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第六章 知らない気持ち《後編》


❖--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­--­­- ❖


 酷い頭痛で俺は目を覚ました。いつもはしない「うつ伏せ」で眠っていたことに、俺は早速 異変を感じる。そして……


「ん……っうわくさっ…!……は…?!」

 吐いた息が酒臭いこと、更に服が寝巻きでは無く、パンツ一枚であることに驚いて飛び起きた。その瞬間、頭に鈍痛が走る。だが、頭痛に悶絶している場合では無い。何だこの格好は。いつもはきちんと寝巻きを着ているのに。

 そう慌てて部屋を見渡すと、ベッドの下に脱ぎ捨てられたワイシャツとズボン、ネクタイとベルトが視界の端に映った。そんな急いで脱いだような服を見ても、俺は何も思い出せなかった。だが、自分のベッドに視線を移すと段々とパニックだった頭も落ち着いてきた。何も、心配することは無い。昨日は笹野と飲んでいたが、この部屋に笹野は居ないのだから。

 そうだ、俺は真っ直ぐ家に帰ったんだった。でもなんで俺、パンツ一丁なんだ…?


「……あ、そうだ。」


 昨日酔っ払って帰ってきたときに、暑すぎて脱ぎ捨てたんだった。


 そう少しだけ思い出していくと……

「うっ…」

 一瞬引いていた頭痛が復活してきた。

 …頭がかち割れそうだ……。今日が休みで良かった…。

 そう思いながら、俺は布団にもう一度潜って目を瞑る。もうそろそろで眠りに落ちそうだと感じてきた頃………



――ピーンポーン、ピーンポーン…


 ……タイミング悪く、インターホンが鳴った。俺は少々苛立ちながら頭を押えてベッドから出る。そして、タンスから引っ張り出した部屋着を着てから、ドアスコープも覗かずにドアを開けた。

 その瞬間、先程感じていた苛立ちがゼロになり、突然(精神的に)元気になる。


「おはようございます、碓氷さん。調子はいかがですか?」


 そう。訪ねてきたのは笹野だったのだ。笹野はいつものように元気な笑顔で、そう尋ねた。その笑顔を見ると更に元気がみなぎってくる。


「くそ頭痛い。」

「ですよね!こんなこともあろうかと(わたくし)笹野、碓氷さんの為に色々持ってきました!今日は私が看病してあげます。」

「お、マジで?助かる。」

 やはりこいつは気が利くな。何かが入ったビニール袋を掲げた笹野にそう頼むと、笹野は「へへん」と自慢げに笑う。その笑顔に、何故かドキンと胸が鳴った。二日酔いの所為で不整脈でも起こしているのだろうか。

 このまま寝たいけど……風呂も入りたいな。風呂入るか。

「どーぞ入って。風呂入ってくるから適当に寛いでて。」

 部屋に戻ると、ちょこちょこと着いてきた笹野はビニール袋の中身をテーブルの上に広げた。二日酔い用の薬とアクエリアス、オレンジフルーツを買ってきてくれたらしい。

「二日酔いにはビタミンCがいいらしいですよ。」

 そんな笹野のお節介に、つい笑みが零れる。言わずもがな嬉しかったのだ。



 それから風呂に入り、笹野が剥いてくれたオレンジを二人で食べて寛いでいた。他愛もない話をしていると、突然、笹野が嬉しそうな顔をしてこんなことを言う。


「碓氷さん、私 可愛いですか?」


「……は?なに急に…?お前は口裂け女かよ。」

「可愛いですか?」

 そうやって答えを催促する笹野は、何だか自信ありげで俺の返答を楽しみにしているようだった。

 …なんだ…?何だ急に…?あ……もしかして、どこか「変わったところ」があるのか?それに気づいて欲しくてこんなことを訊いているのか??どこだ…?………どこが変わったんだ……?

「……あー…………前髪切った?…に…似合ってんじゃ――」

「切ってません。」

 ………なんだ?!どれを求めてるんだ笹野…!!教えてくれ笹野…!!!間違えたら怒るんだよなあ?!というかこれ、カップルがやるやつだろ!

「……んんん…?……あー………あっ、チーク入れt――」

「入れてません。何もイメチェンしてませんよ。そういうゲームじゃありません。ただ、私が可愛いか可愛くないかを訊いてるんです。」


 …………何故…?


「私は可愛いですか?可愛くないですか?」

 気を取り直して笹野はキラキラとした瞳で、俺をじっと見つめてくる。何故かわからないが、「褒められ待ち」をしているようだ。だから俺も、笹野のそんな質問に真剣に応えようと、じっと顔を見てやった。

 ……うーん………こいつが可愛いか可愛くないか…。いつも思うが目もでかいし…瞳も宝石みたいに綺麗で…………――

「……っ…………。」

 思ったことを率直に述べようと笹野の顔をじっと見たは良いものの、何だか恥ずかしくなってきて俺は三秒も見れなかった。なので、仕方無く鼻や口に視線を移す。

 ……鼻ちっさ…。というか、口も小さいし何より…………顔ちっさ…!!!!やっぱりこいつ、顔小さ過ぎるだろ…!!肌もめちゃくちゃ綺麗だし、スベスベしてそう………。大福みたいだな…。

 ………………くそ……じっと見つめてくんな…。……どう考えても……うん…………可愛いな………。

「…………かっ……」

「『か』?」


 ワクワクとした様子で、笹野は俺を見つめる。そんな笹野の所為で………………



「………可愛くはないだろ…。」

 俺は、思ったことを言えなかった。期待していた答えとは違かったのか、笹野が少し機嫌を損ねたようにムスッとして言う。

「昨日の夜は、『可愛い』と言ってくださいました。」

「誰が。」

「碓氷さんが。」

「……………は…?」

「お酒に酔って、満面の笑みで仰いました。『かわいい。』と。私が『何が可愛いのか』尋ねると、碓氷さんは私を指さしました。」


 え……?


 い…いや…………


「…記憶無いぞ……?」

「恐らくお酒で記憶が消えているのかと。」

 自信満々でそう笑った笹野の表情に、何故か俺の心臓は暴れ始めた。


「…………い…いや……」


 ……そんな………………そんな訳……



「そんな訳ないだろ。だって、俺がそんなこと言う筈ない。」

 だって、俺だぞ…?シラフでも素直になれないっていうのに、酒が入ったら急に素直になれる訳が無い。そうだ、笹野の嘘に違いない。

「嘘じゃありません!ホントに仰ってたんですから!」

「はいはい、もういい。んじゃ、そろそろ俺は寝るからな。頭痛いし。」

「逃げないでくださいよ碓氷さん!」

「皿とフォークはキッチン置いとけばいいから。残す場合はラップして冷蔵庫に入れてくれると助かる。」

 騒ぐ笹野を無視して、俺は頭を極力刺激しないようにゆっくりと布団に入った。そして、「おやすみ。」と呟く。

「……おやすみなさい。」

 そうむくれた声に笑顔を零しながら、俺は目を瞑った。それを合図とするかのように、笹野がこちらへ来て布団の隙間を埋めてくれる。そんな優しさにニヤケを我慢して、「眠ろう」と頭の中で唱えた。




