギターがほしいって言ってたから俺のあげたんだよ」
春奈「そう。なんでか知らないけど彰人が無言で置いてったんだよ」
彰人「そうそう。覚えてるのはそれくらいだな」
春奈「あたしも」
彰人「初めて逢ったのは、もっと小さい時らしいね」
春奈「うん」
彰人「まあ治ってからのお楽しみだね」
春奈「うん」
彰人「そういえばこの曲がさぁ…」
CDを渡して聞く
春奈「こんな感じ?」
1章終わり
第2章「歌=薬」
もし相手の心が読めたならと考えたことありますか?春奈の病気は春奈の心を知らないと治らないようです。心に傷を負った春奈は人に頼ることを忘れ、自分で抱え込んでしまっているからです。
彰人「ちょっくら裕二と昔の家に行ってくる」
春奈「うん」
裕二「おはようございます」
彰人「おう。」
千尋が尋ねてくる。
彰人「千尋、いいところにきた。春奈と一緒にいてあげてくれない?」
裕二「そのために連れてきたんですよ。」
彰人「さすが、機転がきくな。じゃあ千尋よろしくな」
千尋「まかして」
昔の家
彰人「ここか」
裕二「はい。あのときは凄かったです。」
彰人「俺たちはどうやって逃げきったんだろうな?」
裕二「わかりません。病院に運ばれたのを聞いて無事だと分かったんですから。」
彰人「誰も知らないのか…」
裕二「春奈さんは何か知らないかなぁ?」
彰人「全く覚えてないってさ」
裕二「神様ぐらいしかしらないか」
彰人「そうだな」
近所の人が近づいてくる。
近所の人「前にあったの火事の話か?」
彰人「そうです。誰も真相を知らないんですよ。」
近所の人「詳しくは知らんけど、放火みたいだな。」
祐二「放火でしたか…」
彰人「私はそのときここに住んでたんですよ」
近所の人「あっ、あのとき女を連れて出てきた人だね。」
彰人「それが…覚えてないんですよ」
近所の人「そうだったな。あの日燃え盛る火の凄さに誰もが2人は死んだと思った。だが、お前さんが火の中から女を抱えて出てきたんだ。女は苦しみながらあたしのギターが…といっておった。」
彰人「そうでしたか。」
近所の人「お前さんは女を救急隊に渡してすぐ倒れたんだ。すまんがこれ以上は覚えておらん」
彰人「いえ、とりあえずそれだけ分かれば十分です。ありがとうございます。」
近所の人「また訪ねてくるがよい。なんか思い出すかもしれんからな。」
彰人「はい。ありがとうございます。」
近所の人「ところであの女は元気にしとるのか?」
彰人「…ええ…まぁ…」
近所の人「心に傷を負ったのか?」
彰人「はい」
近所の人「やはりそうか。火事の前から心に閉ざしておったからな。」
彰人「そうですか。助かりました。」
近所の人「じゃあまたな」
この近所の人は後に彰人の人生を左右させる事を話す。
祐二「思い出しましたか?」
彰人「いや…」
祐二「でも、ここまで分かったんで少しは成果がありましたね」
彰人「まあそうだな」
祐二「これからどうするんですか?」
彰人「何のこと?」
祐二「春奈さんと一緒にいるんですか?」
彰人「一応そのつもりだよ。会長に頼まれてもいるし」
祐二「そうですか」
その頃春奈と千尋は…馨もいる…春奈がギターで馨が歌ってる
千尋「うまいね」
馨「ほんと!春奈さんうまいよ」
春奈「そうかな…馨こそ…」
馨「あたしは適当だし、ほんとはギターだから。春奈さんはエレキ弾ける?」
春奈「やったことないな。」
馨「そっか…」
千尋「馨はたしか今ベースだよね」
馨「そうだよ。今ボーカル募集中なんだ。」
千尋「あたしは音痴だからダメだな」
馨「うそ?千尋って音痴なん?」
千尋「しらなかった?」
馨「うん」
彼女たちはいつも歌の話ばかり。この中に彰人が加わっても一緒だ。そんな時間はみんな楽しく感じるのだが、感情を失った春奈にはその楽しみすら理解できない。どんな楽しみ、悲しみ、憤りも感じない。ただ怯えることしかできないのだ
ただ春奈は歌の話をしていると心の傷を忘れられるらしい
彰人と祐二は
祐二「彰人さんは火事のショックでトラウマにならなかったんですか?」
彰人「なかった。ていうか覚えてないからな。」
祐二「あっそっか…」
彰人「きっと春奈は思いだそうとしないようにしてるかもしれない。」
祐二「えっ?というと?」
彰人「推測だけど、ほんとは春奈の頭のどこかにその記憶が残ってて、それがふとよみがえるんじゃないか?だから春奈はトラウマになってると思うんだ」
祐二「なるほど。」
彰人「でも、その前からトラウマらしいからなぁ…何があったんだろう?」
家に到着
彰人「ただいま」
春奈「…おかえり」
彰人「みんなありがとな。」
千尋「どうだった?」
祐二が近所の人から聞いた話を話した。 春奈「あたし死ぬところだったの?」
彰人「さあな…でもほかっといたら死ぬところだったらしい。」
春奈「そっか…」
春奈はなにも言わず部屋に戻った。
馨「どうしたのかな?」
彰人「しまったな…トラウマだよ。」
ギターの音が鳴る
千尋「春奈らしいね」
彰人「そうだな。春奈はいまんとこ歌が治療薬みたいなもんだろうな。」
千尋「でもこのままじゃあかわいそうだよ。どうにかならないの?」
彰人「病院で治療するくらいしかないと思うよ。」
祐二「でも、病院行けるんですか?」
彰人「それが問題なんだよな。春奈は特定の人としか関われないんだよね。」
祐二「ほんと難しいですね。」
馨「でも歌っていう治療薬があるからそんなに焦らなくてもいいんじゃない?」
彰人「たしかにそうだな。まあ春奈に聞いてみるよ。」
突然真一が入ってくる。(初登場)
真一「入るぞ」
彰人「会長どうしたんですか?」
真一「いや、暇だし、若いのがそろってなにやっとるかと思って。春奈のことか?」
彰人「はい」
真一「そうか」
彰人「会長」
真一「なんだ?」
彰人「春奈のトラウマ、やっぱ病院に行ったほうがいいですか?」
真一「別にすぐに連れてかなくてもいいんじゃないか?歌で忘れられるならそんなに酷い状態じゃないと思う。やっぱ歌がいい薬になってんだよ。ただお前等はいままでどおり春奈のそばにいてやってくれ。1人よりはましだろうからな。」
真一会長は彰人達が諦めず春奈のためにできることをしようと努力し、春奈自身が治そうとする気持ちが出来てやっと病院に行ける。とにかく心の病に立ち向かうには本人も周りの人も大変だ。でも、逃げちゃいかん。と言い聞かせました。
でも今の春奈は恐怖を歌で忘れることで精一杯。あまり春奈自身も過去の恐怖を覚えてないようです。
治るまでもう少し時間がかかりそうです。
2章終わり
第3章「過去」
あれから春奈はトラウマでまともに話せなくなってしまった。もう3ヶ月経つというのに…まだ話せないままだ。
やっぱ話さないほうがよかったのかと彰人は自分を責めていた。彰人は会長の頼みもあり,春奈を連れて会長の別荘へ行くことになった。
