第3話『祖父への裏切り』(兄は高校中退)
「なんだって!社長はどういう奴なんだ」
局は出演者を募る際にプロダクションを丸抱えにした。
所属タレント
ガレージセール一掃?
喜んだのは社長以下重役会である。長年鳴かず飛ばすの端役タレントもトレンディドラマに出演である。
「ちくしょうめ!俺が偽医者をやればいいのか」
恩義を感じる社長は逆らえない。
事務所はホクホクに儲かる
医者を演じたらば!
「そんな…殺生な…」
(医者役は)ダメなんだよ。
"(俺は頭が悪くて)医学部に挫折した証しを世間さまに知らせるようなもの"
社長の手の込んだ仕掛けにはホトホト参る。
「こちらが本でございます」
仕上がった台本はマネージャーから"強引に手渡し"である。
「先生っお言葉でございますが」
社長のために医者役は演じなければならない。
ものは言いよう。
「頭は生きている間に使いようでございます」
トレンディ俳優のプライバシー
高校中退
医学部を挫折しドロップアウト。
「ならばドラマの中だけでも高卒になり医師になられてください」
私大文学出身マネージャーは説得したいのである。
いかに医者や病院系のドラマが定番で安定した人気かを。
今をときめくトレンディ俳優。
「唯一医者のドラマを演じないのはおかしい。インターネットにもジャカジャカ不信感の輩でございます」
ネットのゴタクまで面倒くさいぞ
えっ!
医者になれなんて"口喧しいじいさんだけ"で充分だぜ
「ご覧になりましたか。医者になって欲しいというのは事実なんです」
事務所に
フアンクラブに
マネージャーに直接手渡しに
医者の息子さんでしたら医者のドラマを演じてください
「常に要望は来ています」
フアンなんてものは勝手なんだ
「医学部にいけなかった男は。偽りのドラマで"偽"医者に化けるのか」
バカバカしい
医者を演じてピエロになるのは
「真っ平御免だぜ。世間様に恥さらししているもんだ」
しかも…
主役にあるのは双子の兄弟じゃあないか。
ひとりふた役
俳優は兄
医師の弟
「俺がふたりをやるのか」
もらった台本を見ながら愚痴ってしまう
「ドラマを演じていくのは俺か。まったくもってバカらしい。本当の弟に"医者役をやれば"って頼めよ」
如何せん"なれなかった医者の仮面"をつけるのは乗り気しない
恩義のある社長の顔
あの顔をメンツを立ててやるから
仕方なく
やるだけさ
「こんなドラマ。低視聴率を記録してしまえよ。二回かそこら早めに打ち切りにならないか」
2回か3回でドボン。
悪意を持って歯軋りした
「残念ですねっ先生。初回から高視聴率です」
局始まって以来のプロジェクト。
「番宣も効いていますから」
視聴率が好調はトレンディ俳優が主役だからですよ
ドキュメンタリードラマと言う斬新なアドバルーンは新鮮味。
売れっ子脚本家のクレジットと人気トレンディ俳優の組み合わせ。ドラマヒットメーカーの香りが漂う。
台本を渡された限り俳優や女優は役を演じなければならない。
子役からトレンディ俳優に主役のバトンタッチ。
「スタジオ収録はいつものとおりか」
子役(幼少と中学)は演技好評を得てそのままお茶の間の人気を博した。
コマーシャルや他のドラマ出演の依頼が殺到したのである。
ドラマ担当ディレクターは子役の出来に喜んでいた。
「幼少時代が不安だった。転るかと心配したんだ」
子役が主役の初回は重荷が掛かりすぎ。
「シロウトの子供をうまく脇役がまとめてくれた」
その脇役(医院の家族)は豪華絢爛な配役である。
江戸時代から続く医院の長たる祖父。
役者さんは貫禄と渋みが持ち味の芸能界の大御所が務めている。
えっ!
(あの役者さんが)脇役を了解していた。
「こんな程度のテレビドラマに出演をしているのか」
なぜ承諾されたのか。
「まったく信じられない話だ」
大河ドラマや一大スペクタクル時代劇になくてはならぬ大御所。
この大御所の祖父役を知り腰を抜かしそうになる。
運よくスケジュールが空いていたか。
「そんな程度で主役以外で出演者にはならないだろう」
「その件でございますが。ディレクターに聞いて参りました」
マネージャーが知るには大御所と院長の祖父は旧知の間であるらしい。
「院長先生は昔の大学附属病院時代に時代劇のロケに協力をされたことがあったそうです。その劇で若いお医者さまの役を大御所はなさっています。えっと。大御所さまはこの劇が初の大役でございましたね」
ふぅ~ん
ドラマの収録スタジオに行けば(孫の)俺とジイサマの旧知の仲・大御所のワンカットもあるわけか。
「俺はあの大御所を時代劇でしか見たことがない。当然テレビドラマの共演なんて皆無だ」
第一にギャラも高い大御所だぜ。
「テレビドラマの脇役で満足していなさるのか。摩訶不思議だよ」
大御所と呼ばれる由縁。
長い芸歴で培われた役者として力量とその威厳ある存在感。
名前を聞くだけで畏敬の念すら感じる。
「俺のじい様と昔から懇意?俺には知らないことだぞ」
嫌な予感がじわりじわり体を包み込んでいく。
スタジオ入りの足が重たくなりマネージャーと控えに入った。
「よぉっ久しぶりだな」
ギクッ!
噂の主は楽屋裏に現れた。