 それから……暫く経って、うとうとしたところで…ガチャリと玄関の扉が開く音がする。鍵はきちんとした筈なのに、二日酔いの所為で忘れていたのだろうかなんて思いながらも、俺は急いで飛び起きた。

 笹野を守らなくては。

 ベッドから慌てて降りるが、部屋に笹野は居ない。


 ……さっきの扉の開閉音は、笹野が出ていった音なのか…。

 ……それなら…


 俺は笹野から連絡はきていないだろうかとスマートフォンを手に取った。そして、『少しお買い物に行ってきます!何かあったら電話してください( ᴗ ᴗ)"』という通知を見て安心する。


 その直後――

「随分と楽しそうね。」



 目の前で、記憶から消えかけていた懐かしい声が聞こえた。

 弾かれるように顔を上げた先に居たのは……


「えっ…?」

 …姉さんだった……。



 その冷酷で鋭い瞳を見た瞬間に、俺の全身は凍結したように固まる。だけど、姉さんはそんな俺のことなんか気にせずに、ナイフのような言葉を突き刺す。


「あんたみたいなクズは、幸せになっちゃいけないのに。」


 姉さんの言葉が耳に届いた瞬間、肺に何かが詰まったように息が出来なくなってしまった。何も言い返せなくなっている俺に、姉さんは奇妙な程 上手な作り笑顔を俺に向ける。

「あれぇ?もしかして、『自分が幸せになってもいい』とでも思ったぁ?」

「い、いや…――」

「言っておくけどねえ!あんた、昔と何も変わってない。何も変わらない『人の気持ちを汲み取れない最低な人間』だよ。」


 姉さんの鋭い言葉が、俺の胸に深く…深く突き刺さる。そして、どろっとした血が溢れ出して、その傷口はどんどんと大きくなっていった。

 手足は恐怖でぶるぶると震えて、身体は強ばり、魔法でもかけられたように口が動かなくなっていた。


「『友達ができた』とか、思ってるんでしょ?勘違いしない方がいいわよ。また病んじゃうから。あの子は優しいだけ。あんたが縋り付くから、あの子の負担になってんだよ。」

「…そ、そんなはずっ――」

「あるの!!あの子は別にあんたを必要としてない。『人間は信じない方がいい』とか語っちゃってたのは自分なのにねぇ。可哀想。」

 突き刺さった言葉のナイフは抜けずに、傷口も大きくなるばかり。姉さんの憎しみの籠った怒鳴り声には、不思議と俺の心を傷つける力が詰まっている。

 痛くて、苦しくて、息が思うように吸えない。二日酔いの頭痛にプラスして、苦しくも自覚のある言葉たちに目眩さえしてくる。


「あっ、可哀想なのはあの子か。生きる価値も無いあんたと『トモダチ』…だもんねぇ?w また捨てられる前に、自分から手放しちゃった方が楽じゃない?あの子の為にもなるだろうし。」


 俺には……俺には…生きる価値が無いのか…………?


 い…いや……そんな…………そんな筈は……だって、笹野は………笹野は……


 そう考えたところで――



「碓氷さん?碓氷さん!」


 ――俺の耳に笹野の焦った声が飛び込んできた。

 反射的に飛び起きると、心配そうに俺を見つめる笹野と目が合う。どうやら笹野が俺の身体を必死に揺さぶってたようで、笹野に左腕を触られた感触が残っている。

 慌てて辺りを見回してみるが…――部屋に…姉さんは居なかった。


 ……夢か…………。



 思わず胸を撫で下ろすと、笹野が震える俺の手の甲を握る。

「酷く魘されていたので、起こした方がいいかと…。」

 笹野は本当に安心したように、そう言った。

 小さく頼りない手でも、包み込むように握られていると不思議とパニックになった心も少しずつ落ち着いてくる。手の震えはもう既に治まっていた。笹野の小さな手はとてもあたたかくて、優しいものだった。


「良かった…。碓氷さん、変な世界に連れて行かれちゃうかと思いました。」

 そう笑う笹野の笑顔に更に安心して、俺は自分に言い聞かせる。


 ……大丈夫…生きる価値が無い訳じゃない……。笹野が……認めてくれるから…。


「…起こしてくれて、ありがとな……。」

 零すように礼を言うと、笹野は優しく微笑んで「いえ。」と返してくれる。それから何を思っているのか、母性の溢れた顔で俺の瞳を暫く見つめた。

 そんな優しく微笑んだ笹野を見ていると……俺は、どうしても打ち明けたくなった。知って欲しくなった。……話を、笹野に聞いて欲しくなった…。だから………俺は、小さく零すようにして言った。


「……怖い夢を…見たんだ…。」


 すると、笹野は珍しく怯えた俺を見て、少し驚いた様子で「そうだろうと思いました。」と安心させるように微笑む。だけど、俺のプライドを気にしているのか、深く訊こうとはしなかった。「大丈夫です」と微笑むだけだった。

 ……こういうとき、どうやって打ち明ければいいのだろう…。初めてのことだから分からない……。そもそも、今まで誰にも相談や話を聞いてもらうことはしてこなかったからな…。

 なんて、どう切り出そうか悩んでいると……


「話なら、幾らでも聞きますよ。どんと、私に甘えてください。」

 話したげな空気を作っているつもりは無かったのに、なんと笹野は察したかのように、笑顔で両手を広げた。そこで、もう一度俺は安心する。


 そして、深呼吸をしてから震えた声で話し始めた。


「………はっきりとは言ってなかったけど…俺には、姉さんがいるんだ…。」

 それから俺は全て打ち明けた。姉さんは俺とは真逆の人気者の存在で、誰にでも好かれていたこと。昔から優しくて、頭も良くてカッコよかった姉さんを、心から尊敬していたこと。ある日突然、姉さんに見捨てられたこと。そして……そんな姉さんを、「怖い」と感じていることを。

 笹野は真剣に頷きながらも、俺の長い話に欠伸ひとつせず聴いてくれた。話が進むにつれて、同情してくれているのか、笹野はとても苦しそうな顔になっていった。

 全て打ち明けると、笹野は大きな瞳に今にも(こぼ)れ落ちてしまいそうな程の涙を溜めて、涙声で言った。

「そうでしたか……。つらかったんですね…。」

 壊れた鈴のような音色が震える。そんな笹野の優しい同情に、俺も泣きそうになってしまった。

「……なんでお前が泣きそうなんだよ…。」

 そう尋ねると、「碓氷さんがつらいと、わたしもつらいんですよ…。」と返ってくる。

「うすいさんがっ……なんでそんなつらい思いしなくちゃいけないんですか…。」


 やはり、笹野はこう言ってくれるだろうと思っていたので、驚きは無かった。ただ、あったのは嬉しい気持ちと安堵。そして、幸福感。

 ──俺は今、笹野にこんなにも大切にされているんだ。

 笹野が本当に悲しそうな顔をするから、俺の承認欲求は満たされた。けれど………笹野には、悲しい顔をして欲しくないのも事実だった…。だから、俺は謝った。

「………ごめん、こんな話 して…。」

 俺が話さなければ、笹野もこんなに悲しむことは無かったのだ。そう思っていたけれど……


「いえ……話してくれて、ありがとうございました…。打ち明けてくれなかったら……碓氷さんは、もっと苦しい思いをするはずです…。そっちのほうが、百倍悲しいですよ…。話すだけでも、悲しさというものは減りますから。」