彰人「古いけど、いいとこだろ?」
春奈うなづく
彰人「しばらくここでリフレッシュしような。」
春奈
この時始めて春奈の心の中でいつもと違う何かが出てきたらしい。きっと春奈の心の中に始めて宿った感情かもしれない
田舎にきた春奈は少しずつだが精神が安定しだしてきた。声に出せない分ギターを弾きまくって、近所では有名になってしまうほどだった。
隣の人「春奈ちゃんはミュージシャンみたいだね。もし、トラウマがなくなったらミュージシャンになるのかな?」
彰人「わかりません。今を生きるのが精一杯みたいなんで、将来までは考えてないと思いますよ。」
隣の人「かわいそうにね。ところで、彰人君と春奈ちゃんはどういう関係なの?」
彰人「春奈は隣の家に住んでて、両方が火事にあってそこで知り合ったらしいです。詳しい記憶はお互いないんです」
それから彰人は知ってることを話した。
隣の人「あのギターは彰人君のなんだ。春奈ちゃんが大切にする訳なんだね。」
彰人「いやぁ、そうでもないですよ。最初はいやだったみたいですよ。感情にでないんでわからないけど、あの春奈が自分のギターが燃えちゃってずっとギターが…ってうなってたぐらいですから。」
春奈はあの火事でさらにトラウマがひどくなったらしいです。自分のギターがなくなったのが春奈の心をまた傷付けてしまったんでしょう。
そのころ祐二と馨、千尋は彰人と春奈に会いに来る途中だった。
馨「彰人さんってなんで春奈さんのためにあそこまでできるのかな」
祐二「きっと幼い時の自分に似てるんじゃないかな?」
馨「ああそうかもね。そういえば、昔のこと知ってるの?」
千尋「うん知ってるよ。春奈が回復したらはなせるんだけどね」
祐二「彰人さんだけでも話せばいいのに…ダメなの?」
千尋「春奈が回復してからでいいって」
祐二「へぇ~。変わってるな。ねぇ2人のこと聞いていい?」
千尋「いいよ。」
実はほんとの春奈の過去を知ってるのは彰人だけ。彰人の記憶が戻らない限り春奈の過去は闇の中という訳だ。
三人の出会いは彰人が7才春奈が6才千尋が5歳のというのは確かだそうです。
実は三人とも拾われた子だった。彰人の母親は子供が産めない体なので息子が欲しかったらしく彰人が天野家の息子となり、何かがあって春奈が来た。春奈が彰人の家に来たときには感情がなくなってしまってたそうだ。天野家にいたときもそのせいで手伝いさんから虐待されさらに心に深い傷を負ってしまった。
家を出た2人はしばらく彰人の知り合いや友達の家を転々として暮らしていたがとうとう行くところがなくなってしまった。路頭に迷う2人を助けたのが真一だった。そこに千尋がいいた。真一は従業員に世話をさせた。そんな春奈に歌を教えたのが彰人と千尋だった。ギターをプレゼントした。1ヶ月で春奈はほとんど弾けるようになるほどまでになっていた。
千尋が命を助けられたのは出会う前4才のときで、殺人事件の現場を見てしまったため、殺されそうになったのを助けたらしい。その家で火事に遭い今に至る。火事のとき千尋は出掛けて助かったが、彰人と春奈は気を失い記憶も失った。
馨「彰人と言ってることが違うのはなんで?」
千尋「そこがわからないの。ただ、あの火事で2人の過去が食い違い始めたのは確かだよ」
祐二「2人は火事で死にそうになったの?」
千尋「うん。消防士の話だと春奈を助けるときに爆発して頭をぶつけてかなり危なかったみたいよ。」
祐二「よく生き残ったね。」
彰人の住んでる家に到着
彰人「来るなら連絡しろよな」
祐二「心配でしたから」
彰人「仕事はいいのかよ?」
祐二「まぁなんとか」
千尋「春奈は?」
彰人「あそこでねてるよ」
馨「大丈夫なん?」
彰人「毎日ギター弾いてるからまあいいんじゃない」
馨「そんなんでいいの?」
彰人「しょうがないだろ。俺には何にも出来ないんだから。」
馨「まあね」
正直このとき彰人はなんにも出来ない自分にイライラしていたそうだ。
それから裕二たちは3週間滞在して春奈を見守った。
彰人「5人だと狭くないか?」
裕二「狭いよね」
季節は夏になった。山奥で涼しいはずなのにこの夏は熱い…春奈は冬の服しかなく汗だく。
彰人「春奈、夏服いらないのか?」
首を横に振る春奈
彰人「千尋に買ってきてもらうからな。」
うなずく
と立ち去る彰人を捕まえる春奈
彰人「なに?」
春奈は紙に書いて(花火)
彰人「やりたい?」
うなずく
彰人「わかったよ。」
このとき春奈の表情が明るくなった。
彰人「春奈あとで鏡みてみな」
春奈(?)
彰人はこのとき春奈は治ると確信したそうだ。
その時電話がなった。
彰人「はい。」
真一「俺だ。元気か?」
彰人「真一(会長)さん。おかげさまで元気です。」
真一「お前には春奈の面倒見させて面倒かけてしまったな」
彰人「いえ。俺もそのつもりだったんで」
真一「今日電話したのは、実は昌樹がな仕事中に二階から落ちてしまって…なんとか今月末に帰ってきてほしいんだよ」
彰人「それは大変じゃないですか!わかりました。ほかの3人は今週中に帰します。俺は春奈の状態を考えて帰ります。」
真一「そうか!助かる。そうだな。じゃあ会議あるからまたな。あの3人に早く帰って来いて伝えとけ。」
彰人「わかりました。」
彰人「みんなちょっと集合」
裕二「何か?」
彰人「昌樹社長が二階から落ちてしまって…」
裕二「マジですか?」
彰人「だから、裕二と馨、千尋は荷物まとめて今週中までに帰ってこいって会長命令。」
裕二「彰人さんも?」
彰人「あとは春奈の状態次第で今月末には帰る。春奈もそのつもりで。」
春奈 うなずく
彰人「春奈は荷物をまとめるだけで後は普通にしてればいいから。俺はこっちでやれる仕事を片付ける。」
裕二「わかりました。」
春奈(ギターは?)(筆談)
彰人「ギターは出しといていいよ。ギターとかは別のカバンにしな」
春奈 うなずく
と、急な話だった。春奈が変わり始めたのもこのころだった。
まだ彰人は過去を知らないまま。次の章で彰人はすべてを知る。
3章終わり
第4章「春奈の回復」
彰人たちはすぐに会社へ戻った。しかし昌樹社長は頭を打ったらしくもう二度と仕事には戻れなくなってしまった。
春奈は相変わらず喋れないままギターを弾く毎日。でも好きなことをしてるのか最近表情がちょっとずつ明るくなってきているので安心した。春奈はあの田舎生活で家事をこなせるようにもなった。
彰人は忙しい毎日を送っていた。
最近春奈は筆談で話すようになった。時々無理に喋ろうとするときもある。
彰人「わりいなぁ。春奈に飯作らせて」
春奈は口を開けるが声がでない。
彰人「無理するな。筆談でいいよ」
春奈(うん。彰人寝てないみたいだけど大丈夫?)
