可愛い娘~シンデレラ姫はめげない
「企画書はファックス送信でいいね。実は僕は別荘地に滞在なんだ」
大自然に囲まれ日々リフレッシュされている。
空気の悪い雑踏に埋もれるような気持ちにはさらさらなかった。
長い電話を切る。知らず知らずに背中からジットと汗がしたり落ちていた。
「トレンディドラマ自体が満杯で飽和状態だよ。各局が足並み揃えて似たり寄ったりなトレンディたるドラマを制作しているだけだ」
背が高く彫りの深いハンサム俳優をヒロインに起用する。
ファッション雑誌から抜け出したようなハンサムは若い女性の心をたちまち虜にしてしまう。
相手役はオーディションに受かったばかりの新人女優。
いわばシロウトさん。
月並みな女優より少し可愛いかなっと庶民的なのである。
庶民的な女の子がハイソでダンディな主人公に見染められる安易なシンデレラ的恋愛を仕掛ける。
「お父さんはいつも新しいドラマを構想を考えていらっしゃるのね」
女子高生の娘はテレビドラマの申し子を尊敬の眼で見つめる。
日長な1日パソコンに向かい一般大衆が迎合できる恋愛ドラマをあれこれ考える父親。
「お昼は美味しかった。あれがパスタというやつか」
イタリアやフランスに旅行をして舌はそれなりに肥えていた。
「お父さんいやっ!」
インスタントにちょっと味付けしただけよ
「あまり美味しい顔していないわ。いいわよっ無理しなくたって」
娘の私は料理が苦手なんです。
だけど
お母さんはじょうずなの。
「お母さんよりもおばあさんはもっともっと料理はじょうずよ」
だから…
"お父さんはお母さんと仲直りしましょうよ"
おばあさんも私もそれを望んでいる。
家族が仲良く暮らしたら幸せになれるもの。
女癖が悪い夫に愛想が尽きた妻。
乳飲み子を連れて家を出て行った妻。
今さら夫婦でございますと言い寄ることはバツが悪い。
「いやっお昼はうまかったよ。久しぶりに美食にありつけたな」
協議離婚まで至った妻とは再会したくはない。
若い身空ならまだしも老境の域に差し掛かる。
復縁など真っ平である。
しかし…
可愛らしく育て上げられた目の前の娘とは暮らしたい。
"お父さん"と実の娘に呼ばれることは快感でもある。
「おまえとお父さんは暮らしたいね。いつも美味しい料理を作っておくれ。お父さんはそれだけで嬉しい」
女子高を卒業したら大学進学のバックアップもしてあげよう。
娘がいつも傍にいる。
朝起きたら微笑む女の子がいると思えば執筆そのものの活力源になるのである。
お父さんと暮らす
「うーん私はね。お父さんもお母さんも好きなのよ」
意地を張らないでくれたらなあ
「お母さんだって。もうお年寄りになってしまったのよ」
私が中学生ぐらいの年頃から
早く彼氏を見つけて結婚して欲しいって
孫を見てみたいって。
「孫が見たい?おいおいまだ俺はじいさんになりたくはないぜ」
"孫の話"からふと身近な知人を思い出す。
「もう少ししたら娘も適齢期だな」
ひとり娘が女子高生になるとやたら色気づいてしまった。
進学した学校は勉強そっちのけで男女交際に走る傾向。それ相当の環境でありすぐさま彼氏ができた。
娘の口から彼氏を告げられて知人は"ガックリ"さん。
頭をガッツンと撲られたショックを受けたと聞いた。
"彼氏を作っても構わないが"
"お父さんの気に食わない男は許さない"
少し短めなスカートの娘を眺め呟いてしまう。
「うん?お父さんどうかしたの」
シンデレラ姫なんかになったんだ。可愛い娘は万人が認める
「なにか私に?お父さんってば!何か言ったかしら。じろじろ見ないで」
イヤ~ン恥ずかしい
「お父さん私の顔になにかついているかしら」
療養と保養を兼ねての別荘住まいである。
その場に期せずして離婚した妻の娘が転がり込んでくれて助かった。
「ところで聞いておきたいが」
学校の方はどうなっている。授業に出なければ出席日数が不足になるだろう。
「学校は好きだから行きたいの。お友達も仲良しだから授業に出たいんだけどね」
スキャンダルにまみれてしまいました。
学校から自宅謹慎を余儀なくされてしまう。
「私がお母さんと一緒にいるとマスコミの人が押し寄せてきたの」
そのスキャンダルを適当に好きに引っ張ってテレビや週刊誌で垂れ流し。
雑誌がスッパ抜いたゴシップの女の子は?