 笹野はそうやって、俺に優しく微笑んだ。続けて「碓氷さんに頼ってもらえると、私 とても嬉しいです。」と笑った笹野の頬に涙が伝う。つい、抱きしめてしまいたくなるが、俺は衝動を抑えた。おっさんが急に抱きついてきたら恐怖でしか無いからだ。抱きつかなくたって、充分に心はあたたかい。

「また…何かあったら私に話してくださいね。何も無いのが一番ですが。」

「笹野もな…。」

 俺は情けない声でそう笑顔を返す。そして、「聞いてくれてありがとう。」と心からの感謝を伝えた。笹野はやっぱり、優しく笑ってくれた。それだけで、俺の心は救われた。もう、姉さんのことなんか気にならない程には、幸せを感じていた。


 暫く、本当に暫くの間、笹野は笑顔を浮かべて、俺を見つめる。まるで、「愛」というものを感じているように。


 そして……――


 俺の後頭部に手を添えて、ゆっくりと自分の胸に抱き寄せた。理解が追いつかず、ただされるがままにされていると……優しい声が耳に響く。


「大丈夫、大丈夫です碓氷さん。」


 トク、トク、トク…と笹野の鼓動がハッキリと聴こえる。規則的なリズムを聴いていると、心の底からの安堵が更に込み上げてくる。甘いムスクとバニラの香りが強く俺の鼻を擽る。そして、目の前には……笹野の…小さな胸が――


「っ?!!!」


 声にならない悲鳴を上げて、俺は慌てて笹野の胸元から離れた。笹野はまるで「どうしたんだ」とでも言うように目を丸くして、俺の後頭部に添えていた手を彷徨わせる。

 バクバクと有り得ない速さで脈打つ心臓を落ち着かせようと、息を整えて数秒後…


「わーっ…?!!!ごっ、ごめんなさい…!わわわわたしっ…なんてスケベなことをっっ…!!!!」


 漸く自分の奇行に気がついたのか、顔を耳まで真っ赤に染めて騒ぎ始めた。

「ごっ…ごめんなさい碓氷さんが何だか子供に見えてしまって…!!!!」

「はあっ?!!!こっ…子供っ…?!!」

 どこにそんな要素が…?!!!まさかっ…弱さを見せたからか……?!!!

 なんて考察を繰り広げる俺に、笹野は恥ずかしそうに自分の手元に視線を落として尋ねる。

「…ぁ……あの…………か…かんしょく………ありましたかね…?」

「…………はぇ?えっ…と…………なにを…仰って………イルンデスカ…?」

「いっ…いえ…あのっ…!!!深い意味は無くてですね……!!!触ったか触ってないかを訊いてまして…!!!」

「…えっ…と………………」


 「触ったか触ってないか」…?!!ほぼ脳がシャットダウンしてたから分かんねえ……!!!いや…でも…………特に柔らかい感触は………そうだ、服の感触しか無かった…!

「触ってない!!!っ……触ってない…!」

 あまりに意気込み過ぎたのかクソデカボイスが出てしまったため、俺は気を取り直し、声量を抑えて言い直した。

 すると、笹野は「ふう……」と安堵のため息をつく。だけど、すぐに悲しそうな表情に変わった。


「あの………ごめんなさい…。」

 どうやら、俺が思っているよりも反省しているようだ。

 でも…………実を言えば俺は、笹野の先程の行動に少しだけ救われた。…決して変態な理由では無く……。

「……いや……そのっ…………嬉し…かった……。いっ…いやあの位置がどうとかじゃなくて………なんか……さs…――お…お前に抱き寄せられた瞬間………凄い安心して………。えっと…………その……あ…ありがとな…………。」


 勘違いされてないと良いが…。


 やはり、笹野の悲しそうな顔は見てられないので、精一杯の自分の思いを伝えると……

「ふふっ♪」

 そんな無邪気な笑い声が聞こえた直後に、笹野の小さな身体に包み込まれた。笹野が思い切り俺に抱きついてきたのだ。その衝撃でバランスを崩し、俺はベッドに倒れ込む。だけど、笹野は力を緩めたりはしなかった。ぎゅうううっと力強く俺を抱きしめて、離さなかった。一方、俺は…どうしたらいいか分からず、ただ笹野の背中の辺りで手を彷徨わせるばかりだった。

 全身が熱くて死にそうだけど、不思議と心もあたたまり安心が押し寄せてくる。明らかに俺は「癒し」というものを感じていた。暫く抱きしめ返してやれずにいたが、笹野の無邪気な声が聞こえる。


「大好きです碓氷さん!」


 そこで俺はぎこちなくだが、漸く笹野の背中を触れる程度に抱きしめ返すことができた。すると、腕の中で笹野の嬉しそうな声が聞こえる。

「ふふっ…碓氷さん、少しお酒臭いです。」

 歯磨きもしたし風呂も入ったのだが…。

「……そうかよ、なら離れれば…?」

「嫌です、離れません。」

 そんなコロコロとした笑い声を聴いていると、嫌なことなんか全て忘れることが出来た。だが、勿論心臓はバクバク。だって、笹野(こいつ)との距離が近すぎるから。…普通に押し倒されてるし…。

 そんな心臓の爆音も聞こえていたのか、笹野が囁くように言う。

「大丈夫です、碓氷さん。安心してください。私がいますから。」

 俺がまだ夢の内容で怖がっているのだと、勘違いしているのだ。そんな笹野に俺はつい、笑顔を零した。

「わかってるよ。」

「そうですか?」

 なんて笑って、笹野は「三十秒のハグで三十パーセントのストレスがなくなってくれるみたいですよ。」と嬉しそうに豆知識を披露する。

 そして……まるで思いついたように「あっ」と声を漏らして、こんなことを言った。


「碓氷さん、私たち、恋人になりませんか?」


「はっ……?」


 訳が分からなくて、反射的に俺は離れようと笹野の肩を押す。すると……笹野は真っ直ぐな瞳をしたまま俺から離れてベッドの上に座った。先程の笹野との距離は近すぎたのだと、ここで漸く気がつく。

 だが、座り直した笹野の「真っ直ぐな瞳」は俺に恋心を持っているという訳でも無いということが窺えた。そういう雰囲気を感じ取れないのだ。それを答え合わせするかのように、笹野は純粋無垢な笑顔で語る。

「恋人になっちゃえば、毎日ハグができます。この間の元カノさんが来店したとき、碓氷さんは恋をしてみたいというようなことを仰いました。それに、誰かを愛してみたいという思いも感じ取れました。なので、私たちが付き合ったら都合がいいと思うんです。私、碓氷さんとならキスくらいはお易い御用です。」


「…………は?」


 笹野のあまりの軽はずみな思考に、俺は無性に腹が立ってきた。

 こいつは……………あの時……あの変態野郎に襲われそうになったとき……助けてやったのに………愛している人にしかできないようなことを、ただの友達である俺とならしても構わないと……そんな馬鹿なことを言っているのだ…。

