祖父~俳優の孫
祖父の期待
双子の孫にふたりとも医者になってもらう
医系家族に生まれた男児
医者になるためにそれなりに努力する
「院長先生恐れ入ります。スタジオは関係者以外立ち入り禁止です」
これをお持ちください。
局の担当者からIDカードを手渡される。
「顔を(お孫さんに)見られては困るでしょう」
変装メガネに帽子を貸与された。
「院長先生は背が高く貫禄がありますね。ベテランの監督さんに見えます」
マネージャーの手招きで収録スタジオへ行く。
大御所の控えを出て廊下を行くとテレビ局にいるんだなっと胸が高まる。
テレビで見るは孫であってもトレンディ俳優である。
「お孫さんは立派な俳優さんになりましたね」
褒めていただいても
高校を途中で投げ出した孫である。
「立派かっ…」
医者になる権利すら放棄した
嘆かわしい孫ではないか。
「こちらへ院長先生っ。スタジオ関係者席になります」
マネージャーはパイプ椅子を用意しひとりだけポツン
見学者は目立つのである。
端役の役者さん2~3に出番待ちはこちらでするように頼む。
担当ディレクターが時計を眺めスタジオを見渡す。
「それでは時間です。テイク(収録)いきます。照明さん音声さんよろしくお願いします」
照明が入る。舞台は明るくスタジオに医院が設けられていた。
オオッ~
院長は頷き腕組みした。
「こりゃあウチの(医院の様子そのものだ)」
どこまで事実調査をしてあるのか。
院長に黙ってディレクターはダイニングやイブニングを写真に撮らせていただいた。
犯人はお手伝いさんである。
「より完全な舞台の設定や俳優からリアリティーを持たせばドラマもドラマではなくなると思います」
後にディレクターはそう答えた。
収録スタジオに主役たるトレンディ俳優が登場する。
役柄は兄の高校生。
祖父役の院長先生や父親の副院長のカットはすでに収録済み。
常に威厳と正論を兼ね備えての役柄である。
「ついに落第点を取ってしまったな」
もらった学校の成績は芳しくない。
担任からは第一志望の医科大学を変更しろっ。ランキングをひとつふたつ落としなさいと言われていた。
「ほおっ~」
学校での孫の様子は知らない院長。身を乗り出しドラマにのめり込んでしまう。
双子の兄は特段に色眼鏡をかけ可愛がっていた祖父。
自分と同じ医系の長兄たる重荷を課せ見てもいた。
「ああっどうしちゃったのかな」
成績下降線の兄は部屋の片隅で悩みをぶちあける。同じ双子の弟はトップクラスの成績を維持し学内でも有名な秀才である。
兄と弟は学業の差から兄弟そのものの心は知らず知らず離れてしまう。
苦悩する兄に院長の祖父はあれこれ手を差しのべる。
家庭教師(医大生)
学習塾(医歯薬系)
だが
ターゲットとする国立大志望校医学部は生半可な受験技術で突破できるレベルではなかった。
「俺は勉強が出来ないんだよ。弟と違って頭が悪いんだ」
祖父が雇う家庭教師はことごとく難癖をつけ拒否してしまう。
進学校の授業よりレベルの低い学習塾。
鼻からバカにしてしまう。
「勉強なんか嫌いだ!じいさんなんかどうでもいい」
期待を寄せる院長に対し敵対心を煽ってみせる。
結局安易な道を選択しそこらの二流三流高校と同じように学業をスポイル(放棄)し街へ遊びに出てしまう。
大御所の祖父は医院で見る長兄の勝手な振る舞いに激怒である。
「俺は勉強なんかしたくない」
進学クラスの同級生に見劣る成績はいかんともしがたい。
「バカは医学部なんか似合わないんだ」
財布に万単位の金を仕込み繁華街をふらついた。
背が高くキリリっと鼻筋が通った端正な顔つき。
繁華街にウジャウジャいる若い女の子にたちまち取り囲まれる。
「あんた。この辺じゃあ見掛けない顔だね。(不良仲間ね)新入りかい」
殺伐とした繁華街の不良仲間が新入りが珍しいとざわざわと集まってくる。
繁華街には繁華街に相応しい不良高校生である。
妙なインテリタイプがふらつくと
「あんた。ちょっと聞くが。どちらのインテリさんかいね。繁華街にゃあそれなりの掟っもんがあるんさね」
キリリとした端正なマスクは不良高校生と見えない。
不良らしい高校生はそれらしい三流学校である。
在学であろうと中退であろうと。
「おまえなんでここに来てやがるんだ」
たちどころに素性はバレてしまう。
えっ!おまえはあの有名な進学校の生徒なのかっ
勉強しかしない学校
国立大学や難関医学部の進学は常にトップにランキングされている。
「ここはおまえみたいな勉強ばかりしている奴の来るところじゃあない」
高校の存在を知る不良高校生から"畏敬の念"である。
収録を見学する院長は胃がキリキリしてしまう。
「なんとも。もはやっだなっ」
学校をサボり繁華街などふらついたとしても。
医学部教授にまでのぼりつめた院長自身とて挫折感も失敗もなく医学部に進学し内科医になったわけではない。
大なり小なりの苦難や困難を乗り越えている。
スタジオ収録をため息まじりに見学する。
「結局孫は…」
あのまま繁華街に埋没し医院を飛び出してしまうというわけか
「とどのつまり…」
長男の孫は医学部に不適切な子供だったのか
「俳優が天職だとなるのか」
医学部進学を控えた大切な高校時代である。下降線な成績であろうとなかろうと学業についていかなければならない。
医院の後継者の挫折。
再度目の前で絶望をしなければならない。
「もういい。私は(ぐうたらな孫など)見たくはない」
祖父だって
別に勉強が好きでいたわけではない。
パイプ椅子に座る院長は顔面が蒼白であった。持病の高血圧はストレスがいけない。
「失礼したい。極めて不愉快だ」
ブルッと震え興奮状態に陥ってしまう。
頭はカッカしてはいるものの血のめぐりが悪くなっている。
スクッ~立ち上がる。
「あっ…」
急激に血の気が失せてしまう。頭はクラクラとして平衡感覚に障害が出てしまう。
「院長先生っダメだ顔いろが悪い。先生~大丈夫ですか。気をしっかりしてください」
頬を真っ青にしその場に倒れてしまう。
ドサッ
まわりは騒然となる。
「なんだい騒がしいぞ!収録の最中だぞ。静かにしてくれ」
ディレクターはスタジオのざわめきに怒りである。
「見学者が倒れた?なんでスタジオにそんなやつがいるんだ」
すぐさま医務室へ搬送の担架が運ばれた。
ドラマ収録はその地点で中止された。
「誰が倒れたの。あの人は誰なんだ?」
主役の俳優はスタジオの騒然はなにかと関係者席を眺めた。
うん!
倒れた老人をみる。
変装をした老人の姿がチラッとわかった。
「おいっあれは誰だ」
マネージャーを呼びつけ老人の素性を知りたい。
「あっあのぅ~あの方はですね」
マネージャーは歯切れが悪く
隠しておきたい
"祖父の院長である"
「なんだと!」
じいさんが来ていた?
「どうして教えてくれないんだ。もういい!確かめてやる」
収録舞台からタッタっと走り降りる。
今まさに担架でスタジオから運び出されようかとする。
じいさんか!
変装用の帽子に眼鏡は外してあった。
老人を正視してみる。
単に見知らぬ高齢者に…
家出して以来の祖父との対面だった。
最初は我が目を疑ってしまう。
まっまさか!
「おじいさん!」
スタジオは一瞬時間が止まってしまった。




