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短編

お帰りなさい、王子様

作者: 木蓮
掲載日:2026/08/09

 リッカが初めて王子様に会ったのは10歳の夏。



「トパーズ殿下、娘のリッカです。領地のことには詳しいので何でも聞いてください。リッカ、この方はトパーズ第2王子殿下だ。今日からしばらく家に滞在される。失礼のないようにな」


「初めまして、リッカ嬢。僕はトパーズと申します。今日からしばらくシトリン辺境伯にお世話になります、よろしくお願いします」



 夏の陽ざしを集めたようなさらさらの金の髪にすきとおった蜂蜜のような目をした王子様はリッカに微笑んだ。2つ年上だという彼はこれまでのリッカの人生の中で一番きれいな人間だけれど、なぜかきゅっと胸がしめつけられた。


 ――そっか、ブチに似ているんだ。


 ブチは薄茶色の毛に濃い茶色や黒の斑点がある猫だ。2年前に親とはぐれて鳴いているところをリッカが見つけて一緒に住んでいる。


 最初はリッカが抱っこできるちっちゃな子猫だったのに、今は隣のご夫婦の赤ちゃんと同じぐらいの重さの立派な巨大猫に育った。父の友人曰く、精霊の血を引いているらしく小さい魔獣ぐらいなら追い払えるため、リッカの護衛猫(?)として毎日一緒に歩きまわっている。


 トパーズは顔は優しく微笑んでいたけれど、その目は家に来たばかりの時にリッカがいなくなると寂しがって鳴いていたブチにそっくりだった。


 リッカはこのほっそりした頼りない少年が元気になるまで世話をすることに決めた。



 トパーズは見た目通り大人しく、父と兄たち魔獣と戦う騎士団員たちの元で毎日厳しい鍛錬をしている。頼み事をすれば快く引き受けてくれるし話しかければ丁寧に答えるけど、1人でいるのが好きらしくてなかなか仲良くなれない。


 でも、ある日、季節の花や植物が咲き誇る丘で甘えるブチをおそるおそる撫でていた。


 その時のトパーズはとても幸せそうで。リッカは一生懸命考えて、トパーズを”庭”と呼んでいる大切な場所に連れて行ってあげることにした。そうすれば元気になるかもしれないから。


 誘うとトパーズは素直に付いてきた。目的地に着くと目を見開く。 



「すごいでしょ。ランタン花っていうんだよ」


「きれいだな……」



 目の前には辺り一面に芙蓉のつぼみのような形をしたほんのりオレンジ色に光る花が咲いている。ランタン花という、この地と特別な魔力でしか育たない貴重な花だ。近くの森から現れる魔獣を追い払う効果があり、シトリン辺境伯の民たちはこの花を持ち歩いている。


 リッカはちょうど咲いたランタン花を1つ摘むとトパーズに差し出した。



「はい、あげる」


「……いいの?」


「いいの。ここの人たちは皆この花を持って歩いているんだよ。トパーズもいつも持っていてね」



 恥ずかしがり屋の彼と仲良くなりたくてちょっぴり強引に渡すと、トパーズは笑って受け取った。



「ありがとう。大事にするよ」



 その顔は泣きそうだったけれど最初に見た時とは違ってうれしそうで。リッカも心が温かくなった。



 *****



 それからリッカはトパーズを誘って庭に通うようになった。


 トパーズはやっぱり花が好きらしく、ランタン花や薬草などの世話をするリッカを手伝いながらぽつぽつと話をするようになった。



「トパーズはすごく手際が良いんだね。誰かに教わったの?」


「教わったというか、母上が花が好きだから良く手伝っていたんだ。特に、夏はいろんな花が咲くからってはりきって庭の隅々まで花を植えていたから、へとへとになるまで駆けまわっていたよ。その分、咲いた花を見ながら母上が作ってくれたベリーのスコーンを食べるのは楽しかったけれどね」


「わあ、いいなあ。トパーズのお母様のスコーンってレシピはわかる?」


「ごめん、わからない。母上が元気なうちにレシピを聞いておけば良かったのだけれど」



 トパーズが顔を曇らせるのを見て胸がちくりと痛む。


 リッカの父曰く、トパーズの母は国王様が王妃様と結婚後に気にいって強引に娶った側妃で、王妃様は良く思っていないらしい。彼女が亡くなって1月後にトパーズが王都から遠く離れたシトリン辺境伯に送られたのも、のびのび育ったリッカには想像もできないような複雑な事情があるのかもしれない。