 それに………笹野の今の発言で、今まで「友達」と言い聞かせてきたことが…無駄に思えてきてしまった。だが、怒りとか悲しみとか、そういった色々な感情がぐちゃぐちゃと絡まって上手く言葉が出てこない。けれど……笹野も笹野なりに一応は真剣に考えたようで、「冗談ですよ」なんて誤魔化したりはせずに俺の返答を黙って待っていた。


「…………『恋愛』って…………『都合がいい』とかの理由でするものじゃ無いだろ……。」

 怒鳴らないように、しっかりと伝わるように丁寧に言葉にしていく。

「それに……笹野…自分のこと大切にしろよ…。『キスくらいは』じゃねえよ、好きでもない奴にそういうこと言うな。誰でもいい訳じゃないんだ。お前も、俺も。そんなふうに適当に決めた恋人とのハグなんか要らない。例えストレスが100%なくなるとか言われても要らねぇよ。」

 どうか変な気は遣うなと、懇願するように俺は笹野の瞳をじっと見つめた。

 すると……


「………確かに…それもそうですねぇ…。」

 笹野は能天気に顎へ手をやった。そんな笹野の様子に安心して、俺は思い出したようにベッドから慌てて下りる。


 ……はあぁぁぁあ………マジでこいつ怖ぇ……。こんな純粋でよく今まで無事に生きていけたな………。


「…おい、笹野。さっきみたいなこと、他の男には絶対すんなよ…?絶対、あんなこと言うなよ?」

 笹野への心配で胸や頭がいっぱいになって、ベッドに寄りかかり、そう笹野へ背を向けながら忠告をすると……

「そんな…!他の人になんかしませんよ…!!」

 珍しく笹野の焦ったような声が聞こえた。思わず、ベッドの上へ振り向くと、笹野は赤くなった顔を小さな手の甲で隠しながら呟く。

「…ただ……碓氷さんとなら…恋も楽しめそうだなと思ったんです……。…ん……?恋愛なんて必要無いと思ってたのに……?」

「……意味深な発言すんな…。ただ、俺との『友達』が楽しいからそう思っただけだろ。」

 笹野の照れた顔に、不思議と緊張しながら返すと、笹野は変に作り笑いをして言った。

「そっ…そうですよね…!」

 そのぎこちない笑顔はなんなんだ……?


「……まっ、なんでもいいですよね。そうです、なんでもいいんです。」

「…おう……?」






 それから、約一ヶ月後。

 その日は、ほぼ毎日職場に遊びに来ていた笹野が、夕方になっても来なかった。

 『今日は来ないのか?』なんてメッセージを送ろうとLINEを開くが……少し考えて、やっぱり送らずにスマートフォンの画面を閉じた。そうしていると、ひょっこりと後ろから遠藤が覗いて突然……変なことを尋ねてくる。

「碓氷さあ、笹野ちゃんのこと好き?」

 そんな色々な意味にも受け取れてしまいそうな言葉に、俺は思わず動揺してしまう。


「は…そ、それってどういう…?」

 急になんなんだ…???

 少し警戒をする俺の質問に、遠藤は如何にも真剣そうな顔で質問の内容を答えた。

「笹野ちゃんに彼女になって欲しいかって。」


 は…?恋愛対象として見ているのかと訊きたいのか…?こいつ……も、もしかして…………笹野(あいつ)のこと………好き……なのか…??


「いっ、いやそんなつもりねぇよ。……あいつに同じようなこと訊くなよ…?嫌がるだろうから。」

「碓氷にしか訊かないよ。それで……好きじゃないんだね…?」

 そう俺の顔を覗き込んでまで確認を取る遠藤に、怖くなる。

 もし…………遠藤が…笹野のことを………………好き……なら………手伝わなくてはいけないのだろうか……。い…いや………そんなの俺には関係無い。俺にはどうでもいい事だ。……でも…………笹野も…恋をしてみたい……みたいな感じが少しあったよな…?口では無関心ぶっていたが、俺へ「付き合わないか」なんて馬鹿なことを訊いたときには、恋愛に少し興味を持ってるようだった…。それなら…………笹野が望むなら……手伝わなくてはいけない…。

 クソっ………なんか腹立つ…。俺は人の幸せを僻んでるのか…?


「だからそう言ってんだろ…。あんなガキっぽい奴、好きになる男がいるなら見てみたいわ。」

 相変わらずの性格の悪さに自分でも驚きながら、それに見合った返答をするが……――

「よし、じゃあ碓氷、合コン行こう。」

 遠藤が突然、そんな訳の分からないことを言い出した。

「………は?え、行かない。」

「お願いっ…!もうすぐでオレら三十だよ…?!それにっ……クリスマスだってあと一ヶ月だし!そろそろ流石に、彼女作らないとヤバいって…!」

「いや、俺いらねぇし。クリスマスもただの平日だし。」

「いらなくても平日でも、オレを助けると思って…!わかった数合わせ…!何もしなくていいから!」

「いや行か──」

「ありがとう碓氷…!」

「は?」




 …結局、連行されてしまった……。結構お洒落な飲食店に着くと、既に一人、六人席に同い歳程の男が座っていた。どうやら遠藤の友達らしい。「岸本」と名乗る男は、俺の顔を見て絶句した。

「うっそ…こんなイケメン連れてきたら俺、誰も捕まえられへんやんけ…!」

 そして、遠藤へ訴えかける。

「遠藤…!!なんでこんなん連れてきたん?!」

「え〜…だって『相手いない人連れて来い』って……。」

「せやかてこんなんおったら、女のコみんなコイツんとこ行くやろがい!」

 ………面倒くさ…。帰りてぇ……。

「…俺は単なる数合わせで来ただけだから、気にするな。極力、女性とは話さないし。というか、もう既に帰りたいし。」

 騒ぐ岸本に態々、そう教えてやると、岸本は「ほうか……」と安堵したようにため息をついた。

「……恋愛に興味無い男、ホンマにおるんやなぁ…。」

「そうだな。」

 なんて、ため息混じりに言う岸本の言葉に適当に返していると………


「ごめんなさい遅くなりました〜。」

 カツカツと三人の足音と同時に、女性の声がした。

 会話にはなるべく入らないようにするため、顔を上げないようにしていたが、岸本に肩を叩かれる。「立て。」と言っているのだ。

 俺は視線をテーブルに落としたまま、仕方なく岸本、遠藤に続いてゆっくりと椅子から立ち上がった。その瞬間……


「あれ?遠藤さんじゃないですか!」


 妙に聞き慣れた声が正面から聞こえてきた。思わずその声に弾かれるように顔を上げると、その声が今度は俺へと向く。

「それと碓氷さんも!偶然ですね!」

 俺は暫く思考が停止した。

 だって……


「えっ!笹野ちゃん?!気づかなかった…!どうしたのその格好!」


 ガキっぽい笹野の声を出す目の前の女性が、「笹野」という名前を聞いて頭の中で思い浮かべるような姿をしていなかったから。

 笹野は所謂、「おめかし」をしていたのだ。笹野が身に纏っている服は、いつものオーバーオールではなく、淡い桃色をした花柄のミニワンピース。もう十一月だというのに、かなり薄い生地で作られているようで、笹野が動く度にスカート部分がひらひらと、袖がふわりふわりと揺れていた。更に肩はオフショルダー(?)タイプで、華奢な首元と肩が丸見えだ。丈も二度見をしてしまう程 短くて、細く白い太腿も丸見えだった。その上、アイメイクにはラメがついている。口紅だっていつもとは違う、ぷるんとしているような唇に仕上がっていた。しかも、髪だっていつもの「おかっぱ頭」なんかじゃない。いつもは耳にかけられていた髪も触覚が作られていて、ツヤツヤなストレートヘアはふわっと緩く巻かれている。オシャレなゴールド色をした、大きめの髪飾りだってつけていた。


