彼女の豹変への対策。5ページ
「あああああああああああああ」
耳をつんざく大きな声を響かせた後、暴走状態になった橘さんは、大きく息を吸った。
「朝道君‼」
白羽が鋭く俺に指示を出した。白羽の言葉に頷いて、素早く橘さんに触れようとした時、何かが俺の動きを封じて来た。
「こ、木陰ぇ。なんだあれ?」
何があったのかと見てみると、健が、俺にしがみついている。
「なっ」
その時、橘さんがいた方向から、何とも言えない音が聞こえて来た。顔を向けると、暴走状態の橘さんが、屋上のフェンスを捻じ曲げていた。
鉄で出来たフェンスが、粘土の様に丸められていく。
まずい、早く健をどうにかしないと。そう思って健を見ると、健は何が何だか分からないと言った表情で、橘さんを見ていた。
俺は顔に恐怖の表情が浮かんでいないのにしがみついて離れない健を俺から引き剥がそうと腕に力を込めた。
ーーーーヒュンッ
その瞬間、俺の耳の側で、何かが、空を切った。その後、俺の横から轟音が響く。振り返る。そしたら俺の目に飛び込んで来たのは、破裂した貯水タンクだった。
「……………」
何が何だか分からない。橘さんが暴走状態になってからまだほんの数秒しか経っていないのに、もう何が何だか分からない。
貯水タンクから流れ出た水が、足下に広がって来る。
取り敢えず、健を引き剥がす事が出来た俺は、橘さんと向かい合う。橘さんは、フェンスを捻じ曲げて作った鉄球を、俺に向かって振りかぶっている所だった。
「ぎゃああああああ!」
反射神経ってのは本当に凄い。暴走状態の橘さんの手から放たれた鉄球。猛スピードで飛んで来た鉄球を、俺は間一髪で躱すことが出来た。って
それよりも、早く橘さんを落ち着かせないと。
二重人格の様な存在である以上、『元に戻す』と言う考え方はしたくない。暴走状態だろうと、いつもの橘さんだろうと、取り敢えず落ち着かせれば良いのだ。
手の届く範囲にフェンスが無くなった橘さんは、黙って、俺の方を見ている。その鋭い眼光に腰が抜けてしまいそうだが、俺は橘さんを見つめ返した。
だが、視線をなるべく合わせたくない。だって、怖いから。
ただ見られていると思っただけで腰が抜けそうになるのだ。それなのに視線を合わせると、何も考えられなくなって、勝手に涙が出て来て、声にならない悲鳴を上げてしまいそうだ。
だから俺は、橘さんと視線を合わせない様に、橘さんを視界のはしで捉える様に、橘さんを見つめていた。