「そっかあ。私もお母様が良く作ってくれたクッキーが大好きだよ。何だか食べたくなってきちゃった、帰ったらばあやに焼いてもらおうっと。とってもおいしいんだ、トパーズも一緒に食べよう」



 1年前に亡くなったリッカの母は良くベリーを混ぜたクッキーを焼いてくれて、家族はもちろん、誰もが食べるとおいしいと笑顔になった。今は祖母のようなメイド長が作ってくれる。トパーズの思い出の味とは違うかもしれないけれど、少しでも元気になればいいと思う。



「にゃ~ん」


「うん、ありがとう」


「こら、ブチ。あなたはちょっと太り過ぎだから1つだけだからね」


「ぶにゃあ~ん」


「ダメったらダメ! 皆にも『食べていません』ってフリをしてもらおうとするのもダメだからねっ」



 うれしそうに笑ったトパーズが返事をするよりも早く食いしん坊のブチが甘えた声を上げる。


 リッカがおデブさんに注意をすると不服そうに鳴く。まったく食いしん坊なんだから。父が大事な話をする時のように低い声で注意すると、ブチは聞こえませんとアピールするように耳を伏せてトパーズの後ろに隠れてしまった。



「ふふふ、君たちは仲良しだね」


「まあ、小さい頃から一緒にいる家族だからね。でも、ブチはトパーズの方が優しいから好きみたい」


「そうなのかい? じゃあ、ブチ。お腹を空かせるためにも、一緒に家まで走って帰ろうか」


「賛成! 一番に着いた人は一番おいしいところを食べるってことで!!」


「よし、がんばるぞ!」



 トパーズの非情な宣言にブチは悲痛な悲鳴を上げたが、リッカとトパーズが全力で走り出したのを見て慌ててついて来る。家に着くと2人と1匹は疲れてへろへろになったが、メイド長が焼いてくれたクッキーを仲良く分け合って食べた。



 *****



 今日は目が覚めてから身体がだるい。どうやら風邪をひいて熱が出ているようでふらふらする。


 メイドに心配されながらも身支度を整え、ブチと一緒に馬車に乗って庭に向かおうとすると、玄関で出かけるところらしいトパーズと会った。



「おはよう。顔色が悪いけれど大丈夫?」


「おはよう。うん、風邪を引いちゃったみたい。でも、帰って一日寝ていれば治るから大丈夫」


「帰ってって、いったいどこに行くんだい?」


「庭だよ。ランタン花は毎日お世話をしないとすぐに枯れちゃうんだ」



 ランタン花はとても繊細で、毎日一族が受け継いできた特殊な魔力を含んだ水を与えないといけない。


 リッカも魔力が扱えるようになってからは母に教わってランタン花に水をやり、去年母が亡くなってからは毎日1人で行っている。自分にしかできないことだから天候が悪くても体調が悪くても続けている。


 リッカにとっては当たり前のことだから普通に説明したが、家の使用人たちは皆申し訳なさそうな顔をする。トパーズもそれがわかったのかきゅっと眉をひそめたが、リッカをまっすぐに見つめて手を差し出す。



「じゃあ、僕も一緒に連れて行ってくれ。少しは力になれると思う」


「うにゃん!!」



 トパーズの言葉にブチも元気よく返事をする。


 今日の体調だと水やりをしたら疲れきって動けなくなると思う。ブチはともかくトパーズにそんな姿を見られるのは恥ずかしい、でも、彼の心配そうな顔を見ているとそんなこと言えなくてリッカはうなずいた。


 庭に着くと1人と1匹が見守る中、ぼんやりとする意識を集中させて魔力を練り上げていく。何度も失敗して魔力が尽きてしまったが何とか成功させ、雨のように降る水をたっぷり浴びたランタン花は喜ぶようにオレンジ色に輝く。



