ドラマのヒロイン~実の娘
リーンリーン
都心のキー局(大)代表に一般人から電話が掛かってくる。
オペレーター嬢はテレビ局の大代表として受ける。
「はいっお電話ありがとうございます。いつも(テレビ番組を)拝聴ありがとうございます」
「ドラマの番組編成について話がしたい」
電話の主は落ち着いた声であった。
「このまま重役に繋いで欲しい」
取り次ぐ?
電話主は名乗らない
いきなり取締役にと言われましても
「失礼でございますが」
どぎまぎしてしまう。
「どちら様でございましょうか」
どちら様?
「あっあ名前を言わなかったなあっ失敬した」
えっ!
誰もが知る売れっ子の名が聞かれた。
脚本家からの電話である。
承った重役は喜んだ。
「いやぁ~これはこれは」
いつもいつも我が局が大変なお世話に
「こちらから連絡を差し上げなくては」
恐縮です
これはこれは
こちらの局から連絡をしたくてたまらない売れっ子ではないか。
「聞けば先生は療養中だということでございます」
ドラマ担当のディレクターは菓子箱(現金)を手ミアゲに頭をさげ頼みをしている。
「いやぁ~お恥ずかしい限りですなぁ」
お忍びの附属病院まで出向いたがトレンディドラマの原作脚本を断られたことが重役の頭に蘇ってくる。
恥ずかしい?
「あの時はアッハハッ。オタクのディレクターに失礼をしでかした」
この場を借り
「お詫びしたい」
はあっ?
謝りたい。
「なにを先生から仰いますか。勿体無いことでございます」
冷や汗が出てしまう
重役は脚本家の真意が読み取れない。
「実は折り入ってお頼みがございます」
業界で知らぬ者はモグリと言われる脚本家である。
「ディレクターには断りした手前ですがなあ」
担当ディレクターには若気の至り。冷たい仕打ちをしてしまった。
この売れっ子を取り囲んでしまえば他局に出し抜かれることはないと重役は踏む。
しっかりしたドラマの台本を仕上げる約束をされたも同然である。
「重役さんに電話いたしましたのは…ですなあアッハハッ。申し上げにくいことですがね」
未来永劫に地球上には男と女がいる限りなくなることはないテーマである。
「それはそれでございますなあ。色恋沙汰は私の得意分野でもありますが」
趣味と実益を兼ねた安易な売れ筋ラブストーリーは封印しておきたい。
「私の我が儘でございますが」
トレンディドラマとは異なるものがやりたい。
シリアスでタイトなテーマをドキュメンタリーで追いかけてみたい。
「シリアスなドラマですか」
ドキュメンタリー
「ほほぉ~それは楽しみでございますなあ」
重役はわかったと答えた。
詳細なことはドラマ担当に直に話していただけないかと乗り気を見せた。
「先生の才能は折り紙つきではありませんか」
(シリアスな)ドキュメンタリー
ドラマ制作の現場でもドキュメントはちょくちょく扱ってはいる。
しかし視聴率は思った通りには伸びない
「先生の作品でございます。その内容にもよりますがゾクッといたしますなあ」
ラブストーリーや悲恋ドラマはお手のものと評判な脚本家。
リアリティーを求めるドキュメンタリーとは何を言うのであろうか。
想像すらつかない。
「先生の意向に添う形で局は協力をさせていただきます。私どもの編成部局やスポンサーさまと充分な話し合いも必要でございますなあ」
脚本家はせっかちにもこの電話で"重役決済"をもらいたいのである。
ドキュメンタリーを手掛けるとならば必要経費も捻出してもらいたい。
一方重役としては脚本家の突然降って湧いた夢物語を具体的な案にし番組編成会議にかけなくてはならない。
いくら強固な権限のある常務取締役の重役とはいえ即断はできない。
「そっかっ。常務さんの一存ではゴーサインはもらえないか」
つまらないなっと舌打ちをしそうである。
「いっいえ!先生がダメだと言うわけではございません」
電話の相手は長くテレビ業界の第一線にいる売れっ子である。
脚本の当たりは数々あれど
"ハズレ"は聞いたことがないのである。
「先生っ今回だけは特別でございます。さっそくにファックスにて企画書をお出しください」
気難し屋で有名な輩で些細なことからつむじを曲げられては堪らない。
最悪ライバル局に脚本提供をされ寝返ってしまわれては目も当てられない。
「ありがとう嬉しいね。物わかりのよい常務さんで助かったよ」
じゃあ企画書をファックスで送るよ。
「重役さんなら受けていただけそうだ」
送りつけた限りはドキュメントドラマに仕上げてしまいたい。




