彼女の豹変への対策。7ページ
「嘘つかない」
橘さんは、俺の顔を覗きこみながら、キッパリとした口調で言った。保育園の先生が、我が儘な子供を叱るときみたいだ。
「私はね、えーっと、この人が屋上に来た時まで覚えてるんだよ?で、そこからは覚えていない。だから多分、『あの状態』になっていたんでしょ…?」
この人、と言う所で健を指差して、橘さんが俺に詰め寄る。と言っても、覗きこむ様に座っていたから、表情がすこしきつくなっただけだが。
「……取り敢えず、起きあがりたい。退いて貰っていいか?」
俺はそう言って、腕に力を込めた。橘さんは、一瞬キョトンとした表情を浮かべて、それから慌てた様に飛びのいた。
「よっ……」
ようやく視界が屋上の床を捉えた。顔を動かすと、白羽、健、そして橘さんが、俺を見ている。
俺はもう一度屋上を見渡した。途中で、フェンスが途切れている場所があった。水が浸っている場所があった。破裂した貯水槽があった。……確かに、屋上がこんなになっているのに昼寝と言う言い訳は無理あるか。
「で、朝道君。この人は……」
白羽が、健を指差して聞いて来た。俺はチラリと健の方をうかがう。健は黙っているが、その目線が、「早く紹介して来れ」と言っている。
「こいつは犬飼 健。阿呆だけど馬鹿じゃない」
だから俺は普通に紹介してやった。が、
「おいこら木陰!その紹介の仕方は無いだろう!」
健は突っかかって来た。
「えっと……朝道君の友達なの?」
橘さんが困惑した表情で尋ねて来る。
ほら、健。橘さんが困ってるじゃないか。
「それはお前の説明のせいだ」
健は呆れた顔で言って来た。俺はそんな健を無視して橘さんに言った。
「ああ、友達だ。別に悪い奴じゃないぞ」
「……そう言う紹介ができるなら最初からそうやってくれ」
はぁ、と横から溜息が聞こえる。が、当然無視。
「成る程、朝道君の友達ね。……ねぇ、取り敢えず、屋上から降りない?」
そんな中白羽が、こんな提案をして来た。
「なんで?」
不思議に思って聞き返す。
「だって、そろそろ昼休み終わるし、それに、あれ……」
言葉を発しながら、白羽は貯水槽を指差す。白羽が何を言いたいのか理解した俺達は、いそいそと屋上から立ち退いた。




