芸能界の大御所と祖父~ドラマ収録
一大スペクタクル総集編。
大河ドラマ時代劇で主役として見かける大御所は『徳川家康』や『織田信長』などの武将がはまり役である。
政界ドラマならば『総理大臣』か政党党首
社長や弁護士。
もちろん医院の院長もこなしている。
にこやかな顔であれど威圧感は圧倒的で一歩や二歩後退りしたくなる。
「ほほぉ~おまえさんが院長の孫か」
大御所はよろしくなっと握手を求めてきた。
いつもはテレビを拝見しながらトレンディな役者でニヒルなやつだなっとは思ってはいた。
「まったく世の中は狭いもの。おじさんの院長役を」
大御所がじきじき演じることになるとは。
「しかも孫はおまえさんだからなアッハハ」
大御所と祖父はたいして年齢差はないのである。
芸能界で大成したが惜しむらくは女癖が悪く
結婚離婚を繰り返し
子供に恵まれなかった。
「役者になること。それは結構なことだ。私もそれは否定はしない」
祖父の院長と大御所は公私にわたっての交流で親睦を深めている。
「テレビドラマは久しぶりだな。NHKの大河ドラマで家康を演じて以来だからかれこれ…」
最近の数年は日米合作ハリウッド映画に日本の俳優を代表し堂々の主演である。
日本映画のドンは国際派になっていた。
「おじいさんは元気にしているのかい」
おじいさん?
「ハリウッドにいた時に一度逢いに来てくれた。国連の招聘医学会の途中を抜けてスタジオに来たと言っていた」
孫は近年おじいさんの顔を見ていないのである。
医院を飛び出し父親も祖父も数年にわたり疎遠となっている。
「おじいさんでございますか。ええっ」
にこやかに微笑む大御所にいかに答えようか悩むのである。
「どうだ君っ。おじいさんにもドラマの仕上がりを見てもらいたまえアッハハッ」
貫禄と風格は天下一品。
ことのほか優雅で威厳ある雰囲気を強調した"徳川家康の院長先生"はお気に召していただけるはずだ。
テレビ収録スタジオ
いつもの和気藹々な雰囲気は一掃されていく。そこには予断を許さぬハリウッド映画の緊張感がピリピリしていた。
俳優の神様
映画スターの大御所
特別ゲストに迎え入れたスタジオ収録は始まった。
日本映画スターの第一人者で国際派。その演技は息を呑む素晴らしさ。
共演者は主役や端役を問わず緊張感と集中力の高まりの中に。
「スタジオはすごいですね。NGがほとんどないや。こんな緊張感のある収録は久しぶり」
大御所は若い俳優や女優に気さくな一面もみせている。
威張り散らすこともなくよきご隠居さんの雰囲気もあった。
「端役の俳優が緊張感もなく一発録り。どんどん進行している」
ディレクターは舌を巻く。
セリフのトチりは減る。
台本を曲解した無駄な動きや態度・所作もなくなっている。
「(大御所の先生が)一声掛けた。みるみる俳優は見違えるくらい演技力アップしていく」
鶴の一声
神様の一声
格段の違い
「おいっ連絡はついたか」
大御所がマネージャーに依頼事をしていた。
「はいっ先生の申しつけどおり午前中に電話をいたしました。院長先生はなんですか囲碁クラブに出掛けていらっしゃいます。午後には帰られるそうです」
院長は医学部在学中に囲碁を覚えめきめき腕をあげる。アマ4段だが名誉がついており実質2段ぐらい。
応対してくれたのはお手伝いさん。院長の携帯を教えてくれる。
「囲碁クラブに?」
ほほっお~
「院長先生はかなりな腕前ということか」
大御所も愛碁家のひとりで芸能界で名の知れた碁キチである。
「碁会はどこだい。日本棋院の支部だな」
スタジオに近いじゃあないか
こりゃあ囲碁仲間として愉快な話だ。
このドラマ収録が済めばしばらく休みをもらっている。
院長とはリゾート地で手合い(囲碁対局)を願いたいものだ。
「構わないから携帯に掛けてくれ。囲碁の調子が悪ければスタジオに立ち寄りたまえと伝えてくれ」
リーンリーン
「先生っ先生!院長さまにご連絡つきましたでございます」
スタジオ収録は順調に進行する。ハリウッドスターは偉大なもの。
てきぱきと場面のひとつひとつを理解し短時間で一発収録を決めている。
セリフのトチり
再収録のNG
貫禄で乗り切る。
「先生ご苦労様でございます。これで収録はすべて終わりでございます」
大御所の収録シーンは一気に録り溜めでOKである。
「そうか終わってしまったか」
久し振りのテレビスタジオだった。
「ならば老兵は消え去るのみ。しばらくはドラマは休むとするか」
控えにマネージャーとともに戻り衣裳を脱ごうかとする。
トントン
関係者以外お断りのドアを叩くのは訪問者である。
控えは特別に誂えられており一般人は近寄れなかった。
「入りたまえ」
ドアの向こうに恰幅のよい老人がいた。
「やあっ~久しぶりですなっ。院長先生」
碁会所で勝てない院長はそのままスタジオに来てくれた。
「マネージャーさんのお話では私の役柄を演じていらっしゃいますとか」
ドラマの内容をマネージャーから知らされていた。
メインは孫が主役ドラマ。
「まあそんなもんですかなアッハハ」
高齢者同士息も合う。
「さあさあお疲れになられたでしょう。マネージャーなにか冷たいドリンクを用意したまえ」
院長はスタジオ内をキョロキョロ。
テレビ番組は医学関連で出演したことはある。
生まれて始めてドラマ収録の現場というものを知るのである。
「いかがかな院長。ドラマの収録は。何処のスタジオもコンパクトに舞台セットがなされていましてな。こんなもんです」
カメラアングルと照明の技術でドラマに膨らみを持たせている。
「いかがです。これからお孫さんの俳優が収録をされます」
スタジオの片隅に隠れなされば
「ディレクターも文句を言いますまい」
ドラマというものはライターの原作を脚本化し俳優・女優がセリフを入れて演じていく。
えっ…
医院を家出した孫の顔を見るのは…
何年ぶりであろうか。
「マネージャーについておいでなさい。関係者スタッフに紛れてしまえばスタジオからではわからないですから」