「で、できた……。ふぅ……」



 身体から力が抜けてふらつくと、駆け寄って来たトパーズが支えて座らせてくれる。



「お疲れさま。これで少し楽になるといいのだけれど」


「わ、気持ちいい……」



 触れたトパーズの手から魔力が流れ込んできて身体が軽くなる。



「すごいっ、トパーズは治癒魔術が使えるんだね」


「うん、一応ね。でも、痛みをやわらげたり、魔力をほんの少し分けるぐらいの役に立たない力だよ。ポーションの方がよっぽど役に立つ」


「そうなの? 私は痛いのも苦しいのも嫌いだからすぐに治ったらうれしいよ。それに、ポーションってすっごいまずいんだ。トパーズが助けてくれたら皆喜ぶと思うけどな」



 リッカがお礼を言うとトパーズはなぜか泣きそうにくしゃりと顔を歪めた。そして、か細い声で尋ねる。



「ねえ、リッカ。リッカは何で痛いのも苦しいのも嫌いなのに、自分が辛い思いをしても毎日ここに来て魔力を使い果たすまでがんばるんだ? シトリン辺境伯たちを助けるためにやらなければいけない義務だとはいえ、嫌だと思わないのかい?」



 トパーズの言葉にリッカは悩んだ。そして、考えながら答える。



「う~ん、そうね。嫌だと思うことはあるよ。風邪を引いた時とか嵐が来ている時とか来るのも大変だもの。でもね、これは私の”お役目”だから。お母様と一緒で、私もできなくなるまでお役目を果たすの」


「お役目……?」


「うんとね、上手く言えないけれど。お母様は『お父様たちが魔獣と戦ってこの地を守ってくれているように、私たちにも私たちにしかできないお役目があるの。だから、私と皆が今この幸せな日々を続けていくためにお役目を果たしているのよ』って良く言っていたの。


 正直、お母様の言葉の意味は完全にはわかっていないと思うけれど。私がランタン花を育てれば皆が魔獣に怯えずに過ごせるからがんばるよ」



 それに、と内心続ける。リッカの母は亡くなる数日前まで父に抱えられてここに来てランタン花の世話をし、幼いリッカを1人にすることをずっと心配していた。だから、この庭の隅で眠る優しい母に元気にしているから大丈夫だと会いに来ている。



「それにね、ここにはお母様がいるから毎日お話したいことがたくさんあるんだ。だから私、お役目楽しいよ」



 リッカがえっへんと胸を張ると、トパーズは涙で潤んだはちみつ色の目を温かな光を宿したランタン花に向けた。



「そうか。リッカとリッカの母君はここが好きで自分のお役目を果たしているんだね」



 トパーズは来た時にリッカがあげたランタン花を取り出すと微笑んだ。



「僕もここの生活が好きだ。そして、君がくれたこの花も。ありがとう、リッカ。元気になったよ」


「うん、トパーズが元気になって良かったよ」



 見ているだけで心がほっこりする王子様のトパーズはやっぱり笑顔が似合う。リッカも笑うとトパーズははたと思い出したようにいつも首から下げている小袋を開けて種を出した。



「そうだ。もし、良かったらこの種をここに植えさせてくれないかな。母上が大事にしていた種なんだ」


「うん、いいよ。どんな植物が育つか楽しみだね」


「そうだね。それに、母上もリッカたちがいるここなら喜ぶ。僕もいつか母上にお役目を果たしたと報告したいな」



 そう言って微笑んだトパーズは急に大人びて見えて、リッカは少しだけ不安を感じた。



 *****



 トパーズが来てじきに1年になる。


 来たばかりの頃は新芽のようにほっそりした少年は、すっかり背が伸びて身体も鍛えられ少年騎士たちと見分けがつかなくなり、顔をくしゃくしゃにした明るい笑顔を見せるようになった。


 気の良い彼は手が空いた時にはリッカのことも手伝ってくれている。おかげでランタン花の世話が楽になり空いたところに彼が好きな植物を植えて育てている。一番多いのはブチが好きなきゅうりで、自分に甘いトパーズにねだってもりもり食べてまた太ってしまった。