彰人「なんとか大丈夫だよ。」
春奈(気をつけてね。)
彰人「ありがとう」
春奈(最近調子が良くなってきたのが分かるんだよ)
彰人「ほんとに?」
春奈(なんか気分が前よりいいもん)
彰人「そっか…よかったなぁ。でも無理はするなよ」
春奈(わかってる。みんなには迷惑かけっぱなしだなぁ)
彰人「気にするな。そこまで考えれる余裕が出来たんだなぁ。」
春奈(あの田舎くらしがよかったみたい)
彰人「そっか…」
春奈(あとは話せるようになって、感情が顔に出ればなぁ…)
彰人「だな。とにかく今は春奈のペースで進んで行けばいいんじゃない。ギターもあるし。」
春奈
田舎生活からの春奈はかなりのペースで回復してるように思う。筆談とはいえあれだけ考えれる余裕が出てきた。
それからしばらくしてケガの治療をしていた昌樹社長が頭を打ったのが原因で亡くなってしまった。真一会長と共に会社を立ち上げただけに会社全体のショックは大きかった。彰人は悲しむ暇もなく仕事に専念している。
馨「なんで葬式にも出ないんだろう」
祐二「彰人さんは人の死体を見たり、葬式会場に行くと、一週間は寝れなくなるんだ。ああいう雰囲気はダメな人なんだ。」
千尋「昔からそうだね。」
まったくどうしよもない彰人
祐二「そういえば春奈さんは?」
馨「あそこでギター弾いてる」
昌樹社長の好きだった曲を弾いてる
千尋「春奈なんで知ってるの」
春奈(よく鼻歌が聞こえたから。)
千尋「よく弾けるね」
春奈(感覚で分かるよ)
千尋「凄すぎる!」
出棺の時にタイミングよく流すもんだ。 それからすぐに彰人はSCSの社長になった。真一はプロダクションに専念し彰人は清掃に専念するという真一会長の理想になったそうだ。彰人は忙しいながらも春奈のことを見守っている
彰人には春奈がいて大変なんて感じたことはないそうだ。神様が俺に春奈をみまもるという使命を与えたんだって言ってる。
春奈は彰人のことをどう思ってるんだろう?春奈は彰人といるとかなり安心しているそうだ。ただそれしか分からない。
春奈は1人になるとたまに声をだそうと必死になって特訓してる。これも回復の兆しだろうか?最初に比べればかなり回復してる。でも、なぜか、声だけでない
春奈(まだ声でないよ)
彰人「そっかぁ…でも、じっくり行くしかないよ」
春奈(無理なのかなあ)
彰人「まさか、それはないでしょ」
春奈
彰人「大丈夫だよ」
春奈(彰人って目が笑ってないね)
彰人「なんだよ急に?」
実は春奈の心の中は完全に回復していた。ただ表情にでずしゃべれないだけ。これがどれだけ辛いものかは本人にしか分からない。誰かに比べれば楽だとかいうけど、やっぱり自分が辛いものは辛いんだ。正直彰人は春奈の気持ちなんてわかってない。
他人の気持ちなんて分からないんだろうか?春奈はどうやって回復したんだろうか? 彰人の心の中に何があるのか?なぜ祐二は彰人の下でついてきているのか?
すぐに分かればこんな小説なんかいらない。
彰人に対する他の人の見方もまた不思議だ。実際何考えてるかわからないらしい。彰人が自分のことをまじまじと話したことは一回もない。何か心を閉ざしてるというか厚い壁をつくっている感じがする。それは春奈にもわかるほどらしい。
彰人とずっと一緒だった千尋ですら知らない。一体何を背負っているのだろう?
彰人「しかし、昌樹さんがいなくなってよくここまで来れたな」
祐二「そうですね。一時は彰人さんが倒れそうになるくらいでしたからね」
彰人「このまま行けば安心だけど、難しいなぁ…」
祐二「誰か仕事ができる人を探して来てくれればいいですけどね」
彰人「そうだね、あっ昇をこっちに戻すか」
祐二「そういえばそろそろ昇くんが戻ってくる時期ですね」
昇と彰人は真一に引き取られた頃からの付き合いで大親友なのだ。彼は長野に転勤で愛知にしばらくいなかった。
佐藤昇(20)
見た目とは違いかなりの秀才
女と遊んでばっかな悪い奴ってのが第一印象 彰人のことはすべてしってる。
彰人「そっかぁ。昇が来れば安心だ。」
祐二「また女つれて帰ってくるかな?」
彰人「かもね。春奈に手出させんようにしとかんとヤバいな」
祐二「…さすがにそれはしませんよ」
彰人「だよね」
祐二「昇くんは若いのに凄いですね。」
彰人「要領がいいからね。だからあの年で社長やれるんだよな。」
祐二「そうですねってそういう彰人さんこそすごいじゃないっすか」
彰人「俺は祐二達のおかげでなんとかやれてんだよ。あいつは一人でやれるからすごいんだよな」
祐二「そう言われるとなぁ…なんと言えばいいのか…」
彰人「お前の思ったことを言えばいいよ」
祐二「はい…ところで昇くんはいつ帰って来るんですか?」
彰人「多分今月の20日かな」
祐二「じゃあ10日後かぁ」
それから10日後、昇は帰ってきた。案の定、女を連れて来たわけで彰人曰わくカワイくない。
昇「彰人、久々だな」
彰人「半年振りだな」
昇「祐二さんも相変わらずで」
祐二「昇くんも元気そうでよかったよ。また女連れてきたの?」
昇「まあね。そういえばギター弾いてる子って誰なの?」
彰人「春奈だよ。」
昇「あ~えっとPTSDにかかってる子ね」
彰人「そうそう。ちなみにおまえより年上だぞ」
昇「あっそうなん?いくつ?」
彰人「21」
昇「へぇ、意外だな。」
彰人「何で?」
昇「もっと若く見えるよ。」
彰人「そうかな?まあとりあえず春奈に紹介しないとな」
昇「あ、うん。」
春奈の部屋
彰人「春奈、紹介しとくな。こいつ昇。」
昇「昇です。この会社に来ることになったんでよろしく。」
春奈(よろしくね。彰人とは昔からの知り合いっぽく思うけど…当たり?)
昇「当たり。ガキの頃から知ってて、ずっと学校と仕事場が一緒だったんだ。んで、2人が火事に遭う前に転勤で岐阜まで行っとったの。」
春奈(へぇ~じゃあ千尋のことも知ってるの?)
昇「うん、知ってるよ。」
彰人「春奈、今日も元気だな」
春奈(最近ほんとに気分が落ち着いていい感じなんだよね)
彰人「マジで?よかったじゃん。」
春奈(うん。)
このまま回復してくれと願う彰人だった。最近の春奈はギターを弾いてる時、微妙にだけど、表情が明るいなってる。春奈も最近、治っていつかみんなで笑いのある生活がしたいと思えるほどまでよくなってきた。
気持ちがポジティブになってきた春奈はそれから1ヶ月した時、笑顔を取り戻した。ここまで回復するのにかなりの時間が掛かったぶん、喜びもかなり大きかった。昇が戻ってきた分彰人は暇ができ、今まで忙しかった分春奈についていられるわけで、春奈も安心したようだ。いつか話せるようになったら、彰人にどうお礼を言おうかと考えながら…
春奈がというか、みんなが不思議におもってること…それは、彰人だ。
たしかに、周り人に優しいし、困ってる人には助けの手を差し伸べる。そして、そうやって人助けをする態度は上辺でなく心から出てる。ただ、自分のことに関してはかなり厳しいし、本音を見せないというのか…彰人自身の人生を彰人が主人公として生きてるようには感じない。
ハッキリ言えば、彰人が何を考え、何の目標をもって生きてるのか誰にも分からないのだ。
昔を知る千尋が言うには、昔のある出来事で彰人にはかなり暗い闇が彰人を包み込んでしまったそうだ。
実は、これを題材にして春奈は始めて作詞作曲をした。とてもストレートで、印象的な歌だった。
彰人は自分の歌だと分かりながら聞いている…
彰人「お前凄いなあ」
春奈
彰人「でも、この歌に出てくる人間は…」
春奈(言わなくてもわかるでしょ)
彰人「たしかに」
春奈(いい歌詞でしょ?)