トレンディ俳優の密会のお相手はどんなお嬢さんであろうか。
「私が母子家庭だとわかってしまった」
シンデレラ姫のお父さんは誰か。
「バレちゃったんだ」
オーディションに合格しただけのシンデレラ姫グランプリ。
シロウトの女の子は顔写真だけでは物足りない。
あれこれと女の子自身のプライバシー情報が欲しくなる。
「母ひとり娘ひとりの母子家庭にしては明るいイメージがある。調べようか」
テレビ局から公表された履歴は間違いがあるのではないか。
芸能リポーターは役所に掛け合い戸籍を調べてしまった。
「えっ!じゃあなにか。俺の名前も出てしまったのか」
娘はこっくりと頷いた。
そりゃあっ~実にまずい!
シンデレラ姫オーディションの会場に脚本家は審査員でいた。
「やいやいっ。そんな大事な話を隠していたなんて」
なぜ早く言わないんだ。
「俺は審査委員長だったんだ。ゲスの勘繰りされるじゃあないか」
実の娘を審査員としてグランプリにさせた。
「出来レースだ。グランプリ金賞を授与させた」
揶揄されたら。
でもそれは…
「でもねお父さん心配しないで。心配には及ばないの」
グランプリ金賞を辞退している。
「女学院の校長先生に呼ばれて」
金賞もグランプリもお返ししなさいと言われた
芸能界に女学院から入ってはいけない。
「チャラチャラとした芸能界に貞操たる淑女教育の生徒が入るのはダメですって仰るの」
女学院は校長名でシンデレラ姫グランプリ金賞を辞退させてしまった。
「コンテストはすべて順調に通過してグランプリだったの」
だけど
有頂天の最中のアクシデント
「あの訳のわからないゴシップ雑誌が出回ってからおかしくなってしまったの」
私は悪くない。
たまたまエレベーター前にいただけ。
トレンディ俳優によく似たドクタがそこに居合わせただけ。
それが芸能界の密会となりアバンチュールな女と世間に知らされてしまった。
「私はなにもしていないもん。"あの俳優さん"なんて知らない。校長先生に聞かれても知らないもん」
女学院は校長名でシンデレラ姫の辞退を主宰テレビ局に申し出て縁のないものとしていた。
学校の体裁を取り繕うために。
芸能界は女学院にありません。
ゴシップも関係ありません。
辞退はただちにテレビ局に受理された。
ところが賞金も高額なグランプリ金賞を辞退することは珍しいことである。
なぜ簡単に金賞の権利を放棄したのか。
芸能リポーターが女学院のまわりをうろちょろする毎日に陥ったのである。
その結果いたたまれず別荘に逃げてきたのである。
「そうか。それは災難だったな」
芸能リポーターは暇なんだよ。
「これっといった取材対象や芸能問題がないから」
芸能スキャンダルが
ないなら…
ゴシップの芸能記事のひとつふたつ
こちらから情報操作して作ってやろう
「幸いなことに俺はドラマ原作の力量を備えている」
創作力で鍛え上げた筆力を十二分に発揮させてやろう。
「女学院の校長先生に睨まれてしまったのか。そりゃあまた気の毒なことをしたな」
娘が巻き込まれたゴシップに父親は責任がまったくないかと言われたら。
芸能リポーターがまとわりついたのは女癖の悪いことをスキャンダル狙いであった。
こればかりは言葉に詰まってしまうのである。
「その女学院の顛末とやらなんだが。お父さんに詳しく教えておくれ」
都心の一等地にある女学院。
女の子の憧れミッションスクール。
小学校から大学(院)までエスカレーターであがれることから人気が高く質のよい女子生徒が集まっていた。
「うーん困ったなあ」
教えてあげてもいいんだけど
ドラマ脚本や原作をプロとして手掛ける男にあれこれ顛末を告げたらどうなるか。
テレビ局にはドキュメンタリーを企画したいと提案している。
父親はなにをしようとしているのか。
おのずと真意がくみ取れずである。
「大丈夫さ。女学院の名前など出したら名誉毀損で訴えられてしまうよ」
父親はポンッと娘の肩をひとつ叩く。
「学園の学びやだけではない。大概は想像がつくがな」
子細な情報を教えてくれたらなあ
ドラマの脚本や原作を手掛ける男に
あれこれ自己の顛末を告げてしまってよいものかどうか。
「大丈夫さ。女学院の名前など出したら名誉毀損で訴えられてしまうよ」
交換条件として
娘の大学学費全額負担と芸能界入りを約束した。
「私の娘だからなっ。芸能界で充分にうまく泳いでいけるさ」