 ………可愛い……。


 「おめかし」をした笹野は、無理に大人っぽく仕上げられている訳では無く、チャームポイントである子供っぽさもきちんとあるのに、それでも、俺は笹野を見た瞬間、そんな単語が頭を駆け巡った。そして、他の情報が一切頭に入ってこなくなってしまった。ただ、唯一の情報として頭に居座っているのは「笹野がものすごく可愛い」ということ。

 笹野の突然のイメチェンに随分と長い間、見惚れていて、俺の隣には気がつけば知らない女性が座っていた。そして、右斜め前の笹野の隣には、岸本が。いつどこで席が変わったのかも分からず、ただ笹野の笑顔を眺めていると、隣から声をかけられた。

「あ、あの……単刀直入に訊いてもいいですか…。碓氷さんは、どんな人がタイプなんですか…?」

 俺の名前を知っている…?いつの間に自己紹介を済ませていたんだろう。

「悪いけど……俺は今日、数合わせで来たので…。」

 そう答えた俺の耳には、正面からの「笹野さん」という単語が入ってきた。

「マジで笹野さん可愛ええなぁ〜!連絡先ええか?」

 嬉しそうな顔をした岸本は、そんな口説きをしてから笹野へ耳打ちをする。

「正直、今日この場で、笹野さんが俺のいっちゃんタイプや。いや、人生でいっちゃんタイプや…!」

 だが、笹野はそんな口説き文句に、動揺したりも顔を赤らめたりもせず、困ったような顔で答えた。

「では、今日は来ない方が良かったですかね…。自己紹介のときも言いましたが、私、数合わせなんです。」

 そんな笹野の答えに、何故か安堵して胸を撫で下ろすと、今度は遠藤の正面に座っていた女性がガタッと席を立ち上がった。

「だーかーらー!あかりんは『数合わせ』なんかじゃないって!折角おめかししたんだから、もっと合コン楽しみなよ!」

「いやぁ〜そう言われても…恋愛とか興味無いし……。」

「連れて来た意味無いじゃーん!そろそろカレシ作んないとヤバくない?!」

「ヤバくないよ…。」

 俺は、そんな笹野の貴重なタメ語を聞いていたが……

「ほら、碓氷さんも『数合わせで来た』って仰ってたし!ですよね、碓氷さん!」

「へっ?あっ、ああ…そうだな。」

 突然、笹野は俺に話を振ってきた。急に話しかけられたもんだから動揺してしまった…。……変に思われてないだろうか…。なんて、柄にも無く俺は高鳴る心臓を押さえながら悩んでいたのに、笹野は直ぐに岸本との会話に戻ってしまった。

「例え『数合わせ』でもええねん!この場で出会ったのも何かの縁やろうし、連絡先だけでも交換しようや…!」

「いいですよー!あっ、でも二人きりで会うのは避けさせて頂いても宜しいでしょうか。以前、男性は警戒しろと怒られたので……。」

「ん?そういう家柄なんか?ま、ええよー!今度また、この六人で集まったりしよや!」

「ありがとうございます岸本さん!」

「がわいい…!!笹野さん、ほんっま!笑顔可愛ええな…!!!反則や…!あっ、せや!『明香里ちゃん』呼んでもええ…?!」

「構いませんよ。お好きな呼び方でお呼びください!」

「天使ぃ〜…!!!俺のことも『知弥(ともや)』って呼んでくれへん…?!」

「えと…知弥さん、でよろしいですか?」

「ええ、ええ〜!!ごっつ可愛ええなぁ〜!!」

「ありがとうございます!合コンというのはこういう場なんですね!いいところですね、モチベーションが上がります!」

 そうやって愛想のいい笹野の笑顔と、嬉しそうな岸本の笑顔を見ていると……何だか無性に腹が立ってきた。胸の奥で、何かがぐちゃぐちゃと絡まっているような感覚がする。それは、楽しそうに話す二人を見れば見る程、絡まって解けなくなっていった。目を逸らしても、気になって見てしまう。

 くそ…何が「ありがとうございます!」だよ…。


「……俺、帰るわ。」

 ムカムカとして、これ以上この場に居たくなかったので、俺はそう言って立ち上がった。隣の席では名前も知らない女性が「えっ…!」と声を上げる。そんなことは気にせず、二千円を机の上に置いて、鞄を持って個室から出ようとするが……カッ、カツカツッと変なリズムのヒールの音が後ろから聞こえてきた。

 そして……

「うあっ…?!」

 そんな間抜けな声と同時に、誰かが俺の背中を押した――かと思ったら、寄ろけて咄嗟に俺の背中にしがみついただけだった。直後、落ち着くバニラと石鹸の香りが俺の鼻を掠める。

 思考が追いつかなくて、ただ声も出ずに立ち止まっていると、笹野は「ごめんなさい!」と俺からゆっくりと離れ、姿勢を戻す。

 そして、こんなことを言った。


「では、私も帰りますので!」

「はっ?」


 予想外の笹野の言葉に、思わず俺も間抜けな声を出す。そんな声で振り返った俺に、笹野はニコッと笑う。

「碓氷さん、今から碓氷さんのお家で映画観ましょう!」

「えっ、はっ……」

「こういう場は楽しいですが、何だか申し訳ないです。恋愛をする気は無いので。」

「お、おう…。そうだな…?」

 ……やっぱり、恋愛には興味が無いのか…?ありそうな気がしていたが…。

「ということで、皆さんごめんなさい!沙那(さな)詩音(しおん)も、ごめんね!」

 そう言って、笹野は財布から出した二千円を、座っている遠藤たちへ渡してから、深々と頭を下げた。

「えー!なんやお持ち帰りか?!明香里ちゃん待ってえなぁ〜!」

「すみません知弥さん。では!あとは皆さんでお楽しみください!」

 そして、くるりと振り返り、ワクワクとした表情で俺の目をじっと見つめる。

「碓氷さん、行きましょう!」

「えっ?…あ、おう…。」



「碓氷さん…!待ってください!私の足が悲鳴を上げています…!」

 笹野が俺に着いてきたことが信じられなくて、ただ止まった思考で店を出るが、笹野のことを忘れてしまっていた。

 呼びかけに反応して振り返ると、慣れないヒールを履いた笹野が歩くのに苦戦していた。足を引き摺っている。もしかしたら、靴擦れを起こしたのかもしれない。俺は、仕方無く靴を脱ぐ為に肩を貸してやろうと、笹野へ駆け寄ってしゃがむ。そのときに隙間から見えた笹野のヒールサンダルと踵の間には、案の定 滲んだ血が見えていた。