彰人「まあね。曲も作ったん?」
春奈(そうだよ。どう?)
彰人「いいよ。うん、上出来」
春奈
春奈の才能に驚きながらも、春奈が回復してきたことを嬉しく思う彰人だった。
4章終わり
第5章「ストリート」
3年後
あれからすこし経ってから裕二と馨が結婚した。春奈の声はまだ聞こえないまま。春奈は自分で作詞作曲ができるようななって、これまで以上に歌に没頭するようになった。春奈の才能には驚かされっぱなしだ。
彰人も仕事が落ち着いたこともあって、旅行に出掛けることがおおくなった。なぜか一人で…今は北陸にいる。
馨「最近、彰人なんであんなに旅行ばっかり行くんだろう?」
千尋「元々行動派だから。昔も勝手に一人で旅行に行ったりしてたよ。」
馨「へぇ~昔からなんだ。春奈のことは心配じゃあないのかな?」
千尋「春奈がいいよって言ったみたい。」
馨「そうなんだ」
千尋「うん。あっそうそう2人は新婚旅行いかないの?」
馨「うん。裕二が行きたがらないんだよね。」
千尋「なんで?」
馨「多分、彰人と一緒で飛行機嫌いみたいだし、元はインドア派だから。」
千尋「へぇ~。」
馨「話変わるけど、春奈はどこいった?」
千尋「多分、会社の屋上でギター弾いてるよ。」
馨「ほんと歌好きだね。ねぇ、春奈の歌声聞いたことある?」
彰人「あるよ」
馨「どんな声?…って、彰人帰ってきたの?」
彰人「うん。喋ってる声とちょっと違うね。」
馨「ビックリした。」
千尋「そうなんだ…」
彰人「まぁ春奈らしいといえばらしいかな。」
馨「なんで急に帰ってくるかな?」
彰人「だいたい性格が適当だからな。で春奈は?」
馨「屋上でギター弾いてる」
彰人「そっか、やっと外にでれるようになったか」
千尋「そうなの。外で歩いたり、前なんかコンビニまで一緒にいったんだよ!」
馨「そうそう。ウチのバンドの練習場にも付いてきたよ。」
彰人「スゴいな!」
春奈はさらによくなっていた。いつも一緒にいたから、見ないうちによくなっている春奈を見るときの彰人はかなり嬉しいことだろう。
そういえば最近、春奈が1人で出掛けることがあるらしい。どうやら近くの駅に行ってるみたいだ。
彰人「春奈」
春奈(何?)
彰人「最近駅に行ってるみたいだけど、何かあるの?」
と、ある携帯サイトを見せる。
彰人「へぇ~ミュージシャンかぁ」
春奈(うん、駅に行ったら歌って、聞きに行ってるの。)
彰人「話したことは?」
春奈
彰人「紙で?」
春奈(うん。色々教えてくれるよ)
彰人「上手なん?」
春奈(うん。色々なイベントに参加してるみたい)
彰人「へぇ~そうなんだ」
春奈(うん。今度セッションするって約束した。)
彰人「えっ。」
春奈(彰人きてね)
彰人「ああ。いつなん?」
春奈(明日)
彰人「明日?休みだからいいよ。2人ともイケメン?」
春奈(うん。)
彰人「春奈の好みか?」
春奈
彰人「まあ明日楽しみだな。」
春奈
次の日
春奈
こうき「おっ来たね」
もとき「隣が話してた彰人さん?」
春奈
彰人「はじめまして天野彰人です」
こうき「ぼくがこうきで隣がもときです」
自己紹介を済ませてセッションを初めた
もときがボーカルで歌ってる。彼らはかなりの実力がありそうだ。その2人と対等にセッションしてる春奈はすごい。ギターを持たせて何年経つんだろうか?あっという間にここまでうまくなってるんだからビックリだ。
こうき「いやぁスゴいな!」
もとき「我流でこれだけできるなんてスゴいな。また3人でセッションしような」
春奈
ギターを弾いてる春奈はなんかいつもと違う。なんだか楽しそうだ。春奈の弾くギターは彰人の心を癒してるらいし。
セッション以来春奈はあの二人とストリートでセッションするようになり、充実した日々を送っている。
自分で自由に動けるし、自分のことは大体できるから前みたいに彰人が付きっきりってこともない。
春奈の回復も時間の問題だ。もう春奈は自立しだしている。
ずっと春奈を見てきた彰人にとってみれば寂しいかもしれないが、独りの可愛い妹を送り出す気持ちだと、周りからみれば思うだろう。でも2人のお互いに対する気持ちは兄妹という表現ではないようだ
お互いのことが好きだと気付き2人が1つになって、2人のハッピーエンドがあり、新たなスタートを向かえるときに、この小説は幕を閉じるかもしれない。
その時は近づいてきた。
5章終わり
最終章「あの道へ」
春奈は喋れるよう彰人に訓練されている。あのミュージシャンに会ってからすぐ始めた。最近ちょっと声っぽくなってきた。
彰人「よしあーって感じでやってみて」
春奈「ぁー」
彰人「おっスゴいスゴい。出てるよ」
春奈「あー」
彰人「ちゃんと出た。すげー!」
春奈
彰人「そうだな」
そんなこんなで3ヶ月
彰人「俺の言ったこと言えるか?『はるな』」
春奈「はるな」
彰人「そうそう。もうちょっと楽にすればいいらしいからな。」
春奈「うん」
彰人「自己紹介してみな」
春奈「奥…田…春…奈。20歳。」
彰人「おっ!言えてるよ!」
春奈「あっなんとなくいいかも!」
彰人「そのちょうし!って春奈?」
春奈「今喋った?」
彰人「まさか…」
春奈「彰人!もしかして…」
彰人「歌ってみ」
春奈がなぜかカエルのうたを歌う。
彰人「すっ、すごい!」
春奈「やったぁ!!」
抱き合って喜ぶ2人
春奈「彰人ありがとう。これでなんも気にしないで歌える!」
彰人「よく頑張ったな!神様に感謝だな」
春奈「うん!」
春奈の閉ざされた心はこの時完全に開かれた。みんなが待ちに待ったときがやっときたのだ。
この日ばかりはあまり感情をださない彰人までもが、泣いて喜んだらしい。
なにもかもふきっれた春奈はいままでの 何十倍歌に時間を捧げるようになった。 そして春奈の彰人に対する気持ちが変わってきた。
彰人はというと…また旅に出た。昇や裕二に仕事を任せて放浪することが多くなった。特に最近は春奈を連れて行って行く先々でストリートライブをやりながら旅を続けてるそうだ。
しかし,ある夜旅先で彰人が夜うなされていた。 春奈は彰人を抱きしめて、彰人を落ち着かせようとした。
春奈「そんなにイヤな思い出なの?」
次の話を聞いたとき春奈は自分をなぜここまで大切にしてくれたのかを確信した。
彰人「最近思い出したんだけど、昔家に二歳下の女の子がいたんだ。詩織っていうんだ。詩織は親が2人共目の前で殺されて血だらけで親父の会社に入って来たのを引き取ったらしい。世間体を気にし過ぎるから見栄でもって張って引き取ったのかと思ってたら、実は両親共にとんでもない理由だった。アイツら詩織の体で遊ぶために連れてきたんだよ。だから詩織は夜になると俺の部屋に逃げて来たんだよ。あの怯えて入って来た詩織の姿を思い出すから、夜うなされてると思う」
春奈「壮絶な人生だね。その後どうなったの?」
