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魔術世界の非魔術師  作者: まこと
黒衣の剣聖と銀月の射手
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兄妹の再会

「ふう……」


 自分の部屋に着いたアッシュはコートを脱ぎ、楽な格好になると溜息をついた。


「お疲れね、アッシュ」


 そう言ってセラが微笑む。


「疲れもする。 名付きと戦ったんだ。いつも以上に集中したし魔力の消費も激しい」


「それだけじゃなくて可愛い妹に嘘をついた心労もあるでしょ?」


 その言葉に一瞬固まる。


 しかしすぐに再起動し、


「嘘は付いていない」


「だけどホントの理由を話していない。 本心隠すためにツンツンしてたし」


 そんな事を言うセラを苦虫を噛み潰したような表情で睨むアッシュ。


 それを見てくすくす笑うセラ。


「言ってあげればいいのに。 下手に自分との関係が漏れると厄介事に巻き込まれるって」


「……うるさい」


 先程ルナ達に話した理由は確かに本物だが、一番の理由というわけではない。


 彼女たちの安全のためというのが彼の中での一番の理由だ。


 Sランクは人外の実力者、その力を得ようとする存在は多い。


 しかし金は十分以上あり、ギルド内での権力もかなりのもので、結果的にギルド加盟国に与える影響力も大きい。


 力づくで抑えるのは論外。女で釣れるほど甘い精神はしていない。


 そんな存在を得る手段として、親しい存在(主に身内)を人質にしようとする馬鹿な組織もある。


 当然怒りを買って滅ぼされるのが落ちだが、多大な迷惑を親しい存在にかけてしまうことになる。


 また、Sランクと仲がいいとやっかみを受けることもある。


 そういった諸々の今のルナたちでは対応できない厄介事に巻き込まないために、たまたま助けた者たちといった距離感が有効だった。


 だからある程度力が付き、厄介事をはねのけられるようになるまでは正体を隠すつもりだったのだが……


「ああ、くそ…… ミアに頼んで影から護衛してもらうか? その間にソリアで準備を整えて……」


「前々から思ってたけどアッシュってシスコンの気があるよね。 カルノワの皆にも優しいし、レナちゃんを凄い心配してるし」


「家族に優しいだけだ」


「ふ~ん」


「……おい、そのにやけ顔をやめろ。 腹が立つ」


「で、結論としてアッシュはレナちゃんが大事と」


 笑みを噛み殺し、一転して真面目顔になってそんな事を聞くセラにアッシュも真面目に答える。


「ああ、そうだな。 再会した時はフードを被ってて良かったと思ってるよ。 でないと動揺が伝わっただろうからな」


「……だってさ、レナちゃん」


「……は?」


 セラの言葉と共に扉が開き、そこにいた人物にアッシュは唖然とする。


 五感を常に強化し、セラの力を借りられる彼は本来なら訓練された暗殺者の存在にもすぐに気付く。


 にも関わらず扉の前にいる少女、ルナフィリアの存在に気付かなかったのはセラが風を用いた感覚阻害をかけていたのだろう。


「いや~リルがちょうど帰って来ててよかったよ。ちょっとお願いしてレナちゃんをこっちに来させたんだ~~」


 そう言って笑うセラを睨み、後で覚えてろよとつぶやくアッシュ。


「えっと、兄さんあの……」


 恐る恐る声をかけるルナに恥ずかしそうな顔でアッシュが聞く。


「どこから聞いてたんだ?」


「……本当の理由を話していないとかってところから」


 答えを聞いて頭を抱える。穴があったら入りたい気分だ。


「ああ、くそっ!! 怨むぞセラ……」


「素直じゃないアッシュが悪いんでしょ?」


「兄さん、本当の事を聞かせてください!!」


 そう言ってルナが詰め寄って来る。


 しばしの沈黙の後アッシュはぽつぽつと口を開く。


 曰く、自由の身になったのだから世界を見て欲しかったと。


 曰く、この世界で生きていくだけの力と経験をもって欲しかったと。


 曰く、ある程度力がついた段階で正体を明かし、その後どうするかの判断を任せるつもりだったと。


 そのためのギルド加入の勧めであり、カンナが鍛えた武器の授与だった。


 追手への対策もアッシュは考えていた。


 追手がかかるのに予測では後3日の猶予がある。その猶予期間の内にソリア聖王国に行くことを勧めるはずだった。


「ソリアの現女王には貸しがあるからな」


 そう言ってアッシュは笑う。


 ソリア聖王国はこの世界有数の大国だ。追手も迂闊には近寄れないだろう。それにソリアには剣聖の四黒姫(カルテット・ノワール)が2人滞在している。彼女たちの力を借りれば追手など問題無いだろう。





 説明が終わり、沈黙が流れ始めた時、


「ああ、そうだ。 言い忘れてたな……」


 そう言ってアッシュは一度咳払いをすると微笑み、


「大きくなったな、ルナ。 俺がいなくなってから苦労しただろう。 ずっと心配してた。会いたかったよ」


 その言葉を聞いたルナの瞳は濡れていた。


「私も……ずっと会いたかったです。 生きてて……よかっ…兄さ……」


 アッシュ……アインの胸に頭を押しつけるルナ。そんな彼女を突き放すことなく左手で優しく抱き、右手で頭をなでるアイン。


 8年前に生き別れになった兄妹は互いに再会を心から喜びあった……


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