街の中での豹変。4ページ
ボウリングの最中は自分が投げる時以外は案外暇なもので、自分と同じ様に順番待ちをしている人と、思ったより会話が弾む。
例えば、橘さんが投げている時はーーーー
「優香って、いつもは非力なんだよね。今投げてるのも八ポンドの球だし」
「え? 非力って、本当か?」
「確かに信じらんねぇよな、木陰。結構ピンを倒しているし」
「健、それは技術なんじゃないのか?」
例えば、白羽が投げている時はーーーー
「なぁ木陰」
「なんだ健」
「あれは本当に白羽さんか?」
「ああ、本人だな」
「愛香、本当に噂話だと性格違うんだね。おもしろい」
例えば、健が投げている時はーーーー
「犬飼君てさ、運動神経は悪くないよね?」
「まぁ確かに、悪くはないな」
「で、でも、さっきから9本づつ倒してるよ?スペアもストライクもとらないで」
「詰めが甘いと言うか、どこか惜しいんだよな」
「惜しいって、どんなよ……あ、また一本残した」
「……流石だね」
ともまぁ、こんな感じでボウリングは楽しまれている。
ワンゲーム終わった後は、2人組のペアで競う。白羽と橘さんのペアは安定した投球を見せてくるが、俺と健とのペアは何と言うか、奇妙で、一投目を投げる健が、高確率でスプリットを出してくるのだ。
お陰様でスコアが全くというほど伸びず、第九フレームで八十二本。
負けが確定したこの最終フレームも、ご覧の通り、六番、七番ピンの難しい物である。
健がストライクを出す事がなかったから、俺はしっかりと投げられた。でも、難しい二投目ばかり回ってくるのは何故なんだ? わざとか? わざとだったら驚きだ。
「木陰ー!スぺアきっちりとってもう一度投げさせろ」
だったらスプリットで回すなよ。
「ほらほら、最後なんだからしっかり決めようよ」
「期待してるよ!」
あえてプレッシャーをかけてくるか。
色々と言い返してやりたいが、後ろから飛んでくる野次は気にかけない方が良い。まずは深呼吸。落ち着こう。
……よし、いいだろう。顔をを上げて、レーンの先にある二本のピンを見つめる。キーピンは六番。よし、行くぞ!
アプローチを目一杯使って助走する。そして、紫色のやや重量感のあるボールを、ピンに向けて送り出した。
カコンッ
小気味良い音を立てて、ボールは六番ピンを弾いた。そして、
「うわっ、凄い」
スプリットゲット達成。そして俺達のスコアボードに、初めて黒の三角形が載る。
「よっしゃ!」
拳を握り締めてガッツポーズ。
多分俺が出来る最高の笑みを浮かべて振り返ると、健も橘さんも白羽も、驚いたかおをしている。
確かに、スプリットを取る事ができたのはビギナーズラックかもしれないが、驚くだけじゃ無く褒めて欲しい。
そう思っていると、隣のレーンを使っていた、二歳くらいの子供を連れた家族が、こちらに向かってパチパチ拍手を送ってくれているのが見えた。