彰人「俺が中学校卒業するときに、ここの会長にひきとられた。それからすぐ火事があって記憶がなくなったんだ。ちなみに千尋も火事で記憶がなくなった。」
春奈「千尋はどこで出会ったの?」
彰人「…その記憶がないんだよ。」
春奈「なんかあたしの過去知ってるらしいけど…」
彰人「ほんとのことは記憶がもどらんからわからん。自分の記憶とほんとの記憶といりまじってるのかも。」
春奈「で、詩織ちゃんは今どこにいるの?」
彰人「ここにいるだろ。話聞いてればわかるだろ」
春奈「えっ私?私は奥田春奈だよ。」
彰人「それは春奈が火事にあって、意識が戻った時に自分は奥田春奈だって言い出したからだよ。」
春奈「もしかして、本当は奥田春奈で、天野家の人が詩織って名前を付けたのかな?」
彰人「さぁ、わからん。でもその可能性はあるな。」
春奈「三人の記憶がもどればいいんだけど。」
彰人「そうだな。」
春奈「ねぇ、私っていつから歌をやり始めたの?」
彰人「たしか…10歳かな?俺と千尋でプレゼントしたんだよ。」
春奈「そうなんだ」
彰人「あの時は凄かった。ギターを弾いた春奈がどうしたと思う?」
春奈「まさか聞いたことある曲を弾いたとか?」
彰人「そうなんだよ。覚えてるのか?」
春奈「なんとなく。でも詩織と春奈どっちがいいかなぁ?」
彰人「はぁ?急に何言い出すんだよ」
春奈「ふと思って」
彰人「春奈でいいよ。天野詩織じゃあ俺の妹になるんだぞ?」
春奈「それはやだ。彰人みたいな変わり者の妹なんて」
彰人「うるせぇ。変わり者じゃあねぇよ」
春奈「へぇ~。まぁどうでもいいや。」
彰人「俺は春奈のままでいてほしい」
春奈「わたしも。春奈がいい。」
2人が記憶を失って千尋の記憶も曖昧なまま時間は流れていった。記憶が戻ったのはそれから2年後のこと。春奈が転んで頭を打った時・・
千尋「彰人!春奈が記憶戻った。」
彰人「まじか!トラウマは?」
千尋「ないよ。」
春奈「やっと記憶が戻った。」
彰人「名前は春奈でいいのか?」
春奈「私は奥田春奈」
彰人「よかったな。じゃあ奥田春奈はどういう人生を送ってきたんだ?」
春奈は自分の過去を話し始める。
春奈の両親は警察官で、正義感がとても強かった。そんな奥田家は春奈が産まれると共に両親は警察官を辞め父親はなんとSCSつまり彰人たちの会社に転職した。 奥田家はごく普通の幸せな家族生活を送っていた。春奈があんなに音楽の才能が抜群なのは母親譲りらしい。母親は絶対音感の持ち主だったそうで、プロにも一目置かれてた。
春奈がトラウマになった原因は5歳の時に起きた事件によるもので、両親は正義感が人一倍強かったから恨んでいた奴が、2人を春奈の目の前で殺した。後で分かった話だが、2人は政治家関連の事件に手を出し殺されたそうです。この事件に天野夫婦も関わっていたようだ。
春奈の人生はここから転落していく。事件を目の前で見た春奈は血だらけで近くの天野父の会社に入ってきて、天野父が引き取ることに。その目的は知ってる通り天野父母の性欲を満たす道具にするためだった。当時天野家の屋根裏で暮らしていた彰人は春奈が来ていることに気づかなかったそうで、天野父母は繰り返し春奈をイジメた。彰人は春奈が来て1ヵ月経った時に春奈の存在を知った。豪邸で広かったせいだ。春奈が突然屋根裏に逃げ込んで来たらしい。丸裸で怯えてた春奈に服を着させて、かくまった。彰人は春奈を連れて近所の人と警察に行った日に,天野夫婦は忽然と姿を消した。どうやらその後に捕まったようだ。彰人と春奈は手伝いさんと天野家でくらすようになる。 ただその手伝いさんは春奈にキツく当たっていた。色々な事が重なった春奈はある朝自分の感情と言葉をなくしてしまった。その日手伝いさんは天野家を去った。彰人はこの頃のいやな光景を夢で見てたのです。幸運な事に春奈を探していたSCS会長が天野家を訪れ彰人・春奈はSCSに引き取られてた。その時千尋に出会い3人トリオで暮らし始めた。千尋は春奈がくる半年前両親を飛行機事故で亡くしSCSに引き取られていたのだ。しかも、彰人とは幼なじみで、昔命を助けられたことがあるそうだ。その頃の千尋は両親を亡くしたショックでかなり落ち込んでて、自分のことで精一杯でした。
彰人は2人の面倒を付きっきりで見て、まるで父親のようだった。 千尋は1年経って元気を取り戻し、春奈を世話するまでになった。
この時彰人13歳・春奈12歳・千尋11歳。
そんな春奈を支えていたもう一つのものが音楽だった。春奈は来る日も来る日もラジオから流れる歌を聞いて歌を聞いていた春奈はなんだか落ち着いているように感じた。
そんな春奈に彰人と千尋はギターをプレゼントした。ギターを持った春奈はなんといきなり、曲らしきものを弾き始めて2人を驚かせた。
音楽…それは春奈にとって生きるための支えの1つといえる。
それから二年後ようやく話せるまでに回復してきた春奈に火事という悪夢が現実に起きてしまった。 春奈は2人からプレゼントされたギターを心配し逃げ遅れてしまい死にそうになったところを彰人と千尋が助けに来て救われたかに見えた。その時爆発が起きて3人は意識・ 記憶を失い今に至る。
春奈「そんなところかな。」
千尋「わたしも会長に引き取られたんだ」
彰人「今のギターは俺のだよな?」
春奈「うん」
彰人「なんだかんだみんな親はもういないんだね」
千尋「そうだね」
彰人「春奈が、天野家に引き取られたんだとは知らなかった。というか覚えてないんだな。」
春奈「不思議な話なんだけど、彰人の部屋に逃げ込んだ時、何かこれで一生救われたって思ったんだ。」
彰人「へぇ~。俺が神様にでも見えたかな?」
春奈「それはないな。」
彰人「そういえばお前学校通ってなかったか?」
春奈「フリースクールにね」
彰人「フリースクール?」
春奈「会社の隣にあったんだよ。」
彰人「ああそういえば。」
春奈「その時も私が無愛想な感じだったからいじめられてたんだ。でも彰人がずっと守ってくれた。」
彰人「そうなんだ。」
春奈「彰人は言いたいことをズバズバ言う奴で嫌いだけど、他の人と違ってた。」
彰人「どういうことだよ?」
千尋「うん。他の人は春奈を可哀想な子って感じで気を使ってるんだけど、彰人は誰に対しても同じようにしてるから、春奈もあたしも彰人と一緒に今まで来れたんだよ。」
彰人「でも、俺は不器用なりに春奈に気を使ってたんじゃねぇの?」
千尋「彰人はそんなに器用じゃないな。」
春奈「たしかに」
千尋「嘘がつけないからな」
彰人「それはほめてんのか?」
春奈「さあね。話かわるけど、千尋って好きな人いるの?」
千尋「ちょっと急に何言い出すの。」
春奈「こういう話するのゆめだったんだ」
千尋「だからって私に聞かなくても…」
春奈「だって千尋かわいいからモテるんじゃないの?」
千尋「さあね。まあまた2人で話そうよ」
千尋はここで自分の好きな人など言えるはずもなかった。密かに彰人を愛していたからだ。