 ……慣れないヒールなんか履きやがって…。

「車まで担いでやる。」

「いいんですか?!ありがとうございますっ♪」

 嬉しそうに笑いながら、笹野は俺の肩に手を置いた。そして、スカートなんか気にせずに脚を曲げて白色のヒールサンダルを脱ぎ始める。俺は意識的に、コンクリートを眺めた。

「……なんでそんな服着てきてんだよ…?」

「あれ?さっき言いませんでしたっけ?詩音が服を貸してくれたんです。『彼氏作りに行くんだから、可愛くしなきゃ』と。……って…彼氏を作る気はさらさら無いのですが…。」

 マズイ……話が入ってこなかったのバレそう…。

「…ふーん……。」

 これ以上は墓穴を掘らないよう、話を終わらせると同時に、笹野は靴を脱ぎ終わった。今度は、そんな笹野に俺は「乗れ」と、背中を見せる。すると、笹野は嬉しそうに「ふふっ、失礼します♪」と笑って、俺の背中に乗った。が………


「っ…?!!」


 ……不思議と軽い笹野の身体を支えた拍子に、俺は柔らかい太腿を触ってしまった。……ムニっとした感触に、まるで電撃を受けたように胸がギュンと音を鳴らす。

「……碓氷さん…?」

 だが…手を離せば笹野が落ちてしまう。俺は「平常心平常心平常心平常心平常心平常心」と心の中で唱えながら、笹野をそのまま運ぶしか無かった。

「そういえば、碓氷さんはどうして合コンにいらっしゃったんですか?」

 なんて言いながら、笹野はぎゅっと俺の背中にしがみつく。……俺が早歩きをしているからだ。だが……その所為で、俺の背中に何だか柔らかいものが当たっている…。

 バクバクと俺の心臓は、有り得ない程の速さで警鐘を鳴らしていた。


 ………やばい……。


 俺は、静かに立ち止まり、もう一度しゃがんで笹野を下ろした。だが、笹野は離れようとしない。

「…どうしました碓氷さん?」

 俺の顔を見ようと、もっとしがみついてきた。なので……

「……お前、重すぎ。ちょっと車持ってくるから…これ、下に敷いて待ってろ。」

 嘘をついて、俺は脱いだスーツジャケットを笹野へ渡し走ろうとした。が……

「いいんですか…?汚れちゃいます…。血も出てるし……。」

 笹野が俺の腕を掴んで、そんなことを尋ねてきた。子犬のような瞳で俺を見つめて…。俺の心臓は、もう既に破裂寸前だった。だから……

「……そんなんこの際どうだっていいんだよ…!!いいから黙って待ってろこのボケナスっ…!!!」

 俺は笹野の腕を振り払って、全速力で車へ向かった。




「何を碓氷さんはそんなに怒ってらっしゃるんですか?」

 車の中で、黙り込んでいる俺に向かって笹野は尋ねる。

「……怒ってねぇよ…。」

 いつもと違うから……何だか、緊張してしまう…。

「…そうですか?では、もう一度訊きますけど……碓氷さんはどうして合コンに?」

「………遠藤に連れられたんだよ…。俺も、彼女なんか作る気さらさら無い…。」

「お、ほんとに怒ってないんですね。答えてくれないかと思いました♪」

 笹野は嬉しそうに無邪気に目を細めた。

 ……その顔………今日は、もっと苦手だ…。いつもより可愛い顔で笑うなよ………。…ああもう…………早く心臓鳴り止め……。

「………帰ったら………足の手当てするからな…。」

「ありがとうございますっ、碓氷さん♪」

「……靴擦れ用の絆創膏買うから、ドラッグストア寄るぞ………。」

「ありがとうございますっ♪やっぱり、碓氷さんはヒーローですね♪優しいです♪」


「……………。」


 マジで心臓やばい……。なんでこんなにバクバクしてるんだ………。落ち着け俺…!!!よし……!別のことを考えよう…!!

 キズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッドキズパワーパッド……



 こうして無事、家に着き、俺は直ぐに笹野へ服を渡した。

「これに着替えろ。」

 だが、笹野は「着替えません。」と首を振る。そして、自慢げに胸を張って俺を見上げた。


「今日の私は可愛いので。」


 ……あんなチャラ男に言われた言葉を本気で信じているのだ。俺は、そんな笹野の言葉に、先程のように腹が立ってきた。あんな奴の言葉を鵜呑みにして、嬉しそうな顔をするから。ただ、「可愛い」と言われただけなのに。

 何故かは分からないが、そんな些細なことに腹が立って仕方無かった。だから……だから…………


「……勘違いしてるみたいだけど、お前みたいなガキにはそんな服もメイクも似合わねぇぞ。」


 そんな、酷いことを言ってしまった。笹野は、目を丸くして悲しそうな瞳で見つめてきたのに、それでも俺の口は止まらない。

「誰もお前みたいなガキなんかに興味は無い。『可愛い』とか、お世辞に決まってんだろ。」

 そんな言葉を放つと同時に、笹野と岸本が楽しそうに会話する顔が頭に浮かぶ。笹野の褒められて嬉しそうな顔が、俺のごちゃごちゃとした頭を過ぎった。


「そんな髪巻いたって口紅つけたって脚見せたって、誰もお前なんかにっ──」

 沸々と先程まで沸き上がってきた怒りが、更に沸騰していくようだった。噴き(こぼ)れた怒りの行き場は、何も罪のない笹野の心にぶつけるしか無かった。駄目だと思っても、止まらない。イライラして、どうしようも無く悲しくて、胸に黒い(もや)が膨れていくようで気持ちが悪い。

 でも、そんな言葉の矢も笹野の零した小さな声で、止まった。


「碓氷さんは……『可愛い』と、思いませんかね…。」


 そんな、弱々しく震えた声を出した笹野の瞳には、今にも零れ落ちてしまいそうな涙が溜まっていた。


「は……」


 「言い過ぎた」と心の中では思っても、笹野の表情が戻る訳も無い。

「…そうですよね。調子乗りすぎちゃいました…。……今日は…もう、かえりますね!」

 涙をポロリと零したところで、笹野は涙を隠すように無理な笑顔で振り向き、スタスタと玄関へと向かう。血のついた足を庇いながら。

「ぇ……なに泣いてんだよ。」

「泣いてなんかいませんっ…!」

 戸惑いながらも零すが、笹野は振り向いたりはなしない。だけど………


「おい…!待てよ……!!」


 今見た笹野の泣き顔が頭から離れなくて、赤く擦れた踵が痛々しくて、俺は気がつけば笹野を追いかけて、腕を掴んでいた。ふわっとした感触に思わず、慌てて手を離し両手を挙げる。目を丸くした笹野の頬には、やはり幾つもの川が流れていた。そんな笹野の泣き顔に、俺の胸は相変わらずギュンと物凄い音を立てる。


「……ごめん………。…思ってもないこと言った……。な、なんか…お前が……あのチャラ男と楽しそうに話してんのが………腹立って………。」


 笹野を泣かせてしまったことに、罪悪感を覚え、俺は正直に伝えた。だが、笹野は腕で涙を拭ってから、潤んだ瞳で俺を見上げ、馬鹿みたいなことを言った。



「………それは……『ヤキモチ』ということで、よろしいでしょうか…?」



「はっ?」


「沙那と詩音が言ってました。ずっと碓氷さんが私を見てるって。『ヤキモチ』妬いてるんじゃないかって。」


 「ヤキモチ」……。

「はぁっ…?!妬いてる訳ねーだろっ…!!」

 そんなん、まるで俺が笹野のことを好きみたいじゃんか……!!!