 しかし、そんな平和な日々ははるばる王都からやって来た陰気な顔の使者によって終わりを告げた。



「トパーズ、明日王都に帰るって聞いたけれど、そんなに急なの?」


「ああ、そうだよ。父上に呼ばれてね、ひとまず帰ることになった」



 リッカが慌ててトパーズに会いに行くと硬い顔をしていた彼はリッカを見て安心させるように微笑んだ。でも、その目の奥に不安が見えてリッカはきゅっと胸がしめつけられた。


 王妃を恐れる国王はトパーズがここに来てから一度も連絡はおろか、手紙も寄こさなかった。明らかにトパーズを見下す使者を寄こしたうえにろくな準備もさせる時間もなく呼び戻すなんて。嫌な予感しかしない。


 何かできないかと必死に考えるリッカを安心させるように、トパーズは微笑む。



「大丈夫、おじ上と兄上が護衛で付いてきてくれるし、このお守りのランタン花もあるから。すぐに帰って来るよ」



 この1年ですっかりリッカの家族の一員になったトパーズは優しく微笑むと、翌朝早く父と兄と一緒にはるか遠くに旅立っていった。


 それから毎日リッカはトパーズの無事と帰りをランタン花と母に祈った。しかし、心配で心が潰れそうになった時にようやく帰って来たのは疲れきった顔をした父と兄だけだった。



「王妃様の命でトパーズは国境の砦に向かうことになった。そこに向かう際にここを通る。その時に会いに行ってやってくれ。……すまんな」



 いつも堂々としている父は大きな身体を丸めてリッカに謝り、トパーズを相棒と呼んで仲良くしている兄も無言でうつむいて肩を震わせる。


 病で弱っていく母のために最期まで手を尽くした時のような2人のすりきれた姿に、リッカもこくりとうなずいて抱き着いた。ブチも足元にくっついてきてそのふくよかな身体に少しだけ笑みが戻った。



「ブチ、トパーズは戦場になるかもしれない危ない場所に行くんだって。


 お父様もお兄様もここ数年隣国との関係は落ち着いているし、万が一のことがあっても長年現場を率いている強い方がいるから大丈夫だって言っているけれど。王子様が何でそんなところに行かなくちゃいけないんだろうね」



 リッカが知る王子様はお母様やメイド長が絵本で読んでくれた、きれいなお城に住んで国を豊かにするために働く真面目で誠実で働き者で、美しい姿をした少年だ。


 トパーズはお城は追い出されてしまったけれど、誠実で働き者でブチに甘すぎるぐらい優しい。笑顔の素敵な少年だ。


 父はこれも王族の務めだと言っていた。でも、リッカには意地悪な王妃がわざと嫌いなトパーズを虐げているようにしか思えない。そして、それを助けられない自分が恨めしい。



「ぶにゃあ~ん」



 怒りと悲しみにもんもんと悩むリッカの心を悟ったように、ブチがリッカのランタン花をくわえて持ってくる。



「どうしたの?」


「うにゃうにゃ」



 ブチは何かを訴えるように鳴く。その必死な姿にふと思い出す。そういえば、寝込むようになってから母は毎日自分のランタン花に魔力をこめていて、亡くなってからはその花はペンダントにしてお守りとして父が肌身離さず持っている。


 リッカの魔力をこめればトパーズのお守りになるかもしれない。



「ありがとう、ブチ。やってみる」



 それからリッカは毎日ランタン花の世話が終わってから、まずい魔力補充ポーションを涙目になって飲んで自分のランタン花に魔力をこめた。ブチもポーションを飲む時には一緒に水を飲んで応援してくれた。うん、私の猫賢いわ。


 そして、ポーションを無心で飲めるようになった頃に待ちわびていた知らせが来た。


 父が言うには、王妃の嫌がらせでトパーズの乗った馬車は隣の領地に泊まるように命じられており、慣れ親しんだシトリン辺境伯の地には小休憩と称して1時間程いられるだけだという。


 リッカは代表としてトパーズとの別れを惜しむ皆から手紙やプレゼントを受け取って、トパーズが来る場所で待った。


 そして、期待で心臓が飛び出してしまうのではないかと思っていたところに、トパーズの乗った馬車が停まり彼が出てきた。少し疲れているが元気そうな彼を見たとたん考えていた言葉も礼儀もぶっ飛んだ。



