プロローグ3
「なんでさ…… なんでなんだよライル!?」
馬車から下りるようライルに促された場所は山の麓だった。左右には森が広がっていて、前にはどこまでも続いていそうな草原が広がっている。
「申し訳ありませんが旦那様のご命令です…… もし魔素集中点に行っても魔術が使えないようなら人目のつかぬ場所に放置しろと………」
「そんな…… 父さんが………」
こんな所に放置されて生きられるはずがない。あまりのことに僕は茫然とした。ショックだった。信頼していたライルに裏切られたことも、父親が自分のことを間接的にとはいえ殺そうとしていることも。
「これを…… 3日分の食料と周辺の地図、その他旅に必要なものが入っています」
そう言ってライルは馬車に積まれていた袋を投げてきた。
「私にできる手助けはここまでです。言える立場ではありませんが…… どうか生き延びてください……」
そう言い残してライルは馬車とともに去っていった。僕は馬車が見えなくなるまで茫然としていた。
*****
馬車が見えなくなってから十数分後、僕は袋に入っていた地図を見ていた。地図によると僕の足では王都まで一週間はかかりそうだし、もし辿り着けても屋敷には入れないだろう。最悪、殺されるかもしれない。ここから一番近い街は隣国のラーム自由都市同盟に属するカーラルタという所らしい。それでも3日はかかりそうだ。
ふぅ、とため息をついてから僕は歩き出した。このままここにいても魔物の餌食になるかもしれない。魔素が変質化することで生まれる魔物は凶暴だ。魔術が使えない僕じゃ一溜まりもない。
だけど遭いたくないと思っているほど遭うもので、歩き始めてから1時間程経った今、僕は魔物ワイルドドッグの群れに囲まれていた。
(ああ、死んだな……)
ワイルドドッグは弱い魔物で、下級の魔術でも倒せると聞いたことがある。実際に魔素集中点に行くまでに、ライルが苦もなく蹴散らすのも見た。だけど僕は魔術が使えない。今僕を囲んでいる十数匹のワイルドドッグを倒す術がない。
「できればもう一度、ルナに会いたかったな……」
そう呟くと僕は目を閉じた。そのまま死の時を待つ。
……おかしい。いつまで経っても襲ってこない。魔物の様子を見た限り、いまにも飛びかかってきそうだったはずだ。
恐る恐る目を開くとそこには12~13歳ぐらいの女の子と、何かに切り刻まれたワイルドドッグの死骸が転がっていた……
「君が助けてくれたの?」
状況的に考えてそうとしか思えない。しかし、彼女はこっちの質問には答えず、僕をじろじろ見ながら、
「ふ~ん、なるほどねぇ。 ……あなた、なかなか面白そうね」
等と言ってくる。そしてにっこりと微笑んで僕の一生を左右する一言を放った。
「あなた、私と契約しない? あなたに力をあげるから、あなたの魔力を私にちょうだい」
その発言から彼女の正体が大体分かった。もし僕の予想が当たっていれば、メリットは大きい。それに、力が無い僕に力をくれるという。なら、僕の答えは決まっている。
ごくり、と唾を飲むと僕は答えを口にした……
プロローグ終了。この後8年飛びます。