しかし、千尋は自分の気持ちを自分の心に閉ざしてしまった。よく考えて、今のままで十分だと思って何もしなかったのだ。
それからの千尋は彰人を影で支えようと決意し、彰人のために尽くしている。彰人に仕える影武者と言えるかも…
ある日春奈にこの話を打ち明けた。
春奈「なんか切ないね」
千尋「別にいいの。」
春奈「今でも好きなの?」
千尋「好きだよ。でもそれは春奈も一緒だよ。」
春奈「どういうこと?」
千尋「友情という意味で好きなの。恋愛はもうしない。」
春奈「ずっと一人でいるつもりなの?」
千尋「わかんない。でも、あたしは彰人の恋人にはなれないの。どう頑張っても」
春奈「千尋の閉ざした心はもう開かないのね。」
千尋「うん。」
春奈「でも、彰人には千尋の気持ちが届いてると思うよ。彰人も千尋は俺が何かに迷うといつも千尋が助けてくれるって言ってたよ。」
千尋「そうなんだ。それだけで十分だよ。彰人は恋愛したことないのかな?」
春奈「さあ」
彰人が恋愛をしたことはない。というか好きになるのが怖いらしい。昔恋人に死なれたのを引きつってるらく自分は顔が悪いし性格もひねくれ者だから誰も自分には興味を持ってくれないと逃げているのだ。
それに、完璧主義が彰人を恋愛から遠ざけている。結局自分の殻に収まってるだけで、それが千尋の心を傷つけたと気づくわけもない。
昇「お前まだ昔のこと引きつってるのかよ。」
彰人「今だに忘られないんだ。」
昇「中学生ぐらいだったな。」
彰人「ああ」
あれは、彰人がSCSにきてすぐのころだった。同じフリースクールに通う加藤由良という女性と出会った。親から落ちこぼれと言われ捨てられたせいでかなり突っ張っていた。最初は彰人に突っかかってばかりでどうしよもない奴だった。でも、由良は春奈には普通に接してた。春奈と仲良くしてる由良を見て、彰人は由良の本心を理解するようになり由良に近づいて
彰人「お前の心にある闇はお前自身の気持ちで変えられるんたぞ。」
由良「俺の気持ち?」
彰人「ああ、お前の心はお前自身しかわからないんだぞ。」
由良「意味わかんねーよ」
彰人「素直になれよ由良。」
由良「どうやって?」
彰人「春奈と一緒にいるときみたいに」
由良「俺にそんな器用なことできねぇよ。お前にだって突っかかってばかりだし。」
彰人「春奈にあの態度で、できるなら大丈夫だ。」
由良「そうか…」
とこんな感じで由良を立ち直らせた。
昇「由良の人生はこっから変わったんだよな。」
彰人「ああ。由良は俺たちと仲良くなって毎日が楽しくなってきたんだよ。」
昇「大切なことに気付かせてくれた彰人をだんだん意識するようになって、ある日告白してきたんだよな。」
彰人「そう。OKして2人の時間が始まったんだ。」
昇「でも、いつも春奈と3人だったよな。」
彰人「ああ。別に気にならないし、それを分かってて付き合ったからな。」
昇「でも、交際3年目にとんでもないことに…」
彰人「あれは思い出したくないな。」
交際3年目になった2人にはほんとに幸せな時が流れてた。そんな時に実はあの火事が起きたのだ。原因はガス爆発で由良はガスの近くにいたので吹っ飛び意識を失った。彰人は由良と春奈を助け出しに行く最中に2回目の爆発が起き、目の前で由良が死んだ。彰人は今でも自分を攻め続けている。あと1分早く由良のもとに行ければと…
彰人「悔やんでも悔やみきれない。」
昇「結局由良の亡骸も見つかってねぇんだっけ」
彰人「ああ。」
昇「あっ、そういえばお前記憶…戻ったのか?」
彰人「ああ…ずいぶん前にな。詩織のこともな」
昇「なんで隠しとった?」
彰人「だって由良のこと思い出したら…」
彰人は止まった。春奈も記憶を戻ってた からだ。そう、春奈は由良の存在を彰人に話さなかった。なぜか?彰人がショックを受けないように、由良のこと思い出したら彰人は責任を感じて自殺しようとするから話さなかった。
昇「春奈はお前のこと好きなんだよ。」
彰人「そんなわけないだろ。」
昇「そういえば、いつまで芝居してんだ?この俺を騙せるわけねぇだろ。」
彰人「何の話だ?」
昇「由良が生きてることぐらい知ってんだよ」
彰人「バレてたか。」
由良を呼び出すと数分後…
由良「うまく騙してたのに。」
昇「お前らの考えくらい見抜けなくて社長なんかできねぇよ。」
彰人「俺はアイツらを許さねー。春奈の人生滅茶苦茶にしやがって」
由良「あの2人のせいで危うく私たちも死にかけたんだから」
話は火事が起きる前の事。彰人の所に行方不明だった彰人の両親が訪ねてきた。天野家の会社が倒産して,彰人のせいにして,お金をせびろうとした。彰人を恨んでいただけでなく,その時の話から春奈の両親を殺したのが彰人の両親だと分かる。その日から彰人は自分の両親に春奈の恨みを晴らすために、由良と彰人は別れ、色々と調べ回っていた。
昇「警察が出来ないことなんて危なすぎるぞ。やめろよ」
由良「このために彰人と分かれて一生懸命調べてきたんだし,あたしまで死にそうになったんだから」
昇「まさかあの火事は?」
彰人「うちの両親がやった。間違いない。ただ証拠がないから警察はガス漏れによる爆発で処理したよ。」
昇「彰人の両親はどうするつもりだ?」
彰人「別に証拠見つけて、警察に2人突き出すだけだよ。警察は動けないからな」
昇「春奈の両親は凄い事件に首を突っ込んだのか…」
彰人「ああ。むやみに手出しできないぐらい。でも会長がけっこう協力してくれるから助かる。まぁこの話はこれくらいで勘弁してくれ。どうせみんな集まったから久しぶりにやりますか?春奈たちも呼んで。」
由良「いいね。」
久しぶりにやること?それはトランプの大富豪。
昔からよくみんなで遊んだらしい。
春奈、裕二、馨と由良は再会した。
春奈「由良?やっぱ生きてたの?」
由良「うん。」
春奈「元気だった?」
抱き合う2人
由良「ごめんね」
春奈「謝ることないのに」
由良「もう彰人と別れたから、早く告白しなよ」
春奈「えっ?どういうこと?」
由良「早く告白しないとまた彰人前みたいになっちゃうよ」
春奈「はぁ…」
前みたいになる?ただ彰人自身に自信がないから恋愛をしなくなるってこと。
その夜彰人たちは夜通し遊んだ。春奈の楽しそうな表情を彰人はずっと見ていた。いつしか彰人は春奈の笑顔を見ることで自分も幸せになっていた。素直になれば春奈のことを好きになっているだろうに。愛し方なんて2人には分からないけど、 誰にも負けないくらい相手を大切に出来れば、それでいい。そのことを2人はまだ気付かないのだ。 特に彰人が。それから一年後、彰人、由良と千尋の努力は報われ彰人の両親が警察に逮捕された。でも、彰人たちは無謀なことはしないように怒られた。
彰人「結構危ない橋渡ってたな」
由良「たしかにね。」
彰人「でもこれで終わったな。」
由良「うん。」
千尋「そうだね。」
その半年後,天野夫婦は刑務所内で自殺をした。