「では、私のカラダに、ご興味があるんですか?」


「……は………?」


 純粋だと思っていた笹野から放たれた声に混乱して、俺は思わず全ての動きを止めた。笹野はごく普通の顔で、俺の目を見つめている。

「はっ?!そんなん興味ねぇよ…!!お前みたいなガキ、誰が相手にするか…!!そもそもっ、そういう『カラダだけ』なんて求めないからな…?!!」

「全てを求めてるってことですか?」

「んな訳無いだろ…!!!俺はっ、お前が何も警戒せずにあの男と話してるから腹が立ってんだよ……!!」

 何なんだこいつ……いきなりぶっ込んできやがって…!怖………!

 熱くなってきた身体を冷まそうと、俺は深呼吸をする。そして、小さく言った。

「……ほら、洗面所で手当てしてこい…。」

 だが………

「一人では角度的に難しいです。碓氷さん、手当してくれますか?」

 図々しく、笹野はそんなことを言った…。



 ソファの上で、俺のズボンを履かせた笹野の足を手当てしようと、消毒をかけると、笹野の足は小さく跳ね上がった。

「つめたぁっ…!」

 そう照れたように笑う笹野を見て、俺は思う。

「……露出多すぎだろ…。」

 声に出してしまっていたことに、笹野が顔を上げたことで漸く気がついた。咄嗟に口元を隠すが、笹野はなんの気もなしに言う。

「沙那と詩音も同じくらい露出していました。」

 笹野に言われて、俺は二人の服装を思い出そうと記憶を辿った。

「………。」


 だが………全く思い浮かんでこない…。そもそも、顔すらも出てこない……。

 あまりの他人への関心の無さに自分でも頭を抱えてしまうような思いをしていると、また笹野は口を開く。

「そういえば、沙那は碓氷さんに気があるみたいです。連絡先くらい交換してあげたらどうですか?」

「……いや、俺は恋愛とかする気無いし。申し訳ないだろ。」

「うーん…それもそうですね…。」

 そんなふうに納得する笹野の踵に、俺は黙ってキズパワーパッドを貼ってやる。すると、笹野はじっと暫く俺を見つめて呟くように言った。

「……詩音も沙那も、碓氷さんは私が好きなんだと言ってました。」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は再び胸をドキンと鳴らす。だが……

「な訳ないだろ。」

 そう、そんな訳無かった。俺がこいつを好きになるだなんて、有り得ない。逆もまた然り。

「そうですよね。私もそう言いました。」

「うん、それでいい。」

「ですがそしたら、今度は私が碓氷さんを好きなのではないかと。」

「……そう言われたのか…?」

「はい。そのときのLINE見ますか?」

「いや…いい…。」


 ………好きなのか…??いや、そんな訳ないよな…。


「…………それで……なんて答えた…?」

「『好きでは無い』と答えました。碓氷さんのことは大好きですが、恐らく私の『好き』は沙那や詩音が思うような『好き』では無いと思うんです。」


 だよな……。


 そう安堵すると共に、俺は何故かズキッという胸の痛みを覚えた。

「…そうだな。ほら、出来たぞ。」

 笹野の綺麗な足からパッと手を離して、俺はソファから立ち上がる。そして、笹野も俺に続いて立ち上がり、直ぐに貸したズボンを脱いだ。露わになる白い脚に、未だ慣れずにハラハラと心臓が暴れ回る。俺は咄嗟に目を逸らした。

「……今日はもう帰れ。」

「えー!どうしてですか?!『一緒に映画観る』って言ったじゃないですか!」

「…今日は疲れたんだよ。」

「疲れたから碓氷さんと一緒にいたいんです!」

 ………ああもう……。どこ見ればいいのか分からなくなる…。しかも、そんな可愛いことを………──って…!こいつは可愛くない…!!!


「…はぁ……。…とにかく、今日はもう帰ってくれ…。」

 頭がおかしくなりそうだ……。


 弱々しく頼むと、笹野は暫く経ってから「…わかりました。」と承諾してくれた。そして、玄関まで歩き、くるりと一回転して訊く。

「可愛いですか?」

 ………可愛い……。なんで今日こんな可愛いんだ…?

「……馬子にも衣装だな。ほっ…ほら、帰れ……。」

「車に乗せて頂けないと帰れません。」

「あっ…」

 ……そうだ送るんだった………。

「…そういえばそうだったな……。車行くぞ…。」



 その後、家へ送ったのにも関わらず、笹野は何故か俺の家に居た。

 ……しかも、どういう訳か、ソファで仰向けに寝転んでいる俺の上に載るようにして、笹野はエメラルドの瞳で俺を見つめていた。ほぼ押し倒されているような状態で、笹野の露出した膝は、俺の股の間に跨っている。白くて柔らかそうな腿も、俺の腿に触れていた。笹野の顔は火照っていて、笹野が瞬きする度にラメと瞳がキラキラと輝いた。俺の心臓はバクバクと物凄い音を立てている。恐らく、笹野にも聞こえてしまっているだろう。

 そして、そんな不可解過ぎる笹野は……


──ちゅっ…


 ……なんと………俺の唇に、押し付けるようにしてキスをした。粘性のある笹野の口紅が、少しだけ、俺の唇へと移った。思考が停止する。笹野の体温が温かくて、短いキスなのにとろけるような気分に侵された。脳は既に沸騰して、何も考えられない。ただ、心臓だけがバクバクと音を立てていて、呼吸すら忘れていた。

 そして、笹野は、そんな俺にうるうるとした瞳を揺らして、涙声で訴える。

「ガキじゃだめですか…?」


 そんな笹野の後頭部に、俺は無意識に手を回し………──


「さァァァァァァッ?!!」


 俺は馬鹿でかい声で叫びながら、物凄い勢いで飛び起きた。……夢だったのだ………。

 ドッドッドッドッとうるさい心臓を押さえながら、夢の内容を思い返す。


 あの露出した滑らかな肌に、今にも涙が(こぼ)れてしまいそうなエメラルドの瞳、甘えるような潤んだ声と、上目遣い……。そして………ぷるんとして艶やかな唇にとろけた体温…。


「………うそ…だろ……。」


 ………あいつと……キスする夢を……………見てしまった………。

「あぁぁぁぁ…もう………。」

 最悪だ……。俺も、あの犯罪者と同じじゃねぇか………。

 火傷しそうな程、熱くなった身体を冷まそうと俺は布団を剥ぎ、そのまま床へ落ちてうつ伏せになった。すると……

――トゥルトゥントゥントゥントゥントゥントゥントゥン♪トゥントゥルトゥントゥントゥントゥントゥントゥン♪

 ベッドの上に置いていたスマートフォンの着信音が鳴った。ゾンビのように起き上がり、スマートフォンを手に取ると……


「…嘘……」


 電話の掛け主は、今一番声を聞きたくないであろう笹野だった。


 俺は黙ってスマートフォンを枕元に再び置く。暫くすると、着信音は消えて今度はLINEの通知音が鳴った。一応、手に取って見てみると、

『おはようございます碓氷さん!今日こそ映画観ましょう!』

 笹野からそんなメッセージが来ていた。俺は、静かにスマホの電源を落とす。そして、再び床でうつ伏せになり、目を閉じた。





 その二日後…。

「……はぁぁぁあ………もう……。」

 あの日見た夢が、未だに鮮明に記憶に残っていて、全くと言っていい程、仕事が進まなかった。

 どうしても……夢の中で見た笹野の潤った唇と、あの感覚が頭から離れない…。やわらかくて……熱くて………あいつの体温が俺に……………──って…!!!思い出してどうすんだよ…!!!というか、なんてこと考えてるんだ俺は……!!!

