俺の人生の転機。 5ページ
「愛香、いる?先生に保健室にいるって聞いたんだけど…」
入って来たのは、どうやら白羽の友人らしい。そう言えば、今何時なんだ?踊り場での騒動が昼休みだから、もしかして授業中か?それならば白羽は、俺にさっきの事を説明する為に授業中ずっと保健室にいた事になる。
「愛香ー?」
カーテンの奥からもう一度声がする。その声で白羽は、ハッとして顔を上げた。
「ここにいるの?」
シャッ っと短い音がしてカーテンが勢い良く開く。
「あ、いるなら返事してよ~」
「ゴメン優香。ちょっと考え事しててね」
そう。保健室に入って来たのは、先程の話の中心人物、橘 優香だった。
橘さんは、俺の存在に気が付くと、軽く会釈をしてきた。俺も、ベットに座ったまま会釈を返す。
「愛香、この人は?何かしてたの?」
橘さんは、俺の方を指しながら、白羽に問いかけた。白羽は橘さんに近づき俺の方を向きながら、
「朝道 木陰君。昼休みに踊り場で優香を止めた人だよ。……その…悪いんだけど、優香の事、喋っちゃった」
と、苦笑いを浮かべながら説明した。そしてその後、白羽は俺に向かって
「朝道君。優香と少し話でもしてて、私は先生に色々と聞いてくるから」
と言い残し、素早く保健室を出ていった。
その早さは、もしかするとチーター並みに速かったかもしれない。
白羽が保健室を去ってしまうと、残ったのは、ベッドに座っている俺と、ポカンとしてしまっている橘さんだけ。…さて、これからどうするか。とりあえず、ベッドから降りよう。怪我していても軽傷なんだ。ベッドの上で安静にしてなくても大丈夫だろう。
俺は、折れている左腕をあまり使わない様にしながら、近くに置いてあった自分の上履きを取った。
「あ…あの…私の事、愛香から聞いたんですか?」
片手で苦戦しながら上履きを履いていた俺に、橘さんが話しかけてきた。
俺は上履きを履こうとしていた手を止めずに、橘さんのほうを向く。橘さんは、手を胸の前で軽く握りながら、何かを恐れている様な目で、俺を見ていた。
「白羽さんから、だいたいの事は聞いたよ」
俺はそう言って微笑んだ。上履きは右手だけでもなんとか履く事が出来た。ベッドから降りて、トントンと、つま先を軽く打ち付ける。
「だいたいって?」
一連の動作を終えると、橘さんが話してきた。俺は橘さんの脇を通り過ぎ、カーテンで区切られた小部屋を出てから答えた。
通り過ぎる時、チラリと橘さんの顔を見ると、橘さんは不安そうな目で俺を見ていた。
「橘さんが、もう一人いる事、どんな事が起きたら変わってしまうか、そして、俺に橘さんのお守りを頼んだ事だな」
「それじゃあ、だいたい知ってるんだ……ってちょっと待って!えっと、朝道君が私のお守り⁈それって一体どう言う事⁈」
「俺も知らん。さっき白羽が言ってた。戻って来たら、詳しく話が聞けるだろう」
「でも…それって朝道君にとって迷惑じゃない?その左腕も、私がやった事なんでしょう?それに、それに…」
ワタワタと慌てふためきながら、次々と言葉を発していく橘さん。その慌てた様子が、どこかおかしい。
あぁ。クラスで人気があるのも頷ける可愛いらしさだ。左腕一本で美少女二人と会話が出来るとは、嬉しい偶然があるもんだ」
「え?」
おっと、何時の間にか声に出していた様だ。…ちょっと待て……なんつー事を喋っちまったんだ俺は!糞恥ずかしいーじゃねぇかバッキャロロォイ!
「え?えあう…」
橘さん、さっきより慌ている様だ。やめてくれ、流してくれ。頼む。
そんな俺の願いは届かず、パニックの様な状態になった橘さんは、
「ええええええぇぇぇぇぇぇえええ⁉」
甲高い絶叫を、保健室に響かせたのである。