この時彰人は27才春奈26才になっていた。そして春奈・彰人・千尋・由来・昇・裕二・馨は別々に人生を歩むことになった。
彰人「これからどうする?」
千尋「あたしは東京支社(SCS)に行って、プロダクションの仕事をする。」
由良「あたしも千尋と一緒に行く。東京は家賃が高いから2人暮らしするんだよね」
千尋「うん。」
彰人「そっか…会長によろしく言っといてな。」
由良「うん」
昇「俺は田舎に帰る。ばあちゃんが調子悪いみたいだから一緒に暮らして、また一から会社建ててみる。」
彰人「頑張れよ。春奈はどうする?」
春奈「あたしはここに残るけど、1人暮らしをしようかなって思ってる。」
彰人「そっか…家が寂しくなるな。」
裕二「自分は馨と一緒にこっちに帰ってきます。ね、馨。」
馨「うん。ここに残って春奈と歌をやりたい。」
春奈「いいね。」
彰人「本当に色々あったけど、7人みんなで楽しかったな。」
春奈「みんなのおかげであたしもここまで良くなれた。ありがとう。」
由良「特に彰人には感謝だね。」
千尋「あたしも、あの時助けくれなければ、ここにいられなかった。彰人ありがとう。」
彰人「そんな…」
裕二「自分も受験に失敗し、自殺しようとした時に彰人さんが説得してくれて立ち直れたんです。本当に感謝してます。」
千尋「そうなんだ…はじめて聞いたよ」
彰人「言うなよ。大したことしてないよ」
馨「実はあたしシャブ(覚せい剤)やってて、釈放になった時に身元引受人になってくれって会長に頼んでくれて、色々助けてくれたよ。」
由良「ここは彰人に助けられた人ばっかりだね。彰人って優しいもんな。」
彰人「やめろよな。凄いことしたわけじゃないよ。」
春奈「でも、あたしたちは彰人に感謝してるってことだけは覚えといてね。」
彰人「いゃあそれはどうも」
彰人はお人好しというのか、困ってる人を助けずにはいられないのだ。その性格のせいかたまに騙されることも多い。それが彰人の長所であり短所でもある。
春奈は馨の助けもありますます音楽を楽しめるようになり、ストリートライブでもかなり観客が大いらしい。
彰人「大盛況だな。」
春奈「おかげさまで」
彰人「なぁ春奈。」
春奈「なに」
彰人「CD出さないか?」
春奈「あたしの歌を?」
彰人「ああ。春奈には才能があると思う。」
春奈「でも…どうしよう?」
彰人「春奈が自分で決めることだ。」
春奈「やってみようかな…」
彰人「よし!」
そうと決まったら、あっという間に時間が流れるものだ。わずか3ヶ月でアルバムが一枚完成して、ストリートライブで配られた。ストリートライブに来てる観客の話だと、春奈の音楽は身近なことを題材に歌を作ってるから共感しながら聞いてるそうだ。アルバムは話題になり、春奈は街の有名人になった。
ただ春奈の絶頂期はここまでだった。音楽は自分が楽しめるようにやると途中で決めた。そして彰人とずっと一緒にいたいという春奈の密かな思いがある。いつしか春奈は彰人を好きになっていた。 でも彰人は分かっていない。
そんなこんなで夢を諦めたことを彰人に打ち明けた。けど、2人はケンカになってしまった。
春奈「あたしはずっとここにいる」
彰人「でも諦めるのはやくないか?」
春奈「歌は楽しめるようにやるの」
彰人「たしかに。けど、あの人気だぞ。みんなに聞いてもらうのもいいと思うよ。」
春奈「彰人はなんにも分かってない。」
彰人「なんだよ。」
由良が玄関口で聞いている。
春奈「彰人はこうやって千尋を傷つけたんだよ。かわいそうに」
彰人「どういうことだよ?」
春奈「千尋は彰人のことずっと好きだったんだよ。けど、彰人は振り向いてくれないからって…」
彰人「…由良お前」
由良「彰人はいつもそうなんだよ。一番大事な人に聞いてもらうのが一番いい歌になるの。千尋だってあたしだって,一番大事な人のそばにいたかったの。けどだれかさんが鈍感でなんにも分かってないから春奈も千尋もあたしも…」
春奈が彰人の胸ぐらを掴む。
春奈「なんでこんだけ優しい人間なのに、千尋の気持ちが分かんなかったんだよ?由良とだってまともに向き合ってなかっただろ?彰人は由良と千尋を傷つけた最低な奴だ!」
顔面に一発殴った春奈。そのままどこかに行ってしまう。冷静になって戻って来た春奈は彰人を抱きしめる。 彰人はずっと泣いたまま。
春奈「ごめん。」
彰人「こっちこそ。俺は最低な奴だな」
春奈「正直になって。それだけで十分だよ。」
そのまま時間が止まったように2人はずっと寄り添っていた。由良が千尋を連れて来た。
彰人「千尋の気持ちには気付かなかった。由良と付き合ってた時も何か正直ギクシャクしてたな。由良と俺は回りの雰囲気で付き合っちゃったんだ。由良は俺なんて好きじゃなかったんだろうな。」
由良「あれはそうだったね。」
彰人「やっぱり俺は恋愛失格だな。」
千尋「彰人は恋愛だとまだ小学生ぐらいだね」
彰人「そっか…」
千尋「まったく,こんな美人をふるなんて体した男ね。」
彰人「ごめん。美人かどうかは知らんけど」
由良「失礼だよ。ああ見えてもけっこうもてるよ」
千尋「冗談だよ。ああ見えてもは余計だけどね。」
みんなで笑う。
千尋「彰人,自分の気持ちに正直になりな」
由良「そうだよ。もう誰も傷つけちゃだめよ」
彰人「そのとおりだな。お前とはちゃんと向き合わないとな。好きな人間を傷つけちゃだめだな。俺は,春奈の歌にいつも癒されて,元気をもらってる。どんなときも一緒にいたからいつもとあまり変わらないかもしれないけど,俺はもっと春奈を大事に,大切にしたいと思う。俺は春奈のことが好きだ。」
春奈「えっ?もう一回言って。」
彰人「お前が好きだ。」
千尋・由良「おいおい,2人きりの時にやれよ…」
春奈「何だよこの展開は…でも、あたしも彰人のこと好きだよ。」
春奈は祐二と馨に報告した。
馨「彰人はいつの間好きになってたの?」
春奈「あたしも分からない。」
馨「逆にいつの間にか好きになってんじゃない?」
春奈「なるほど」
祐二「これから付き合うの?」
春奈「多分今までどおりじゃない。」
祐二・馨「そっか」
さすがに20年間も一緒にいるとお互いいて当たり前な存在なんだろう。それ以来春奈は彰人の家に戻り前みたいに2人で暮らしている。そして春奈は彰人のために歌をプレゼントしようと曲を作り出した。
彰人は仕事に専念するようになった。不可能に挑戦し、誰にも負けない技術を身に付けようと必死だ。
それから半年後会長が突然倒れ,亡くなった。会社は彰人が運営することになり忙しく働いている。
さすがに会長の葬儀はかなり大勢集まった。
裕二「すごい人だな…」
彰人「やっぱ会長は有名人だったんだな。」
会長の奥さん「主人は色々な方と面識がありましたね。芸能界から政界までたくさん友人がいました。」
彰人「あっおばさん。久しぶりっすね」
会長の奥さん「いつもは葬儀に来ないのに今日は来てくれたのね。」