 一旦、頭を冷やそうと、ドビーのようにゴンッと机に頭を叩きつける。その直後、誰かに肩を叩かれた。ビクッと跳ね上げて振り返ると、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべた遠藤が立っている。

「笹野ちゃんとあの後どうだった?お楽しみでしたかぁ?w」


 ………。


「…は?」


 訳が分からず、眉間に皺を寄せている俺に遠藤はニヤニヤと相変わらず、気味の悪い笑みを向ける。

「隠さなくていいんだよっ、『碓氷さん』♡」

「は?」

「お持ち帰りまでしたんだからさぁ〜♡」

 ………何の話だ……?何かテイクアウトしたっけ…。


「好きな子とのエッチは気持ち良かったかい?」



 ……?



 ……………。



 ………………………?!!

「は?!!しっ…!してねぇよそんなん!する訳ねぇーだろっ…!!!お前マジで阿呆なのか?!!ていうか好きでもねぇしっ…!!!!」

 突然の ど下ネタに俺は、顔を真っ赤にして怒鳴った。

「『友達』だから…!!!マジでそういうことあいつに言うなよ?!!!」

「言わないよ、セクハラになるし。ってか……折角、あそこまでいったのにしてないとか…男としてどうなの……。」

「だから………そういうんじゃないって言ってんだろ!いいか、俺たちは飽くまで『友達』だ。それは今までもそうだし、これからも絶対に変わることなんて無い!!それと!あんな純粋なあいつでそんなこと考えんな!!!」

 遠藤の呑気なニヤケ顔に腹が立ってきて、そう怒鳴るが、直後……俺は胸をドキンッと鳴らした。………俺の方こそ、そういうことを考えてしまっているのではないかと気づいてしまったのだ…。

 なんであんな夢を見てしまったんだと、深く反省と後悔をしていると……


「こんにちは碓氷さんっ。遠藤さんも。」


 笹野の無邪気な声が聞こえてきた。その声に、俺は心臓をギュインと物凄い音を立て、肩を大きく跳ね上げさせた。

「お、今日も来たんだね。」

 ゆっくりと顔を上げると、いつも通りの子供っぽい笹野が──……いつも通りだと思っていたのに、唇だけ違かった。コーラル色に染まっていて、ぷるんとしている。……口紅を塗っているのだ…。そんな笹野の、珍しく色気づいた唇を見た所為で俺は………一昨日見た夢の情景を思い出してしまった。……より鮮明に…。

「………なんだその口紅。」

 ドクドクと全身に血液を送る心臓を抑えるように、俺は小さな声で呟くように言った。すると、笹野は得意げに答える。

「口紅ではありません。『リップティント』というらしいです。合コンのときに詩音から借りたものなのですが、気に入ったので買ってしまいました。可愛いですか?」

 そう尋ねた笹野は唇を突き出して、主張する。そして、隣でそれを見た遠藤が、笹野へごく自然に「可愛いね。」と笑った。

「へへっ、ありがとうございますっ♪」


 ………なんか腹立つ。


「……今すぐ落とせ。」

「は?!どうしてですか?!」

「………いつもの方がいい。」

 それに、この唇見てると………頭と心臓がおかしくなりそうだ……。そう思って頼むが、笹野は案の定、怒って眉を釣り上げた。

「嫌です!好きでつけてるので落としません!」

 更に、威嚇する為に一歩こちらへ近づいてきた。その瞬間、顔がぼわっと湯気が出そうなくらい熱くなり、息の仕方さえ忘れる。そして反射的に、ローラーの着いた椅子で俺は思い切り笹野から遠ざかった。

「ちっ、近い…!!……今日から俺の半径2m以内に近づくな…!」

「はあ?!どうしてそんなこと言うんです?!!私、何かしましたかね?!!」

「うるせぇとりあえず近づくなっ…!!それと…!前言撤回だ…!俺のことは信じるな!人間は全員疑ってかかれ、特に男…!!!」

 心臓が破裂してしまう前に、顔から湯気が出てしまう前に、何とかしようと訴えるが、笹野は逆に俺に近づいてきた。どんどん迫ってくる笹野から、必死に俺はガラガラと逃げる。だが……

「どうしてですか?!!」

「俺が自分を信じられないからだよ…!!」

 そう威勢よく言ったところで、後ろにあった壁にぶち当たってしまった。……もう逃げ道は無い。

 笹野は、そんな俺へ向けていた怒り顔を引っ込めて、優しく笑った。


「それなら問題ありません。碓氷さんが自分を信じられなくても、私は碓氷さんを信じ続けるので。」


 そんな言葉の所為で、そんな笹野の無邪気な笑顔の所為で、胸は再び「どきゅん!」と物凄い音を立ててバクバクと脈を打ち始める。だけど……不思議と同時に、心が落ち着いてきた…。笹野はもう迫ってきたりはしない。一歩離れたところから、真っ直ぐな瞳で俺を見つめるだけ。

 笹野の言葉に安心してきたことが伝わっていたのか、見つめ返す俺に笹野は「半径2m以内、入っても大丈夫ですよね。」なんて、優しく微笑んだ。そんな笑顔に、俺は全てがどうでもよく思えた。

 俺は別に、笹野を色眼鏡で見ていないし、あんな夢を見てしまったのは、きっと あの日の笹野が可愛く見えたから。いずれ、この変な感覚も無くなるだろう。勿論、俺たちの関係は変わることも無い。笹野は俺を信じてくれているから。俺が自分を信じられなくなっても、笹野だけは変わらずに信じ続けてくれるから。


「………まあ……いいか…………。」


 零した俺の言葉に、笹野は嬉しそうに笑った。




 笹野が帰ったあと、遠藤は言った。

「早く認めちゃえよ。」

 なんの事かと尋ねたが、遠藤はニヤニヤと笑うだけで、答えを教えてはくれなかった。










ここまで読んでいただきありがとうございます!


「姉さん」、容赦なくて怖いですね。けど姉の恐怖のおかげで、明香里の甘さが際立つような気がします(*ˊ˘ˋ*)

2人にはどうか幸せになってもらいたいですね…。

ちなみに、お察しかと思いますが碓氷姉はこれからも登場するので、ぜひ期待しててください!


それと!ようやく律月が本格的に明香里を意識し始めましたね!ほぼ「見て見ぬふり」をしてますけど、いつまでその理性は保てるのでしょうか!

二人の進展する関係をストップさせるつもりは毛頭ないので、ぜひお楽しみに!次章はもっと進展します(*ˊ˘ˋ*)


少しでも面白いと思った方は感想や評価、お願いします✧*。



※本作はフィクションであり、実在の団体・人物とは関係ありません。

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