「トパーズ!!」


「ぶにゃあああああああああんっ」



 大声を上げるブチと一緒に駆け寄ると、王子様らしい恰好をしているトパーズはくしゃっと笑った。



「リッカ、ブチ、会いたかった!」


「私もだよ!! 皆、トパーズに会いたかったんだけれど時間がないから代表して私が来たの。手紙と贈り物があるよ」


「そうか、皆ありがとう。大事に使うよ」



 トパーズは目を潤ませて皆からの贈り物を受け取った。


 それからは気を利かせた従者が地面に広げてくれたシートに並んで座って離れていた間の話を交わす。トパーズが話してくれる王都や王城の話はとても面白くてずっと聞いていたい。リッカもトパーズが植えた植物が立派に育っていることとか、彼が兄や先輩騎士たちと競い合って夢中になって作っていた紙飛行機作りの話をずっと話していたい。


 でも、楽しい時間が経つのはあっという間で。気まずげな顔の従者に促されて立ち上がった。



「トパーズ。あのね、これ、私の魔力をこめたお守りなの。持っていって」


「僕も君に渡したい物があるんだ。受け取ってくれるかな」



 ブチに促されてリッカはペンダントに加工してもらったランタン花を渡した。トパーズは驚いたように目を見開いたが両手で大切に受け取って首につけて微笑む。


 そして、彼もまたリッカとブチに好きなひまわりのペンダントをくれた。うれしくなってリッカも急いで自分とブチの首につける。



「ありがとう、リッカ。君にもらったランタン花と作ってくれたお守りを身につけて、僕も僕のお役目を果たしてくるよ」


「うん、私もこのひまわりのペンダントを大事にする。お役目が終わったらまた会おうね。いつになっても待っているから」



 リッカが手を差し出すとトパーズはくしゃりと笑って手を握った。



「うん、僕もここに帰ってリッカに会いたい。そして、また母上が残してくれた種が育った庭を見たい。約束だよ」


「もちろんだよ! トパーズが帰って来るのを待っているからね! お手紙もプレゼントもたくさん送るからね!」


「にゃん!」



 背伸びをして手をさしだすブチのためにリッカとトパーズは笑ってしゃがんで2人と1匹は握手を交わした。


 そして、金色の王子様はオレンジ色の花を光らせながらゆっくりと旅立っていった。リッカとブチはその馬車が見えなくなるまで見送っていた。



 *****



「リッカ、騒がしいぞ。まったく、おまえも18歳のきれいなご令嬢なんだからちっとは落ち着きを身につけなさい」


「ごめんなさい、お父様。でも、身体が勝手に動いちゃうの」


「はあ~、まったくいつまで経ってもおてんばは変わらんなあ。ブチ、おまえも何か一言言ってやれ」


「にゃあ」


「そうか。おまえさんも楽しみでたまらないもんな。仕方ないなあ」


「お父様、ブチには甘すぎません?」



 ブチにはでれでれの父に冷ややかな目を向けると「おお、リッカはますますしっかり者の母さんに似てきたなあ。母さん子どもたちは立派に育っているぞお。遠くに行った息子も帰って来るしなあ、ああ、うれし忙しい」と、母のペンダントに話しかけながらそそくさと逃げて行った。


 今日は7年前に別れた家族が帰って来る日だ。手紙や贈り物をやりとりしていたが会うのは久しぶりだ。 



「ふふっ、庭に植えたベリーの木がこんなにたくさん育っているって知ったら喜ぶかな」



 彼の母が残した種は立派なベリーの木に育ち、領地のあちこちに植えられて増えていっている。今では”王子様の木”と呼ばれて領民たちに大事にされている。


 また、 ベリーを使ったスコーンを彼に送ったところ「母が作ってくれたスコーンに使われていたベリーだ」とわかり、王都から引っ越してきた彼の祖父のような先生や領民に協力してもらって思い出の味を再現できた。帰って来たらパーティーにサプライズで出すつもりだ。



「リッカ、到着したぞ」


「は~い、ブチ、行こう!」



 リッカはブチと一緒に走った。外に出ると7年前と同じ夏の陽ざしがまぶしい。


 その光に金色の髪を輝かせた背の高い美しい青年が立っていた。リッカと目が合うと旅立っていった時を思い出すくしゃくしゃの笑顔で笑った。



「お帰りなさい、トパーズ」


「ただいま、リッカ」


 2人と1匹は固く握手を交わした。これからはずっと一緒なのだと願いをこめて。

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