彰人「会長は俺の恩人だからね。ほんとにお世話になりました」
裕二「おばさんはこれからどうするんですか?」
会長の奥さん「実家に帰るわ。田舎でゆっくり隠居生活をさせてもらうわ。」
彰人「そうっすか…しばらく会えなくなるな。げんきでね。」
裕二「何かあったら連絡ください。実家の方に伺いますから。」
春奈「おばさん。」
会長の奥さん「春奈ちゃん。すっかり元気になったのね」
春奈「うん」
会長の奥さん「ちゃんと彰人のお嫁さんになりなさいよ。」
春奈「えっ…」
会長の奥さん「彰人」
2人の手を取った。
会長の奥さん「あなた達2人はもう20年も一緒にいるのよ。お互いの気持ちはちゃんと分かってるでしょ?お互いに苦労して育ってきたんだから、これからは2人で一緒に幸せに歩んで行きなさい。これが主人からの遺言です。」
会長は2人のために遺言を残してた。春奈と彰人はこの時結ばれることになった。
会長の遺言があるまで彰人は好きだという気持ちを伝えただけ…恋愛となれば不器用で情けない奴。会長の遺言は彰人自身が自分の心の扉を開けるきっかけになった。これからは2人にとって本当の恋人同士として幸せな時間がスタートするだろう。ようやく2人は恋人らしくなった。
彰人「なんか付き合うってなると恥ずかしいな」
春奈「気にしすぎだよ。今までどおりでいいじゃん」
彰人「それは分かってるんだけど…」
春奈「じゃあこうしてやる」
突然キスした…
当然彰人は呆然となってた。実は初体験。やっぱり彰人は情けない奴だ。
彰人「お前な!急にするなよ。記念の一回目が台無しじゃねぇか。」
春奈「まあまあ、落ち着きたまえ。」
彰人「うるせぇ。」
春奈「ねえあたしのこと好き?」
彰人「好きです。」
春奈「それだけ?ダメだな」
彰人「いいじゃん」
春奈「なんか、もっとドラマみたいにかっこいいこと…」
彰人が春奈を抱きしめた
彰人「愛するのに言葉なんていらねぇだろ?なんて?」
春奈「彰人に言われるとキモい」
彰人「うるせぇな」
なんだかんだ春奈も素直じゃない。ほんとは彰人がいないと寂しいのだ。彰人の言うように2人がお互いを愛することに言葉なんていらない。どうせずっと一緒にいるから今さら言葉で伝えたところでどうでもいいことだ。
次の日…彰人はドジをして骨を折った。
春奈に突然キスされたので舞い上がってたらしい。ただのアホとしかいえない。 それから春奈は歌を書き続けていつしか アルバムを一枚完成させた。ストリートライブをしてはアルバムを配りの繰り返し。馨に言わせれば彰人へのラブレターに聞こえるらしい。
馨「春奈って歌に彰人へ愛を込めてるでしょ?」
春奈「だって歌を作る時はスラスラ浮かんで来るんだもん。」
馨「彰人に聞かせてみれば?」
春奈「いやだよ今さら」
馨「じゃあアルバムぐらいプレゼントしなよ。ほんと相変わらず付き合ってるわりには微妙な関係だよね」
最近春奈は彰人に歌を聞かせなくなった。自分の曲を聞かせるのが恥ずかしいのだろうか?
春奈「実は彰人にプレゼントしようと思う曲を作ってるの」
馨「いいじゃない!」
春奈「それがまだ2年かけてもできないんだよね…」
馨「そうなんだ…で、その曲をプレゼントしたらどうするの?」
春奈「…」
馨「プロポーズ??」
春奈「うん」
馨「じゃあ、手伝おうか?」
春奈「いいの?」
馨「うん。」
春奈のプロポーズ作戦が始まった。彰人への感謝とかを歌に載せる。今までどおりなんだけど、これからは愛を確かめたい。曲を書いて行くうちに春奈の目に涙がこぼれ落ちる。今考えれば彰人の優しさ、器の大きさ、不器用な愛し方は春奈にとって初めてのことばっかりで、始めて人の愛を感じた瞬間だった。
彰人自身は親の愛情を受けずに育ったことを教訓にして、春奈をかくまった時から愛情を込めて彰人なりに春奈と接してきた。春奈の閉ざした心を開けるために色々と努力もしただろう。
そんな彰人の努力を思い出した涙とも言える。
最近彰人は会社経営で大忙しだ。
彰人「マジで休みがほしい」
裕二「あと3ヶ月頑張ってくださいよ」
彰人「会長はほんとに人間だったのか?どうやって1人でこんだけ仕事して、おばさんと旅行までしたんだ?」
裕二「会長は要領が良すぎなんです。」
彰人「やっぱりもう一人雇っていい?」
裕二「それはできません。」
彰人「しょうがないな」
それから3ヶ月頑張った彰人。ちょうどタイミング良く春奈の歌も完成した。さぁ春奈から彰人にプロポーズする時だ。場所は会社の屋上。
ゆっくり春奈はいつも歌う場所に歩き座る。ギターを取り出しチューニングする。「ふぅー」と深呼吸をし…
春奈「彰人にプレゼント」
といい歌い出した。
「あなたはあたしのギターみたい
あたりまえのように隣にいる
なにがあってもギターの音色のように
あたしを癒やしてくれた
あたしの支えになって
いつまでも癒やしの音色を奏でて
あたしの支えになって
言葉にできないほどの愛をください
I love you forever 」
ギターの音色を止めた。多分続きがあったと思うが、春奈の目は涙でにじんでいて楽譜が見えなかった。
春奈「あたしは、あの時あの部屋を開けて一生救われたって思った。あたしと結婚して、あたしの歌をずっと聞いてください。」
彰人も泣いてて、話せない。
春奈「何とか言ってよ」
彰人「こ…こっちこそお願いします。あなたの歌をずっと聞かせてくだい。」
二人はついに結ばれた。
2人は相変わらずの生活を送っているが、1つの新たな命が誕生した。その名前は愛だった。彰人が親から愛情を受けることなく育ったから愛にだけは同じ思いをさせたくないそう思って名前を付けたそうだ。祐二と馨の間にも子供ができて、春奈と馨は一緒に子育て奮闘中だ。
昇は田舎の祖母と暮らしてたが、祖母の病気が悪化してしまい亡くなってしまった。女と遊んでばっかりだった昇が今度結婚するって手紙が彰人に届いたようだ。もうすぐ妻と地元に帰ってくるそうだ。
千尋と由良は東京に行ったが、SCSがプロダクションの仕事から手を引くことになり地元に帰ってくることになった。千尋は彰人への思いを断ち切って今は恋人ができた。由良は絶縁関係だった親と仲直りをして、親に甘えているみたいだ。
SCSはプロダクションから手を引き、清掃業に専念することになった。彰人と祐二は2人で亡くなった真一会長の仕事をこなして、空いた時間を2人共子育ての手伝いをし、春奈と馨と一緒に家の事をするようになった。結局またみんな一緒になった。なんとなく地元のほうがいいみたい。
春奈と彰人は皆で笑って楽しくできることが夢だった。泥沼のような人生を送ってきた2人にとってようやく訪れた幸せだった。それはだれもが望んでいるような贅沢な幸せではなく,「ただ普通の生活ができる」2人にとってそれだけで十分なのだ。このとき本物の笑顔が2人の元に帰ってきた瞬間でもあったのかもしれない。
完